ゴオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・
数百年の歴史をもった建造物が木っ端微塵に破壊され、人々は泣き叫び逃げ惑う
帝都・京を襲った悪夢の襲撃。だが
将軍溥儀の居城・金閣寺を破壊せんと放たれた30基のミサイルは、その悉くが標的に到達することなく空中に四散した
―ただ1人のグラップラーの対空射撃によって

オペレーター 「V1ミサイル・・・30基全て撃墜されました」
鷹田総統   「サーチライト!金閣寺を照らせ」
オペレーター 「お止めください。狙い撃ちにされます!」
鷹田総統   「構わぬ。既に連中はこちらを捉えている」

強力なサーチライトが闇夜の金閣寺を真昼のように照らし出す
燃え盛る炎の中、我が物顔で上空を席巻する漆黒の飛行船団を
その5人の男達は、怒りの眼差しで睨みあげていた





あぶどぅる 「・・・見えるかみんな。京都が火の海だ
        あの歴史と文化の古都が今じゃ地獄と同意語だ」


溥儀禁衛隊 五の槍
”炎の占い師”あぶどぅる

       「俺がスカウトされて京都にやってきたのは22年前だ・・・
       古くせえ街だと思ったよ。俺には合わねえ街だと思ったよ」


溥儀禁衛隊 弐の槍
”地獄の魔術師”男爵ぴーの

       「でもな。俺達が週末にくり出してた飲み屋は酒が美味かったし
       店主の親父はくだらねえ下ネタが好きでいつも笑わせてくれた」


溥儀禁衛隊 参の槍
”宇宙統一忍者流”ハッタリ半蔵

       「遊郭の女達はみんな美人で優しかったけど
       どいつもこいつも可哀想な身の上の奴等ばっかでよ・・・」


溥儀禁衛隊 六の槍
”魔弾の射手”北城トオル

       「五条通の和菓子屋の婆さんは
       店の前を通りかかると頼んでもねえのに八ツ橋をくれやがる
       俺が外人だからって。名物だから食ってけって。毎度毎度
       そのたび俺は甘いモノ苦手だって言ってんのによ
       婆さんに悪いから無理して食うのがつらくってさ・・・」

あぶどぅるが一言一言を紡ぐ度に、5人の身体から立ち上る小宇宙は爆発的に肥大化してゆく

正式名称:対凶悪グラップラー犯罪特務戦闘部隊
Special Guardian orce スペシャルガーディアンフォース
通称「溥儀禁衛隊」
各個人の戦闘力が一個師団にも匹敵するとも言われる、少数精鋭のグラップラー部隊
筆頭シンエモンの死去により、10年間「壱の槍」が空席になってはいるが、それでもその戦闘力は大日本帝国最強・・・
否。「世界最強」である





あぶどぅる 「俺は京都が嫌い”だった”
        だが今はこの古くせえ街を・・・俺の第二の故郷だと思っている
        飲み屋の親父も。遊郭の女達も。和菓子屋の婆さんも
        
みんな俺のかけがえのない家族だと思ってる

        その家族達が今、炎に焼かれて泣き叫んで逃げ惑っている・・・
        
俺にはそれが勘弁ならねえ!」

吐き捨てるように叫んだ瞬間。あぶどぅるの小宇宙は臨界に達し、大気がビリビリと震撼した
彼の怒りに呼応するかのように、4人の小宇宙もMAXに到達する

ハッタリ   「グラップラーになってまだ間もないヒヨッコどもが・・・」
北城トオル 「連中に戦いの年季というものを思い知らせてやりましょう」
男爵ぴーの 「各個にモンスター軍団を撃破し、都民を守るぞ
        
各員散開せよ!アタック!」

歴戦の5人の戦士が大地を蹴り、高速で5方向に飛び散った
迎え討つは古都の上空に居座る悪魔の飛行船団と、1000人の悪行グラップラー達

あぶどぅる 「やっちまおうぜレオンハルト。アイツ等やっちまおう
        
俺達の京都の仇を取るんだ」

レオンハルト「あぁ・・・わかってるよあぶどぅる・・・
        
わかってるッッ!!!」

5 対 1000
究極のハンディキャップマッチが今、壮絶に幕を開けた


第10話「戦いの年季」


「世界最強の砲手」の両脇に抱えられしは、個人装備のスペックとしては紛れもなく「世界最強の砲」
漆黒の空に悠然と浮かぶ標的に狙いを定め、その双筒がギラリと光った

男爵ぴーの 「目標!敵空中戦艦フライングレッドノート砲打撃戦用意!」
レオンハルト「ファイアー!!!」

”ドガガガガガガガッ!!!!”
耳を劈く爆音。次々と地面に転がり落ちる薬莢
双竜の口から吐かれる炎は、さながら地上から天空へ向かって逆に降る火の雨か
「セミオート砲」地獄の砲弾U
秒間60発発射される砲弾は、そのひとつひとつが主力戦車を一撃で破壊する威力を秘めおり最長射程は脅威の5000m
まして使用者が世界最強のシューター・レオンハルトであれば、その砲口を前にして逃れられる敵は皆無である

瞬く間に京都を火の海に変えた悪魔の飛行船団ではあったが
その圧倒的火力の前にはただただ無力な風船に成り下がるほかない






オペレーター「第3ブロック、第7ブロック被弾!火災発生!
        後部第2エンジン崩落!飛行能力32%低下!
        
さ、3番艦轟沈しましたッ!2番艦も!」

鷹田総統  「巡洋艦クラスの軽金装甲ではこの火砲の前には紙風船だ
        このハッスルとて今は健在だが・・・あと10分ともつまいよ
        流石は溥儀禁衛隊と言ったところか。楽しませてくれる」

6隻から成る飛行船団は既に2隻が轟沈。最後尾に位置していた旗艦・ハッスルも甚大な被害を受けていた
なんの遮蔽物もない空というフィールド。その攻撃範囲の広さから身を隠す術はない

ドゴオオオオオオオン!!!

オペレーター「4番艦大破!総統!艦を後退させなければ!」
鷹田総統  「もう遅い。今から退いてもあの火砲の射程からは逃げられん
        下降だ!強行着陸・・・・いや!総員退避!
        
この艦を金閣寺にぶつけてやれ!」

逃げられぬと悟った鷹田総統は、乗組員に対し迅速に艦からの脱出を通達すると、
同時にハッスルを巨大な爆弾としてターゲットに激突させるという、超破壊的特攻作戦を指示

船体から黒煙を吹き上げながら、金閣寺を灰燼と化すべくハッスルがゆっくりと下降を開始する

男爵ぴーの 「連中め玉砕戦法に出たか・・・レオンハルトッ!」
鷹田総統  「さあどうするね?その手並みを私に見せてみろ禁衛隊
        漆黒の狂気がお相手する」

金閣寺めがけ、次第次第にその高度を下げてくる巨大な船影
まさにその姿は京都を殲滅せんとする破壊の権化・悪意の塊か
この巨大空中戦艦を地上激突までに空中爆破させるには、さしもの地獄の砲弾と言えども僅かに時間が足りない
このまま黙って金閣寺が吹き飛ぶのを見ているしかないのか?


否ッ!
レオンハルトは既に地獄の砲弾を地面に投げ捨て、代わりに砲身の長さ8mはあろうかという巨大な砲を取り出していた
砲のエネルギーチューブを背中のバックパックへと接続すると、両脚を踏ん張ってその照準をハッスルへ定める

レオンハルト「舐めるなモンスター軍団。我等溥儀禁衛隊、
        いかな状況にあろうとも任務達成
ミッションコンプリート率は・・・

        

    100%だッッ!!」








叫びとともにトリガーが引かれた瞬間
砲口から放たれた光の帯は、夜の闇を切り裂いて遥か天空まで屹立し

その途中にいたハッスルを紙切れの如くに貫通した

オペレーター「メ、メインエンジンを直撃!制御不能!制御不能!
        お・・・お・・・落ちます!
うわああああ!!!」

鷹田総統  「素晴らしい・・・フハハハハハ!素晴らしいぞこの力!」

乗組員達の断末魔と鷹田総統の歓喜の高笑いとともに

モンスター軍飛行船団旗艦・ハッスルは
夜空に咲く大輪の花火となった

ゴッゴゴォオオオオオン・・・!
紅蓮の炎と黒煙を吹き上げながら、その巨大な船影を崩してゆく飛行船団
京都を焦土と化した6隻の悪魔の艦隊は、僅か十数分のうちに自らが地獄の炎に焼かれる末路を辿ったのだった
たった一人の男の手によって

鷹田総統  「6隻の飛行船団がものの十数分で全滅とは・・・
        ”世界最強”の肩書きに偽りはないようだな」

涼しい顔で空中に浮遊しているのは、当然の如く脱出していた鷹田総統
バラバラになって地上に降りそそぐ鉄塊を眺めつつ、しかしその顔には微塵の焦りも怒りもなかった
むしろ遊び甲斐のあるオモチャを前にした子供のように、爛々と目を輝かせて笑みさえ浮かべている

鷹田総統  「どれだけとられたかね?阿部くん」
阿部隆和  「逃げ遅れたノロマと、身体能力の低い特殊能力系の連中が
        しかし9割程度は健在のまま地上に降りれたかと」
鷹田総統  「それだけ残れば十分。さて・・・これからが本当の勝負だな」

総統の問いに答えたのは、いつのまにか彼の隣に浮遊していた作業ツナギの男―
先の円卓会議でオーバーQに頭を吹き飛ばされた、あの阿部隆和であった

空中で大爆発した飛行船団。乗っているのが普通の人間であったならば、当然誰一人助かることなく全滅である
だが乗組員は全員がモンスター軍団の精鋭、カテゴリーA級超のグラップラー達
そのほとんどは船体が炎に包まれるよりも早く、下降装備を身につけ地上へと無事脱出していたのだ

無論そんなことは禁衛隊もハナから承知
鷹田総統の言葉通り、ここからが本当の戦いである

男爵ぴーの 「敵飛行船団の壊滅、及び大多数の敵降下部隊を確認
         いくぞみんな。ダンスの時間だ・・・ロックンロール!」



ドガガガガガガガガガガ!!

警官     「畜生!銃が当たらない!連中A級以上のグラップラーだ!」
自警団員  「こっちは弾薬が尽きた!補充を頼・・・うッ!?うわああ!」

煉獄と化した街。響く銃声と雄叫び、そして断末魔の悲鳴―
わけもわからず逃げ惑う一般人を守る為、男達は各々に武器を取り、迫る黒衣の軍団に必死の抵抗を続けていた
しかしながら普通の人間とグラップラーの戦闘力の差は歴然
武装した人々の立て篭もっていた抵抗拠点は、一箇所、また一箇所と次々に沈黙してゆく

モンスター1「目につく物は全て破壊し!目につく者は全て殺せ!
        それが鷹田総統のご命令だ!」
モンスター2「SATSUGAIせよ!SATSUGAIせよ!
        ヒャッハー!ここにもいやがったぜぇー!」

恐怖に慄き、息を切らして裏路地をひた走る母子を発見するや、黒衣のグラップラー達の口元が歪む
既にこの街のどこにも―慈悲も無く容赦も無い。場を支配するのはただただ殺戮の狂気のみ
嬉々として獲物に踊りかかるモンスター軍団
母親が幼い我が子を庇うように抱き締め、目をつぶって背を向けた・・・その時!
”ドバシュッ!!!”
闇を切り裂く一条の閃光。母子を襲ったグラップラーの身体は
瞬く間に細切れの肉片と化して、裏路地に鮮血の雨を降らした

モンスター3「ぬうッ!帝都のグラップラーか!?名を名乗れ!」

漆黒の闇の中、煌々と輝く月明かりと燃え盛る炎に照らし出され
その男は悠然と立っていた

ハッタリ   「影に向かいて影を斬り
        
光に向かいて光を斬る
        
我、心持ちし刃なり!

        ハッタリ半蔵…推参!」


三代目   「どうしたい?何を泣いてんだおめえ」
ハッタリ   「うっうっ爺ちゃん・・・俺達忍者は・・・人殺しなの?
        忍者の術は人を殺す為の術で・・・
        忍者の諜報は人を殺す為の業なの?
        
俺は人殺しの家系に生まれたの?」
三代目   「・・・あぁ、そうだよ。本当のこった
        ウチの家は先々代からずーっと雇われ忍者稼業だ
        なんだおめえ、そんなこと今頃になって知ったのか」

ハッタリ10歳の時、彼は泣きながら祖父にそう問うたことがある
物心ついたときから叩き込まれた術の数々が人の命を奪うモノだと知ったとき
まだ幼かった彼はその事実を受け入れられず、嗚咽をあげながら祖父に助けを求めたのだ

ハッタリ   「爺ちゃんも・・・?爺ちゃんも人を殺したの?」
三代目   「あぁ殺したよ。すっげぇ沢山な」
ハッタリ   「なんでだよ!?なんで人を殺したりするんだよ!」

だが厳格な祖父の答は非情だった

三代目   「忍者が何の為に?そりゃ雇い主の命令だからさ
        
金だよ。一族一党を養うためだ
        俺達を雇う連中の目的は様々よ・・・
        主義や主張、体制の維持、侵略の為、防衛の為・・・
        俺達にはそういうのわからねえ
        別に人を殺さなくても何とかなるんじゃねえの?って思う
        だが忍者が命令を聞くのにそういう”意味”は必要ない
        
二束三文のはした金だけで十分だ

        逆に言えば、だ・・・俺達忍者にとっては
        その二束三文が命を賭けるに足る駄賃ってことよ
        二束三文であっちこっち出向いて、殺して殺されて
        忍者ってのはまぁ・・・そういう人間のクズの家系なのさ
        いやなに。おめえもそのうちわかるようになるさ
        なにせホレ、おめえは俺の孫だ
        
六代目ハッタリ半蔵になる男だからな」

ハッタリ半蔵・・それは日本全国に点在するグラップラークラス「忍者」全108派中、最強の称号である
三重県は伊賀の里「宇宙統一忍者流」の頭領は、代々敬意と畏怖の念を込めてこう呼ばれるのだ
『最強の忍者』と


”ドバァッ!!”
閃光の刃が黒衣のグラップラーを一瞬で細切れにする。宇宙統一忍者流刀術・変異抜刀霞斬り
あのシンエモンでさえ見切ることの出来なかった、変幻自在の幻妙剣である
母子に襲い掛かった黒装束3人を一息で斬り捨てた時、ハッタリの周囲はゆうに30を超える数のグラップラーに取り囲まれていた

渦巻ナルホド「ハッタリ半蔵殿とお見受けするってばよ!
         俺ってば、逆転火影流忍者・渦巻ナルホドだってばよ!」

煙巻ケム蔵 「甲賀モクモク流忍者・煙巻ケムゾウ…ハッタリ殿、お命頂戴仕る」
じょじょ丸  「ジャレコ流忍者・じょじょ丸にござる
        いち忍者としては我が術どこまで通用するか試してみたかったが
        多勢に無勢許されよ。戦さは必勝で挑むが忍の鉄則ですゆえに」

ハッタリ   「ほう・・・いずれも通った名前ばかりだ
        何故お主らほどの忍がモンスター軍団などに加担する?」

グラップラーはいずれも高名な忍者達と、その配下の精鋭忍軍であった
つまり軍団が作り出した改造グラップラーではない、雇われ傭兵ということである
ハッタリの問いに僅かに沈黙した後、3人はややはばかられるように口を開く

じょじょ丸   「・・・これは異な事を申される
         我等忍が任務を遂行するに、報酬以外の理由が有りましょうか」
煙巻ケム蔵 「我等とて善悪の区別はつく。モンスター軍団はまっこと外道
         されど・・・されど我等は所詮雇われ忍軍
         闇に生まれ落ち、闇に生き、闇の中で死ぬ宿命
         一族一党を養う為には・・・」

渦巻ナルホド「主は選んでられないんだってばよーッ!」

(BGM:バジリスク〜甲賀忍法帖〜 OPテーマ「甲賀忍法帖」)
僅かに残る心の迷いを振り切るかのように絶叫し、ハッタリに向かって疾走する忍者軍団
30人を超える精鋭は、その全てがA級以上のグラップラー
全方位からの同時攻撃であれば、いかな「ハッタリ半蔵」と言えども・・・

ハッタリ   「あぁ・・・そうだな。俺もそう教えられたよ
        
でも・・・!」

四方八方から襲いくる凄腕の忍者達。まっとうな体術だけで対処できる攻撃ではない
ハッタリの右手がスッと静かに自分の両目辺りを押さえた
出るか?血継限界『写輪眼』

煙巻ケム蔵 「無駄な事を!知っているぞ!
        『写輪眼』はその眼で見た敵の技を奪う、言わばコピー瞳術!
        この状況下で出したとてどうにもならぬわ!」

ケム蔵の言う通り、写輪眼は多対一の戦いにおいて有効性のある術ではない
ましてやこの状況においてなど・・・
モンスター忍軍が打倒・ハッタリ半蔵を確信した、その時
”最強の忍者”の両目がゆっくりと見開かれた

渦巻ナルホド「写輪眼じゃないってばよ!?
         その金色の瞳はまさか・・・・・!!!」

見開かれたハッタリの瞳は写輪眼ではなかった
その金色の光を発する両目と瞳を合わせた瞬間、30人を越える忍者軍団は即座に死を予感した





”ドシュバシュ!ゾバァッッ!”
夜の闇に咲き乱れる真紅の花
ハッタリ半蔵を亡き者にせんと抜かれた30を超える白刃は
たしかな手応えで肉を切り裂き、骨を断ち切った
だがしかし
”斬った”対象は攻撃目標だったハッタリの身体ではなく―

どうしたことか自らの肉体であった
襲い掛かった30人の刺客の、まさかまさかの
一斉自刃である
一太刀で首を斬り落とし、何が起こったのかも理解できずに即死する者、
心臓に刃を突き立て、苦しみに表情をこわばらせながら絶命する者―
その悉くが致命傷であった

じょじょ丸  「ば、バカなどうして・・・?そ、その金色の瞳は・・・
        甲賀は卍谷衆に伝わる血継限界、
自滅の瞳術!

薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞ってぶるぶると顔を上げるケム蔵
ハッタリが放った禁断の術は、忍者であれば誰もが話に聞いたことがある伝説の代物だった

【自滅の瞳術】
甲賀の隠れ里、卍谷の一族に秘して伝わる無敵の血継限界
その瞳を合わせた時、術者に害意をもって襲い掛かる者に
その攻撃を跳ね返す脅威の術
要するに正体は強力な暗示催眠なのであるが、瞳を合わせただけで即座に効果が発動する為タイムラグはコンマ秒
更には恐ろしいことに、術者と目を合わせないように攻撃しようとしても、その両目が光ったら最後
どれほど見まい見まいとしても、まるで誘い込まれるように瞳を合わせてしまうのだ。すなわち・・・
この術を破る方法は「存在しない」
回避不能の”絶対カウンター”なのである

ハッタリ   「ハッタリ半蔵は代々、他流派の女の中から
        最も優れた血継限界を持つ者を妻に娶るしきたりになっている
        
俺の母は卍谷の頭領の娘だ」

じょじょ丸  「だ、代を重ねる度にその血継限界は最強に近づいてゆく・・・!
        これがハッタリ半蔵・・・その名に偽りなき『最強の忍者』・・・ッ!」

想像を遥かに絶していた「ハッタリ半蔵」の強さ
その圧倒的実力の隔たりに唖然としつつ、モンスター軍団の雇った忍軍達はその命を散らした

ハッタリ   「闇に生まれ落ち、闇に死ぬ宿命・・・か。確かにそうかもしれん
        だがな・・・」

おそろしく哀しい目で彼等の屍を見回した後、ハッタリはキッと月を見上げて力強く呟いた

ハッタリ   「忍とは『心の刃』と書く
        心を失なってしまった刃は忍ではない。ただの凶刃だ
        我が術は弱き人々の為に。それが5代目ハッタリ半蔵の生き方
        聞こえるか爺ちゃん・・・俺はアンタとは違う忍道を歩んでみせる」

闇に生まれて闇に死ぬのが忍の宿命なのか? 否!
心の刃はきっと闇を切り裂ける
煉獄の炎と返り血に赤々と照らされながら、”最強の忍者”はその想いを強く誓うのだった



タァーン!タァーン!!
耳をつんざくような爆発音と、絶え間ない人々の悲鳴に揺れる京の都
まるでこの世に地獄を体現したかのような惨状の中、一定のリズムを崩さずに淡々と響き渡る乾いた音―
ライフルの銃声であった

チョロ松  「10匹・・・11匹・・・じゅうに・・・おっと、今のは普通の人間か
       ふふん。帝都守護職のグラップラーと言えども他愛ないこった
       この俺の狙撃の前では全て血の詰まったバルーンだぜ」

ビルの屋上から夜の京都を不敵に見下ろすのは、スラリとした長身と漆黒のサラサラヘアーがよく似合う若者
チョロ松。その超人的スナイプの技術から”世界一の腕の持つ殺し屋”と呼ばれ
香港マフィアの懐刀として世界中の要人、及びその警護のグラップラー達を数え切れないほど葬り去ってきたスナイパーである

彼の得物は一般的な狙撃用のスナイパーライフルではなく、中距離用アサルトライフルを強化した専用のカスタム銃
これを何故かバズーカのように
肩に担いで標的に狙いを定めるのが彼流のスナイプスタイルだ
その異様な構えから繰り出される射撃の精度はまさに100発100中
彼がトリガーを引くたびに、モンスター軍団の迎撃に奮闘する京都守護職のA級グラップラー達が、うめき声ひとつ立てずに次々と倒されてゆく
A級以上であれば、銃弾をかわすことも可能なグラップラーの身体能力ではあるが、あくまでそれは攻撃が予測できる場合の話
意識していない方向から不意に放たれた銃弾は、どれほど強いグラップラーだろうとも回避することは困難なのである

チョロ松   「フン。やっと出やがったな大物が」      

暗視スコープの先に捉えた男の姿に、ここまで余裕綽々だったチョロ松の表情が僅かに引き締まった
見るも華麗な銃さばきで迫るモンスター軍団を次々と打ち倒してゆく、スーツ姿の男・・・

チョロ松   「溥儀禁衛隊・北城トオル・・・!
        ”魔弾の射手”の異名を持つ最強のガンナー
        ・・・まっとうに撃ち合えば俺とて敵わん相手だがな
        だが距離200m!ここは既にスナイパーの領域よ」

格好の餌食としてチョロ松の射程に飛び込んできた人物は誰あろう、”魔弾の射手”北城トオル
揺るぎない己が勝利を確信し、チョロ松はその照準をピタリとターゲットに合わせる





チョロ松   「しかしまぁ・・・かく言うこの俺様も相当なイケメンだがよ
        大した色男じゃねえか北城トオル
        案外禁衛隊ってのは溥儀のアッチの気で集められたのかもな
        ・・・クックック。まぁいい、俺は頼まれた仕事をするだけだ
        
ちょろいもんだぜ」

チョロ松の右目には銃の照準と一体化した赤外線暗視スコープが内蔵されている。夜の闇の中にあっても、標的を外すことはない
ピタリと胸のあたりに狙いを定めたあと、僅かに時間を置いて照準はゆっくり頭部へと動いた

チョロ松   「心臓はつまらんな。狙うならやはりここか・・・・

       そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!」

その端整が顔が木っ端微塵に吹き飛ぶ1秒後の映像を脳内に映し出し、トリガーに指をかけたチョロ松
だが
次の瞬間!

チョロ松  「なにィッ!?」

ダキューン!
スコープ内の北城が、その視線をこちら側へと向けたのだ。チョロ松が「まさか」と思ったと同時に火を噴く北城のリボルバー
反射的に身を屈めたチョロ松の髪の毛をひと房吹き飛ばし、銃弾は背後の貯水タンクに命中した
まさに間一髪
完全にその命を掌握したと思っていた標的からのまさかの反撃に、世界最高の殺し屋は心臓を握り潰されそうなほど驚愕した

北城トオル 「殺気がまる見えなんですよ。ボウヤ
        それじゃ自分の位置を教えているようなものです
        スナイパーとしてはまだまだですね」

チョロ松   「くっ!機先を制したからって勝ち誇るんじゃねえ!
        この距離をリボルバーでライフルと撃ち合うつもりか?
        夜の闇の中を
暗視スコープもなしに!」

闇の中に潜む狙撃手の存在に気付いていた北城。愛銃「V1ショット」を標的に向けつつ、僅かな笑みを浮かべた
チョロ松の言う通り、200mという距離を照準器のないリボルバーでライフルと撃ち合うのは分が悪すぎる
ましてこの闇の中。おそらく北城側からでは、標的の姿さえ視認できていないであろう―
だが
北城は余裕の笑みを崩さぬまま、わずかにネクタイを緩めながらこう言った

北城トオル 「勝敗を決めるのは銃の性能じゃありません

       教えてあげますよ。銃には鉛の弾丸を込めるんじゃない
       
己の魂を込めるんです」

TO BE CONTINUED・・・


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