ガァーン!ガォーン!
闇夜に響く銃声は戦士の咆哮か。幾度となく獲物を射程に捉えては火を噴くチョロ松の改造ライフル
だがしかしどういうことか
これまで百発百中を誇ってきたハズのその射撃は、ただ一発たりとてターゲットに当たらない!

チョロ松   「バカな・・・俺のスナイプをこうも回避するとは!」
北城トオル 「そんなに信じられませんか?
        今までよほど格下の相手しか狩った事がないようですね」
チョロ松   「ぬかせロートルがッ!世界一のガンナーは俺なんだよ!
        キサマを倒してそれを証明してやるぜ!」

ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら北城への狙撃を続けるチョロ松だが、その威勢とは裏腹に銃弾は悉く空を切る
そもそも暗殺を生業としてきたチョロ松にとって、ターゲットに気取られることなく一発で仕留めるのが殺しの大前提
このようにグラップラーを相手に真正面の戦いを強いられるのは、彼にとって初の経験だったのだ

チョロ松   「くそっ!なんで当たらねえんだよ!」
北城トオル 「わかるまい。銃の性能だけに頼って戦ってきたキミには
        敵からの反撃もない前提で戦ってきたキミには!
        
銃に魂を込める意味を解せないキミには!」

チョロ松   「せいぜい謳ってろ!この暗闇の中・・・
        狙撃場所を変えながら動く俺をどうやって捉える!?」

ヒラリヒラリと身を躍らせてチョロ松の狙撃を避け続ける北城であったが、彼からの攻撃は機先をとったあの一撃のみ
「ヤツは自分の正確な場所を把握できない」
互いにグラップラークラスはガンナー。距離を取っての撃ち合いになる以上、それは圧倒的なアドバンテージだった
未だ北城を捉えることはできないものの、自分の絶対的優位を信じて疑わないチョロ松
だがこの時、劣勢かと思われた北城はなんと瞳を閉じて僅かに微笑んでいた





北城トオル 「む、無理ですよ!
        こんな豆鉄砲であんな巨大鮫を仕留めるなんて!」

鮫ハンター 「無理?心に枷をはめているからそう思うだけだ
        感じるのだトオル。鮫の持つ第七感をかいくぐる事だ」

思い起こしていたのは、若き日の北城が修行したフロリダの海
師匠のシャークハンターに連れられ、小さな漁船で
全長10mはあろうかという人喰い鮫と対決した時のことだった
バズーカ砲でも持ってこない限り、一発で仕留めるのは至難であろう巨大鮫
それをいリボルバーで仕留めろという命懸けの修行。下手に当てれば凶暴化した鮫は小さな漁船など一瞬で粉々にしてしまうだろう

ドォン!ドォン!
立て続けに二発。北城の放った弾丸は鮫の頭部を見事撃ち抜いたが、クリーンヒットだったにも関わらず鮫はその動きを止めない
いきなり攻撃を仕掛けてきた憎い人間に報復する為、恐ろしい勢いで漁船へと突撃をかけてきた!

鮫ハンター 「それじゃあ無理だ。ヤツを仕留めるには”真の一撃”でないと」
北城トオル 「し、真の一撃?」
鮫ハンター 「教えただろう。銃に込めるのは鉛の弾ではなく己の魂なのだと
        真の一撃とは、その魂の全てを撃ち出す渾身の一撃のことだ
        さあ来たぞ。これで仕留めねばワシもお前も鮫の餌だ
        
お前の魂の一撃を見せてみろ!」

北城トオル 「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

ガォーン!!!
若き北城が無我夢中で放った渾身の一撃は、見事巨大鮫の脳天を撃ち抜いた
一瞬のうちにこの世とあの世の境界線を飛び越えた巨大鮫は、水飛沫を上げて暴れることもなくその白い腹を見せてぷかりと浮かぶ
鮫の死を確認するや、精魂尽き果ててその場にヘタリ込んだ弟子を、シャークハンターは満足気な笑顔で抱え上げるのだった

鮫ハンター 「フフフ・・・北風がバイキングを作ったかな」





それはお前が何処にいるかではない

どのような環境にあるかでもない

ましてや相手が誰であるかでもない

お前自身が突破ブレイクスルーするのだ





いかなる状況であろうと。いかなる敵であろうと関係ない

「真なる一撃」とはいつでも自分自身の中から生み出すのだ

北城トオル 「ただ一点だけを・・・ポイントブランク(狙い撃ち)!」

深く閉ざされていた北城の瞼がゆっくりと見開かれる
その視界に映る世界から、余計な物体が消えてゆく。その耳は喧騒をシャットアウトする
ターゲットの移動する足音。息使い。放たれる殺気
究極の精神集中
”ゾーン”に入った北城の第六感は、暗闇に潜むターゲットを鮮明に映し出した
今、彼の世界に存在するのは、ターゲットと自分の2人だけである
だが世界最強のガンナー・北城トオルが狙うは、2人を結ぶ直線の弾道ではない
見よ!”魔弾の射手”の真なる一撃を!
獲物狩る楕円の狩人をッ!






北城トオル 「ワンショット・ワンキル!」
                            ( 一 撃 で 倒 せ ! )
”ドォン!!”
あらぬ方向に構えられた北城のリボルバーから放たれた、一発の銃弾が夜の闇へと消えた
ターゲットチョロ松とはほとんど垂直ほどにかけ離れた方角である
その射撃を見たチョロ松は、自分の勝利を確信して思わず吹き出した

チョロ松   「はっバカが!どこを狙ってる!やはりこの闇夜・・・
        暗視スコープ無しに俺の正確な位置は掴めないようだな!
        結局最後に勝つのは銃の性能!この俺・・・・あれ?」

刹那
こめかみに衝撃を感じたチョロ松はガクリとその場に膝をついた
ぱたぱたと大量の血がコンクリートへとこぼれ落ちるのを見た時
薄れ行く意識の中、彼は自分が撃たれたことを悟った。言わずもがな致命傷である

チョロ松  「ハハ・・・すげえ・・・そう・・・か・・・
       これが噂に聞く”魔弾の射手”の代名詞・・・・」

今際の際、ある種の感動さえ感じてチョロ松はゴトリと血の海へ倒れこんだ
「世界一の殺し屋」の最後であった

『エリプスハンター(楕円の狩人)
拳銃から放たれた弾丸は、ブーメランのごとく大きく弧を描いてターゲットを狙撃する
撃たれた側からは完全な死角となる為、技の正体を事前に知っていない限り回避不能という超絶の銃技である

北城トオル 「私と撃ち合うには10年早かったようですね
        
アデュー。ニーニョ(坊や)」

ターゲットの沈黙を確認することもなく
「世界最強のガンナー」はリボルバーをくるくると回し、銃口から立ち上る硝煙をフッと吹き消した


第11話「戦いの年季(後編)」


モンスター1「見えたぜ金閣寺だ!最重要ターゲット足利溥儀を抹殺する!」
モンスター2「はっ!守備隊のグラップラーが待ち受けているかと思ったが
        まるでガラガラじゃないか!さては主を置いて逃げ出したか!」
モンスター3「いや兵士がいないという事はトラップが仕掛けられてる
        可能性が高い。油断せずに注意して進むんだ」

地獄と化した京都の闇に、将軍足利溥儀居城・金閣寺はまだその美しい姿を損なうことなくそびえ立っていた
そんな京都最後の砦に恐ろしい速度で殺到する、夥しい数の黒い影達
当然ながら降下に成功したモンスター軍団のグラップラーが、最重要目標として目指すのは金閣寺である
京都側としては金閣寺の周囲に戦力を集結させ、なんとしても防衛せねばならないハズであるが
なぜかモンスターグラップラーの言う通り、金閣寺周辺には守備隊のグラップラーの数は皆無であった
はたまた用心した者もいるように、一網打尽の罠が仕掛けられているかと思えばそうでもない

無人の野を往くが如く、疾風の速さで集結する黒衣の軍団
その人数はゆうに500人は超えているであろうか
京都に降り立ったグラップラーのうち、ほぼ全軍が無傷で金閣寺に集まってしまった事になる
本当に守備隊は溥儀を置いて逃げ出してしまったのか?
否!
迫り来る悪魔の軍団から金色の城を守るように。シルクハットと漆黒のマントを纏った男がゆらりと現れた

男爵ぴーの 「コマンタレブー鷹田モンスター軍団の諸君!
        私の名は男爵ぴーの。人は私を地獄の魔術師と呼びます」
モンスター1「出たな溥儀禁衛隊弐の槍!シンエモン亡き後の筆頭代理!
        なるほどな、道理で兵士も罠もないワケだ・・・・
        名高いキサマがここを守る番人ということか!」

罪もない人々を虐殺した憎き敵を眼前にし、笑顔で飄々とした挨拶を交わすヒゲ面の中年
溥儀禁衛隊No2・男爵ぴーのである
筆頭シンエモン亡き後、その代理として禁衛隊のリーダー役を担っているチームきっての頭脳派
守備隊を排除し、たった一人でモンスター軍団を待ち構えていたのは彼なりの必勝策なのか?





モンスター2「嘗めやがって・・・いかに伝説のS級グラップラーであろうとも
        これだけの数のA級グラップラーを相手に勝てると思うてか!」
男爵ぴーの 「ふぅむ、たしかにこの数は予想外でした。ちょっとマズイですね
        ここは一旦退いて仲間と合流することにしますか。ではでは!」
モンスター3「あァン!?マジかてめえ!?逃すかこの!追え!」

モンスター軍団の嘲笑にしきりに頷いたかと思うと、しゅたっ!と右手をかざして頭を下げるぴーの
なんとそのまま猛スピードで金閣寺に向かって逃げ出してしまったではないか!
あまりに予想外のリアクションに一瞬呆けてしまうモンスター軍団だったが、すぐに我に返ってこれを追撃する

舞うように京都の路地を駆け抜けるぴーの。さながら獲物狩るジャッカルの群れのように追いすがるモンスター軍団
その時だった
ガスッ!ずささーっ!!!
なんということか。後ろを気にしながら走っていたぴーのが事もあろうに
足をもつれさせて転倒!
地面に顔を擦りつけるように、無様にヘッドスライディングしてしまった!
思いがけず訪れた千載一遇のチャンスに、我先にと飛びかかるグラップラー達

女モンスター「アッハハハハ!信じられない!コイツは傑作だね!
        天下の溥儀禁衛隊が逃げ出した上に転ぶって!?
        悪いけどもらったよ!地獄の魔術師男爵ぴーのの首、
        この鷹田モンスター軍団・
夜神疾・・・どォッ!?」

誰よりも速く飛び出した青い髪の少女グラップラーが、狂喜とともに右腕を振りかざしたその瞬間
彼女の首と胴は永遠の別れを告げていた

”ドパァッッ!!!”
夜の闇を真紅の噴水が真っ赤に染め上げた
彼女以下、ぴーのに向かって飛びかかった数十名のグラップラー達が細切れの肉片となって飛び散る
そこに張り巡らされていたのは―見えないほどに細く研ぎ澄まされた鋼線
「一網打尽の罠」は、たしかにそこに用意されていたのだ

モンスター1「し、しまった!低い体勢で転んだのは
        鋼線の存在を悟られずにそれを避けるためか!」
男爵ぴーの 「タブーなんですよ。こと戦闘においてその考えは絶対に
        
”思い込み”や”決め付け”という思考はね」
モンスター1『決め付け?俺達が何を決め付けていた?・・・・あっ!』

マントについた土埃をパンパンと手で払いながら起き上がるぴーの
その時、グラップラー達はさっきまでの自分達の進軍を思い出した
無人の路地を駆け抜けていたとき、彼等はこのようなブービートラップの存在を警戒していたのである

モンスター1『そ、それなのに目の前にこの男が現れた時・・・
        金閣寺への壁はこの男だけだと勝手に決め付けてしまった
        それまで持っていた慎重さが吹き飛んでしまった!
        トラップの事など忘却の彼方・・・まんまと撒餌に喰らいついた
        金閣寺の周囲を敢えて手薄にしたのもその為の布陣か!』
男爵ぴーの 「手品 奇術 魔術とは視覚の盲点をつき心理の裏をかくこと
        それを殺人技として完成させ、もはや芸術とまで呼ばれるのが
        
この”地獄の魔術ヘルズマジック”です」

全てはぴーのの掌の上
鷹田モンスター軍団の主戦力達は、この金閣寺前に集められるべくして集められたのだ
黒衣のグラップラー達は、目の前の男の見事な手管に慄然として震えるしかなかった





何なんだ!?

飛行船団が京都上空に現れてから30分と経ってないぞ

こんな短時間で

これほどの権謀術数を張り巡らせる事が可能なのか!?

コイツは・・・いや

コイツらは一体

どんな世界を生きてきたんだ!?

これが20年以上に渡って京都の・・・否!世界の平和を守ってきた世界最強の精鋭部隊の実力か
数の上ではまだ圧倒的に優位だというのに、無意識のうちに一歩後ずさるモンスター軍団
途端にぴーのから発せられる小宇宙が爆発的に膨れ上がり、今の今まで飄々としていた表情が憤怒の形相へと変化した

男爵ぴーの 「鷹田モンスター軍団・・・お前等はやりすぎたよ
         溥儀禁衛隊を本気で怒らせた事を地獄で悔いるがいい」





モンスター1「くっロートルが!たかが十数人を葬って勝ち誇るか!
        我等モンスター軍団、未だ半数以上は健在ぞ!
        取り囲め!奴に少しでもおかしな真似をさせるな!」

ヒュパッ!プツン!プツン!パツン!
闇夜に張り巡らされていた魔術師の糸が、次々と断ち切られていく
鋼線のトラップを解除したグラップラー達は、たちまち黒衣の魔術師の周囲を取り囲んだ

モンスター1「フンこれでどうだ!まだ次の罠を残しているか?
        仮に残っていたとしてもキサマは逃げられまい!」

ターゲットを完全包囲し、必勝の体勢を整えるモンスター軍団
もし仮にぴーのに更なる奥の手があったとしても、何十名かの犠牲と引き換えにこの男は抹殺できるハズ
できるハズである。あぁだがしかし
勝利の確信に浮ついたグラップラーの笑みは、直後のぴーのの返答によっていとも簡単に打ち消されるのだった

男爵ぴーの「ええ残っていますとも。一撃必殺最終兵器が
        それに残念!私は逃げる必要などありませんよ」
モンスター1「な・・・・に!?」
男爵ぴーの「鋼線の罠は貴方達を仕留めようと張ったものではありません
        
ここで貴方達をまとめて足止めさせる事が
        目的だったのですから。それでは皆さん・・・・・さようなら」

言い終えた瞬間、ゴトリと音を立ててぴーのの身体が地面に転がり落ちた
否。正確には
ぴーのの姿形をした傀儡が、である
【地獄の魔術奥義・眩魔切断術】
        ヘ ル ズ マ ジ ッ ク                  ミ ラ ク ル カ ッ タ ー
かつて若きシンエモンとの戦いでも使用した地獄の魔術奥義
モンスター軍団が相手にしていたのは最初からぴーの本人ではなく、彼の姿をした人形だったのだ





モンスター1「囮・・・ッ!?我等をここで足止めさせるための・・・!?
        
いかん!すぐに散れッ!ここはマズイ!」

僅かな放心の後、すぐさま自分達が置かれた状況を把握したモンスター軍団
すぐにその場から離れようとするが―時既に遅し
『―――体は炎で出来ている』
どこからともなく聞こえてきた男の声とともに、彼等を取り囲む周囲数百mほどの空間が一瞬にして
”閉じられた”
大半の者は何が起きているのか理解できず、慌てふためくばかりであったが知識を持っていたごく僅かの者は慄然として震えた

インテリ1 「外界との接続が閉ざされた異空間だと!?まさかこれは
       魔術による空間形成・・・
こ、固有結界か!?」

その者の発した単語を聞き、無学なグラップラー達も今自分達が何を体験しているのかを理解
そして同時に恐怖した

【固有結界】
一体さん世界におけるレアスキル「魔法」の中でも、特に最上位クラスとみなされる創造魔法の一種
別名
「空想具現化」とも呼ばれるこの術式は、使用者の心理的イメージに基づいて異空間を形成し
その空間に相手を引きずりこむことによって完成する
空間内の全ては術者の自由に出来る為、、様々な側面で内部に入り込んだ敵に対して術者が圧倒的に優位に立つことになる
そんな物理法則を無視した異空間を現世に召喚することは森羅万象の理に反しており、
”異物”たる固有結界を排除しようとする現世の力に抗う為、術者は結界の維持にとてつもない魔力を必要とする
歴史中の名だたる魔法使い系グラップラーの中でも、固有結界を使用した者は10本の指で数えられるほどしかいない大魔法である

いったいどこで唱えているのか。男の呪文詠唱は止まらない
閉ざされた空間の中に、次第次第に奇妙なオブジェが構築されていく

『血潮はマグマで 心は硝子
幾たびの戦場を越えて不敗』

錆びた巨大な歯車。舞い散る火の子
固有結界は「空想具現化」の2つ名の通り、術者の心象風景を形作ることが多い
この殺風景で、どこか自傷的な風景が男の心の映し鏡なのか

『ただの一度も敗走はなく
ただの一度も理解されない
彼の者は常に独り
剣の丘で勝利に酔う』

ガチリ、ガチリと巨大な歯車がゆっくり回りだす
途端に結界内のいたるところから凄まじい炎が噴出し、世界はあっという間に灼熱の荒野と化した

『故に生涯に意味はなく
その体はきっと炎で出来ていた』

呪文は完成した
薄暗い闇の中から浮かび上がるように、褐色の肌に白い衣服を纏った男がモンスター軍団の前に姿を現した

あぶどぅる 「無限の炎製
                 ア ン リ ミ テ ッ ド フ レ イ ム ワ ー ク ス
             
覚悟はいいか?クソ野郎ども
       
俺の炎は・・・熱くて死ぬぜ!」





背の小さい男だ。およそ屈強な戦士というには程遠い体格である
だがその褐色の肌と顔面に刻まれた大きな傷跡を見た瞬間、モンスター軍団500余名の表情は一斉に凍りついた

モンスター1 「”炎使いフレイムマスターもはめど・あぶどぅるッ!」
あぶどぅる  「固有結界の中は外界と完全に遮断されている。解るな?
         この中でならどんな
広域殲滅魔法を使っても
         京都の街を傷つける心配もないということだ!」

既に固有結界の中は肌を焼くような高温になっているにも関わらず、男達の全身から冷たい汗がどっと噴出す
【大属性・炎使い】
こと炎を触媒とするグラップラースキルなら制限なく使用できるという、攻撃力に関して言えば最強のクラス
モンスター軍団にも
氷帝・後部という身近な比較対象がいるだけに、彼らはその恐ろしさを十二分に理解している
後部がたった1人でイギリスの空中艦隊を葬ったように。あぶどぅるもまた、それと同等の攻撃力を持っているという事である

あぶどぅる  「見せてやろう。俺の最大技・・・魔界最強の炎を!」
モンスター2 「か、かかれえ!!!呪文を唱えさせるなあああああ!」

あぶどぅるが瞳を閉じて呪文の詠唱を始めた。「魔法」を使うつもりだ
ここにいる精鋭のモンスター軍団500余名全員を一瞬で葬り去ってしまうだけの魔法を
瞬間、恐怖に駆られた十数名の男達が我先にとあぶどぅるに飛びかかった
呪文の詠唱が完成する前にこの男を倒さねばならない。その判断は間違ってはいなかった が
ボバァッ!!!
あぶどぅるにあと数mまで近づいた男達の身体がいきなり炎を上げて燃え出したかと思うと、一瞬にして消し炭と化したではないか
ここは術者の空想を具現化する固有結界。内部の温度は凄まじい勢いで上昇を続け、既に彼の周囲十数mは摂氏数千度に達している
ガンナークラスのグラップラー達が震える手で引き金を引くも、鉛の弾丸はあぶどぅるに届く前に空中溶解してしまった




ズオオオオオオオオオオオ・・・・・・!
空中に青白い光線が走り、その漆黒の空に巨大な魔方陣を描いていく
彼等にはあぶどぅるの呪文詠唱を止める術がない。この閉ざされた固有結界からは逃げる事もできない
待っているのは確実な「死」しかしそれに対して何も抗えないというこの恐怖!
それは逃げ惑う京都の一般人達を無慈悲に殺した彼等にとって、まさに因果応報と呼ぶに相応しい最後であった

あぶどぅる  「遥か神代の時代に封印されし彼の者よ!
         
今こそその戒めから解き放たん!

パキィィィィィィン!
呪文は完成した。魔法陣に描かれた五芒星がまばゆい光を放つ
異界と繋がったその扉からぬうっと現れたのは、
おそろしく巨大な何者かの腕!
恐怖に怯えるモンスター軍団の目前でまず2本の腕が飛び出し、それから魔方陣を押し開けるようにして上半身が姿を現した

モンスター1 「あ、あああ・・・・え、え、エエエエエエエ・・・・!」
モンスター2 「エグエグ、エグゾ・・・・・・!」

現れた異形の巨人を目撃した男達は、鼻水と小便を漏らしながら彼の名前を呟く
それは遥か神話の時代、隔離世に封印されたという伝説の魔神の名前であった

あぶどぅる  「封印されしエグゾディア!」

その神々しくも禍々しい巨体を視界に納めた時
モンスター軍団500余名は数秒後に訪れるであろう自分達の確実な「死」を予見した

モンスター1「エエエエエ・・・エグ・・・エグゾディア!
        
うわああああああああああああああ!」

数十mを超える巨体と、血のようにヌラヌラ光る真っ赤な瞳
耳まで裂けたかのような巨大な口と、筋骨隆々の両の腕からは、その身に内包しきれぬ異界の獄炎が溢れ出している
エグゾディアの姿は、ただそれだけで見る者を恐慌に陥れる迫力に畏怖に満ちていた

あまりの恐怖にばたばたと腕を振り回して後方へ走り出す者が出ると、あっという間に将棋倒しの醜態を晒すモンスター軍団
大声で泣き叫び、小便を漏らしながらあぶどぅるに命乞いを懇願する男達
ついさっきまでの屈強なグラップラー達とは思えぬ、およそ直視しがたい矮小さであった

あぶどぅる 「言ったハズだぜ・・・お前達はやりすぎたと」

だがしかし。怒りに燃える裁定者はこれを許さない
すう・・・と腕を振りかざすと、炎の魔神に攻撃の命令を下した
「外道決して許すまじ」
それが溥儀禁衛隊五の槍・炎の占い師あぶどぅるの信念

悪・即・燃!

あぶどぅる 「怒りの業火・・・・・・
       
エグゾードフレイム!」

ゴカァッ!!
エグゾディアの双掌から放たれたのは、全てを焼き尽くす異界の炎
そのまばゆい閃光は
一瞬にして固有結界内を埋め尽くした

夜の京都の街に一瞬煌く巨大な光
やがて固有結界が消滅すると
そこには背の低い褐色の肌の男が一人立っているだけであった
500余名のモンスター軍団達の亡骸はない。何故ならば―
彼等の肉体は骨さえ残さずこの世から焼き尽くされたからである

あぶどぅる  「戦いの年季が違うんだよ
         即席グラップラーが溥儀禁衛隊の相手になると思ったか」
男爵ぴーの 「・・・これで降下した連中の半数以上は叩いたか
         このまま散会して残存部隊の掃討に移るぞ!あぶどぅる」

禁衛隊にとってはわかりきっていた結果だったのか
敵の大部隊を一網打尽にした2人は、その戦果に歓喜の色さえ見せはしない
残存するモンスター軍団達を駆逐するため、休む間もなく火の手の上がる街中へと駆け出していく
京都守護職・溥儀禁衛隊
その戦闘力はまさしく、世界最強の精鋭グラップラー軍団に恥じぬものであった

TO BE CONTINUED・・・


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