阿部隆和  「総統、たった今FF大林が死にました
        敵に丸め込まれかけたようですがまぁ、結果良しで
        これで戦力の99.9%が沈黙・・・勝負アリですな」

鷹田総統  「ほう。毛太郎に続いてFF大林まで敗れたか
        彼らの戦闘力は溥儀禁衛隊をも凌駕するハズだが」
阿部隆和  「毛太郎はハナワ機関のジョーカー・オーバーQに敢無く
        流石に相手が悪かったと言う他ありませんな
        FF大林の相手は驚くなかれ、あのメガドラの息子です」

燃え盛る炎に包まれ、人々の阿鼻叫喚響く京都の街並みを眼下に見下ろしながら
鷹田モンスター軍団総統・鷹田延彦と、その側近・阿部隆和は微笑を浮かべていた
一体いかなる類の能力であろうか
阿部は空中艦隊が撃墜されてから今まで、ずっとこの場で鷹田総統の傍に控えていたが
まるで全ての戦場を自らの目で見てきたかのように、事細やかに戦況を報告している

鷹田総統  「メガドラの息子!そういうのもいるのか!
        いやあ素晴らしいな。存外に強いな彼らは」
阿部隆和  「ご満悦ですな総統
        勝負もついたようですし、そろそろ戻られますか」

選りすぐりの兵士1000名が全滅したというのに、嬉々として敵の強さに喝采を送る敗軍の将
何がそんなに楽しいのか。まさに「戦うことこそが目的」という言葉に偽りのない狂気である
ケタケタと笑う主に帰還の是非を問う阿部であったが、高田総統はス・・・と静かに右手を上げてその言葉を遮った

鷹田総統  「いや、少しだけ身体を動かしていくことにしよう
        私を訪ねてお客さんが来てくれたようだしな」

そう言って視線を落とした鷹田総統の視界には
憤怒の形相で彼を睨み上げる黒髪の青年が立っていた

隕石     「よお。俺のことを覚えているか鷹田?」
鷹田総統  「やあ。覚えているとも鶴来博士の息子よ
        私は興味を持った人間の事は絶対忘れない性質でね
        そう名前は確か・・・隕石といったかな?」

鶴来隕石と鷹田延彦。あの鶴来ラボでの邂逅から、およそ2週間ぶりの再会であった
全身から噴出す怒りを押し殺しながら喋る隕石に対し、鷹田総統はまるで待っていた恋人が現れたかのような反応である
胃からこみあげてくる嫌悪感を吐き出すように、隕石は大声で叫んだ

隕石     「父さんからもらったこの名前・・・
        貴様などに覚えてもらっても不快なだけだ
        これから名乗る名前だけ知っておけッ!!
        
怒るッ!!!」

ゴカアアアアアアアアッッ!!
隕石の怒りが頂点に達した瞬間、その身体からまばゆい閃光が溢れ出す
まるで真昼のように周囲を照らし出したその光がおさまった時
その中心部にいた「モノ」が、鷹田総統を狙う弾丸のように空へと飛んだ
夜の闇に映える赤と青のツートンカラー
マグナムスチール製のボディがバーニアの反射を受けて鈍く輝く

メタル太   「超人機メタル太!
        
ここで貴様を屠る者の名だ!」





ガキィン!ガキィーン!
泣き叫ぶ人々の悲鳴と、燃え盛る炎の装飾をまとった古都・京都
地獄と化した地表をいつもと変わらず煌々と照らす満月に、光速で激しくぶつかり合う二つのシルエットが映し出されていた

GXー9900の最大武装である『サテライトレーザーアーム』は、その威力・攻撃範囲ともに超規格外の決戦兵器である
直撃をすればいかなる防御も効果を成さず、鷹田総統とて一瞬にして原子のチリと帰すメタル太にしてみれば最強の切り札
だがあの研究所での戦いと違い、今はその攻撃範囲と威力こそがメタル太を縛る鎖になっていた

ここでサテライトレーザーアームを使えば、京都の街が丸ごと吹き飛んでしまう
それ故に鷹田総統は余裕の皮肉でメタル太を挑発できるのである

鷹田総統 「どうした?今宵は素晴らしい満月だぞメタル太君!
       ご自慢のサテライトシステムは使わないのかね?
       森一つを容易く消し去った、あの巨大な光の剣を!」
メタル太  「GX−9900の性能を舐めるなよ!
       例えサテライトレーザーアームを封じられようとも・・・
       この身体に内臓された数々の超兵器は伊達じゃない!
       
GX−05アクティブ!」

メタル太が叫ぶと同時にGX−9900の円筒形のボディの頭部が開き、中から射出された方形の物体が棒状に展開していく
それが巨大な銃火器の姿になった時、鷹田総統は美しい芸術品でも見たかのように感嘆の溜息を漏らした

【GX-05 ”ケルベロス”】
GXー9900専用のガトリング式機銃。戦車装甲をも撃ち抜く対グラップラー用の特殊徹甲弾を1秒間に500発発射することが可能
言うまでもなく一般火器とは段違いの高火力を誇る超兵器であり、並のグラップラーが相手なら複数まとめて撃破することもできる

ブイーンダラララララララララララララララララララ!!!
飛び散る薬莢。耳を劈く爆音とともにドラムが回る
目にも留まらぬスピードで縦横無尽に空を駆け、これをヒラリヒラリと避け続ける鷹田総統ではあったが
絶え間なく夜空を埋め尽くすケルベロスの銃弾はさながら逃げる獲物を執拗に追跡する巨大な蛇のよう
やがて鎌首をもたげた大蛇の牙が獲物を捉えて・・・・

ボババババババババババババ!!!!

メタル太 「なにィッ!?」

我が目を疑うメタル太。獲物を仕留めたかに思われた大蛇の牙は、
その全てが強固な外皮によってへし折られてしまった

鷹田総統 「貧弱!脆弱!惰弱!無駄無駄無駄無駄ァ!!
       
この程度の銃弾、我がサイコパワーの前では
       
霧雨に打たれたほどにも感じぬわ!」

【サイコバリア】
暗黒のフォースが生み出す、幾層にも重ねられた強力な思念波の防壁
その鉄壁の防御はA級グラップラー以下のフェイバリットスキルをも完全にシャットアウトするほどであり
数あるグラップラーの防御スキルの中でも、伝説の竜の騎士がまとう「竜闘気」に次ぐとされている

ケルベロスの銃弾は全てサイコバリアに阻まれ、鷹田総統にカスリ傷ひとつ負わせることもできなかったのである
メタル太に走る動揺。その僅かな焦燥を見逃さなかった鷹田総統の口元が、醜悪に吊り上がった
「笑う」という行為は本来攻撃的なものであり、
獣が牙をむく行為が原点である

鷹田総統 「キサマこそ舐めるなよ。旧世紀の寸胴鉄クズが
       サテライトレーザーアームなしで・・・
       モンスター軍団総統である私に勝てると思ったのか?」





メタル太が鷹田総統の底知れぬ実力の前に苦戦を強いられていた頃、
地表を高速で駆けぬける2人の人影がその様子を捉えていた

太平    「ヤベエぞこの禍々しい小宇宙!急ぐぞシルバー!」
シルバー 「見えましたあそこ!既に隕石さんが交戦してます!」

太平とシルバー。2人とも既に襲いくるモンスター軍団達を存分に切り伏せ、今しがた合流したばかりだった
両者ともにマスタークラスの師匠を持つS級グラップラーである
遠くから視認しただけでも、メタル太が対峙している相手の恐ろしさは肌で感じていた

一刻も早く助太刀に入らねばと更に加速しようとしたその時、
さしかかった公園のベンチに悠然と腰掛ける若い男を見て、2人の足はビタリと止まってしまった

ツナギを着たちょっとワルっぽい男の全身から迸る凄まじい小宇宙
無防備に間合いに入ろうものなら瞬く間に打ち倒されるという予感
2人が剣の柄に手をかけた瞬間
男はツナギのホックを下ろしながら静かに、しかしよく通る声で言った

阿部隆和 「闘らないか」

ゾアッ!
男の発声と、2人が無言で斬りかかったのはほぼ同時だった
否。もっと正確に言えば、えもいわれぬ迫力に押されて「斬りかからざるを得なかった」
まともに闘っては勝てないという本能的な恐怖が、相手がホックを下ろそうとする無防備な動作につけこんで先制攻撃させたのである
神速で放たれたS級セイバー2人の一撃は、服を脱ぎかけていた男を無慈悲に切り裂き・・・・切り裂き・・・・?

阿部隆和 「よかったのかホイホイ斬りかかってきて
       俺は2対1だって構わず喰っちまう人間なんだぜ?」

2人の放った渾身の一撃は、肩をはだけた阿部の両手に無造作に握られていた

徒手空拳の格闘術において、対刀剣の最高技術とされる真剣白刃取り
俗に言われる「無刀取り」はこの真剣白刃取りと同意義で使われることが多いが、本来その意味は別である
「取る」とは刀を奪うという意味ではなく、「一本取る」「勝負を取る」という意味
すなわち無手で相手を制することを指して「無刀取り」という
剣道三倍段※(徒手空拳で剣道に勝つには、ざっとその3倍の段位が必要という意味。それだけ得物は有利ということ)
という言葉があることを考えれば、無刀取りがどれほどの境地であるかは想像に難くない

S級セイバー2人が異なるタイミングで放った斬撃を造作もなく、片手で受け止めた阿部の力量
その底知れぬ実力たるや推して計るべきであろう

シルバーと太平は刹那の反応で刀を回転させるように抉り、阿部は素早く刀身からその指を放した

阿部隆和  「二人同時に不意打ちなんて
        嬉しいことやってくれるじゃないの
        それじゃあとことん喜ばせてやるからな」

大きなバックステップで一旦間合いを取り直した太平とシルバーであったが、その全身からはどっと冷たい汗が溢れ出した
当然である。相手が自分達よりも遥かに格上であることを、今の一瞬の攻防で悟ってしまったのだから

阿部隆和  「おいおい、そんな硬くなるなって
        俺から君達にハンデをやろう
        
・・・・・攻撃予告だ

        ”真っすぐ行って右ストレートでぶっ飛ばす”
        いいかい?まっすぐ行って右ストレートだぜ?」

シルバー  「なん・・・だと?」
太平     「さてどう捉えていいものかね。お得意は心理戦かい?」

なんの罠であろうか。もし嘘偽りない宣言だとしたら、自分が実力で勝っているからという奢りにしてもいただけない
いかに自分より格下であろうとも、相手はS級セイバー2人である
音速を軽く凌駕する速度で動き、大地を割り、天を穿つ超絶の剣士2人である
いくら阿部が強いといっても最初から攻撃を察知されていては、如何ようにも対応され迎撃されてしまうハズだ
ならばこれは2人を撹乱する為のハッタリと考えるべきなのか?

阿部隆和  「フフフ・・・信じなって。真っすぐ行ってストレートさ
        
ハアアアアアアアアアアアア・・・・!」

気合とともに阿部の小宇宙が急速に高まっていく。頭上に振り上げられる両腕
ツナギをはだけだ上半身のなんと見事なことか。決してムキムキではなく、均整の取れた無駄のないスマートな筋肉
大胸筋が力強く隆起し、上腕二等筋がしなやかに躍動する

頭上から大きな円を描くように、ゆっくりと両腕が腰の位置まで下げられ・・・・
その手が、腰のファスナーを更に下へとずり下ろした

阿部隆和  「ところで俺のキンタマを見てくれ
        
こいつをどう思う?」

シルバー  「ちょっ!」
太平     
「おいィ!?なに出そうとしてんだアンタ!」

戦闘中にも関わらず、突然自らの男性器を露出しようとする阿部の奇行
その突拍子のない行動に面食らって、シルバーと太平は思わずツッコミの大声を上げた




刹那の事だった





阿部隆和  「ラヴ・ミー・ドゥー!!!」

ぼぐしゃ――――!!!!
阿部の姿が視界から消えた、と思った時には
もう二人は顎を打ちぬかれて空を舞っていた
夜空の月がグルグルと上下に高速ループする景色を見ながら、2人は受身も取れずボロ雑巾のように地面に転がる
真っすぐ行って右ストレート。阿部の攻撃予告は一切の偽りなく真実であったのだ
だがこれは・・・・・

阿部隆和  「どうだい、ちゃんと言った通りだっただろ?
        君達は来るのが解っていたのに避けられなかった」
太平     「ガハァッ!・・・そ、そりゃあんな真似されたら
        だ、誰だって一瞬油断しちまって・・・ハッ!?」

顎を砕かれ、ボトボトとおびただしい血を流しながらも反論しようとしたその時、
自分の言いかけたその言葉で、太平は阿部が今使って見せた技がなんであるかに気づいた

阿部隆和  「そう。誰だってそうさ。どんなに強い奴でも
        
油断してしまえば簡単に倒せる

        これはその理屈を「技」の域にまで昇華した格闘技・・・」
シルバー  「ま、まさか・・・あの失われた伝説のマーシャルアーツ?」

今の阿部の攻撃において、最も恐ろしいのは二人の顎を砕いた必殺の右ストレートではない
二人の心に一瞬の隙を発生させた、
あのファスナー下ろしと台詞
あの一見してふざけているようにしか見えない行動こそが阿部の戦闘スタイルの根幹であり、最も恐ろしい特性であったのだ
顎の痛みを堪えながらのシルバーの問いかけに、阿部はホッコリと微笑んで答えた

阿部隆和  「ご名答。セクシーコマンドーさ」





”グラップラー”は人を超えた人間。すなわち超人である
中でもS級とランク付けされたトップ能力者達は、光速に迫る動きと鋼鉄をも飴細工のように折り曲げる力を持つ人間兵器達だ
S級同士の戦いともなれば、秒間に幾度となく命をやり取るまさに刹那の攻防 ※(1刹那は1/75秒と言われている)
そんな一瞬の判断ミスや視覚的情報認識不足が生死を分かつ、神域のバトルにおいて
相手に隙を作り出すという牽制がどれほどの効果があるか。その有用性は言うまでもない

シルバー  「まさか伝説のセクシーコマンドーとはな・・・
        とうの昔に継承者は絶えたと聞いていたが」

阿部隆和  「フフッ驚いたかい?君達にもとくと思い知らせてやるよ
        セクシーコマンドーがどれほど恐ろしいかをな!」

ツナギを脱ぎ捨て、全裸になった阿部が逞しく引き締まったヒップラインを見せつける
その一挙手一投足が、相手から隙を引き出すアクションに繋がるというセクシーコマンドー
阿部がどんな動作を繰り出しても動揺しまい、と太平とシルバーは心に近い硬く身構えた

阿部隆和  「そもそもセクシーコマンドーとは数百年前、
        重い年貢に苦しめられた農民達が・・・」
太平     「く、口で言って思い知らせとるー!」
阿部隆和  「コスメ・DE・ルネッサンス!」

ぼぐしゃー!!!
戦闘中にセクシーコマンドーの歴史を語りだした阿部に思わずツッコミを入れた瞬間
一瞬だけ見えた阿部の笑顔と、その視界を埋め尽くすでっかい鉄拳
「しまった」と思った時にはもう、二人は再び顎を砕かれて月夜をランデブーしていた
事前に解っているからと言って防げるような甘い技ではない。これこそがセクシーコマンドーの妙味である

鷹田総統  「久しぶりに見たな阿部君のセクシーコマンドー・・・
        相変わらずの素晴らしいキレだ」

阿部隆和  「いやあ若い子を同時に2人も相手とありましてね
        ついついハッテン・・・もとい、ハッスルしちまいましたよ」

上空から降ってきた声とともに、漆黒のマントをたなびかせながら鷹田総統がゆっくりと降りてくる
ガシャアン!
同時に轟音を鳴らして落下したのは超質量の円筒状の物体
大ダメージを負って吹きとばされたメタル太だった





太平     「おい隕石!無事か?」
メタル太   「お前らこそ顎から血ぃ流して酷いザマだぜ・・・
        くそっ、サテライトレーザーアームが使えれば!」

シルバー  「悔しいけどこいつら格が違う・・・二人ともマスタークラスだ」

まるで子供相手に稽古をつけるかのような、鷹田総統と阿部の余裕のたたずまい
相手は鷹田モンスター軍団のトップと、その片腕である
実力的に相手の方が格上であることは覚悟していたが、まさかこれほどに開きがあるとは・・・
若き剣士2人と無敵の機動兵器に焦燥の色が浮かぶ

鷹田総統  「ほうこれは・・・水殻にディーソードベガか
        こんなところに”2本”とはな。面白い」

シルバー  「!?」
太平     「なんだ?何故この剣の名を知っている?」
鷹田総統  「さて何故かね。阿部君、すまんが手は出さんでくれ
        少し彼等の腕前を見てみたくなった」

その時だった
太平とシルバーの手に握られた剣を見て、鷹田総統はまるで宝物でも見つけたように目を細めたかと思うと
阿部を一歩退がらせて自ら身一つで3人の前に歩み出た

腰に刺していた赤い鞘から剣を抜き放ち、ゆっくりとした正眼に構える

鷹田総統  「私にも少々剣の心得があってね
        もっとも諸君等本職のセイバーには叶わん邪剣だが
        ここはひとつご指導願えんかな?」

バオオオオオオオオ・・・・・・!
瞬間、鷹田総統の剣から紅蓮の炎が噴出した
噴きあがる炎は瞬く間に数mほどの灼熱の刃を形成し、夜の闇の中の哀れな獲物3人を赤々と照らし出す

鷹田総統  「どうかな?こういう剣と戦うのは初めてだろう?」

3人の返事を待つことなく、獲物の胴体を両断すべく炎の剣が水平になぎ払われた
太平とシルバーは咄嗟に愛刀を受けに構え、メタル太は外皮装甲の冷却コーティングを起動するが・・・
その炎の刃は彼らに接触することはなかった

総統と3人の間に割って入った1人の少年が、真正面からその炎の刃をかき消していたのだ

鷹田総統  「ほお・・・私の炎をかき消すか。いい性能だな
        キサマの作戦コードと目的を言え!」

その美しい金髪を漆黒の闇になびかせながら
少年は端整な顔をゆっくりと上げ、サファイアのような深く透明な蒼い瞳で鷹田総統を睨みつけた

シンノスケ 「溥儀禁衛隊筆頭・シンエモンが嫡子、シンノスケ
        
この場にてキサマを斬る」



                                   フ  ァ  イ  ブ  ア  ト  ミ  ッ  ク  ソ  ー  ド
第十六話「五大元素聖剣」



紅蓮の炎を切り裂き、一陣の風の如く戦場に現れた少年剣士はシンノスケであった
だが英雄の息子の登場を受けても尚、鷹田総統の態度は変わらない
むしろ焦るどころか歓喜の表情を浮かべ、興奮した様子で阿部に向かって大声で話し始めたではないか
まるで思わぬ玩具のプレゼントに大喜びする子供のように

鷹田総統 「シンエモンの息子!そういうのもいるのか!
       しかもあの剣・・・フハハハハハ見たまえ阿部君!
       実に驚いたな!こんな事が実際にあるのだな!」

阿部隆和 「僥倖ですな。いや・・・剣の意志やも知れませんが」
鷹田総統 「フム・・・偶然ではなく必然と?言い得て妙だな」

S級セイバー3人とGX9900を前にして、さながら自室でくつろぐかのように談笑するモンスター軍団コンビ
どれだけ油断しようと自分達が負けるハズがない、という圧倒的実力差に裏打ちされた行為であったが
そんな2人の態度を見たシンノスケがボソリと呟いた

シンノスケ 「・・・何がそんなに面白い?」

低く呻くように。視線は下げたままで、長い前髪に隠されてその表情はよくわからない
ただひとつだけ解ることは、その小さな身体から発せられる小宇宙がこの場の誰よりも大きいということだけである

シンノスケ 「ここへ来る途中・・・たくさん見てきた・・・
       動かなくなった親にすがりついて泣く子供・・・
       子供を庇うように抱きかかえたまま死んだ母子・・・
       いつもと変わらない団欒を一瞬にして奪われた家族達を」

太平    「シンノスケ・・・」

今まで見た事も無いシンノスケの迫力に、隣に立つ太平でさえ息を飲む
一瞬前髪の下に見えた彼の顔は、太平の知る弟弟子のそれとは別人に見えた





シンノスケ 「俺は・・・8年間母上と離れて暮らしていたから解る
       家族が平和に笑い合える毎日がどれほど幸せかを・・・
       お前達はその幸せをなんの理由もなく壊したんだ!」
鷹田総統 「少年、我々は戦争をやっているのだよ?
       ”なんの理由もなく”ということはあるまい」

阿部隆和 「落ち着きなボウヤ。トイレにでも行ってきてさ
       そうだ、いいこと思いついた!
       
お前俺のケツの中でションベンしろ」

シンノスケの怒りを逆撫でするかのように、軽い口調で受け流す鷹田総統
阿部などはその逞しい尻を突き出し、フリフリと官能的に振ってみせた

「えーっ!?おしりの中へですかァ!?」

自分の肛門の中に小便をさせるなんてなんて人だろう・・・一斉に声をそろえて叫ぶ太平・シルバー・メタル太
こんなことをされれば誰だって叫ばざるを得ない
言わずもがな、この変態的行動もセクシーコマンドーの技のひとつにすぎなかった
ツッコミと同時に阿部の姿が彼等の視界から消えたかと思うと、唸る鉄拳とともに眼前に出現する
「またしても同じ手口に!」と自分達の愚かさに怒りを覚えながら、歯を食いしばってやってくる痛みに備える3人だったが・・・

阿部隆和 「ラヴ・ミー・どぅ・・・あれ?」

必殺の一撃を繰り出した、と思った瞬間。拳にまったく伝わってこない手応えに違和感を覚える阿部
それもそのはず、自慢の鉄拳はターゲットに届いていなかった
なぜならばその時既に
彼の両腕は肘から下がなくなっていたから

何が起こったのか解らずキョトンとする阿部。腕の痛みを感じる前に、更なる一撃が彼の腹部へと叩き込まれる
それがシンノスケの放った斬撃であると理解した時にはもう遅く
ドバァッ!
阿部はその鍛えられた腹筋から盛大に臓物を撒き散らしながら、糸の切れた人形のように仰向けに倒れた

阿部隆和 せ・・・セクシーコマンドーが効かない・・・?
       俺の言葉も動きも見ていたハズなのに・・・!」

腹部への一撃は重要器官を両断する致命傷であった
ゴボリと口から赤黒い血を吐きながらシンノスケを見上げる阿部
目を閉じ、耳を塞ぎでもしない限りは破られるハズがないセクシーコマンドーの技
なぜそれがシンノスケに効かなかったのかは、彼の異変に気づいていた太平だけが知っていた

太平    「残念だったな・・・
       シンノスケはアンタのことなんか最初から見えてねえよ」
阿部隆和 「!?」
シルバー 「見えてない?見えてないって・・・」
メタル太  「あまりにも逆上しすぎて・・・
       ヤツの行動なんて視界に入らなかったってことか!」

太平    「ああ。アイツは本当に怒った時はああなんのよ
       普段温厚なヤツ程キレたらヤバイっつー典型だな」

「怒りで我を忘れる」という言葉があるが。まさに今のシンノスケの状態がそれである
相手を惑わせようと放った阿部の動き、発する言葉は彼にとってただの視覚的・聴覚的に情報に過ぎず
その意味を脳内で理解するとか、リアクションを返すとか
そういったレスポンスを起こさせるものではなかったのである
シンノスケにしてみれば、素っ裸の男がケツを突き出した後に真正面から突っ込んできただけ
いくら速かろうが、臨戦態勢で構えている敵からすれば斬り捨ててくれと言っているようなものである

シンノスケ 「戦争だから仕方ない?・・・・ふざけるな!
       
なんの為に戦争をやるんだよ!
       お前達は生きてちゃいけない人間なんだ!」

ゴカァッ!

吠えた。シンノスケが吠えた
咆哮と同時に、全身から蒼い闘気が吹き上がり
上半身の衣服が弾け飛び、髪留め紐がちぎれ飛ぶ

その迫力に気圧されて思わず一歩後ずさる太平
8年間一緒に暮らしてきた彼ですら、シンノスケがこれほどまでに感情を露にした姿は見た事がない

鷹田総統 「フム・・・竜の逆鱗に触れてしまったかな阿部君」

さっきまでニタニタと浮ついた笑みを湛えていた鷹田総統から、その余裕の色が消え失せていた




鷹田総統 「先に帰っていたまえ
       私はもう少し彼の力を量ってから帰るとしよう」
阿部隆和 「申し訳ない。油断はするもんじゃありませんな・・・
       総統もご無理はせずにお早い帰還を」

鷹田総統が瀕死の阿部に向かって帰還命令を下す。あと数分もすれば絶命しようという人間に無理な注文である
と、誰もが思った瞬間。血溜まりに横たわっていた阿部の肉体は、空中に溶けるようにその姿を消してしまったではないか

シルバー 「なん・・・だと!?」
メタル太  「逃げたのか?あの重傷で・・・!」

つい先刻に金閣寺地下の円卓会議でも見られた光景であるが、太平らがそれを知る由もない
侵入不可能な場所への突然の出現、遠く離れた場所で起きた事象の認識、正体不明の不死・・・
モンスター軍団の怪人、阿部隆和の能力は未だ謎のままである

鷹田総統 「さて、見た所まだ完全に力を制御できていないようだが
       油断していたとはいえ阿部君をも倒すか・・・
       流石に伝説のグラップラークラスといったところだな
       次は私と斬り合ってもらおうかシンノスケくん」

スラリと抜いた剣を正眼に構え、S級セイバーであるシンノスケと対峙する鷹田総統
先ほど刀身から凄まじい炎を吹き出したその剣は、今は漆黒の闇の中に輝く宝石のような光を放ち相手を威嚇している
同じくS級セイバーである太平・シルバーの目から見ても、鷹田総統の剣は相当な腕前であることが伺えた
なぜこれほどの男が魔道に堕ちたのか。怒れるシンノスケは爆発しそうな心を押さえつけながら問いただす

シンノスケ 「お前は何とも思わないのか・・・?
       人が死んだんだぞ・・・お前のせいで・・・
       何の罪も無い人達が沢山死んだんだぞ!」
鷹田総統 「キミもすぐその仲間に入れてやると言っている!」

”ギィン!!”
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ・・・・!

シンノスケ 「遊びでやってんじゃないんだよ!」

シンノスケの怒りの叫びは斬りかかった後に放たれた
渾身の切り下ろしを頭上で難なく受け止め、鷹田総統は値踏みするようにシンノスケの怒りの形相を見つめる

鷹田総統 「なるほど・・・似ているな父親に」
シンノスケ 「・・・お前は父上のことを?」
鷹田総統 「別に珍しくもあるまい。キミの父上は有名人だからな」

ギリギリと音を立てて剣が軋む
一歩も退かぬ鍔迫り合い続けるを両者であったが、その時突然異変が起きた
互いの剣がまばゆく輝き出したかと思うと、カン高い共振音を発し始めたのだ
キィィィィィィィィィィィン・・・・・・・!

シンノスケ 「なんだこれは・・・斬岩剣が!」
太平     「いったい何が起きて・・・水殻が鳴いてる?」

シルバー  「ディーソードベガもだ!」

キィィィィィィィィィィィン・・・・・・・!
謎の現象はシンノスケと鷹田総統だけに止まらなかった
太平とシルバーの愛刀もまた、突然刀身が輝きだしたかと思うと共振音を発し始めた
何事が起こっているのかと3人がうろたえる中、鷹田総統が含み笑いとともに口を開く

鷹田総統 「フフ・・・剣が共鳴しているのさ
     一箇所に4本も集まったせいでな」

シンノスケ 「共鳴?4本?何を言っている!」

ガキィン!
互いに水月に強烈な蹴りを入れつつ、鍔迫り合いの体勢から脱したシンノスケと鷹田総統
鳴り響く共振音はまだ止まない
鷹田総統はこみ上げてくる喜びを抑え切れないといった様子で、笑い声を噛み殺しながら自分の剣をずいっと突き出した

鷹田総統 「ホラ、私の骸龍も喜んでいるぞ
     久しぶりに兄弟達に遭えたとな」





シンノスケ 「兄・・・弟?その剣が俺達の剣と?どういうことだ!」
鷹田総統  「五大元素聖剣・・・君達もセイバーなら知っているだろ?
        斬岩剣、水殻、ディーソードベガ、そして骸龍・・・
        今この場に一堂に会しているこれらはそのうちの4本だよ」
太平     「んな・・・!?師匠はンなこと何も言わなかったぜ!」

師匠から譲り受けた水殻を眺め、思わず大声で叫ぶ太平。そのリアクションは隣で目を見開くシルバーも同様だった
それだけ鷹田総統の口から発せられた言葉は彼等にとって驚愕だったのである
【五大元素聖剣ファイブ・アトミックソード
遥か太古の昔、神話の時代に5人の神々が鍛えたと言われる5本の聖剣
一体さんワールドでは過去、歴史の節目節目に出現しては時の英雄の手に握られた伝説の武器達である
神々の炎で鍛えられた五大元素聖剣は決して折れず、またどんな炎でも溶けないとされている

鷹田総統  「興味深いと思わないか諸君?
        過去の文献によれば五本の聖剣が集まる時、
        必ず時代の節目となる大戦が起きている!
        つまり!今回は我等モンスター軍団の起こした戦争が
        新たな時代を創ろうとしているとは考えられんかね?」

鼻息荒く興奮した様子で語る鷹田総統
確かにグラップラー史において、時代の節目となる大戦には必ず5本の聖剣が集っている
もっともいずれにおいても聖剣に打ち倒されるのは、例外なく悪の軍勢であるが
戦闘狂のこの男にとっては「自身の破滅」というシナリオも、戦闘という目的を果たした上での1つの結果でしかないのだろう

ギィン!

シンノスケ 「これっぽっちも考えられないし興味も沸かないな
        お前は今日ここで死ぬんだ!」

鷹田総統  「やれやれ、つれないな少年」

饒舌に語る鷹田総統とは対照的に、まったくの無表情で斬りかかるシンノスケ。ハナからこの男の話など聞く耳持っていない
残念そうな顔でシンノスケの剣をあしらう鷹田総統だったが、次の瞬間左腕に激しい熱さを感じて眉をしかめる
「なんだ?」と怪訝そうに左腕に視線をやったその時、余裕綽綽だった表情が凍りつく
回っていた。黒の軍服に白手袋を嵌めた左腕が
くるくると宙を舞っていた

太平    「左腕もーらった
       アンタさ、4人に囲まれてんのに何油断してるワケ?」

不精ヒゲの青年がしれっとした顔で言う
いつのまに間合いに入っていたのか。彼の右手には抜き放たれた水殻が握られていた
さっきまで富樫&虎丸のようなポジションで驚いていただけの男だったのに!
総統が自分の油断を痛感した瞬間、背中にゴリッと重量感ある物体が押し付けられた

メタル太  「この距離ならバリアは張れないな!」

ドガガガガガガガガガガガガガ!!!
轟音を立てて猛回転するGX−05。サイコバリアを張らせない零距離射撃である
飛び散る薬莢と一緒に赤い飛沫が飛ぶ
咄嗟の脊髄反射により横っ飛びに逃れた鷹田総統であったが、太腿部に十数発も被弾を許してしまう
カスリ傷程度だ、などと楽観視できる負傷ではない。俊敏なフットワークを奪われる重大なダメージである

シルバー  「4対1なんて普通なら悪党相手でも躊躇するけどね
        でも・・・お前の場合は全然可哀想とは思わない!」

ギィン!ギンギンギンギィン!
横っ飛びした着地点に薙ぎ払われる神速の斬撃の嵐
シルバーの繰り出す攻撃はまさに流星。片腕を失った鷹田総統には受けきるだけで精一杯である
相手が正義のグラップラーだから4人でフクロはしてこないと思ったワケではないだろうが、
ここに来て初めて総統は、自分がこの若者達の力量を見誤っていたことを悟る
S級セイバー3人とGX−9900を相手にしているのだ
いかな実力で大きく上回っていようとも、一瞬でも油断を見せれば数の有利によってつけ込まれるのは自明の理
自分の慢心と愚かさを恥じ、一時撤退を決めたその時

光の速さで視界内に現れた死神と視線が合った

月明かりを反射し闇の中で輝く長い金髪と、蒼い宝石のように透き通った瞳
戦闘中でありながら鷹田総統はその端整な容姿に思わず息を呑んだ
『美しい』と―

少年の唇が静かに開く
その言葉は一瞬で放たれたものであったが、彼にはまるでスローモーションのようにゆっくりと感じられた

シンノスケ 「”まさかな”って思ってるだろ?
        ”まさかモンスター軍団総統たるこの俺が”って
        ”ミョーなタイミングが重なれば俺も結構脆いな”って

       そう思いながら、死ね」

微塵の同情も無い冷酷な死の宣告
同時に、漆黒の闇を切り裂いて白刃が翻った

”ドバァアッ!”
渾身の力を込めて斬り上げた一撃は、総統の脇腹から肩口にかけて抵抗なく振り抜かれ
黒衣のカリスマは僅かに踏みとどまることすらできず、
力なく仰向けに倒れこんだ
傷口から噴き上がる真紅の噴水があたり一面を赤に染めていく
総統の肉体は逆袈裟斬りにほぼ両断され、僅かに肩の肉だけでかろうじて繋がっているような状態であった
まだ息と意識はあるようだが、絶命まではもはや時間の問題。誰が見ても絶対に助からない致命傷である





シンノスケ 「・・・終りだ。最後に何か言い残すことはあるか?」

さも忌々しげに斬岩剣の血を払い、鞘に納めてから鷹田総統に問うシンノスケ
後ろを向いたままで一瞥もくれない少年の背中を見上げ、瀕死の鷹田総統は沸きあがる感情を抑え切れなかった
もはや意志通りに動かない指先をプルプルと動かしながら、息も絶え絶えに震える唇を開く

鷹田総統  「不精ヒゲのキミと・・・ワードッグのキミ・・・
        よければ名を・・・聞かせてもらぬかな・・・」
太平     「・・・剣聖ヒムラーが一番弟子、太平」
シルバー  「・・・IGPO特務官シルバー。師はトキー・クルーカー」
鷹田総統  「ほお道理で・・・素晴らしいなグラップラー新世代は
        躍動するニュージェネレーションの風を感じるよ」

2人の若きセイバーの出仕を知り感嘆の声を漏らす鷹田総統
心の底から嬉しそうな表情を浮かべ、その実力を賛美すると・・・
さも堪えきれないといった様子で笑い始めた

鷹田総統  「フ・・・フフ・・・最後に言い残すこと・・・は・・・無理だな
        それは・・・死ぬ人間にしか言えない言葉じゃないか!」

シンノスケ 「!?」

ざわ・・・ざわ・・・
一言紡ぐ度に鷹田総統の口からは赤黒い血がゴボゴボとこぼれ、その命の炎は急速に弱まっていく
だがしかしどういうことか
この期に及んでも、この男は確実に迫っている自分の死を受け入れていない。シンノスケ達に動揺が走る

鷹田総統  「シンノスケ君、太平君、シルバー君・・・君達の愛刀は
        現在
『始解』と呼ばれる基本的な状態にある
        このままでは普通の刀剣となんら変わるところはない
        五大元素聖剣の真なる力は更にその先にあるのだよ
        
君達に見せてやろう。骸龍の真の姿を」

瀕死の鷹田総統が最後の死力を振り絞り、右手に掴んでいた剣を天に向けて掲げると
同時に剣の柄から黒い炎が吹き出し、鷹田総統の全身を包んだ
燃え盛る炎は夜の闇よりも更に深い漆黒。まるでこの世のモノならざる光景である

                                                         ばん         かい
鷹田総統  「爆ぜろ骸龍・・・”卍 解”!

ゴアアアアアッッ!
巨大な漆黒の柱と化していた炎が爆発とともに四散し、その中から男はゆらりと立ち上がる
いったい何の悪夢であろうか
ボロボロになった軍服を脱ぎ捨て、逞しい上半身を露にした鷹田総統
千切れる寸前まで両断されていたハズの胴体は、どこが傷口かわからないほどに治癒し
ガトリングの銃撃でズタズタに切断された下半身も、肘から下がなくなった左腕も元通りにくっついていた
その治癒能力も恐ろしいが、それよりも真に驚くべきは・・・
炎に包まれる前とは比べ物にならないほど膨れ上がった、禍々しくも圧倒的な小宇宙であった

鷹田総統  邪王炎殺黒骸龍
        見えるかね?真に聖剣を御せし者の闘気が

       卍解した骸龍の黒炎は敵を攻撃する力じゃない
       使役者の小宇宙と身体能力を
       
爆発的に高める栄養剤
エサなのだよ」

全身から立ち上るオーラは、この世の全てを吸い込むかのような漆黒
止め処なく噴き出すその形状は、魔龍の如き巨大な双翼を成していた

胴を両断した傷が瞬時に治癒する新陳代謝に、並みのグラップラーならば傍に寄っただけで絶命するであろう桁違いの小宇宙
その恐ろしくも威厳ある姿をなんと形容したらいいものか
まっさきにシンノスケ達の脳裏に浮かんだのは
『魔王』という言葉だった。言い得て妙であろう
撒き散らされるオーラは”恐怖”と同義語
それに触れるものを瞬く間に萎縮させ、絶望させ、喪失させ、無力化する支配の力
これがモンスター軍団総統の・・・否、神代の時代から受け継がれてきた聖剣の本来の姿か
勝てない。勝てるハズがない。塵すら残さず消滅させられる
なんとか気力を振り絞りその圧倒的な力に抗ってはいるものの、シンノスケ以下4人は自身の確実な死を予見していた





鷹田総統  「さて・・・では私はそろそろ帰るとしようか
        今日は大変に楽しい夜だったよ。ありがとう諸君」

だが鷹田総統が発した言葉に、4人の誰もが予想しないものであった
赤子の手を捻るように4人を屠れるであろう総統が、このまま彼らを見過ごして退散するというのだ

メタル太   「なん・・・だと!どういうことだキサマ!」
鷹田総統  「私の目的は人々が永遠に闘い続ける世界を創る事だ
        君達は私にとって、最高の敵になり得るダイヤの原石
        こんなところで摘んでしまっては勿体無いじゃないか」

シンノスケ 「勿体無い・・・!?
        いやそれよりも永遠に戦い続ける世界だと・・・待て貴様!」

まるで自分達を収穫前の農作物か、太る前の家畜のように評す鷹田総統。食べ頃になるまで待つというのである
しかしそれよりも4人を驚かせたのは「人々が永遠に闘い続ける世界を創る」というモンスター軍団の目的であった
安息のない修羅の世界。
それはすなわち地獄だ
命が助かったという安堵よりも怒りが先行し、思わずその背中を呼び止めるシンノスケ

鷹田総統  「待ってもいいのかね
        この場で君達を皆殺しにする事は容易いのだよ?」
シンノスケ 「ぐっ・・・!」

瞬間、膨張した鷹田総統のオーラが突風のようにシンノスケ達を威圧する
ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーの中、4人はもう誰一人として口を開くことができなかった

鷹田総統  「シンノスケ君!メタル太君!太平君!シルバー君!
        
また会おう!バッドラック!」

ふわりと舞い上がった鷹田総統の身体が超高速で東の空へと消えた
かくして暴的な「恐怖」は消え去り、その命を拾った4人であったが
その心中たるや喜びとはかけ離れた怒りと悔しさで満ち溢れていた

メタル太   「父さんの仇を前にしながら恐怖で動けないとは・・・
        せっかくの機械の身体も俺の心が弱いばかりに!」
シルバー  「何も・・・できなかったんですね俺達・・・
        この大量虐殺犯を逮捕するチャンスだったのに」
太平     「悔しいけど・・・力の差がありすぎた・・・
        あんな化物とどうやって闘えばいいってんだよ!」

3人が己の無力に打ちひしがれる中、ずっと下を向いて怒りを押し殺していたシンノスケがその顔を上げた

シンノスケ 「卍解・・・って言ったか・・・あの力
        五大元素聖剣の真の力を引き出すって
        だったら俺達もあの力を身につければ・・・!」
シルバー  「あっ!」
太平     「そ、そうか!確かにそれなら勝てるかも!」
メタル太   「ヤツは俺達をダイヤの原石と言った
        そこまで考えて卍解を俺達に見せたのか」

神代の時代より受け継がれし聖剣の力は、想像を絶する恐ろしいモノだった
だがそれと同じ力で対抗できるなら?
ましてやこっちは3本。数の上では有利と言える。4人の表情にぱぁっと希望の色が差した
その考えに至るまで、憎き鷹田総統の思惑通りである。だが奴等を打ち倒せるのならば喜んでその思惑に乗ろう

シンノスケ 「上等だ・・・この荒れ果てた京都の光景・・・
        絶対に忘れはしないぞ鷹田モンスター軍団
        
お前等は俺達が潰す!」

打倒モンスター軍団を新たな決意で誓い合う4人
絶望の中、僅かな光明が差した彼等の心中のように
地獄のような京都の夜はようやく明け、東の空が白み始めていた

TO BE CONTINUED・・・


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