砂布巾   「隕石さんですかい!ありがたい!
        こいつはまた最高のタイミングで来てくれやした!」
メタル太  「砂布巾さん達は一旦退いてください!全開火力で行きます!
          GXー05!アクティブ!」

後部    「GX−9900・・・面白え。見せてもらおうか
       全発掘兵器中最強の実力とやらを!」

前大戦においてグラップラーに対抗するべく作られ、終戦と共に封印された強力な「発掘兵器」の数々
中でもサテラライトシステムという脅威の動力により、最強の兵器としてその名を知られているのがGXー9900である
シンノスケら仲間を置いてこの場に単機で駆けつけたスピードにしても、その航行速度実にマッハ7
まさにメタル太だからこそギリギリ間に合った奇跡の救援劇と言えよう
久しぶりの再会ではあったが悠長な会話をしている場合でもない
言うが早いか鋼鉄の戦士は巨大ガトリング銃のトリガーを引き、砂布巾はその言葉を聞く前に既にシロウの腕を掴んで退きのいていた

ドガガガガガガガガガガ!!!!
凄まじい爆音とともに薬莢が飛び散り、鎌首をもたげた大蛇のような弾幕が天から降り注ぐ
秒間500発速射可能の銃弾は、その一発一発が戦車装甲をも打ち抜く徹甲弾
自慢の妖氷楯とて、一箇所に何百発と集中砲火を浴びてはおそらくもたないであろう威力である
瞬時にそれを察した後部は防御行動を取ることなく、その卓越した体術ひとつで銃弾の雨の中を駆け抜ける

後部    「こんな玩具で俺を倒せるとでも思って・・・何!?」
メタル太  「お前こそ舐めるな!月は出ているぞ!」

シュバアアアアアア!!!ズゴゴゴゴ・・・ゴゴォン!
鋼鉄の豪雨を鼻歌まじりで避ける後部だったが、眼前に走った光とともに切り立った崖が真っ二つに崩れ去ると流石に表情が強張った
サテライトレーザーアーム
研究所布巾の森林を焼き払い、大地を割ったあの超兵器。京都の闘いでは街に被害を出さないために使えなかったメタル太の切札である
だが今回の戦場は一切の遠慮が要らない中国僻地の広大な荒野。砂布巾達と協力せず自分よりも背後まで下げさせたのもこのためだった
もっとも最大出力で振るえば何十Kmという範囲で大地を破壊してしまうため、レーザー出力はかなり絞っているが
それでも後部の攻撃が届かない上空から彼を狙い撃つには十分すぎる射程、そして威力であった

砂布巾   「す、すごい・・・これが最強の発掘兵器の力か
        あの氷帝を防戦一報に追い込んでいる!

全方位広域超感度レーダーでターゲットを察知し、半オートで恒久的に攻撃し続けるメタル太に「氷の世界」は通用せず
いくら類まれなる体術を持つ後部と言えども、延々と天空から降り注ぐ攻撃を回避し続けるには体力の限界というものがある

シロウと砂布巾を相手に完璧な立ち回りを見せていた先程までとは逆に、今度は後部が「詰み」の状態に追い込まれ・・・
たかに見えていた





後部    「くだらん・・・こんなものかGX−9900。所詮は機械だな」
メタル太  「!?これ・・・は・・・・!?システムダウン?」

優位に闘いを展開していたメタル太に、緊急アラームが鳴り響く
突如としてGXー05のドラム回転が停止し、レーザーアームを振るう腕関節の可動域がせばめられた。もうまともに動かすことすらままならない
異常に気付いた時には既に遅く、既にその全身が動かなくなっていた

後部の攻撃が空中に届かない?
そんな事があるワケない。
我々はかつてイギリス空軍の空中艦隊をたったの一撃で全滅させた脅威のアタックスキルを知っている

後部    「やれやれ拍子抜けだぜ。メス猫やカバオがいるから
       今の今まで広域殲滅魔法が使えなかったってのによ・・・
       
わざわざ空に飛んでくれるとはな!
       大属性クラスに立体戦闘を挑んだ時点でお前は負けてんだよ
       
エターナルフォース・ブリザード!
       ”相手は死ぬ”!!!」

『エターナルフォースブリザード』
一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる超魔法。
相手は死ぬ
凍結系広域殲滅魔法
地上と言う平面においてはイソリソとカバオを巻き込むために使えなかったこの攻撃であったが
上空高く飛行しているメタル太はまさに、二人を巻き込む危険なく使用することができる飛んで火に入る夏の虫
大気中の全水分を凍結させる超魔法により、メタル太はその全身を瞬時に氷で覆われてしまったのだった

後部    「そもそも機械ごときがグラップラーに勝てるワケがねえんだよ
       グラップラーの力は神が与えた奇跡のギフトだ
       特に俺様のようなレアクラスは神に選ばれた者と言ってもいい
       たかが人間があくせく造ったモノなんぞに負ける道理があるか」

メタル太  「ッ・・・・・!」

最後の後部の言葉はなんとか音声として拾えたものの、もうメタル太には反論することすらできない
生物ではない彼ゆえに「死に」こそはしなかったが
全身を覆い尽くした氷は肉厚を増し、体積膨張によって通風口や放熱板及び外部センサーを全て密閉&圧迫
そしてなによりも月から照射されるマイクロウェーブの受信パネルを塞がれたことにより、動力供給が完全にストップ
たちまちGX−9900はシステムエラーを発生し、手も足も動かぬ鉄塊と化して上空500以上の高度から真っ逆さまに落下した
ズガシャアアアアアアアアアアアン!!!
マグナムスチール製のボディはその衝撃でも破壊されることはなかったが、驚くべきは全身を覆う氷もまた砕けなかった事
妖氷楯がただの氷の壁を遥かに超越した防御力を持っているのと同じように、
エターナルフォースブリザードによって精製された氷は強力な魔力を帯びており、ちょっとやそっとの物理ダメージで破壊されることはない
かくしてブイス・リー、田中海王に続き
超人機メタル太は氷帝の強さを顕示する3体目の氷のオブジェと化した

砂布巾   「い、隕石さぁん!隕石さぁーん!」
後部    「さぁて・・・ボチボチ終わらせようか。俺も忙しい
       お前等の後は閻王を殺らなきゃいけないんでな」





自分の名を叫んでる砂布巾の声がかすかに聞こえる
しかしもう彼には動くことはおろか、一言の返事を返す力も残っていない
僅かに残された内部電源によって自律回路とメインCPUの稼働はなんとか維持しているが、それももうすぐなくなるだろう

メタル太  「ここまでか・・・父さん・・・母さん・・・俺も今そっちに逝くよ
       いや生身はとっくに死んでるのにこう言うのもおかしいか」

機械でも天国に行ける魂はあるのかな?と自嘲気味に笑ってアイセンサーを閉じる隕石
音も光もない世界の中で静かにその全機能を停止しようと思っていた彼だったが
その暗闇の中に、突如として一枚の大きな絵画のタペストリーが現れたではないか
俺は・・・この絵を見たことがあるぞ。そうだ確か小さい頃父さんと一緒に・・・

貴婦人と一角獣―
その瞬間、隕石は幼い頃父と一緒に美術館でそのタペストリーを見た時のことを鮮明に思い出した

隕石     「おとうさん、どうしてこのお馬さんは角が生えてるの?」
丈夫博士  「このお馬さんはね、ユニコーンというんだ
        実際にはこの世に存在しない想像上の生き物さ」

傍らの侍女が捧げ持つ箱に首飾りを収め、天幕に入ろうとしている優雅な佇まいの女性。
天幕の上には、昔の言葉で
「私のたったひとつの望み」と書いてある
教えられるがままに隕石がそれを読み上げると、「偉いぞ」と息子の頭を愛おしそうに撫で回す丈夫
しかし「私のたったひとつの望み」が何なのかまでは父にもわからなかった

丈夫博士  「わからないから描く。わからないから考える
        これは他の生物にはない、人間だけに与えられた能力だな
        
”想像”は”創造”なんだ
        「こんな道具があったら便利なのになぁ」
        「こんな乗り物があったらいいだろうなぁ」
        人間は太古から想像によってその文明を繁栄させてきた
        ”今現在を超える何か”…それは神と呼ばれるものかもしれない
        
わかるか隕石?人間だけが神を持つ
        理想を描き、理想に近づくために使われる偉大な力…
        
可能性という名の内なる神を」

「そんな難しいお話、隕石にはまだわかりませんよ」と隣の母が笑顔で言う
「この子は特別だ」と隕石を抱え直した父の顔にも笑みが浮かんでいる

実際父が何を言っているのか、まだ幼い隕石には理解できるハズもなかったが
何かとても大切なことを伝えられたのだということだけは印象として強く残っていた

走馬灯のように蘇った思い出を呆然と眺める中、タペストリーがフッとその姿を消滅させた
再び暗黒の静寂が訪れたと思ったその時、隕石はあっと驚いて声を上げた

尽きたかと思われたエネルギーが猛烈な勢いで上昇している
それもそのハズ、GX−9900の動力がサテライトシステムからいつの間にか切り替わっているではないか
GX−9900のメインCPUである隕石本人ですら知らなかったブラックボックス

それはサテライトシステムが完全に機能停止した時、機体を守る最後の手段として発現する隠しシステムだった

隕石    「私のたったひとつの望み・・・可能性の獣・・・そうか父さん」

これは前大戦で作られたGX−9900には搭載されていない機能である
50数余年の時を経て発掘された機体に対し、現代の機械工学の権威・鶴来丈夫博士が新たに組み込んだ切札だった

愛しい我が子を守るために
暗闇の向こう側には、優しい母が笑顔で自分を待っている
しかし隕石はその胸に飛び込みたい気持ちを抑え、くるりと背中を向け輝きを増す光に向かって歩き出した

隕石    「ごめん母さん・・・・
       俺は・・・行くよ」







ガシャアアアアアアアアアアアアン!!!
父と母に別れを告げ、超人機メタルは氷の棺から再び蘇った
その音に一斉に視線を彼へと向けた後部と砂布巾達は、そこに立っている鋼鉄の戦士の姿に違和感を覚える

シロウ    「角・・・GX−9900に角が?」

中からは絶対に砕けるハズのない氷の棺。それを打ち砕いたのは、額から射出された大きな一本の角だった
そう、まるでユニコーンのような

後部    「ち・・・ポンコツが無理して足掻くんじゃねえよ
       氷漬けが嫌ならスクラップにでもなるか!?」

確実に仕留めたと思った相手が蘇ってきたのが癇に障ったのか
チッと舌打ちした後部は目にも留まらぬ速さでメタル太の懐に潜り込むと、その無防備なボディに渾身のパンチを叩き込んだ
ハズだったが
ギリギリギリギリギリ・・・・・・・!
不意を突いて放ったS級グラップラーのパンチは、メタル太のアームクローによって真正面からガッシと掴み止められていた

後部    「こいつ・・・な、なんだこの力!?くっ!」

万力のような力でメキメキと拳を締め上げるメタル太の手
瞬間的に危機感を感じた後部は、ダメージもなんのそので強引にそれを引き抜いく
めくれた皮膚の下からじわっと血が滲んできたが、そんな痛みよりも得体の知れない恐怖を彼は感じていた

メタル太  「お前は機械がグラップラーに勝てるワケないと言ったな?
       
舐めるなよ・・・発掘兵器はッ!
       グラップラーを倒すために作られた兵器だ!」

メタル太の怒りの咆哮とともに、これまで隠されていたブラックボックスがその姿を現す
鶴来博士のたったひとつの望み。可能性の獣が

『システムGP−D 起動シマス』

シロウ    「これは・・・GX−9900の身体が・・・開いていく!」

ガシャガシャガシャ!と音を立て、赤と青の半分に分けられたボディが真ん中から左右に展開していく
剥き出しになった中央部のボディにはピンク色に輝く幾何学模様が浮かび上がり、とてつもないパワーを外部から機体へと吸収している
そして最後にあの額から生えた角も中央から真っ二つに割れると、折り畳まれたて2本のアンテナとなって額に張り付いた

メタル太   「グラップラーの力が神の力だと言うのなら

        まずその幻想をブチ殺す!」

「息子を守る」という父親の想いとともに
可能性の獣は今、修羅の大地に降り立った


第二十話「可能性のケモノ」


『GP-Dグラップラー・デストロイヤー
「グラップラー殺し」の名を持つ、GX9900・・・否、超人機メタル太に内蔵された隠しシステムである
サテライトシステムの全停止を条件に自動発動するこのシステムは、メタル太を「デストロイヤーモード」へと変化させる
デストロイヤーモードのメタル太は「鶴来隕石」の思考を切り離し、GP−Dによるオートドライブ状態に移行
敵グラップラーのクラスと特殊能力を瞬時に分析・解析し、それに対抗する武装・戦術選択・・・etc
想定される何百万という行動結果をコンマ秒単位でリアルタイム演算し、その中から最良の選択肢を即座に実行する
すなわち
”常に相手よりも優位な戦闘”を判断ミスなく選択できるのだ
しかし実のところ、GP−Dの真の恐ろしさはこの迎撃行動演算システムではない

メタル太  「シミュレート完了。お前の百万通りの勝ちを・・・
       
百万通りの俺の勝ちに変えるッ!」

ジャコン!
メタル太の腹部側面のウェポンラックが開き、その両腕にブーメランのような形状をした金属刃が接続された
黒光りする金属刃の周囲に一瞬陽炎がかかったかと思うと、あっという間にその刀身が赤熱し凄まじい高温と光を発し始めた

対グラップラー近接格闘戦専用ヒートブレード
Dragon Claw
メタル太の動力からダイレクトに熱を取り込み赤熱した刀身の温度は、実に2000℃超
マグナムスチールとヴォルカニック鋼の合金で造られた刀身は融点が極めて高く、この温度まで高まっても硬度の低下は一切ない
森羅万象あらゆる物体を溶断する炎の刃。まさに赤竜の爪である

砂布巾   「そうか!あれなら気化冷凍法を破れるかもしれない!」

ドギュン!!
メタル太が飛び出したのと、後部が動いたのは同時であった
敵は機械。生身のグラップラー相手と違い、冷気攻撃では即座に戦闘力を奪う効果は得られない
超機動での格闘戦を挑んでくるのなら、発動までにタイムラグのある魔法での攻撃や防御などは愚策も愚策
その超絶の体術で接近戦を制することこそが後部にとって最良の選択である。この判断は間違っていない
だが・・・

ドバシュ!ザシュザシュ!
その表情が驚きと苦痛に歪む。カスリ傷ではあったが一瞬の交錯で後部が切りつけられた傷は3つ
自分が格闘戦で遅れを取ったことなど、生まれて初めての経験である
屈辱に歯ぎしりしながら「今度こそは!」と再び切り結んだが、雪辱なるどころか次の傷はその数と深さを更に増していた

後部    「ガハッ!ば、バカな・・・なんだこれは!?
       こんなフザけた動きが機械如きに可能なのか?
       
この俺様の眼力
インサイトでも
       捉えきれないだと!?」

BGM:「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS」メインテーマ Beyond the Bounds

対グラップラー近接格闘用超高速背面追跡マニューバー
Flash Blast
コンビネーションの最後で必ず相手の背面に回り込み、生身ならぬ機械ならではの急制動により超高速の奇襲を行うメタル太
「氷の世界」という敵の死角を突く能力の使い手である後部だが、自身が死角からの攻撃を受けたのは初めての体験であろう
後部の驚愕はもっともである。最強クラスのグラップラーである彼を凌駕する動きはその動きは、およそ物理法則を無視した代物であった
最大の武器であったサテライトシステムという無尽蔵の動力を失ったメタル太が、それを遥かに上回る規格外のパワーで稼動している
はたして今のメタル太を動かしている動力は何なのか?

後部    「これは・・・奴が速いだけかと思っていたがそうじゃねえ
       俺の動きが・・・鈍っているのか?」
イソリソ  「後部さまぁぁぁ!うっ・・・・な、なんだべか今の目眩・・・
       なんだか・・・身体の力が抜けていくような妙な感覚・・・」

砂布巾   「この虚脱感・・・感じやすかい?旦那」

シロウ   「あぁ。まるで”何か”にエネルギーを吸い取られているようだ」

戦闘でダメージを負った後部のみならず、固唾を飲んで戦いを見守っている両陣営のグラップラーの身に訪れた異変
それこそがメタル太の動力源の答。そして
GP−Dシステムの「グラップラー殺し」たる真の所以だった

『相対型小宇宙エンジン』
グラップラーの戦闘エネルギーとなる根源の力。生命力と魂の力が生み出す未知のパワー「小宇宙」
そう、デストロイヤーモードの発動したメタル太のエネルギーの正体とは
周囲から無差別、無尽蔵に吸収する小宇宙
それすなわち
その場にいるグラップラーの数が多ければ多いほど。そして
強大な小宇宙を持つグラップラーほど戦闘力は大きく削ぎ取られ
その分メタル太の戦闘力を高める結果となる

故に「グラップラーデストロイヤー」
それは発掘兵器の「完成形」と言っていい。GP−Dシステムはグラップラーに対する”絶対捕食者”なのである

メタル太  「覚悟はいいか。名も知らぬモンスター軍団のグラップラー
       
しっかり命を掴まえておけ」
後部    「チィ!舐めるな機械風情が!接近戦で分が悪いなら!」

このままでは勝てぬと悟った後部がジャンプ一番で空中へ逃れた。S級上位グラップラーのジャンプ力は高度数百mにまで達する
それと同時に彼の周囲の空気が「死」の色に染まる
広域殲滅魔法「エターナルフォースブリザード」
先程GP−D発動前のメタル太を行動停止にまで追いやった後部の大技
空を飛べるメタル太が自分を追ってくれば、この天空に張り巡らせた氷の蜘蛛の巣によって捕えることができる
「さあ追ってこい!そして罠にかかれ木偶人形!」と口の端を僅かに吊り上げ、眼下を見下ろしたその瞬間
後部は目の前に迫ってきた火の弾に弾き飛ばされていた

後部    「ガぁッ・・・!なん・・・だと・・・!?」

火の弾は一撃で満足することなく空中で機動を変え、幾度となく後部に体当たりを繰り返す
言わずもがな。巨大火の弾は全身に炎を纏ったメタル太の超高速体当たりだった
天空に描かれた無数の炎の帯は
氷の蜘蛛の巣をズタズタに切り裂き、跡形もなく焼き払う

対グラップラー近接格闘用超高速エリアルマニューバー
Heaven's Sword

ドッゴォォォォォォォォン!
天空から突き刺す剣のような最後の一撃とともに、華麗に地上への着地を決めるメタル太
ほどなくしてボロ雑巾のようになった後部が、ロクに受身を取ることもできずに落下した
その姿にはついさっきまでの完璧なまでに強く、そして気高く美しかった後部景吾はみる影もない

イソリソ  「後部さまぁぁぁ!後部さまぁあああ!!」
後部    「やかましいぞメス猫・・・いいから黙って待ってろ」

鼻水と涙をまき散らしながらイソリソが彼の傍に駆け寄ると、後部はその手を払いのけるようにしてヨロヨロと起き上がった
小宇宙を吸い取られながらこの大ダメージを受け、それでも尚折れぬ心。生命力・精神力共に驚異的なタフネスである
そもそも直撃は避けたとは言え、音撃射を浴びて普通に戦っていることからして驚愕なのだ
なぜ彼は立ち上がれるのか、と聞かれれば
「後部景吾だから」と答える以外にない

後部    「大したもんだぜ・・・俺にこの技を使わせるか」

口元の血を拭いながらそう言うと、後部はそのしなやかで長い腕をゆっくりと頭上に掲げ頂点部でその指を組んだ
同時にその手を中心にして、強烈な冷気が収束していく
今もメタル太に力を吸い取られている彼のどこにこれほどの力が残っていたというのか
エターナルフォースブリザードのような散布型ではない。彼の持てる渾身の凍気を両の拳にのみ集めた一点集中である
「何かとてつもない大技が来る!」と察したメタル太は、しかし逃げようとはせずに押し黙ったまま真正面から彼と対峙する

後部    「機械野郎、キサマ名は?」
メタル太  「超人機メタル太」
後部    「そうか・・・俺の名は後部。後部景吾だ
       これから俺様が繰り出すのは最強最大最後の一撃だが・・・
       もしこの技が通用せず俺がお前に敗れた時・・・メタル太、頼む
       俺の命と引き替えに部下二人の命は助けてやってくれねえか」
イソリソ  「な、何言ってるだ後部様!縁起でもねえこと言わねえでけろ!」

後部    「黙って見てろと言ったぞメス猫!・・・どうだ?」

全身全霊を込めた最強の大技を繰り出そうとした後部は、それを放つ前に部下2人の命の保証をメタル太に求めた
足にしがみついて泣きじゃくるイソリソを蹴飛ばして一喝すると、曇りのない目で再度メタル太に確認する

メタル太  「・・・承知した。お前の部下には手を出さない、後部」
後部    「寛大な返答感謝するメタル太。では行くぞ・・・
       受けてみろ絶対零度の拳を!
       
オーロラエクスキューション!」




ゴオオオオオオオッ!!
メタル太の返答を聞いた後部は、迷いを吹っ切ったかのような笑顔と共にその最後の切札を放った
両拳に圧縮した彼が持てる最大の凍気を、渾身の力を込めて振り下ろし撃ち出す。それすなわち

アイスマスターの力を、グラップラーの最大の膂力で発射するという事
ハイブリッドの能力を最大限に活かしたその威力は広域殲滅魔法をも遥かに凌駕。正真正銘後部景吾の最強の大技だった
一直線に標的に向かって駆け抜ける凍気は、この世の全てを凍りつかせる死の波動
その死神の鎌が今
赤竜の咆哮によって真正面から斬り裂かれていた

対グラップラー近接格闘用超圧縮エネルギーバーストスラッシャー
Fullmoon Slash
メタル太が振り上げたDragon Clawは小宇宙エンジンからダイレクトで繋がれたことでエネルギーバースト状態に
圧縮され放出された力は指向性の巨大な刃と化し、
眼前に迫るオーロラエクスキューションの波動ごと後部を切り捨てたのだった

メタル太  「約束は守ろう。安らかに眠れ後部」

TO BE CONTINUED・・・


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