鷹田総統 「ふむ、では後部くんはGX9900の新システムの前に敗れた・・・と?」
イソリソ  「はい。最後まで死力を尽くされて散った、見事な最後でした」

照明器具の一切ない薄暗い部屋で、恭しく頭を垂れながら報告する女
本来なら真っ暗闇なハズの室内にぼんやりと灯りが差しているのは、玉座の男から絶え間なくほとばしるオーラの光によるものだった

鷹田モンスター軍団最高権力者・鷹田総統である

『氷帝・後部景吾討ち死に』
鷹田モンスター軍団においても1.2を争うグラップラーの敗北は、同組織にとって衝撃の報告であったハズだが
その口調からは怒りや焦燥よりも、まるで初めて見る玩具を与えられた子供のような好奇心が見え隠れしていた

鷹田総統 「GP-Dシステム・・・あの氷帝を完封するとは恐るべきシステムだ
       フフフあの忌々しい老人め・・・こんな置き土産まで遺していったか」

イソリソ  「・・・後部サマに何かお言葉をおかけにはならないのですか?」
鷹田総統 「うん?あぁ彼は今までよくやってくれたよ
       閻王とぶつける予定だったのに、その前にリタイヤとは正直残念だがね
       だがGP-Dシステムの事を知れたので、その死は決して無駄ではないぞ」

最低限の感謝の下に繋げられたのは、およそ残された者に対する慰労も思いやりの欠片もない冷淡な言葉
イソリソは全身の毛が逆立つような怒りを感じながらも、それを押し殺しながら低い声で返した


イソリソ  「総統閣下、恐れながら私とカバオは後部サマ直属の部下であります
       後部サマが居ない今のモンスター軍団には、留まる理由がありません」

鷹田総統 「・・・・それはモンスター軍団を脱退したい、という事かな?」
イソリソ  「はい。叶わぬと言うのならば、どうかこの場でお手打ちに
       我等2人にとって、後部サマの居ない世界など生きていても仕方ありませぬ故」

殺されても構わない
敬愛する主の尊厳を踏みにじられ、どうしてその人物に仕える事ができよう

それはイソリソとカバオの命を賭した後部に対する忠誠の証であったが―
返ってきた答は、以外にも彼女らの想定外のもだった


鷹田総統 「よかろう。本日付けで君達を罷免とする。氷帝の菩提を弔って生きるがいい」







阿部隆和 「本当によかったので?」
鷹田総統 「阿部くん、彼等は任務を果たした。完全に、完全にだ。殺す事は許さん」

まったく予期していなかった裁きにイソリソとカバオが呆けた表情で部屋を出ていった後、傍に控えていた作業服の男が声をかけた
鷹田総統は含みのある笑みを浮かべながらそう答えると、よく練られたヴァンホーテンのココアを一気に飲み干した

鷹田総統 「それよりも、閻王討伐隊として河北省に向かわせた1万の大軍勢だ
       GX9900が現われたというのであれば少々戦力的に厳しいだろう
       これは当然増援部隊が必要になってくるな」
阿部隆和 「?しかし本部には手練の近衛兵を残すのみで、増援を送れるほどの戦力は・・・」
鷹田総統 「「G」の準備はもうできているんだろう?彼等を使おうじゃないか」
阿部隆和 「アレを実戦投入するのですか。まだ完璧な制御はできていない状態ですが」
鷹田総統 「フフフ阿部くん、それだから良いんじゃないか
       混沌こそが我等の宿願。次の戦争の為に。次の次の戦争の為に
       しかしアレだ、やはりココアは森永ココアの方が好みだな私は」

阿部隆和 「ココアに似合うヒゲでも生やしますか、総統」

薄暗い部屋で怪しく笑い合う二人の男。その不穏な物言いを象徴するかのように、
その基地内にある研究施設では、無数の黒い影が怪しく蠢いていた


????   「じゃう・・・じゃう・・・・じゃう・・・・」


一体さん2 第21話「再動」


モヒカン1  「ヒャッハー!モンスター軍団様のお通りだー!!」
モヒカン2  「あの忌々しいブイスの野郎が居なくなった今、俺達を止める者は誰もいねえ!
        魂まで風になれ!それハングオンだ!」

ブロロロロロロガシャアアアアアン!!!
キチガイじみた箱乗りをしたサイドカーが、スピードを一切緩めることなく百貨店の玄関に突っ込み窓ガラスを盛大に粉砕する

悲鳴を上げて逃げ惑う人々の様子を見てゲラゲラと高笑いしながら、まるでカウボーイの牛追いの如くこれを追い回すモヒカン達
中国は河北省滄州、孟村回族自治県
この街の守り手だったブイス・リーが氷帝・後部景吾との壮絶な一騎討ちの末に敗れたのが三日前のこと
これまで彼の威を恐れてこの街に侵入することのできなかったモンスター軍団の尖兵が、待っていましたとばかりに略奪に来たのである

モヒカン1  「ちっ!さっきからジジババとガキばっかだな!若い女はいねーのか!?」
モヒカン2  「俺にいい考えがある!若い女が居そうな売り場に行ってみるってのはどうだ」
モヒカン1  「おーそれはいい考え!お前は本当に賢いのう!」

ブイスという守護神に護られてきたとは言え、そもそも河北省一帯はモンスター軍団と閻王との戦いによって急激に過疎化している地域である
特に若い女性などは危険であるため、このような街に残っているケースは希少であった
下品な欲望を包み隠すことなく大声で意思疎通し合う男達は、サイドカーに乗ったまま階段を強引に駆け上っていく

二人が迷わず目指すは婦人服売り場
ここならば自分達の求めるうら若き女性客が居るかもしれない。バカバカしくも否応なしにテンション上がる、男の悲しい性である
そんな一縷の望みにかけて売り場に辿り着いた男達に、想定外のサプライズが待っていた


モヒカン1  「ひょおビンゴだ!こいつはとんでもねえ上玉だぜ!」

ちょうど試着室から出てきたばかりの若い女性の美しさに、思わず息を飲むモヒカン達
亜麻色の長い髪と白い肌、真紅のチャイナドレスのコントラスト
スラリとした細身のプロポーションながら、深いスリットから覗く太腿の健康的艶めかしさ

およそ期待などしていなかった彼等にとって、彼女の姿はまるで女神のように神々しく見えた

モヒカン2  「運が無かったなぁ姉ちゃん・・・こんな場所に居合わせちまって
        だが安心しな!俺達ゃ紳士だからよ!大人しくすりゃ手荒な事はしねえよ」

若い女性  「やめて!私に酷い事する気でしょう!?エロ同人みたいに!」
モヒカン1  「へへへわかってるじゃねーか。だったら無駄な抵抗はせずに・・・
        
あばっ!?」


モヒカンが女性の腕を掴もうと手を伸ばした瞬間だった
その手を素早く払い除けると、その場でクルリと華麗に回転する女性
同時にモヒカンの体がその場に崩れ落ち、彼女の手にはいつの間にか拳銃が握られていた

モヒカン2  「な・・・このアマ!グラップラーか!?」

相棒の身に何が起こったのかを瞬時に理解し、咄嗟に女性に殴り掛かるモヒカンだがその攻撃はまったく当たらない
ひらりひらりと至近距離で攻撃を躱す様は、まるで蝶のような優雅さである

ハイヒールで足の甲を思い切り踏み付けられ、思わず絶叫しながら悶絶するモヒカン。その腹部に彼女はニコリと笑って銃口を突き付けた
タン!という乾いた音とともに、恍惚の表情で倒れ込むモヒカン。戦闘を終えた女性は深くため息をつきながら周囲の状況を見回した







若い女性  「はぁ・・・参ったわね・・・ショッピング中にモンスター軍団と出くわすなんて
        外の様子だと、階下にはまだ100人以上はいるみたいだし・・・・」




マリー    「仕方ないからお姉さんが全員倒しちゃいましょ❤」





チーン
上階から降りてきたエレベーターのランプが1階で止まり、そのドアがゆっくりと開いた
中から現れた妖艶な出で立ちの美女が、目の合った男達全員に対してニコリと微笑む
最初ポカーンとお互いに顔を見合わせた後、思わず歓喜の声を上げるモンスター軍団の男達

モヒカン3 「ひょお姉ちゃん!もうお帰りかい?今から俺達とたわば!」

さながら甘い蜜に誘われる虫のように、無防備にエレベーターに近づいた男がバタリと倒れ込んだ
再びさっきと同じ、満面の笑みを男達に向かって浴びせる美女
今度は歓喜の声は湧かなかった
笑うというのは本来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点である

モヒカン4 「くそ!グラップラーだ!かかれぇ!!!」

男達が一斉に飛びかかったのと、後ろ手に隠し持ってたマリーの二丁拳銃が火を吹いたのは同時であった
BGM 映画「キル・ビル」メインテーマ Kill Bill Theme

マリー   「3、4、5・・・」

左右から同時に襲いかかる相手に、慌てることなく銃弾を叩き込むマリー
後先考えずに飛びかかってくる敵ほどやりやすい相手は居ない。空中に飛んでしまえば、銃弾の軌道を回避する術はないからだ

決して駆け出すこともなく、飛び跳ねることもなく、コツコツとヒールを鳴らしながらゆっくりと歩を進めていく
『リブリア M99R』
対グラップラー用セミオート拳銃。秒間/発射総弾数200
圧倒的速射性能を誇るこの拳銃だが、マリーは全ての弾を「当てる」為には使わない
多方向からの攻撃に対し、自分を守る為の弾幕として予め「置いておく」事で敵の動きを制限、誘導する

今、まんまとマリーの背後を取って勝利を確信したモヒカンが、その直後後ろを振り向くこともなく放たれた銃弾に腹を撃ち抜かれてその場に崩れ落ちた
彼はマリーの背後を取ったのではない。
取るようにマリーに動かされたのだ
銃の腕はもちろん必須。体術ももちろん必須。だがガン=カタ使いにとって最も必要な才能はそのどちらでもない
戦場の立体的把握と支配。これこそがガン=カタ使いの戦闘力の本質である

マリー   「17、18、19・・・」
モヒカン5 「チクショウなんて女だ・・・!悔しいが実力じゃ俺らより遥か上って事かい
       だが相手はガンナークラス!弾切れを起こせばリロードの際に隙ができるハズ!」

例えどんな低能な雑魚であっても、集団があれば中には頭の回る者もいる
相手が自分達より格上だと瞬時に悟ると、相手の得物が拳銃であることに活路を見出すモヒカン
弾切れを起こせば必ず弾倉を再装填しなくてはならない
それがどれほどの早業であろうと、グラップラー戦闘においてその隙は命取りである

そしてその時はやってきた

女が右手に持った拳銃の弾が切れた。瞬間、彼女を守る弾幕が半分になる
この恐ろしい敵がマガジンを再装填するまでの一瞬だけが、彼等に与えられた千載一遇のチャンスである
迷うことなく飛び出した男達に対しマリーは左手の銃で牽制しつつ、おもむろに右手を自分の襟にかけた
バツン!

モヒカン5 「えっ!?お・・・おっぱァ!?」

突如襟の留め具を引き千切り、その豊満な胸をさらけ出すマリー
無論下着は付けているが、思わず男の本能で胸を注視せざるを得ない男達
だが次の瞬間、そのニヤけた表情が驚愕に凍りついた

モヒカン5 「胸の谷間にマガジンが!それを・・・胸だけで跳ね上げた!」

マリーは決して痴女ではない。なんの意味もなく男の前に玉の肌を晒すような真似はしない
胸の谷間は替えのマガジンの隠し場所!
そしてその豊満なバストは・・・リロード装置である!
ポン!と胸の弾みで上空に放り出されたマガジンに狙いを定め、グリップの差込口を向けるマリー


そのまま思い切り腕を真横に振り抜いた
シャコォォンン!!!



モヒカン5 「バカな・・・手を一切使わずに・・・胸で弾倉換装だと!?」
マリー   「32、33、34・・・」

驚天動地のアクロバットリロード!!!
手を一切使わないという点はもちろんの事、男の視線を釘付けにし、一瞬その動きを停止させる事まで全てが折り込み済み
再び火力を取り戻したリブリアの咆哮によって、千載一遇のチャンスを逃した男達は為す術もなく蹂躙されていく

マリー   「45、46、47・・・」

マリー   「50!」

さながら女王の威光にひれ伏す民衆のように
戦闘開始から僅か数秒、モンスター軍団の半数はマリーの足元に倒れ伏していた





決して足を止めることなく華麗に舞い踊る姿は、まるでフィギュアスケーター
さしずめ演題は「雪の女王」か
凄まじい高速スピンから全方位に絶え間なく撒き散らされる銃弾は、女王が放つ魔法の猛吹雪
その雪のひとひらひとひらが触れれば最後、屈強な男達を深い眠りへと誘う蠱惑の一撃である

マリー   「91、92、93・・・・」

射撃の精度は驚異的で、銃弾を躱して間合いを詰める事は不可能
弾倉交換の隙を狙う作戦も、脅威のリロード技巧の前に通用しなかった
もはや男達にとって、この美しくも恐ろしい相手に対抗する手段は何ひとつ残されていないのか?

モヒカン5 「どけお前ら!ここは俺が活路を切り開く!後に続け!」
モヒカン6 「おおっ!そうか黒銅鋼の重装鎧を着こんだお前なら!」

否。彼等にはまだひとつだけ打開策が残されていた
【対グラップラー用特殊拳銃】
定義こそ同じであっても、オーバーQの得物である「バウ砲」は、重ねた鉄板をも容易く貫通する特殊徹甲弾を使用した一撃必殺の大口径リボルバーであるのに対し、
多対一の戦闘を前提として想定され、圧倒的速射性能を持ちながら極限までの軽量化と小型化を実現して設計されたリブリアM99Rとでは、その用途は全く異なる
当然ながら18口径とその弾丸は極めて小さく、また麻酔弾である事から、敢えて貫通力も低めになるよう調整してある
すなわち、その唯一の弱点は重装甲の相手!
リブリアM99Rに、黒銅鋼の防御を突破する手段は存在しない

モヒカン5 「ガハハハ!こいつはいい!まるで節分の豆撒きだな!」

弾着は収束するも、ダメージはゼロ。大量のひしゃげた弾頭がバラバラと地面に散らばるだけ
先陣を切って突進する重装鎧を弾除けに、その後ろにピッタリと続くモヒカン達。さながらジェットストリームアタックの様相である
絶対的ピンチ。お約束の展開であれば、先頭の相手を踏み台にして反撃に転じるところであるが・・・
なんとマリーは慌てず騒がず、スッと片足立ちでこの暴走電車を迎え撃つ構えを見せたではないか
深いスリットがふわりと翻り、白く艶めかしい太腿がドレスから飛び出す
前蹴りである。一見してなんの変哲もない
だがしかし、その靴底が無防備に突っ込んできた鎧の胸部に触れたその瞬間!

マリー  「100!」

ドゴォオオオオオオオオオオン!!!
凄まじい閃光と衝撃音が鳴り響くと同時に、まるで子供に指で弾かれたテントウムシの如くに吹き飛ばされる重装鎧男
後ろにピッタリついていた男達は重鎧と壁に激しく挟まれ、アバラが全て折れる苦痛と共に気絶
鎧男もまた激突の衝撃でしたたかに首を打ち付け、そのまま白目を剥いて意識を失った


マリー  「”零距離射程閃術”・・・・

      
龍吼星撃
ドラゴンインパクト!!!」

それはヒールに内蔵された仕込み銃!
正確にはヒールを射出口としてグレネード弾に指向性を持たせた、超至近距離榴弾砲と言うべきか
不殺の信念を貫くマリーにとっては本来対人に使用するものではなく、リブリアで破壊できない対象を破壊する為のサブ兵装
故に装弾数はたった1発、外せば終わりの切り札である
あの切羽詰まった場面で、一切の焦りを見せる事なく放ってみせたマリーがいかに冷静であったかが伺えると言えよう





マリー   「ふぅ、一丁上がりっと。それにしても鷹田モンスター軍団・・・
       「混沌と永遠の戦いを求める戦闘狂の集団」って聞いてたけど、案外俗よね
       鷹田総統っていうのも実際はこんな男なのかしら?」

時間にして僅か数十秒間の戦いを終え、乱れた着衣を整えるマリー
服装がどれだけ乱れても呼吸は一切乱れていないあたり、先程の戦闘が彼女にとって運動と呼べる程のものではなかった事がわかる

だが宿泊施設で待つシンノスケ達の元へ戻ろうと、玄関ホールを後にしようとした次の瞬間!
マリーが感じたのは、突如背後から心臓を鷲掴みされたような得体の知れぬ圧迫感
顔面蒼白になって背後を振り向くと、そこにはさっきまで気配すら感じ取る事のできなかった101人目の男が悠然と立っていた

???  「ふむ大したものだ・・・全員A級止まりとは言え、
       100人のグラップラーを女がたった1人で、しかも誰一人として命を奪っていない
       圧倒的な実力差がなければできる芸当ではない」

眼前の男から迸る小宇宙は、さっきの雑魚100人を束にしても尚比べ物にならないスケール
戦闘を終えても息一つ乱していなかったマリーが、その威圧感に負けまいとただ対峙しているだけでその体力をみるみる奪われていく

???  「だが・・・何も知らんクセに偉大なる鷹田総統閣下を侮辱するとは感心せぬな
       あのお方こそはまさに、戦闘を象徴する「グラップラー」の化身たる存在
       この惰弱な世界を改革されるべく神界より降り立たれた、現人神であらせられる」
マリー   「あっ・・・あなたは誰!?名乗りなさい!」
???  「ほう私の名を知りたいか女。よかろう私の名は・・・」

思わず相手の名を問いただすマリー。それにどんな意味があるワケでもない
凄まじい緊張感に耐えきれず、言葉を発することによってその恐怖から逃れようとしたのであろう
それほどまでに男の強さは桁違いだった

???  「偉大なる鷹田総統閣下の次に強く!」



???  「偉大なる鷹田総統閣下の次に聡明で!」



???  「そして偉大なる鷹田総統閣下の次に美しい!」



純一   「それがこの私!ブラック・ソード・ゼロ!
      その銃に刻まれた家紋・・・日本の将軍家に仕えるグラップラーだな?
      閻王討伐の前に良い手土産ができた。一緒に来てもらおうか、女よ」

TO BE CONTINUED・・・


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