陽光を遮るものが何一つない、市街地から遠く離れた荒野地帯
ジリジリと焼け付くような日差しの下、マリー・ハーディーは十字架に磔にされ、その白肌を焼かれていた

全身には無数の切り傷、擦り傷に加え、火傷の痕まで
命にこそ別状はないようだが、酷い拷問を受けたであろう事は一見して明らかな痛々しい姿だった

【閻王よ。お前に縁のある帝都の女を預かっている
無事に返してほしくば、指定の場所へ一人で来い】

中国放送局の公共電波を使って、河北省全域にモンスター軍団の通達が流れたのは今から約1時間ほど前の事
ショッピングに出かけたまま、いつまでも戻らないマリーを心配していた矢先に届いたこの凶報
シンノスケ達は街で何が起こったのかを即座に察し、すぐさま宿舎を飛び出していた
そして現在に至る

太平    「見つけた。マリーさんだ。怪我はしてるが命に別状はないようだな
       良かった・・・と言いたいところだが・・・コイツは流石に・・・」

J      「どう贔屓目に見ても良くはない状況だな」
砂布巾  「少なく見積もっても1万は下りませんね・・・
       しかも一体さん討伐部隊として編成されたからには1人1人が精強でしょう」
シロウ   「俺の竜巻や、隕石のサテライトレーザーアームで蹴散らすのは容易いが・・・」
シュウゾー「姉ちゃんが人質に取られてる以上はそれもできないってか」

崖の上から双眼鏡で状況を確認した太平は、想像を遥かに超えていた敵の規模に思わず絶望を覚えた
鷹田モンスター軍団、精鋭1万から成る閻王討伐隊である
先の帝都大戦においては溥儀禁衛隊が5人で1000人のモンスター軍団を撃退したが、今回はその10倍が相手
更にそれを率いる頭目はあのブラックソード・ゼロこと純一であり、加えてマリーという人質まで取られている

シンノスケ、太平、シルバー、J、隕石、砂布巾、シロウ、シュウゾー
出会って三日間という短い期間ではあるが、既に新たな仲間として強い絆で結ばれた若きグラップラー達
いずれも溥儀禁衛隊にも劣らない戦士達ではあるが、流石にこの状況は絶望的と言わざるを得なかった

シンノスケ 「最善手はマリー姉ちゃんを救出して、即座に戦域離脱・・・ですね」
シルバー  「全員で陽動をかければ不可能ではないと思う」
隕石    「じゃあ救出役は俺だな。マリーさんを抱いてマッハ7で逃げ切ってみせる」

それでもマリーを救う為に決死の救出作戦を敢行するシンノスケ達
陽動を仕掛け、敵軍に生まれた隙を突いてマリーを救い出し即座に戦域を離脱するという電光石火の奇襲劇
だがしかし。それであっても
その戦力差10000対8
およそ勝算は計り知れなく低い無謀な作戦である。果たして運命の女神は彼等に微笑むや否や

シンノスケ 「遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!
        我こそは将軍家直属、溥儀禁衛隊筆頭代理・シンノスケである!
        鷹田モンスター軍団!我が正義の刃受けてみよ!」

やたらと芝居懸かった名乗りを高らかに発しながら、美しい金髪をたなびかせ少年は垂直に切り立った崖を駆け下りた
10000を超える精鋭グラップラーの軍団に対し、臆することなく真正面から最短距離を疾駆する
紅華会戦争の英雄、竜の騎士シンエモンが嫡子にして剣聖ヒムラーの二番弟子
五大元素聖剣「斬岩剣」を父から受け継ぎし少年セイバー シンノスケ
突然の強襲者にすぐさま反応するモンスター軍団の第一波
同時にマリーの磔台の周囲も密集度合いが高くなる
あまりにもあからさますぎる単騎突撃。少年グラップラーが陽動であること、その真の狙いが人質の救出である事は明白だった

シンノスケを飲み込む巨大な顎の如く陣形が割れると、今度は獲物を噛み砕かんとばかりに挟み込む
挟撃は集団戦闘において基本中の基本。この動きは1万の軍勢が無法者の集団ではなく、指揮官の下に統制が取れた優秀な兵士であることを意味していた
だが次の瞬間、シンノスケに襲いかかろうとした集団は地面から足が離れ、上下不覚になって天空へと舞い上げられていた
何の前触れも無しに突如として発生した巨大竜巻である

シロウ   「風の流儀モード・・・・神砂嵐!」

今シンノスケが駆け下りてきたばかりの崖上に颯爽と立ち、その突撃を援護するのは
風を媒介とするグラップラースキルを際限なく使用できる、広域戦闘に特化したレアクラス
大属性「風使い」シロウ
本来ならばこの1万の軍勢全てを吹き飛ばすことも可能だが、マリーという人質を傷つけないために範囲をごく局地的に絞って能力を行使している

エリート兵1 「大属性クラスがいる!密集隊形を取るな!できるだけ散開しろ!」

崖の上の敵影に気付いた兵士が、すぐさま部隊に指示を飛ばす
広域範囲攻撃を得意とする大属性クラスを相手に密集するのは自殺行為。彼の判断は極めて迅速で、正しい
正しいが故に、シンノスケ達の思う通りだった

J      「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ―ッ!!!」
太平    「水の呼吸 壱の型・・・水面切り!」

シルバー 「斬・飛翔分身抜刀牙!」

砂布巾  「音劇斬!おさびし山のセレナーデ!」

間髪入れずに四方の崖から飛び出したのは、若き4人のグラップラー達
相手を置き去りにする脅威の加速装置と、5つのカウンターパンチを操る超音速のブーステッドグラップラー
最強の喧嘩師メガドラえもんの忘れ形見 J
シンノスケの兄弟子にして、剣聖ヒムラーの一番弟子
五大元素聖剣「水殻」を継ぎしセイバー 太平
その剣聖ヒムラーと双璧と呼ばれた、剣王トキ―・クルーカーの弟子、
五大元素聖剣「ディーソードベガ」を振るう獣人族の青年 シルバー
盲目の弾き語りにして、仕込み刀の達人
ギターと刃を組み合わせた「音撃」の妙技を操る 砂布巾
いずれも一騎当千の実力を誇るS級グラップラー。シロウの風を恐れて密度を薄めた陣形ならば、周囲を完全に囲まれ機動力を制限されてしまうような不利に陥る事はない

「敵が何人いようとも、同時にかかってこれるのはせいぜい4人が限界
したがってその4人ずつを倒していけばいい
世界中の人間と戦ったって負けやしないんだ」

ある高名なグラップラーが残した、対集団戦闘における有名な格言である
実際には疲労度の蓄積による戦闘力の低下や、密集陣形による機動力封じ等の要素がある為、この言葉通りにはいかないのが現実であるが
今の彼等はこの格言に従い、群がる敵をただ一心不乱に打ち倒していた。勝算はある
10000人全てを倒す必要はない。目的は敵の殲滅ではない
自分達にできるだけ敵を引き付け、人質の守りが手薄になりさえすればいい

もっとだ。もっとこっちへ来い!もっともっとこっちへ来い!
さながら刃と拳の旋風と化して戦場を駆ける4人
披露で動きが鈍るどころか、次第次第にその攻撃も、危険回避反応も研ぎ澄まされてゆく
だが半ばトランス状態となって敵を打ち倒し続けた彼等が、次なる獲物を求めて周囲を見渡したその瞬間
視界にいたのは、見知った顔の仲間達と
見知らぬ黒衣の男だけだった

J      『えっ・・・みんな!?四方から別々に攻め入ったのに・・・』
太平    『いつの間にこんな近くに!?』

シルバー 『しまった!まさかこれは・・・』

砂布巾  『この男に・・・最初から誘導されていた!?』

トスッ!トスッ!トスッ!
驚愕に目を見開いた4人の隙を突き、黒衣の男が何やら飛び道具を放った。妙な形状をした手裏剣である
手裏剣は虚を突かれた3人の胸に命中したが、その軽量故にグラップラーの筋肉を貫通して内蔵に達する程の威力はなかった―が!
ブスリ

太平    「アッ――――!!!」

何故か太平にだけ尻に刺さった次の瞬間!!!
パパパパァァン!!!!

耳を劈く乾いた音と、辺り一面に飛び散る紫電の閃光
4人は手裏剣が刺さった場所に凄まじい痛みと熱さを感じると、
白目を剥いて意識を失い、糸の切れた人形の如くその場に崩れ落ちた

純一    「グラップラー4体・・・・

       
捕獲」




対グラップラー用受電式スタン手裏剣
レインハード】
ブラックソード・ゼロこと純一の専用武器
60000ボルトにも及ぶ圧倒的放電能力を、広範囲の空中に拡散することなくピンポイントで対象を狙い撃つ為の手段
手裏剣はレールガンの理屈で純一の掌で超加速を受けて射出され、その速度はグラップラーといえども見切るのは至難の業
仮に敵に奪われても、相手は奇妙なカタチをした手裏剣としてしか使用できない、まさに純一だけの専用武器である

自分の意志通りに動かない手足、しかし意識だけはかろうじて残っているという状態で頭上からの純一の言葉を聞く4人
なんとか首を回して周囲を見渡すと、目の前の信じられない光景に思わず目を見開いた
先程まで自分達が縦横無尽に切り捨てたと思っていたモンスター軍団の兵士達が、やれやれと言った様子で起き上がってくるではないか
当然である。彼等は4人を誘導する為にワザとやられたフリをしていただけ
致命傷を負った者など、誰一人として居なかった

純一    「ククク・・・残念だったな小僧ども。お前達など殺す気になればいつでも殺せたのだ
       閻王に対する人質は多ければ多いほど良いから、生け捕りにしたかっただけの事
       まぁあの男はあれで冷酷無比だからな・・・
       お前達の命などいくら用意したとてなんら意味もないかもしれんが」


驚愕の事実に打ちのめされる4人
決して自分達の強さに驕りがあったワケではない。あったワケではないが

まさか雑魚と思っていた有象無象さえ1人たりとも倒せていなかったとは
ここにきてようやく彼等は、自分達が戦っている相手の実力を認識するに至る

純一    「だが金髪の小僧、お前のウワサは総統閣下から聞いているぞ
       閻王唯一無二の友だったというシンエモンの息子だそうだな
       お前の命であれば、いかにヤツとて躊躇せざるを得まいよ」


腰に下げていた剣を抜き放つと、その切っ先をシンノスケに突き付けながら言葉を続ける純一
シンノスケの端正な顔が、焦燥と屈辱に歪む
マリーという餌に釣られ、まんまとおびき出されてしまった自分の短慮を恥じるシンノスケ

敵の真の狙いはまさに自分だったと言うのに
だがせめて、せめてそのマリーだけは・・・シンノスケが純一と対峙し、斬岩剣を抜いたその時
純一の背後の岩陰から銀色の閃光が飛び出した。メタル太である

シンノスケ 『よし!ヤツはまだ後ろに気付いてない!』
メタル太  『マリーさんを抱いてこの場から脱出・・・間に合う!』

二人がそう確信した、次の瞬間だった
突如地中から現れた巨大な腕が、低空を飛んでいたメタル太を鷲掴みにしたのは
ガシィッ!ギリギリギリ・・・・・!
そこにはまるで山のような巨躯を持つグラップラーが、珍しい虫でも掴まえた子供のようにメタル太を覗き込んでいた
???? 「フンガー!」

メタル太  『なッ・・・・なんだコイツは・・・・
       
100万馬力のGX9900が・・・出力全開でビクともしない!』
純一    「デカマルコ。Dr国枝のバイオグラップラー被検体「A1号」・・・
       
すなわちB54号や俺の先駆け。プロトタイプよ
       骨延長手術や薬物投与による生身の肉体部分の強化に加え、
       全身の関節に筋力を補助するモーターを埋め込む等、機械的改造にも着手
       そのおかげで規格外のパワーとタフネスを得る事に成功した検体だ
       もっとも想像を絶する苦痛のせいで、精神の方がイカれてしまってるがな
       
今回は閻王との肉弾戦を担当してもらうために連れてきた」
デカマルコ 「フンガー!」


???? 「ここか?祭の場所は・・・」
ガラガラガラガラ・・・・
岩場の地面に鉄パイプを引きずりながら現れた男の発する小宇宙に、シンノスケは思わず息を飲んだ
強大なのはもちろん、言葉では形容できないある種の禍々しさを感じたからだ
まるでその男の凶悪な感情が、そのまま小宇宙となって外部に溢れ出しているかのような・・・・
裸にワニ革のジャケットを直接纏った、金髪の出で立ち
その特徴的な姿を寝たまま視界の端に捉えたシルバーが、あっと声を上げた

シルバー  「ふ、深倉威・・・!?
        IGPOの九大天王が全員総出でようやく逮捕した凶悪グラップラー犯!
        グラップラー専用収容所「コクリア」の最下層に収監されていたはずなのに!」


深倉    「ハッ!まったく警察ってのはイライラさせる・・・・」
純一    「閻王と戦うとなれば、ヤツの厄介な「ライダー」の能力を警戒しなければならんからな
       
その為の戦力を求めて、我等モンスター軍団がコクリアを破らせてもらった
       
同じ「ライダー」である彼にその役目を担当してもらう」

???? 「崖の上にいた風使いと、その近くにいた小僧だ。無力化してある」
ドサドサッ!
更に現れた黒ずくめの男が、両脇に抱えていたシロウとシュウゾーをぞんざいに放り投げた
二人とも目の焦点が合っておらず、口は半開きで、さながら目を開けたまま寝ているといった様相だ

純一    「ククク・・・大属性クラスをも一瞬で無力化してしまう能力・・・
       無敵の瞳術「万華鏡写輪眼」を持つ忍者、せんすカワウソ!
       世間では溥儀禁衛隊のハッタリ半蔵を最強の忍者などと呼んでいるそうだが
       俺に言わせればコイツこそが最強の忍者よ
       
閻王の強大な力を無力化する為に来てもらった」


カワウソ 「サスケェ!お前は俺のオレオレオ!」

次々と現れるグラップラーの1人1人が、桁違いの小宇宙を放つ規格外のグラップラーばかり
シンノスケ以下、仲間達全員の脳裏にはある共通の二文字が浮かんでいた

純一    「帝都大戦ではモンスター軍団の兵1000人を溥儀禁衛隊5人だけで殲滅したそうだな
       その話を聞いて自分達も似たようなことができると錯覚でもしたか?
       我々を誰だと思っている!閻王討伐の為に結成された選りすぐりの1万だぞ!?
       
鍛え方が違う!精魂が違う!理想が違う!決意が違う!!
       貴様等如きがどうにかできるなどと・・・身の程を知れ小童ども!」

すなわち「絶望」である



第二十二話「ヒーロー見参」




純一    「だがな小僧、俺とて多勢に無勢で貴様等のようなヒヨッコをなぶって
       それで喜ぶような小物ではない。そこで提案だが・・・どうだ?
       ここはひとつお前と俺とでサシのグラップラーファイトといこうではないか
       もしお前が勝つことができたなら、全員無事に帰してやってもいいぞ」
シンノスケ 「!?どういうつもりか知らんが・・・その言葉に嘘偽りはないな?」
純一    「無論だ。このブラックソード・ゼロ、強者に対しては敬意を払う」

圧倒的絶望の闇に飲まれかけたシンノスケ達だったが、ここで我が耳を疑う敵からの申し出が飛び出した
なんとシンノスケとブラックソード・ゼロが1対1で戦い、これに勝てば全員を解放するという
およそモンスター軍団にとってはなんのメリットもない取引きであり、にわかには信じがたい話である
しかし今のシンノスケ達は、例え嘘であろうともそれにすがるしかない
斬岩剣を上段に構え、ジリ・・・と間合いを詰めるシンノスケ。ブラックソード・ゼロは正眼に構えてこれを受ける

純一    「では行くぞ!グラップラーファイトォオオ!!!」
シンノスケ 「レディィイ・・・・ゴオオオオオッ!!!」

ギィン!!!キンキンキンキン!!
試合開始の宣言とともに、目にも留まらぬ速さで翻る白刃
否。まさに常人の目には見えぬ神速の剣戟
見えるのは刃がぶつかり合う度に激しく飛び散る火花だけ、あとは両者の斬り結ぶ音だけが聞こえるのみである
S級セイバーであるシンノスケの打ち込みは軽く音速を超えるが、ブラックソード・ゼロは笑みすら浮かべながらこれを軽々と受け流していく

純一    「ほほう!まだ幼くして閃光の太刀筋!打ち込み一撃一撃の重さ!
       流石はシンエモンの息子と言ったところか!小僧!今いくつだ!」
シンノスケ 「今年で13!」
純一    「大した才だ!そのままあと10年修行を積まれたら俺も勝てんだろうな!」

シンノスケ 「ぬかせ!その余裕の口、すぐに利けなくしてやる!一文字流烈風剣!」

互いに後ろに飛び退いて間合いを取った両者
シンノスケが気合を込めて豪快に斬岩剣を横薙ぎに払うと、ブラックソード・ゼロの長髪が一房吹き飛ばされて宙を舞った
真空の刃による遠隔斬撃である。だがこの距離は控えめに考えてもシンノスケが有利に戦えるレンジではない

この男の真に恐るべき力は剣術ではなく、先程4人のS級グラップラーを瞬時に戦闘不能にさせた電撃であろう

純一    「ふむ・・・この距離ならこれしかないな。ブレイク・ダーク・サンダー!」

予想通りアレがくる―
シンノスケはブラックソード・ゼロの所作に意識を集中して、攻撃の起こりを見逃すまいと身構える
パパパパァアアン!!!!
放たれる電撃。警戒していたシンノスケは、見事これをかわすことに成功した
そう、シンノスケは―

太平    「ぐわああああああああああああああああ!!!」
シルバー  「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
J      「がはああああああああああああああああ!!!」

砂布巾   「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
シンノスケ 「なッ!?みんな!」

シンノスケがかわした電撃は、全て地面に倒れ伏している仲間達に吸い込まれた
道理である。4人には未だ避雷針であるレインハードが突き刺さったままなのだから

純一    「おおっとこれは失礼。小僧が避けるものだから・・・不可抗力だよ!」
シンノスケ 「そういう事か・・・最初からまともに戦うつもりはなかったんだな」
純一    「おかしな言いがかりはよしてもらおうか。俺は約束は必ず守る男だぞ?
       ただ戦闘が終わった時にこいつらが生きてるかどうかまでは知った事ではない
       ちなみにこの避雷針・・・女の磔台にもついてるから気をつけろよ
       
もう悲鳴を上げる体力すら残っていなようだからなァ
       ブレイク・ダーク・サンダー!!!」
シンノスケ 
「うわあああああああああああああああああ!!!」

醜悪な笑みとともに、再び放たれた電撃
今度はシンノスケは避けなかった。避けられるハズがない
自分が盾となってこれを防がねば、傷ついた仲間達・・・・大切なマリーの命が危ういのだから

純一    「バカな小僧だ!こんなものは閻王が現れるまでのただの暇潰しよ!
       もっともヤツの縁者をいたぶるのは俺の個人的な復讐の意味もあるがな!
       ボロボロにされたお前を見たら、閻王はさぞや怒り狂うだろうなァ!!!」
シンノスケ 「があああ・・・・!貴様は・・・何故それほどの恨みを一体さんに・・・・!」
純一    「紅華会最強のグラップラーと呼ばれた俺がヤツに敗れたのは10年前!
       屈辱と、そしてヤツの圧倒的強さに対する恐怖に怯えながら生きてきた!
       
今日がその待ち続けた雪辱の日となる!
       ヤツを打ち負かすことで、俺はようやくこの10年間の呪いから開放される!
       その為の修練と研鑽を怠ってきたつもりはないが、ヤツの強さは異次元の領域
       だからこそこの大軍団を準備した!人質を取る事になんらも抵抗はない!
       
”正々堂々と卑怯な手を使う!!!”

       それが俺のヤツの強さに対する敬意の表れ!リスペクト精神なのだ!!」

戦闘前、「強者に対しては敬意を払う」と言った彼の言葉に偽りはないのだろう
かつて惨敗を喫した相手に対する恐怖、憎悪、そして敬意
10年という時間が、彼の心の中に巣食う閻王という存在を神格化させた
それ故に格下の相手にも卑怯な手段を使うことを辞さず、確実に人質として確保する方法を躊躇なく選んだ
人生最強の敵を打ち倒す為に、男は外道に墜ちることも厭わない
それが正しいかどうかはさておき、凄まじいまでの執念と意志の力である

太平    「ぐっ・・・!シンノスケ・・・・!
       俺達も一緒に戦うぞ・・・玉砕覚悟でなんとかヤツだけは・・・!」

砂布巾  「いやそれはダメだ太平さん
       あっしらはともかく、マリーさんの命は本当に危険な状態でさぁ」
シルバー 「でもこのままは遅かれ早かれ全員人質に・・・!
       我等もとより戦いを始めた時から命は捨てています!」

砂布巾  「いいや。ぼっちゃんは助かります。マリーさんも。あっしらもね」
J      「何を言ってるんだ!この敵の大群の中、そんな事できる人間が・・・あっ」
砂布巾   
「そう。この世に一人だけいやす
       
我々は皆その男の名を知っているはずだ」




モンスター兵「ブラックソードゼロこと純一様・・・・相変わらず恐ろしいお方よ・・・
        あれだけの戦闘力を持ち得ながら、格下相手に微塵の油断も隙もない」

モンスター兵「あぁ・・・しかし閻王ってのはその純一様があんなに恐れるほど強えんだろ?
        俺は実物を見たことがないが、一体どんな怪物なんだソイツ?
        デカマルコ様よりもでかい巨漢か?翼が生えてて目からビームでも出るのか?」

ブラックソードゼロの独白を間近で聞いていたモンスター軍団の兵士は、自分達の頭領の恐ろしさを再認識すると同時に、
そんな男がこれほどに恐れる閻王という敵の恐ろしさも肌で感じていた

閻王とはすなわち、地獄の支配者「閻魔大王」の事
またの名を、誰が呼んだか「地上最強の生物」
10年前、紅華会戦争を終わらせた英雄であり、
現在は世界制覇に乗り出した鷹田モンスター軍団の殆どの勢力を、たった1人で食い止めているという規格外のグラップラー

彼等の想像の中で、「閻王」はこの世の全てを飲み込む悪魔のような怪物としてイメージされていた
その時だった

モンスター兵「うん?なんだこれは・・・・念仏?
        おいコラてめえ!いつの間にてめえみたいな坊主が入ってきやがった!」

密集したモンスター軍団を真っ二つに割るかのように、念仏を唱えながら中心に近づいてくる小さな人影
これから地上最強のグラップラーを迎撃せんと緊張している彼等にとって、その侵入者は酷く場違いなイレギュラーに映った

侵入者を排除しようと腕まくりして近づくモンスター軍団の兵士
しかしどうしたことか、坊主はゆっくりと歩を進めているにも関わらず、屈強な男達は何故かその小柄な人影を捉えることかなわない

ピプ―コリコリコリ

モンスター兵「たわば!」
モンスター兵
「あべし!」

モンスター兵「ひでぶ!」

ドパァァン!!!!
次の瞬間
坊主を掴まえに向かった男達の頭が、まるで風船のように膨れ上がったかと思うと、そのまま爆発
原型を留めていない頭部から脳漿と鮮血を撒き散らし、立ったまま絶命した
彼等は何が起こっているのか理解できない
理解できている者だけが、その男の到着を確信する

純一    「・・・・ようやく来たか・・・・待ちわびたぞ・・・!」
砂布巾   「ヒーローは必ず遅れてやって来るってね。待ってましたぜ」

緊張と安堵
男が何者であるかを知っている者の胸中を満たす、2つの感情
男が何者であるか気付かない者だけが、その命をまた無駄に散らした

モンスター兵「これだけのグラップラーの大群の中を眉一つ動かさず・・・・!
        
貴様どこから来たぁ!一体なんの用dあわびゅ!」
一体さん  「北より

        
お前達に死を告げる為に!」

TO BE CONTINUED・・・


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