ギィン!キンキンキンキン!!
翻る白刃は音速の域
常人には見えぬ不可視の剣戟を続けるシンノスケと純一
外野から見える分には、水入り前の映像を再生したかのような状況にしか見えない
しかし刃を交える両者の心境は、まったく違っていた

純一     『速い!重い!さっきまでとはスピードも剣質もまるで段違い!』

シンノスケ 『斬岩剣が羽根のように軽い!内から力が溢れ出て止まらない!』

つい先刻はシンノスケの攻撃を余裕で受けていた純一が、今は額と背中に冷たい汗をかいている
もはや余裕などどこにもない。一瞬でも気を抜けば、その豪剣で骨まで叩き切られるだろう
対してシンノスケの表情たるや
およそ真剣勝負中とは思えぬような、歓喜の笑みを浮かべているではないか

純一     『なんだこれは・・・!刃を合せる度に太刀筋がどんどん読めなくなっていく!
        ゆさぶりも効かない!至近距離からのレインハードも平気で躱す!
        
まるで鷹田総統閣下と手合わせしているかのようだ』






Dr国枝  「私の実験の被験体になってはくれないかね?
       成功率は30%程度だが・・・・成功すれば比類なき力を得ることができる
       そうすればもう下級グラップラーと蔑まされる事もなくなるぞ」


何処で間違った!?

鷹田総統 「モンスター軍団にようこそ!期待しているよブラックソード・ゼロ
       キミの力ならば必ずや閻王を打倒できるだろう」

何に躓いた!?

シンノスケの一撃を受ける度、これまでの自分の人生の歩みが走馬灯のように呼び起こされる純一
自分が目の前の敵に「死」を予感している
それもこんな年端もいかぬ小僧に対して

少年剣士の表情が、心底楽しそうな笑顔であることも、その耐え難い屈辱を更に増幅させた

「男子三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが
さながら今のシンノスケは、1秒毎に成長しているかのようなもの
その急成長ぶりは純一の焦りを通じ、戦いを見守っていた仲間達にも充分すぎるほど伝わっていた

シルバー  「すごい・・・これが竜の騎士の力・・・!」
太平    「あの野郎・・・苦手だったチキータもミュータも急に覚えやがった!」

砂布巾   「恐ろしいことだ・・・おそらく今の坊っちゃんにとっちゃ、
        一撃ごとに強くなっていく自分が楽しくて仕方がないんでしょう
        自分より強い相手の背中を踏み台にして、一気に上に駆け上る
        あっしのこの目にゃあ、坊っちゃんの背中に翼が生えて見えますよ」

シンノスケ 『もっと!もっともっと!もっと早く!!反応!反射!音速!光速!』

そもそもシンノスケは京都で鷹田モンスター軍団総統をあと一歩のところまで追い詰めた逸材である
ポテンシャルだけならば純一を超えるものを秘めていたと言っても良い
だが父から受け継いだ竜の騎士の力はまだ感情に任せて暴走するだけで、使いこなすまでには至らなかった

ここにきて突然その力を自在に使いこなせるようになったのは、
父から受け継いだ力に対する「誇り」という意識が生まれたからに他ならない
すなわちその原因となった一体さんとの再会と、
8年ぶりに会う彼に自分の成長を見せることができるという、無上の喜びが覚醒の引き金になったのであろう



        
一体さん



    一体さん



    見てて!俺・・・俺・・・



           こんなに強くなったよ!!!

純一    「中段突き!?いや・・・・うおっ!!」

ギィン!くるくるくるくる・・・・ザクッ!
シンノスケの地を這うような強烈な下段切り上げを受け損なった純一
漆黒の魔剣「ごはんですよ」が宙を舞い、その背後の地面に突き刺さった
これにて勝負有り・・・
ではない
まだ純一には放電能力という攻撃手段が残されている
いやむしろ彼にとっては、剣術よりもこちらが本当の戦闘スタイルと言えるだろう
勝負はこれからが本番。だが・・・・・・

純一    「畜生ぉッッ!!!!!」

純一はヒステリックに絶叫すると、マントの下に隠し持っていたレインハードを全て地面に向かって叩きつけたではないか
真剣勝負中に信じられぬ事であるが、癇癪を起こしたのである
あまりの出来事に固まるシンノスケ達を意に介さず、純一は感情の迸るままに大声で怒鳴り始めた。目尻にはうっすらと涙も溜まっている

純一    「どうしてお前なんだよッッ!!!!
       俺は努力したよ!お前の10倍・・・いや100倍、1000倍したよ!
      
 閻王に勝つ為に!総統閣下に認められる為に!
       それこそ朝から晩まで打倒閻王の事ばかり考えて・・・
       人生をグッラプラ―ファイトに捧げてきたよ!
なのにッ・・・・!」


大の男が大勢の人目もはばからずに涙し、吐露したその本心
「何故こんなにも自分は報われないのか?」

努力すれば必ず報われるというものではないのは自分でもわかっている
だがもしこの世に神がいるのなら
10年間待ち続けた復讐を目前にして、己の半分も生きていない小僧にそれを阻まれるというのはあまりにも無慈悲な仕打ちではないか


一体さんをまっすぐに見つめる瞳は、怨敵に対する憎悪の眼差しではなく
僧侶に救いを求める、哀れな迷い子のそれである

だが救いの言葉を期待していた男に投げかけられたのは、彼の想定を遥かに絶する言葉の刃だった

一体さん  「それはお前にグラップラーの才能が無いからだよ」

その言葉はさながら稲妻の如く
あまりにも残酷に純一の心を引き裂いた


一体さん  「単純にそれだけの事だ。大声で喚き立てるような話じゃない」

純一は確かにグラップラーとしては最強ランクのカテゴリーに位置する
彼が併せ持つというのび犬の放電能力、伊藤の超能力、とりにてぃの筋力、トモゾウのタフネス、ヒムラーのテクニック、そのいずれもが特S急の逸品である
だがそれは言い変えれば、全てが「借り物」
彼自身のグラップラーとしての才覚とはまったく関係のない力であった

突如として突きつけられた通告を受け入れる事ができず、まるで魂が抜けた人形のように呆然と立ち尽くす純一
かろうじて返した言葉はか細く、風が吹けば吹き飛ぶかのように弱々しかった

純一    「ふざけるな・・・そんなことあるワケ・・・・」
シンノスケ 「・・・・続ける気がないのなら・・・俺の勝ちという事で?」

純一    「そんなはずが・・・」

もはやシンノスケの言葉も耳に入っていないのか、ガックリと項垂れたままブツブツと同じセリフを呟くだけの純一
シンノスケは哀れみの視線を向けることはせず、静かに目を瞑って斬岩剣を鞘に納めた
大切なマリーを傷つけた憎き相手ではあるが、シンノスケにはこれ以上この男を攻撃することはできなかったのだ
これにて勝負はついた・・・と思われたその時
モンスター軍団の生き残りが突如大声で叫んだ

モンスター兵 「おいあれを見ろ!味方の増援部隊だ!!
         
スゲエ!地平線を埋め尽くすような大軍だぜ!」

雑兵が指差した方向に目を見やると、確かに砂塵とともに地平線を埋め尽くすかのような大軍勢の影が見えた
驚愕の表情を浮かべるシンノスケ達とは対照的に、絶望から一転して笑顔になるモンスター軍団の生き残り達
凄まじい速さで近づいてくる軍勢に、九死に一生を得たといった体で喜び勇んで駆け寄っていく

モンスター兵 「やった助かった・・・!おーいここだぁ!閻王はここにいるぞぉー!!あれ?」

巻き上がる砂塵でよく見えなかった、その軍勢の姿を至近距離から肉眼で確認した瞬間
彼は己の目を疑った
疑ったまま、彼の首は胴体と永遠の別れを告げた

????  「じゃうじゃう・・・・じゃうじゃう・・・
        
おーじゃまじゃま・・・・おじゃまんがー」
 

男の首をもぎ取ったのは明らかに人間ではない、
ヌラヌラと黒光りする躯を持つ、おぞましい生物だった


一体さん2 第24話「黒の軍勢」


その場に居合わせた誰もが、その生物を目にするのは初めてだった
にも関わらず、全員が共感していた感情
「我々はこの生物を知っている」

黒光りする躯と、ピンと立った二本の触覚。臀部から生えた尾葉・・・
身の毛がよだつようなこの悪寒を、我々は身近に知っている
絞り出すような声で最初に口を開いたのは、つい今さっきまで茫然自失状態の純一だった

純一    「まさか・・・これが「G」?・・・完成したのか?いや・・・」
???? 「ザッツライト!その通りだよ!もっともまだ「完成」には遠いないがね」

自問するかのような純一の言葉を補完したのは、この広大な戦場にあってもよく通る声
それは単純な大声ではなく、人心を惹き付けるカリスマ性が成せる業だった

その場の全員が声が聞こえた上空を見上げると、
そこには漆黒の軍服にマントをたなびかせたサングラスの男が、圧倒的存在感とオーラを撒き散らしながら地表を見下ろしていた

一体さん 「よう。ついにお山の大将自ら出陣か?」
鷹田総統 「何年ぶりかな閻王。やはり1万程度ではキミの相手にはならなかったか
       だがそれが10万・・・100万となればどうかな?」

鷹田モンスター軍団総統・鷹田延彦である
既に京都で卍解した彼と対峙しているシンノスケ等は冷たい汗をかきながら剣を構え、初めて相対する砂布巾らはそのドス黒い負の小宇宙に威圧されかかっている
唯一一体さんだけが、涼しい顔で彼と会話する

一体さん 「そのキモい虫人間の大群の事か。こいつらは一体何なんだ?」
鷹田総統 
「我々はこの生物を「おジャフォーマー」と名付けた!
       研究コードネーム「G」・・・かつてのDr国枝の研究の遺産といったところかな
       知っての通り、我がモンスター軍団は志願兵以外はほぼ改造グラップラーだ
       だが民間人を何万人と誘拐して、一人一人に改造手術を施すのは効率が悪い
       そもそも成功確率も30%以下で、無駄死にする方が圧倒的に多いからね」

モンスター軍団のほとんどが改造グラップラーである事は承知していたが、まさかその手術成功率が3割以下だったとは
一体あの大軍団を組織するのに、何人の民間人を犠牲にしたというのか
それをまったく悪びれる様子もなく平然と言い放つ鷹田総統に、京都以上の怒りがこみ上げてくるのを感じるシンノスケ。斬岩剣の柄がギリギリと音を上げた

鷹田総統 「そこで発想の転換だよ。人間が耐えられない手術の負荷や、術後の拒絶反応も
       人間より遥かに強靭な生命力を持つ生物なら耐えられる
と考えたのさ
       数億年前から姿を変えることなく地球上に君臨し、
       人類が死滅した後でも、彼等だけは元気に生き延びると言われる生物・・・そう
       
ゴキブリにDG細胞を投与したのだ!!
       いやあ効果はてきめん!その成功率は実に100%!
       人間大にスケールアップした彼等は元々の身体的スペックに加え、
       脳が巨大化したことで高い知能まで得、その戦闘力はA級グラップラーを凌駕した!」

黒の軍勢の正体は、DG細胞で巨大化したグラップラーゴキブリ
謎の生物の正体を聞いても、その場の人間達に驚きはなかった
既に誰もがその正体を直感で感じ取っていたからである
だがひとつだけ腑に落ちなかった事・・・それは・・・

鷹田総統 「もっとも研究の最終段階は脳波コントロールで自在に操るのが目標だったが
       実戦投入を優先した為にそこんところはまだ手付かずのままだがね
       敵味方の判断はつかず、人間とみたら強烈な殺意を持って襲い掛かってくる
       
でもまぁ・・・その方が何が起こるかわからなくて面白いだろう?」

モンスター軍団の増援部隊として投入されながら、そのモンスター軍団の生き残りを殺害したという事実だった
聞いてみればなんという事はない
最初から敵も味方も区別できず、視界に入った人間を全て襲う殺戮者だったのである
もはや戦争の大局すらも放り投げた、まさしく混沌だけを追い求めた鷹田総統の暴走
ここにきてシンノスケ達は、溥儀から聞かされていたその狂気をまざまざと思い知らされた

シンノスケ 「相変わらず狂ってるよ、お前・・・」
純一    「そ、総統閣下・・・確かに我々は力及ばず壊滅状態には追い込まれましたが
       それでもまだ多数の者達が健在で生き残っております
       それなのにコントロールの効かないおジャフォーマーを投入するというのは・・・」
鷹田総統 「やぁブラックソード・ゼロ。頑張ってるじゃないか。この健闘は少々予想外だったよ
       私の予想ではもう少し早く全滅してると思っていたんだがね」
純一    「わ・・・私の勝利は最初から考えていなかったのですか?私は捨て駒だったと!?」
鷹田総統 「滅多な事を言うものではないよブラックソード・ゼロ
       私は閻王に復讐したいと言ったキミの願いを叶えた。1万の兵まで与えた
       
勝てるかどうかはキミ次第だったハズだ
       私は指揮官としてその先を見越し、次の手を打っていたにすぎない」

「裏切られた」という思いから鷹田総統に食ってかかるも、正論で返されてぐうの音も出ない純一
もはやそれ以上の言葉を絞り出すことすら出来ず、ヘナヘナとその場に力なく座り込んでしまった

一体さん 「10万や100万と言ったな?その程度の数で俺を倒せるとでも?」
鷹田総統 「キミを倒すのは無理だろうね。だがそれ以外ならどうかな?」
一体さん 「なに?」
鷹田総統 「おジャフォーマーは中国全土に放った!その数100万!
       さあどうするね閻王?どうするねシンノスケ?私を楽しませてくれ!」
一体さん 「・・・・・!」
シンノスケ 「な・・・なんだって!?」






その頃。河北省滄州、孟村回族自治県
飛び交う悲鳴と逃げ惑う人々。凄まじい速さで村を覆い尽くしていく黒いシルエット
マリーが100人のモンスター軍団を撃退してからまだ間もないこの村にも、おジャフォーマーの一団が現れていた

かつての守護神ブイス・リーも、偶然居合わせたメガネの美女グラップラーもいないこの村に、彼等に対抗する術は存在しない
今まさに、何の罪もない幼女がおジャフォーマーの手にかかろうとしたその瞬間、
勇気ある一人の男が飛び出し、身を挺してこれを庇った
バガァッ!!!!

おジャフォーマーが渾身の力で振り下ろした石の棍棒を脳天に叩きつけられ、その衝撃で足首までアスファルトに埋まる男の足
例え男が一般人ではなく、グラップラーであろうと即死は免れない一撃である
しかしおジャフォーマーは、もう息をしていないであろう男の首根っこを掴み上げると、更なる追撃を加えようとする
恐るべきはその人間に対する攻撃本能
こんな生物が中国全土に放たれたということは、それはつまりこの国の終焉を意味して・・・・

ズギャッ!!!
と、次の瞬間!
絶命したとばかり思っていた男の拳が唸りを上げ、おジャフォーマーの顔面に突き刺さったではないか!
まるでダメージらしいダメージはないのか、男は棍棒の一撃で乱れた髪型を手櫛で整えながら、倒れ伏したおジャフォーマーに言葉を投げた

???? 「お前らのせいで・・・中国はまったくおかしな事になっている
       その責任者を出す気がないのなら・・・・・」


















田中海王 「まずお前らから死ね」

田中海王
中国 山東省 ♂ 172cm 91kg
グラップラークラス 近接戦闘型『グラップラー』
梁山泊 第5席



グシャアッ!!!
顔面に正拳を受けて倒れ込んだおジャフォーマーに、強烈なストンピングでの追撃を見舞う田中海王
その一撃はおジャフォーマーの喉の下辺り
ゴキブリの器官で言えば、食道下神経節と呼ばれる部分を正確に踏み抜いた


『おジャフォーマーの生態』
DG細胞のもたらす強烈なエネルギーによって人間サイズに巨大化し、二足歩行するようになった彼等
全身の気門から入る酸素で多糖類アミロースで出来た甲皮を直に燃焼させることで、爆発的な運動量を得ているが
主な生命活動を担う酸素の大部分は、人間と同じく肺に頼っている・・・ただし
中枢神経のシステムの幾許かはゴキブリだった頃のままであり、
すなわち肉体のコントロールを脳ではなく、胸部の食道下神経節に任せている
故におジャフォーマーは例え首を切り落とされても、躯だけで活動を続けることができる
”食道下神経節が無事で、肺の入り口が開いている限りは”
つまりおジャフォーマー唯一の急所は「喉」
食道下神経節を潰し、肺への酸素供給を断つことが、彼等を駆逐する最も効率的な手段なのである

おジャフォーマーの唯一の弱点を、狙いすました攻撃で撃ち抜いた田中海王
これは偶然なのか?それとも昆虫の知識として持っていたものなのか?

およそ偶然とは考えられない
かといって、物心づいた時から武の道一筋に明け暮れてきた彼が、昆虫博士のような知識を持っていたとも考えにくい
そもそも初めて目にするおジャフォーマーを、「この敵はゴキブリである」と認識できるかどうかも定かではないハズ
それはまるで、「おジャフォーマー」という敵がこの地に現れる事を

前もって知っていたかのような対処であった

バカァッ!!
倒された仲間の仇討ちと言わんばかりに、田中海王へと猛スピードで殺到する無数の黒い殺意達
物凄い数である。田中海王を中心に、村の大通りがあっという間に数百匹のおジャフォーマーによって埋め尽くされた
だがプロ野球選手ばりに腰の入ったフルスイングで石棍棒を振り抜くも、棍棒は標的にダメージを与えるどころか、その肉体に触れた端から粉々に砕けてしまう

奥義を極めた者は、カノン砲の直撃にも耐える肉体を手に入れると言われる「金剛拳」
最高師範としてその印可を賜った田中海王にとって、石棍棒で殴られることなど蚊に刺された程にも感じはしない

田中海王  「次!」

ゴシャッ!!

田中海王  「おいおい。それだけか?」

一匹のおジャフォーマーを羽交い締めにした田中海王に対し、「仲間を離せ」とばかりに群れをなして殴り掛かるおジャフォーマー達
だが田中海王は雨あられと叩きつけられる石棍棒の連打を涼しい顔で受けながら、渾身の力を込めておジャフォーマーの首を締め上げていく

田中海王  「何を思って殴りかかっている・・・仲間思いか?命令か?
        それとも俺達人間が憎いだけか?俺はな・・・・ゴキブリども
        
俺の修行時代、世話になったたくさんの人達がこの村にはいる
        我が友が命をかけて護り続けてきた平和が、この村にはある」

まだ若かった修行時代、田中海王が親友ブイス・リーと寝食を共にしたのがこの村の道場であった
厳しくも優しかった、面倒見の良い先輩達
いつもからあげ弁当を安くしてくれた気のいい弁当屋の店主
稽古一徹の武骨者で、声をかけることもできなかった意中のマドンナ

この村には、彼の青春の思い出の全てが詰まっていた

田中海王  「例え相手が100万の大軍勢だろうと―
        
この村のすべての人々の居場所を・・・笑顔を護る

        それを脅かすテロリストどもは
        グラップラーだろうがゴキブリだろうが宇宙人だろうが
        必ず見つけ出し、どこまでも追い詰め―
        
例え便所に隠れていても息の根を止めてやる!」

おジャフォーマーには人間の言葉は理解できない。田中海王の言わんとしていることは何ひとつ伝わらなかっただろう
だがその断固たる決意と覚悟・・・・否
圧倒的怒りの感情を本能で感じ取ったのか
そこまでの攻撃一辺倒から一転。棍棒を放り投げると、我先にと蜘蛛の子を散らすように彼から離れ始めた―
その瞬間だった





????  「囮役ご苦労だった小太り。あとは任せろ
        
氷の監獄
アイス・プリズン

バキバキバキバキバキバキバキ・・・!

逃げ出したおジャフォーマーの一匹が、突如として全身氷漬けになったかと思うと、その個体を中心として瞬く間に体積を増していく氷柱
轟音と共に成長を続けるそれは、その場に密集していた数百匹のおジャフォーマーを飲み込みながらあっという間に村の大通り全体を覆い尽くし、
やがて天を穿つほどの巨大な氷の山を形成した

????  「やりな赤髪。それともコイツを破壊できる自信はないか?」
????  「舐めるなよ。一撃だ!」

路地裏からゆらりとその場に現れた一人の男と、その男に促されて更に別の路地裏から男がもう一人
後から現れた男の、燃えるような真紅の髪に我々は見覚えがあった
ズシンッ!!!
まるで地面が跳ねたかと思うほどの強烈な衝撃
それが男の震脚によってもたらされたものだと理解した次の瞬間、氷山の表面に見る見る無数のヒビが走る
凄まじい轟音と共に、一瞬で何万という欠片となって砕け散るその巨大な体積!
ガシャアアアアアアアアアアン!!!!

ブイス・リー
中国 河北省 ♂ 183cm 82kg
グラップラークラス 近接戦闘型『グラップラー』
梁山泊 第2席

「?撼突撃」(ほうかんとつげき)
山をも崩し、揺るがすという意味
八極拳の持つ驚異的な威力を例えた言葉だが、
この男程のグラップラーが八極拳を修めた場合、その言葉は比喩ではなく現実のものとなる




????  「小太りが囮になって一箇所に集められるだけ連中を集め、
        俺の魔法で一網打尽に捕らえたところを
        赤髪の攻撃力で一発粉砕・・・・ククククク・・・・
        
急造チームにしてはなかなかの連携じゃねーの下僕ども」

田中海王  「誰が小太りで誰が下僕だ!誰が!」
ブイス・リー 「仲間になったからって調子に乗ってんじゃねえぞ」

その強さ、まさに圧巻と言うべきか
村を襲ったおジャフォーマーの群れは、居合わせた僅か3人のグラップラーの手によって為す術なく全滅することとなった
一人一人の持つ能力がそれぞれ凄まじいのはもちろんだが、真に恐るべきはその見事な連携、すなわちコンビネーションであろう
田中海王とブイス・リーは憎まれ口を叩きつつも、作戦を立案した男の卓越した手腕を認めざるを得なかった

後部     「さて・・・チーム”後部様と愉快な下僕達”打って出るぞ
        
レッツパーリー!!!」

後部景吾
日本 東京 ♂ 175cm 62kg
グラップラークラス 近接戦闘型『グラップラー』
+大属性クラス『アイスマスター』ハイブリッド

元・鷹田モンスター軍団 No1




一体さん  「北斗剛掌波!シンノスケ!マリーの傍から決して離れるなよ!
        なにせこの数だ。俺でも何匹かの撃ち漏らしは必ず出る!」
シンノスケ 「任せて!言われなくたって・・・
        もうこれ以上マリー姉ちゃんにはカスリ傷ひとつつけさせやしない!」

J       「フラッシュ・ピストン・マッハパンチーッ!!
        一匹一匹の戦闘力はA級そこそこか。対処自体は難しくはないが・・・
        
いかんせん数が多すぎる!
        
いつになったら止む?この終わりのない波状攻撃!!
        このままスタミナが切れれば、いくら一体さんが居てもヤバイぞこれは」

僅かたりとも間を空けることなく次々と押し寄せるおジャフォーマーの群れは、まさしく終わりの見えない漆黒の波濤
一瞬たりとも油断すれば、地獄へと飲み込まれてしまう死の波である
一匹一匹の戦闘力で言えば、彼等のそれはS級グラップラーであるシンノスケ達にとって決して脅威と言えるものではない
しかし彼等は自分の命に対する執着が一切ない

すなわち人間のグラップラーであれば恐怖によって少なからず生じる、躊躇や逃走などの要素が存在しないという事
それ故の絶え間ない波状攻撃。
つまりシンノスケ達はコンマ秒たりとも息をつく暇がない
もはや戦闘開始からどれほどの時間が経過したのかもわからぬ程、シンノスケ達は眼前に襲い来る敵を無心で切り伏せ続けていた
一体さんやシロウ、メタル太といった強力な範囲攻撃を持つグラップラーを要する一行ではあったが、全方位をグルリと包囲されたこの状況
自分を中心に全方位をカバーするような攻撃は味方がいるので使えない、各々が一方向に対して強烈な一撃を放ってもあまり効果的とはいえず、
「数」という圧倒的な力を前に、体力も集中力も次第に消耗し始めていた

鷹田総統  「随分とお疲れのようだな諸君。後続のおジャフォーマーはまだまだ控えているぞ?」

そう言った鷹田総統が遥か後方に視線を送ると、そこには更に地平線を埋め尽くすかのような漆黒の大群が押し寄せていた
視界の端にそれを捉えたシンノスケに、それまで気張って押さえ込んでいた精神的疲労がどっと吹き出す
あの大群を全滅させればこの攻撃は止むのか?
いや、この恐るべき黒衣の首領が、一体さん相手にそんな甘い見立てで増援を配置するハズがない
あの倍か?それとも3倍か?それとも・・・
絶望的な状況に、先程まで羽根のようだった手足が鉛のように重くなるのを感じるシンノスケ
なんとかこの場から離脱する手段はないかと、新手の増援とは真逆の方向に目を見やった時
そこに広がっていた光景に、自分の心が折れる音を確かに聞いた


その目に映ったのは、高くそびえ立った崖の上を所狭しと埋め尽くす漆黒の大軍の姿
もはや退路も絶たれたかと、最後まで戦う覚悟を決めるシンノスケだったが、次の瞬間
望遠モードでその大軍の姿を捉えたメタル太が大声で叫んだ









メタル太  「なんだアレは・・・おジャフォーマーじゃないぞ・・・
       
なんだ!?あの黒ずくめの軍団は!!?」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
我が目を疑うメタル太。崖の上に陣取っていたのはおジャフォーマーではなく、
漆黒の全身甲冑に身を包み、バイクに跨った謎の一団だった

メタル太  「いや待てよ・・・あのバイク見たことあるぞ。確か・・・確か・・・・!」

生前はミリタリーマニアの一面を持っていた、鶴来隕石としての記憶回路を辿るメタル太
ガチリ、とその記憶とメタル太のデータベースが合致した瞬間、シンノスケ達を巨大な影が覆った

それは巨大な質量が上空に現れたことによって出来た影
空を見上げたシンノスケ達の表情が、一瞬にして絶望のそれから歓喜へと塗り替えられる
そこに鎮座する巨大な鉄の塊から発せられた声は、
日本国民ならば誰しも聞き覚えのある、頼もしさと慈愛に満ち溢れた声だった


???? 『日本帝国陸軍正規採用、主力戦闘バイク
       
「トライチェイサー20XX』そして・・・』


溥儀    『疑似ライダーシステム”オルタナティブ”!!
       鷹田総統よ。京都での借りを返しにきたぞ』

ハナワ卿 「データ解析した閻王殿のアドベントカードとライダーシステムを基本に、
       ドイツのアイゼンリッターとの共同開発で完成した次世代型パワードスーツ・・・
       なんとか大一番に量産化が間に合いましたな」

溥儀    「装着すれば一般人でもA級グラップラー相当の戦闘力を得られる代物よ
       惜しむらくはこれが京都襲撃以前に完成さえしておれば
な・・・・」
西条    「上様、過ぎ去ったことをいくら悔やんでも過去は変わりませぬ
       今はこの新たなる力で、未来を護ることだけに邁進なされませ」
溥儀    「左様であるな・・・情けないところを見せてすまぬ西条
       
全軍戦闘隊形!目標おジャフォーマ―!」
ターリブ老 「大日本帝国陸軍・鋼鉄騎兵団!出るぞい!」

ターリブ・ウッディーン
アラブ首長国連邦  ♂ 182cm 77kg
グラップラークラス 近接戦闘型『ランサー』
元・京都二強グラップラー 「槍のターリブ」

溥儀    「突撃せよ!!!」

BGM:コードギアス反逆のルルーシュ 「Previous Notice」
バオンッ!!!!

さながらチンギス・ハーンか源義経か
主君の号令と共に、ほぼ垂直に切り立った断崖絶壁を平野を征くが如く駆け下る鋼鉄の騎兵達
猛スピードで地表ヘと到達した漆黒の騎士団は、そのまま速度を緩めることなくおジャフォーマーの群れへと雪崩込んでいく

シンノスケ 「ラストエンペラー!上様だよ!一体さん!!」
一体さん  「フッ、あの野郎・・・10年前の時と同じまるっきりタイミングだぜ
        まさか狙ってやってんじゃないだろうな」





阿部隆和  「これはまた面白いことになってますな閣下・・・報告に参りました
        中国全土に放ったおジャフォーマーですが、
        各地の要衝にてあの黒い甲冑の軍団を率いた手練のグラップラーが出現
        こちらの考えを知っていたかのような完璧な配備で、その尽くが迎撃されています」

突如として現れた漆黒の騎士団の正体は、日本帝国将軍足利溥儀の率いる軍勢だった
完全な奇襲のつもりだったおジャフォーマーの大放出を、完璧に読み切られた形で迎撃布陣を敷かれた鷹田総統
いつの間にか総統の傍に控えていた阿部隆和が、ここだけではなく中国各地が同じ状況であることを彼に伝える。相変わらず神出鬼没の男である
しかし当の総統の表情に焦りや憤怒といった感情は見られず、むしろ眼下に繰り広げられるこの状況を心から愉しんでるとしか思えない悦楽に満ちていた

鷹田総統  「ハハハハ・・・・すごいな!興奮するな阿部君!見たまえこの状況を!
        私の奇襲が完璧に読み切られていた!キミはこれをどう思うかね?
        確かに足利溥儀は治世の名君であるだけでなく、
        軍略家としても稀に見る才覚を持つ傑物ではあるが、
        流石にこれを彼の采配と見るのは無理があるだろう
        
ならば考えられる可能性はただひとつ・・・


        誰かが私にチェスを挑んできているのか」

その眼力インサイトは全てを見透かす・・・・!
TO BE CONTINUED・・・