太平    「いいのか?このまま俺達の旅に付き合ってくれて」
J      「あぁ。もともと任務終了後はお前達を助けるように
       剣聖から頼まれていたんでな。隕石、お前もいいな?」

隕石    「もちろんだ。鷹田モンスター軍団・・・ッッ!
       奴等と戦う為に京へ行くと言うのなら喜んで同行しよう」

シンノスケ「ありがとう。改めてよろしくお願いしますJさん、隕石さん」

GX−9900の機動とサテライトシステムの使用―あの破壊劇から一夜が明けた
「鶴来博士の救出」という任務は失敗に終わったが、GX−9900は「鶴来隕石の力」として青幇の手に戻ってきた
任務を終えたJと隕石はヒムラーからの示唆もあり、京へと向かうシンノスケ達に同行することとなる
全ては
打倒・鷹田モンスター軍団の為に
一刻も早く京へと辿りつき、大日本帝国将軍・足利溥儀の助力を得るのだ




長野県を抜け、岐阜へ入ろうという県境
今日の宿をとろうと宿場街に入ったシンノスケ達は、そこで思わぬモノを目撃することになった
シャッ!!ギギィンッ!ババッ!
人混みの中を高速で駆け抜ける3つの影。どうやら逃げる一人を二人が追いかけているらしい

太平    「こんな街中で戦闘だと?まさかモンスター軍団か!」
J      「いや違う・・・あの制服は
IGPO
(国際グラップラー警察)
       見ろ!追われているのは国際指名手配犯「お3ち獨歩」!
       紅華会残党のテロリストだッ!」

そう
グラップラー警察とグラップラー犯罪者の捕り物劇である






ション   「流石に百戦錬磨・・・逃げ足は速いな。だが逃がすかよ!
       脇道から回り込めシルバー!挟み討ちにするぞ!」

シルバー 「わ、わかったション!任せてくれ!」

逃げる犯人を追走する二人のグラップラー警察。ションとシルバーはともに獣人種『ワードッグ』(犬人間)だ
ワードッグは人間の数千倍とも言われる優れた嗅覚を持っているため、捜査官や警察官になる者が多い。まさに天職である
それがグラップラー能力者となれば尚のこと。そうした者達は対グラップラー犯罪者取締官として日々悪と戦っているのだ

シルバー 「そこまでだお3ち獨歩!建造物連続爆破の罪で逮捕する!」
お3ち   「若造が!舐めんじゃねええッ!」

回り込んでお3ちの眼前に立ったシルバーが、鞘からスラリと刀を抜き放つ
後方から追走してきたションも同じく刀を抜く。どうやら彼等のグラップラークラスはシンノスケ達同様「セイバー」のようだ
ズギャッ!!
横一文字に放ったシルバーの一撃はなかなかの鋭さ。殴りかかってきたお3ちの右腕を一撃のもとに吹き飛ばす
もんどりうって地面に転げるお3ち。揺るがない決着の一撃だ、と思わず緊張の糸を緩めるシルバー

シルバー 「やったぜション!!」
ション   「バカッッ!なに油断してる!」
シルバー 「え?」

シルバーを叱り飛ばすション。なんと倒れたお3ちがすぐに立ち上がり、右腕の痛みなどまるで無いかのように走り出したではないか

お3ち   「ハッ、甘えな若造!俺の右手はもとから義手さ!
       こいつはトカゲの尻尾切りみてえなモンでよ!
       お前みたいなウッカリ者の虚をつくにはもってこいなのよ!」
シルバー 「そ、そんな・・・しまった!」

逃走にかけては幾度もの修羅場をくぐりぬけてきたお3ち。今回もシルバーの油断をついて見事に逃げ仰せる・・・・
そう思った次の瞬間
ゆらり、と。音も無くお3ちの眼前に立ちはだかった1人の男
シルバー、ションと同じワードッグ種族。黒いロングコートの制服をまとった姿は凄然として隙が見当たらない

???  「やれやれ・・・お前はいつまで経っても成長せんなシルバー
       
銀河一刀流・狼牙疾風斬!」

シュバァッッ!!!
眼前から凄まじい突風が吹いたかと、お3ちは突然足をもつらせて前のめりに転倒した
否。もつらせて転んだのではない
彼の両足は膝から下が両断され、なくなっていた

お3ち   「ぎゃあああああ!俺の足が!俺の足が!
       
痛えよお!痛えよおおおおおお!!!」
トキー   「紅華会残党お3ち獨歩。建造物連続爆破の罪で逮捕する」

圧倒的スピードの剣閃が生みだすカマイタチ現象である
激痛に泣き叫ぶお3ちを素早く拘束し、後ろ手に手錠をかける男。あまりにも見事な手際、そして先の攻撃
カチン、と鞘に納められたその刀は、鍔に狼の彫刻が施された見るも美しい刀剣であった

太平    「あれは銀河一刀流・・・!見たかシンノスケ
       
トキー・クルーカー殿に間違いない!」

シンノスケ「IGPO最強のグラップラー・・・異名は”地獄の番犬”
       ヒムラー師匠とは技を競いあったライバル同士だったという・・・
       先輩!ここは是非ともご挨拶に参りましょう!」

男の名はトキー・クルーカー
IGPOの誇る最強のグラップラーにして特務捜査官。そして若い頃は剣聖・ヒムラーとお互いを高め合った剣の達人である
その犯人逮捕の瞬間を偶然にも目撃した太平とシンノスケは、噂に名高い技量に感動しつつ話しかけるのだった






トキー   「ほう、巡り合わせだな。君達のことはヒムラーから聞いていたよ
       筋の良い弟子を二人とったとな」

太平    「とんでもありません。我等などまだまだ未熟者の身ゆえ」
シンノスケ「トキー殿の剣技をこの目で見れ、感動に打ち震えております」

太平とシンノスケの事を知っていたというトキー・クルーカー。大らかで朗らかな人格は、初対面でもその器の大きさを十分に感じさせた
やや興奮気味に話しかける二人の相手をしつつ、トキーは後方からやってきたシルバーとションに目をやった

トキー   「あぁ紹介しよう。私の弟子、ションとシルバーだ
       奇しくも弟子の数までヒムラーと同じだな
       まぁ・・・残念ながら君達のように優秀な弟子ではないがね」

若き特務捜査官、シルバーとションはトキーの直弟子であった。丁度ヒムラーにとっての太平・シンノスケにあたる
互いにペコリと会釈する弟子同士。トキーは謙遜したが、ションもシルバーも実力は水準以上のものを秘めている
流石に不名誉な紹介をされたのが気に食わなかったのか、ションがぶすくれ顔で文句を言う

ション   「それは随分とひどい物言いですよボス!
       ”優秀じゃない弟子”はシルバーだけでしょう

       今のだってコイツさえ油断しなけりゃ・・・・・なぁオイ?
       いい加減しっかりしてくれよな、”流星”シルバー!」
シルバー 「う・・・も、申し訳ない・・・」

バツが悪そうに下を向き、ポリポリと首筋をかくシルバー
今の会話を聞いて「ん?」と思ったシンノスケは、それを直接聞いてみた

シンノスケ「あの、今の”流星”ってなんですか?」
シルバー 「あぅ、それはその・・・任務上のコードネームっす
       ションは
”彗星” そして俺が”流星”ってな具合で」
太平    「へぇなるほど。でも”流星”なんてカッコイイですね!」
シルバー 「ち、違うんす・・・全然カッコよくないんすよ・・・あの・・・」

恥ずかしそうに何度も頭をかきながら。シルバーは伏目がちにこう言った

シルバー 「俺いっつもやる気だけカラ回りなもんだから・・・
       
”一瞬だけ光ってすぐ燃え尽きてしまう”
       だから”流星”なんす。カッコよくなんかないんすよ」



第6話「流星、夜を切り裂いて」


トキー   「なるほどそうか、溥儀様に謁見するために京にな・・・
       話はわかった。今晩は我々と一緒のホテルに泊まるといい
       君達が出会ったという鷹田総統の話も詳しく聞きたいしな」

見事に指名手配犯を捕まえたIGPOの特務警察官達。そのリーダーはヒムラーと並び称される剣豪・トキー・クルーカーであった
もともとこの日の宿を探して街にやってきたシンノスケ達である
話を聞いたトキーの提案により、今晩は彼等と同じホテルに宿を取る事となった

やがて日も落ち、7人がホテルへと戻ったその頃―
薄暗い部屋、ベッドの上で憎悪に震える男がいた

お3ち   「チクショウあの犬野郎・・・よくも俺の足を・・・俺の足を!」

お3ち獨歩
両足を切断された彼はすぐさま地元の救急病院に搬送
上半身にグラップラー用の拘束服を着せられての緊急手術を行われ、その接合手術を終えていた
なにせ切れ味鋭いトキーの剣技。まるで鏡のように綺麗に両断された切断面は問題なくくっつき、
グラップラーであれば完治に一ヶ月程度。更にそこから半年ほどのリハビリで再び歩けるようになるだろう
もっともそれは日常生活レベルの話。かつてのような速度で走ったり、跳んだりすることは難しいといえた

現在。彼は特別隔離病棟の一室に拘束服を着せられたままベッドに括り付けられ、身動きひとつできない状態
明日の早朝にやってくる護送車で、IGPO本部へと送られるのを待つしかない身である

お3ち   「クソが。まな板の上の鯉ってなぁまさにこの事だな・・・
       臭い飯食う前になんとかあの犬共に一泡吹かせたかったぜ」

怒りと憎悪で覚醒していた意識が再び麻酔で薄れていこうとした
まさにその時だった

???  「フフフ・・・復讐したいですか?あの犬共に」
お3ち   「!?」

口から心臓が飛び出すほど仰天するお3ち
いつのまに出現したのか。はじめからそこに居たのか。まるで幽鬼である
病室のすみに枯れ木のようにたたずむ男の影が、お3ちに語りかけてきた

お3ち   「な・・・何者だテメエは。け、警備員達は一体どうした」
???  「質問しているのはこっちですよ。連続爆破犯お3ち獨歩
       彼等に復讐したいですかと聞いてるんです」

はたしてこれは夢か幻か。目の前の男の出現に狼狽するお3ち
だがそれも最初のこと。すぐに落ち着きを取り戻したお3ちは男を見据えながら答えた

お3ち   「アンタがそれを手伝ってくれるってのかい?兄ちゃん
       だったら答えは決まってる。俺に出来ることならなんでもするぜ」

暗闇の中、男の口の両端がわずかに吊りあがる
男が何者なのかお3ちには分らない。分るのは、この男ならばあのIGPOの犬共を倒せるという事だけ
それだけ男の発する小宇宙は強大だったのだ

六月    「話が早くて助かる。Mrお3ち
       貴方を爆弾のスペシャリストとして我等のボスが欲しています
       僕の名は邦条六月・・・鷹田モンスター軍団の殺し屋

       またの名を”イカれた黒髪の蜘蛛”!」






シルバー  「そらこうだ!アタック!蒼眼の黒竜!」
子供1    「うわーすごい逆転コンボ!この兄ちゃん強えー」
子供2    「俺俺!犬の兄ちゃん、次は俺と勝負してよ!」

岐阜の宿場街。駄菓子屋の前で楽しそうにはしゃぐ子供達
子供達とにカードゲームに興じているのは、あのIGPOの若き特務官・シルバーである

シンノスケ 「あ、遊戯帝デュエルグラップラーズですね」
太平     「へえ、今はこんな強力なカードが出てんのか
        俺も修行に入る前は少しかじってたんだぜ」

輪の中にシンノスケと太平も加わり、観戦しながらああだこうだと談笑する

前日連続爆破指名手配犯お3ちを逮捕したIGPOの3人は、今日本部へと帰還することになっていた
迎えのヘリコプターが到着するまではまだ時間があるという事もあり、
年齢の近いシンノスケ、太平、シルバーが交流を深めようと街へとくり出したのだ
そこで見かけた駄菓子屋の子供達に思わず童心に返り、こういう状況になったワケである

シンノスケ 「ションさんも一緒に来ればよかったのに」
シルバー  「すんません。ションはあの通りクールなヤツで・・・
        あいつの家は代々警察エリートで、こういうゲームの類は
        一切やったことないって前に聞いたことがあります」
太平     「ふーん家柄か。シルバーはどうして特務警察になろうと?」

太平にそう聞かれたシルバーは、いつもの調子で頭をかきながら照れくさそうに答える

シルバー  「ヘヘヘなんていうか月並みなんすけど。俺、子供の頃に
        そう・・・・アレはちょうどこの子達くらいの頃ですかね
        偶然街中で発生したテロ事件に巻き込まれたことがあって
        その時グラップラー警察に命を助けられたんですよ」
太平     「なるほど。それで幼心に感動したと」
シルバー  「まぁそんなところです。優しくて、頼もしくて、カッコよくて・・・
        ”自分もいつかこのお兄ちゃんみたいになりたい”って」
シンノスケ 「じゃあ子供の頃からの夢を叶えたんですね」
シルバー  「はは・・・理想と違ってカッコよくもないし頼りないですけどね
        ボウヤは大きくなったら何になりたい?うん?」

照れをかくして、近くにいた子供の髪をくしゃくしゃと撫でるシルバー
その時だった
ドッガァ――――ン!!!
昼下がりの平穏を引き裂く、とてつもない爆発音!
何事かと音が聞こえた方向を振り向けば、そこはシルバー達が滞在していたホテルの方角であった
もくもくと噴きあがる黒煙。距離的に見ても、爆発元の建造物はあのホテルにほぼ間違いない
慌てて携帯でションとトキーに連絡を入れるシルバーだが、二人は通話に出ない

シルバー  「ボスもションも出ない・・・どうなってるんだ?」
太平     「くそっ何が起きた!?Jと隕石は無事なのか?」
シンノスケ 「シルバーさん、先輩!急いでホテルへ戻りましょう!」

状況を確かめるべく、ホテルへ戻ろうとする3人
その動きを止めたのは背後からかかってきた声だった

六月     「その必要はありませんよ。こんなところにいましたか3匹目」
お3ち    「くっくっく。お前さんで最後だぜェ小僧。覚悟しろや」
シルバー  「な・・・・お前は・・・・お3ち獨歩!?
        
ボ、ボス!ション!」

シンノスケ 「そんな・・・・Jさん!隕石さん!」

そこにいたのは鷹田モンスター軍団の殺し屋・邦条六月と連続爆破犯お3ち獨歩
そして蜘蛛の糸のような粘着質の物体でその身柄を拘束された仲間達だった

シルバー  「お3ち獨歩!どうして・・・その両脚いったい・・・」
お3ち    「ククク・・・ドムみてえで格好いいだろ?
        下半身完全防護式の超高速ジェットホバーだそうだ
        おかげでこと戦闘力に関しては以前よりも強くなっちまったよ」

ここに居てはいけない男の出現に、思わず目を見開くシルバー
巨大なスカート型の金属によって覆われたお3ちの下半身。その正体は対グラップラー戦闘用のジェットホバー
トキーの剣に両脚を断たれたお3ちは、この装備品によって以前以上の戦闘力を手に入れて復活を遂げたのだった

シルバー  「な・・・拘束中のお前に誰がそんなモノを!?」
六月     「僕ですよ。初めましてIGPOの犬くん、剣聖の弟子さん
        僕は邦条六月。鷹田モンスター軍団の殺し屋をやってます」
シンノスケ 「モンスター軍団!」
太平     「俺達のことも知っているってか・・・刺客ってワケかよ」

細身で長身の男がゆらりと前に出る。ツンツンに立てた髪型、顔面に蜘蛛のタトゥー
モンスター軍団の殺し屋と聞いて身構える太平とシンノスケ。だがしかし
たったひとりシルバーだけは、男の人相を見るや全身にどっと冷たい汗が吹き出すのだった

シルバー  「”職業・殺し屋”、”イカれた黒髪の蜘蛛”・・・
        特Aクラス指名手配犯・邦条六月かッ!」

トキー    「そ、その通りだ・・・シルバー、まだお前達の敵う相手ではない
        太平、シンノスケくん達と逃げろ!そして本部に応援を頼め!」

粘着質の物体でグルグル巻きに拘束されたトキーがしぼりだすような声を上げる。どうやら意識はあるようだ
しかしその事実にホッとしたのも一瞬の事。今のこの危機的状況から脱出する方法を何とか考えねばならない
ピンチの時こそクールになれ。プロフェッショナルにおいて最も重要なのは状況判断力なのだ

シルバー  「・・・・・・・・太平さんシンノスケくん。走りに自信は?」
太平     「仲間をおいて逃げるってのか?悪いがそれは聞けねえな」
シンノスケ 「戦いましょうシルバーさん。3人がかりなら勝機も見出せます」

シルバーの問いには答えず、斬岩剣と水殻を抜き放つ二人。Jと隕石も人質に取られているのだから当然である
しかしそんな二人をトキーが一喝する

トキー   「ダメだ!君達を死なせてはヒムラーにも申し訳が立たん!
       ここで君達が戦っても死体が4つから7つに増えるだけだ!」

J      「行け太平、シンノスケ。お前等にゃあ大事な使命があんだろうが」
ション   「見捨てろって言ってんじゃねーぜ?すぐ応援連れて助けに来い」
隕石    「判断力を鈍らせるな。現状で最適の選択肢を選び出すんだ!」




太平    「・・・・・・くッ!」
シンノスケ 「先輩・・・」

J、隕石、ションともまだ健在。4人の説得によってようやく切っ先をやや落とした二人
敵はトキー・クルーカーを生け捕りにするほどの強者。実力差を考えれば、今の自分達は人間に挑みかかるノミのようなものである
そんなものは勇気でも何でもない。 「無謀」というのだ
しかしシルバーらがこの場から離脱しようとしたその時、場の空気が一変した

六月    「ンッンン〜。部下思いの上司に麗しの友情・・・いいですねェ
       でも・・・・
逃すと思ってるんですか?」

全身から発せられる凄まじい殺気。グラップラーのそれではなく、まさに「殺し屋」としての本能
六月がズボンのポケットから何かを取り出す。”それ”にはシンノスケが見覚えがあった
そう、かつて兄のように慕っていた男が見せてくれたことがある。世界最強のあのグラップラーが

シンノスケ 「アドベントカード!こいつ・・・・・
       
”ライダー”かッッ!」
六月    「その通り。アドベント」
『アドベント』

ドドドドドドドドドドドドドド!!!
手首に装着されたバイザーにカードをスラッシュするやいなや、アスファルトの舗装を突き破って地中から姿を現す巨大な影
蜘蛛型契約モンスター
『デススッパイダー』
威圧感漂う重厚なフォルムに、シルバーら3人はただ唖然とするしかない

六月    「圧倒的な力で蹂躙し、恐怖と絶望の中で踏み潰す・・・
       
あぁ・・・・なんて卑しい仕事なんだ」

破壊のカタルシスに全身を震わせる六月。狂気と快感に満ちたその眼差しをターゲット3人へと向けた

ブシャアアアアアアアアアアアアアアア!!
その巨大な口から凄まじい勢いで粘液を発射するデスすっぱいダー。トキー達を生け捕りにした蜘蛛の糸である
街中で突如として出現したモンスターと、それと戦う3人のグラップラー。辺りは一瞬にして人々逃げ惑う大パニックと化した

六月    「思う存分暴れろすっぱいダー。彼等の悲鳴を聞かせてくれ」
太平    「チッ外道が。無関係の人間もお構いなしかよ!」
シルバー 「好きにやらせはしない!はああああああッ!!」

蜘蛛の糸を掻い潜ってデスすっぱいダーの身体を駆け上がったシルバー。六月の背後から斬りかかるが・・・
ガキィインッ!!

六月    「なかなかの太刀筋・・・しかし相手が悪い」
シルバー 『完璧なタイミングだったのに・・・強いッ!』

後ろ向きのまま、左手に持っていた錫杖のような武器でシルバーの一撃を防ぐ六月
まるで背中に目がついているかのようにそのまま無造作になぎ払い、シルバーを押し返す

シンノスケ「シルバーさん!今加勢します!」
お3ち   「おおっと小僧。お前の相手は俺がしてやんよ」


ふおん!という風切り音の直後、シンノスケの耳のすぐ後ろから聞こえてきた声
反射的に跳び退いて地面に伏せると、さっきまで立っていた場所が閃光の爆風が吹き飛んだ。お3ち得意の爆薬攻撃だ
下半身に対グラップラー戦闘用の核熱ジェットホバーを履いたお3ちはまさに疾風。シンノスケの目にも留まらぬ速さである

太平    「シンノスケ、ハゲはお前に預けた!シルバーの加勢は俺が!」
六月    「小虫が1匹から2匹になったところで・・・すっぱいダー!」

超高速のボンバーマン・お3ち獨歩の相手を弟弟子に任せ、シルバーの加勢に走る太平
背後から六月を攻めたシルバーと挟撃するように、正面からデスすっぱいダーの身体を駆け上がろうとする
眼前の獲物を補足した巨獣がその蜘蛛の糸を勢いよく噴射
しかしスピードも遅く、軌道も直線的な攻撃・・・・卓越したセイバーのグラップラーならば、

避けるよりも剣で斬り裂こうとするのが心情というもの

トキー   「ダメだ太平!斬るな避けろ!!」
太平    「え!?・・・・・・こ、こりゃああ?」

だがトキーの助言は時僅かに遅く
すっぱいダーの糸を斬った水殻の刀身には、
その糸がべっとりと絡み付いていた
まるで綿菓子のような姿になった水殻は刀剣としての殺傷能力を失い、それは戦闘中に除去するには不可能な代物だった
太平、そして先に戦って敗れたトキーとションは、蜘蛛の糸の持つ強力な粘着性を甘く見ていたのだ

六月    「得物を失ったウェポンマスタークラスは無力・・・まずは一匹」
太平    「・・・・コイツはマズった」

六月の言う通り。武器を使用する「ウェポンマスター」のクラスは、得物がなくばそのグラップラー能力を発揮できない
シンノスケはなんとかお3ちと渡りあえているものの、太平は戦闘力を削がれ、シルバーは格上の六月の実力に苦戦
最初に逃げろと言ったトキーの忠告通り、3人の劣勢は火を見るより明らかだった




シルバー 「太平さんさがって!民間人の避難を手助けしてください!
       こんな連中に無関係な人達を傷つけさせるワケにはッ!」

ガッ!ガキィン!
『罪無き人々を理不尽な暴力から守る!
国際グラップラー警察機構の戦士として・・・否!その前にひとりの人間として
その強く揺るがぬ意志がそうさせるのか、いつになく冴え渡るシルバーの剣
最初は余裕で相手をしていた六月も、殺すつもりの攻撃を何度も防がれてくると次第に苛立ちの色が見え始めてきた

六月    「鬱陶しい!他人を守るために力を発揮するタイプの人間か
       だが・・・・・そういう人間にはこういう戦い方もある」

『ブリザード』     『バイト』
『ブリザードクラッシュ』
邪悪な笑みを浮かべ、取り出した2枚のカードをバイザーにスラッシュさせた六月が、シルバーに向かって跳んだ
獣の口のごとく開いた両脚で相手を挟み込むという蹴り技。その脚に纏うはカードにより付与された超低温の凍気
瞬時に凍らせた獲物をその顎で噛み砕く必殺攻撃!

まともに喰らえば一撃で勝負が決するであろうフェイバリットアタックである。なんとか回避しようとしたシルバーだったが、

シルバー 「しまっ・・・・そういうことか!」

瞬間。何かに気付いた彼は何故かその足を止め、ブリザードクラッシュの真正面で仁王立ちとなった
凍結顎砕ッ!ブリザードクラッシュ!
”バキィン!” ズガァアッッ!!!
剣で受け止めなんとか直撃こそは免れたものの、
凍らされた剣は蹴りによって叩き折られ、自身もまた大ダメージを負って吹き飛ばされてしまうシルバー

何故に彼は回避行動を途中でやめたのか?それもそのハズ

六月    「クク・・・そう。あなたなら受け止めるしかないでしょうね
       だって今の攻撃を避けてしまったら・・・・・
       
後ろの民間人どもに当たりますものネェ」

六月は最初から民間人に当たる軌道で技を繰り出したのだ。シルバーの性格ならこういう結果になるということを見越して
よろよろと起き上がったシルバーが歯を食いしばって六月を睨みつける。しかしその身体は激しくかじかみ、既に手足の感覚がない

シルバー 「おの・・・れ・・・卑怯・・・・な」
六月    「卑怯大いに結構。だって私、職業殺し屋ですから
       あなた生意気ですからこのまま楽には殺しませんよ?
       冥土の土産にあなたが守ろうとしたモノ・・・・・
       それを目の前で残酷に吹き飛ばしてあげましょう」

恐ろしく冷たい目をしたまま、逃げ惑う民間人の一画にむけて錫杖を構える六月。その先端に凍気が宿る
そこに見覚えのある姿を確認したとき、シルバーの全身がざわりと総毛だった
さっき駄菓子屋で一緒にカードゲームに興じたばかりの、あの愛くるしい子供達である

”ドクン”
動悸が激しい。息が詰まる。動かない手足がビリビリと痺れる
これはもはやどうすることも出来ない現実に対する絶望か

シルバー 「や、やめ・・・・!」
六月    「ン〜。とてもいいですねェその顔・・・・
       これから死に往く人間に、これ以上ないという絶望のプレゼント
       
あぁ・・・なんて卑しい仕事なんだ」

”ドクン”
否。断じて否!
ハートは炎のビートを刻み、吐息は灼熱。動かなかった手足に熱が行き渡る

六月    「すぐにあなたもお仲間も殺してあげますからそう心配せずに
       当然民間人も全員始末します。目も覚めるような皆殺しですよ」
シルバー 「や・・・・」

”ドクンッ”
早鐘の鼓動はダメージを負った身体を鼓舞し、その四肢には熱きパワーが漲ぎる
そう。この気持ちは絶望などではない
『怒り』

六月の非道に臨界を越えたシルバーの怒りが
精神の力が肉体の限界を超えさせる!

六月    「さよなら可愛い子供達。この場に居合わせた不運を嘆きたまえ」
シルバー 「やめろォ―――――ッ!!!」

六月が子供達めがけて凍結弾を発射したその瞬間。シルバーの身体は銀色の流星と化した

六月    「なッ!?」
トキー   『・・・速い!!!』

ズギャアッ!!!!
放たれた凍結弾が子供達に到達するよりも早く
子供達を両脇に抱きかかえて、シルバーは着弾地点から跳び退いていた




シルバー 「よ、無事か?坊主ども」

何が起きているのワケもわからず、ただただ恐怖と痛みで泣き叫ぶ子供達
シルバーはそんな子供達の頭をポンポンと叩き、彼等を安心させる笑顔でこう言った

シルバー 「大丈夫・・・・大丈夫だ。兄ちゃんにまかせとけ

「お・れ・は・み・か・た・だ」

優しくも力強い微笑み。その表情に、泣き叫んでいた子供達の涙がピタリと止まる
彼等を太平に預け、くるりと六月のほうを向きなおすシルバー。その表情が一変していた

シルバー 「お前だけは許さない・・・絶対に!」

六月    『なんだコイツ・・・・さっきまでとは雰囲気が・・・?』
       「ハッ、なにを息巻いている。刀はさっき叩き折ったんですよ?
       得物がなくなったセイバーなど物の数では・・・」

シルバー 
「獣人種を舐めるな。武器を失っても俺にはこの牙がある
       例え両手両脚をもがれ、この首ひとつになろうとも・・・・・
       最後は貴様に牙を突きたて、
その喉笛を引きちぎる!」

修羅。まさしく修羅の表情
その気迫に圧倒された六月が思わず半歩身を引く
全身から立ちのぼる小宇宙はケタ外れ。およそさっきまでと同一人物とは思えなかった

キイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!
瞬間。突然場に鳴り響く謎の共鳴音
音源はシンノスケの斬岩剣、太平の水殻、そして・・・
トキーの持つ白銀の剣である

シンノスケ「な、なんだこれ?斬岩剣が・・・!?」
太平    「水殻が鳴いている!!」

J      「トキーさん!?アンタのその剣はまさか”3本目”かッ!」
トキー   「永き眠りから目覚めたか・・・真の持ち主を見つけたようだな
       シルバー!この剣をお前に託す!
その名を呼べい!」

トキーの腰に下げられた剣がまばゆい光を放つ
その刀身には先の戦いで巻きつけられたデスすっぱいダーの粘液がまだ付着していたが、そんな事は関係なかった

シルバー 「ボス!し、しかし名前と言っても・・・・!
       その剣の銘はいつも教えてくれなかったじゃないですか!」
トキー   
「今のお前ならわかるハズだ!」
シルバー 「!」

そう言われてハッと自覚するシルバー。そう、何故かわからないが確かに自分はこの剣の名を知っている
うまく言い表せないが自分は剣を必要とし、剣は自分を必要としている、そんな感覚。これぞ人剣一体の極み!
シルバーは右手を前にかざし、声高らかに”相棒”の名を呼んだ

シルバー 「来いッ!ディーソードベガ!!!

その名を呼んだ途端、弾かれるようにトキーの腰からシルバーの右手へと飛ぶ白銀の剣
”バシィッ!”
シルバーが柄を握った瞬間、発せられる光は更にその輝きを強め、刀身に絡み付いていた蜘蛛の糸はブスブスと音を立てて焼き切れた
鍔元の狼の彫刻の瞳が真紅に煌き、その口がまるで生き物のように大きく開いて遠吠えを上げる!
アオオオオオオオオオ―――――――ン!!!
(BGM:スーパーロボット大戦アイビス・ダグラスのテーマ「流星、夜を切裂いて」

隕石    「け、剣が吼えた!?」
J      「間違いない!天狼剣ディーソードベガ!」
六月    「な、なんですかコレは・・・聞いていませんよこんな事は!」
お3ち   「バカヤロウ!何ビビってボーッとしてんだ蜘蛛の兄ちゃん!
       何だか知らんがあいつはヤベエぞ!今すぐに潰さねえと!」

突然の事態に狼狽する睦月。そこは実力に開きがあっても年季の差か、先に動いたのはお3ち獨歩だった
ひゅおん!凄まじい速さでシルバーの周囲を旋回して再び大きく距離を取る、と!

なんと一瞬にしてシルバーの上下左右を取り囲むように放り投げられた無数の小型ダイナマイト!

お3ち   「へっ殺ったぜ!八方檻封爆!」
シンノスケ「しまっ・・・シルバーさん!」

ほぼドーム状にシルバーを囲んだダイナマイト群には僅かな脱出口も見えず、ダイナマイトは最早あと1秒ともたず起爆する
まさに爆弾の檻!「助からない!」とその場の誰もが目を覆ったその時!
バラバラバラァッ!数え切れないほどのダイナマイトは、
全て不発のまま地面に落下した

ゆうに50個は超えるダイナマイトの、もはや1mmほどの長さしかなくなっていた導火線は
その全てがシルバーの剣によって切り落とされていたのである

ション   「な・・・あのシルバーがあんな剣捌きを!?」

変貌した同僚の剣にションが驚愕したその直後
パァン!!
一筋の光が脇をすり抜けたかと思うと、お3ち獨歩は腹部から鮮血を撒き散らしてその場に倒れた

お3ち   「ガハッ!?な、何が起きた・・・?何も・・・見え、ね・・・」

太平    「なんて速さだ!例えるならまるで・・・・そう、”流星”!」
トキー   「そうだシルバー!流星は燃え尽きる炎なんかじゃない!
       
夜の闇を切り裂く光だ!
       
今こそお前の本当の力を見せてみろ!」
 
シルバー 「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

雄叫びとともにシルバーが跳ぶ
陽が落ち始め、赤く染まった空に軽やかに舞う剣士の姿は、子供達の目に強烈に焼きついた






六月    「すっぱいダー!ヤツを近づけさせるな!
       跳んだのは失敗でしたね!空中ではかわせまい!」

ブシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!
上空から迫るシルバー目がけ、ありったけの糸を噴射するデスすっぱいダー
勝ち誇った六月の言う通り、空中では左右に避けることも不可能のまさに格好の的である

しかし。そんな六月の予想はすぐに覆される
シルバーは剣を縦に構えると猛スピードで前方回転
その刃の車輪に触れた瞬間、蜘蛛の糸はまるでカンナ屑のように斬り裂かれて吹き飛ばされたのだ

六月    「・・・何ィッ!?」
シルバー 
「受けてみろ天狼の牙をッ!
       銀河一刀流最終奥義!!」

ズガァン!!!!!
シルバーの繰り出した一撃は真正面から飛んできた蜘蛛の糸を貫通し、そのままデスすっぱいダーの巨体ごと六月を斬り裂いた
まさに夜の闇を切り裂く銀色の流星。獲物狩る天狼の牙!

六月    「素晴らしい戦闘力!これだけの力をどうしてあなたは・・・
       ま、まったく理解できません・・・ね・・・!
ガハァッ!!」

胴を真っ二つに両断された六月は血反吐を吐いて絶命。デスすっぱいダーも暫しビクビクと痙攣した後、やがてその動きを停止した
精魂尽き果てたシルバーがその場に座り込んだ時、蜘蛛の糸に捕らわれていた仲間達も太平とシンノスケの手によって解放されてた

シルバー 「はぁ・・・はぁ・・・・」
ション   「本当に勝っちまいやがったよ・・・あのシルバーが」
トキー   「あれが本当のシルバーの力だ。あいつは性格が優しすぎる
       今までは犯罪者に対しても心のどこかで手加減していたんだろう
       初めての本気で怒れる相手に、そのリミッターが外れたのだ」

大金星を上げた部下を労おうと近寄ったトキー。しかし彼より早くシルバーを取り囲んだ人影があった

子供1   「すげえ!すげえよ犬の兄ちゃん!超カッコよかった!」
子供2   「俺も大きくなったら兄ちゃんみたいなグラップラーになるよ!」
子供3   「私もなりたい!
       そしてお兄ちゃんみたいに困ってる人達を助けてあげるの!」

興奮してシルバーに抱きついてきたのは、さっき助けたあの子供達である
キラキラと輝く瞳で恩人を見つめ、将来はシルバーのようになりたいと言う彼等に少年時代の自分をダブらせながら
やはり満面の笑みを浮かべてシルバーはこう答えた

シルバー  「あぁ。その思いさえあれば君達もきっとなれるぞ」
子供1    「本当?本当になれる?」

シルバー  「本当だとも。俺が言うんだから間違いないよ
        ねぇ、ボス?」
トキー    「フフフ・・・まったくだな
        あの時助けた小僧がよくここまで成長したものだ」

部下の言葉に思わずポリポリと鼻の頭をかきながら。トキーは頼もしく成長した少年を誇らしく見つめるのだった

TO BE CONTINUED・・・


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