太平    「ソロモンよ!私は帰ってきたァーッ!!!
       ・・・じゃなしに、帰ってきたぜ懐かしの故郷・京の都!」

シンノスケ 「先輩は7年ぶりでしたっけ?俺はえーと、5年ぶりですよ!
        早くみんなに会いたいな。母上・・・上様・・・それに・・・」

目の前を行き来する人の波。街に溢れる活気は、今まで通ってきたどの宿場街とも比べ物にならない  
太平とシンノスケは互いに抱きついて帰郷を喜び合った
大日本帝国帝都・京の都
将軍・足利溥儀の居城、金閣寺を構え、その人口密度は世界の都市中No1という日本の中枢
「世界最強の精鋭部隊」と称される溥儀禁衛隊が駐屯し、また古い寺院や神社を数多く残したこの街は
未だモンスター軍団の侵攻が及んでいない、物理的&霊的防御力ともに世界最強の城塞都市である
富士の修行場を出てから2週間。シンノスケ達はついに京へと帰ってきたのだ

J      「どうする?これからすぐ将軍様に拝謁するのか?
       お前ら一旦家に帰りたいってんなら半日くらい待つが」
シンノスケ 「いえ、すぐにお目通りしましょう
        あの時の師匠の言葉を上様に報告せねばなりません」
シルバー 「将軍様にお会いできるなんてドキドキするなぁ」
隕石    「俺も金閣寺に入れるなんて夢にも思ってなかったよ」
太平    「緊張して粗相すんなよ!・・・って俺が一番危ねえな」

民のことを第一に考えた内政手腕で「希代の名君」と呼ばれ、人心を掴む将軍足利溥儀
また世界グラップラー連盟理事でもある溥儀は、まさに彼等にとっては雲の上の人間
そんな人物と直接拝謁できるとあって、シンノスケ以外の4人にとって今日はまさに人生の記念日である
和気藹々とした雰囲気で街を歩く5人
と、そこで先頭を歩く太平の足が突然パタリと止まった





太平    「・・・見ろおい。前からものスゲエ美人が歩いてくるぜ
       
しかもメガネッ娘で巨乳で外人さんだ」

J      「メガネ属性だったのかお前。しかし本当に美人だな」
シルバー 「金閣寺から出てきましたね。どういう人なんだろう?」
隕石    「生身の身体の時にお近づきになりたかったもんだぜ」
シンノスケ 「・・・・」

目の前から歩いてくる女性の美しさに目を奪われる若者4人
スラリとしたモデルのような背格好に、男ならば注目せずにはいられないふくよかな胸
そしてその明るい茶色の髪と瞳は、彼女が日本人ではないことを示していた
シンノスケは彼女の顔をじーっと見つめ、ただ黙っているだけである

太平    「おうどうしたシンノスケ。お前も惚れちまったか?」

兄弟子がそんなシンノスケの反応をからかった、その時
こちらの食い入るような視線が気にでも障ったのか、その女性が小走りに駆け寄ってきたではないか
怒られる?いやいやこれはお近づきになるチャンスだ、と男達がドキドキしながら彼女の第一声を待つ
最初に出てきた言葉は・・・・・

???  「シンちゃんっ!!
       あなたシンちゃんじゃない?いつ帰ってきたの?」
太平    「・・・・へっ?」

女性が見つめているのはシンノスケただひとり。身構えていた4人は完全にアウトオブ眼中である
がばっ!とシンノスケの頭を両手でつかみ、その豊満なバストに思いっきり抱き込む
予想外の展開に心底羨ましそうな視線をシンノスケに送りながら、太平がぼそぼそと訪ねた

太平    「あー・・・シンノスケ、彼女はお前のお知り合いかな?」
シンノスケ 「・・・・」

???  「やだシンちゃん、たった5年で私のこと忘れちゃったの?
       
一緒にお風呂にも入ったのに・・・」

「一緒に風呂」と聞いて4人の羨望の視線が嫉妬に変わる
背後から4人分の殺気を浴びつつ、シンノスケは懐かしい弾力を味わっていた

忘れただって?そんな事あるワケがない
ヒムラーの元に預けられるまで、実の姉のように慕っていた女性である。母親の次に好きだった人である
柔らかなおっぱいからようやく顔を離すと、シンノスケは笑顔で彼女に応えた

シンノスケ 「今日帰ってきたばかりだよ。ただいま
       
マリー姉ちゃん」

マリー   「おかえりなさい。シンちゃん」

5年前と変わらぬ笑顔で。マリーはにっこりと微笑んだ


第8話「帰郷」


シンノスケ 「あ、みんなに紹介しますね。この人はマリー姉ちゃん
        って言っても本当の姉じゃなくて、父の仕事仲間の娘さん
        小さい頃から世話になってたんで姉ちゃんって呼んでるんです
        姉ちゃん、こちらは先輩の・・・」

5年ぶりの抱擁からようやく解放されたシンノスケは、殺気込めた視線を送る太平らに女性が何者であるかを紹介した
彼女の名はマリー。
あのレオンハルトの養女・マリーである
マリーにも4人を紹介しようとするシンノスケだったが、既に彼を押しのけるようにして4人は彼女を取り囲んでいた

太平    「初めましてマリーさん。太平と申します。20歳ですよろしく
       シンノスケの兄弟子として彼の面倒を見てきました」
J      「Jです。青幇日本支部所属のグラップラーで22歳
       貴女のような美しい方に遭えた今日の幸運を感謝しています」

隕石    「鶴来隕石。同じく青幇日本支部所属22歳
       是非1年前に貴女と出逢いたかった・・・」

シルバー 「僕はIGPO特務官シルバー。今年で19歳になります
       わ、ワードッグの僕から見てもマリーさんはその、すごく綺麗です
       あの。もしやお仕事はモデルか何かですか?それとも学生さん?」

一目でマリーの容姿に見惚れてしまっていた4人は、シンノスケを介することなくファーストコンタクトから積極的に自己アピール
マリーも若い男に言い寄られることなど日常茶飯事なのか、狼狽することなくにこやかな笑顔で彼等に挨拶する

マリー   「まぁ、みなさんいつもシンちゃんがお世話になっております
       マリー・ハーディと申します。
20歳ですわ(にっこり)」
シンノスケ 「え?確かマリー姉ちゃん俺が師匠に預けられる時に22歳じゃ?
        だから今は
にじゅうなな・・・・・ぐふっ!?」

台詞を最後まで言い終える前に身体をくの字に折り曲げて悶絶するシンノスケ
そのみぞおちには
マリーの拳が突き刺さっていた

マリー   「やだわシンちゃん。5年ぶりだからってお姉ちゃんの歳忘れるなんて
       お姉ちゃん今年で20歳よ。
ハ・タ・チ!ね?(にっこり)」

シンノスケ 「・・・うんゴメン姉ちゃん。勘違いしてたよ。ハタチだったね」

”ずささっ”
その静かな迫力に、思わず一歩下がってしまう男達。彼等は確かに見た
マリーの笑顔の下の般若を

シンノスケ 「そ、それじゃ姉ちゃん・・・俺達これから金閣寺に用があるから
        それが済んだらまたあとでゆっくりね」
マリー    「わかったわ。おば様と一緒にご馳走作って待ってるから
        それじゃまたあとでねシンちゃん」

ひらひらと手を振りながら上機嫌で街へと消えていくマリー。その後姿を最後まで見送って、シンノスケは「げふう」と息を吐いた
呆然とそれを見ていた4人もようやく我に返って口を開く

太平     「マリーさん・・・ものすげえ美人だけど・・・その、なんだ
        
すごい人だな。いろんな意味で」

隕石     「親父さん同士が仕事仲間って言ってたけど・・・
        彼女の父親ってもしかして?」
シンノスケ  「はい。溥儀禁衛隊のレオンハルトおじさんです」
J       「あの『地獄の砲弾』の娘かよ・・・そりゃあ・・・」
シルバー  「いろいろと一筋縄じゃ付き合えない女性ですね・・・」

5年ぶりのお姉ちゃんパンチと
「綺麗な薔薇」が一瞬見せた棘

そのまましばらく脱力感でその場を動けない5人ではあったが
ややすると気を取り直し、金閣寺に向かって歩み始めたのだった





シンノスケ 「上様に拝謁願いたい。取り次いでいただけますか」
守衛    「あん?なんだキサマは!突然なにを言い出すかと思えば
       一体どこの馬の骨・・・ってアレ?お前さんは・・・」

金閣寺前。かつて一体さんが大ジャンプしたあの橋の前で、金髪の美少年はまるで我が家にでも帰ったかのように守衛に話しかけた
薄汚れた格好の若者5人がなんのアポも持たず、突然世界のリーダーたる溥儀に会わせろなどと言う
周囲警護に当たっている十数人のA級グラップラーが一斉に彼等に対し臨戦態勢を取る
怒気と威圧を込めて金髪の少年を睨みつける守衛だったが、その面影に気付いた時はたと動きが止まった

シンノスケ 「ただいま。おっちゃん」
守衛    「おおお・・・ぼん!?シンエモン様のぼんじゃねえか!
       皆、ぼんが帰って来たぞおー!すぐに上様にお知らせしろ!」

「いやはや5年ぶりだ」「大きくなった」などと笑いながら少年の肩をバシバシと叩く守衛
身構えていたグラップラー達も我先に少年を取り囲むと、その金髪をくしゃくしゃに撫でて帰還を喜ぶのだった





太平    「いやなんつーか・・・やっぱスゲエなお前。英雄の息子だもんなぁ」
シンノスケ 「うーん。俺はあまり父を意識したことはないんですが・・・
       小さい頃は金閣寺が遊び場だったのでみんな顔見知りなんですよ」

ほどなくして謁見の間に通された5人は、溥儀を待つ間シンノスケを取り囲んで談笑していた
金閣寺の守衛をアポなしで難なく
顔パスしてしまった弟弟子に、ただただ感心するばかりの太平
そう、シンノスケは紅華会戦争の英雄・シンエモンの息子。ここ金閣寺は自分の庭のようなものなのである

「上様のおなぁ〜りぃ〜!」
と、そのとき女官の声とともに上座側の襖がスーッと開いた
すぐさま平伏する5人。ゆったりと部屋に入ってきた人物からは、顔をうかがえなくともその威厳がひしひしと伝わってくる

溥儀    「三代将軍足利溥儀である。皆の者、面を上げい」

名君・足利溥儀
民からの信望厚い大日本帝国将軍にして、世界グラップラー連盟の理事を兼任する希代の傑物
10年前の戦いでは自ら空中戦艦に乗り込み、紅華会本拠地であるエジプトへと攻め入った武王でもある

全てを見透かすような深い透明さをたたえた瞳
普通の人間である溥儀の発するオーラに当てられ、S級グラップラー5人が身じろぎひとつできない
まさに王たる者だけが持ち得る貫禄といえた

シンノスケ 「溥儀禁衛隊筆頭シンエモンが嫡子・シンノスケ
        剣の修行を終え、今日京の都に帰還いたしました」
溥儀    「・・・うむ。幼き身ながら長きに渡る修行、ご苦労であった
       シンエモンもお前の立派に成長した姿に喜んでいるであろう」
シンノスケ 「はっ。ありがたきお言葉にこざいます」

微笑をうかべつつ、静かだがよく通る声で少年家臣をねぎらう溥儀。凛々しく返事をして再び頭を下げるシンノスケ
わずかこれだけのやり取りを見ただけでも、シンノスケを羨望の眼差しで見つめる4人であったが・・・・

溥儀    「・・・まぁ、なんだ。形式的な挨拶はこれくらいでよかろう」

そう言いながら突然立ち上がった溥儀
一体何事かと太平ら4人が顔を見合わせた、次の瞬間!
ドドドドドドドドドドド!!

溥儀    「シンノスケェえええ!!」

凄まじい形相でシンノスケ目掛けて疾走してくる溥儀!
あまりにも予想を超えた出来事と、その迫力に太平ら4人は呻き声さえ出せない
溥儀はそのままシンノスケの眼前に滑り込みながら、がばっと両腕を広げ・・・

その身体を思い切り抱き締めた

溥儀    「大きゅうなった!大きゅうなったのぉシンノスケ!
       立派になったのう!シンエモンに似てきたのう!」
シンノスケ 「あわわっ、う、上様!皆が見てますよ!」
溥儀    「くっそおお止まらねえええ!
       もう人前じゃ垂れ流さねえって決めたが無理だぜシンエモン!
       
なんたって5年ぶりのシンノスケだあああ!」

人目もはばからずシンノスケにすがりついてオイオイと大泣きする溥儀
阿呆のようにポカーンと口を開け、ただその光景を眺めるしかない太平らであった

シンノスケ 「お、おやめくださいませ!天下の将軍様ともあろうお方が!」
溥儀    「固い事を申すでない。お前は朕にとっては甥っ子のようなものじゃ
       5年ぶりに会った叔父に甘えさせてはくれんか。のうシンノスケ!」

シンノスケ 「なんと身に余るお言葉を・・・!きっと父上も喜んでおられます」

わしわしっ、と美しい金髪を撫で回しながらシンノスケを抱き締める溥儀
「甥」と呼ばれたシンノスケもまた、感激にうっすらと涙を浮かべて溥儀に抱きついた
故・シンエモンは溥儀の剣術指南役にして第一の側近。そして年齢が近いこともあり、主従でありながら兄弟のように接してきた仲だった
幼くして父を亡くした幼年家臣を足しげく金閣寺で遊ばせたのも、彼を不憫に思った溥儀の配慮である
世継ぎのいない溥儀にとっては、まさに愛情を注ぐべき唯一無二の存在。実のところ甥どころか息子のように思っているのだ

溥儀    「その方ら、シンノスケがいつも世話になっているようだな
       朕から礼を言いたい。これからもシンノスケをよろしく頼む」

ようやくシンノスケを離すと、すっくと立ち上がって太平達4人に向かって頭を下げる溥儀
予想もしなかった天下人の行動に、慌てて4人は額を畳にすりつけるほど平伏した

太平    『なんというお方だ!世界の指導者と呼ばれるほどの人物が
       いち少年家臣を「甥」と呼んで泣きながら抱き締め、
       俺達のような今日初めて会っただけのグラップラーに頭を下げる
       
なんという度量!なんという人間的魅力!
       
これが天下に轟く大徳か!』

可愛い家臣との久しぶりの再会に際し、人目もはばからず涙を流して喜ぶ人情味と
己が立場を鼻にかけることもなく、どのような身分の人間にも隔たりなく接する公平な人柄
まさしく世界のカリスマたる溥儀の魅力を肌で感じ取り、4人は心から心酔した





シンノスケ 「上様、我々は師・ヒムラーからの伝言を授かっております
        モンスター軍団の目的は
天魔流星の復活だ、とお伝えせよと」

溥儀の抱擁から解放されたシンノスケは此度の帰郷の最大の使命を告げた
未だシンノスケらにはその言葉の意味がわからない。師は「上様にはそう伝えれば解る」と言っていたが・・・
瞬間。溥儀の顔つきが別人のごとく変わっていた

溥儀    「・・・天魔流星とはな・・・やはり、といったころか
       ターリブ、これよりすぐに円卓会議を取り行う。メンバーに連絡を」
ターリブ老 「御意に」

ターリブ・ウッディーン。今年で御歳82。足利家3代に渡って仕える忠臣である
溥儀が静かにそう告げると、背後に恭しく控えていた老臣が奥へと消えていった
そこにいたのは先ほどまでの涙もろい叔父ではなく、「世界の指導者」たる溥儀の姿であった
この豹変ぶり。「天魔流星」とはいったい何なのか?
問いただそうとしたシンノスケだったが、その言葉を遮るように溥儀は優しく微笑みながら言った

溥儀    「忙しなくてスマンなシンノスケ。朕はこれから大事な会議がある
       また後日呼ぶゆえ、今日のところはもう家に帰るがよい
       早く母上にその立派に成長した姿を見せて喜ばせてやれ」





約半刻の後。シンノスケはひとり懐かしい我が家の前に立っていた
天魔流星のことは気になったが「将軍モード」に入った溥儀が下した命令であれば従うほかに無い
あの場で食い下がったとしても跳ねのけられたに違いない。優しい叔父ではあっても公私混同するような人ではないのだ
シンノスケはJと隕石も自宅に来るように薦めたが、彼等は金閣寺の来賓室に宿泊する言ってその申し出を断った
5年ぶりに母と再会するシンノスケに気を遣ったのであろう

すぅーっと大きく息を吸い込んでから。シンノスケは5年ぶりの我が家の門をくぐった

シンノスケ 「母上!シンノスケただいま戻りました!」
マリー   「あっ来た来た!おかえりなさーいシンちゃん!」

玄関から2人の女性が小走りに駆けて迎え出てくれる。1人はマリー
もう1人は
母・可那である

可那    「おかえりなさいシンノスケ。まぁ随分と立派になって・・・」
シンノスケ 「母上はお変わりなく」

シンノスケの言う通り、母は5年前と変わらず美しかった。とても御歳46歳とは思えぬ若さと美貌である
マリーとふたり並んでみても、知らぬ人間からしたら姉妹ぐらいの歳の差にしか見えないであろう

マリー   「おばさまの若さはハッキリ言って異常よ異常!ミステリーよ!
       この間なんて2人で買い物してたら私が年上に見られたのよ!?
       
きっと飛天御剣流習ってるのね!よし私も習う!」

キーキーと興奮してまくしたてるマリーに、可那とシンノスケが顔を見合わせて苦笑する
およそ外では「おしとやかな大人の女性」の彼女であるが、ことシンノスケの家に居る時だけはこんな感じになる
この辺が彼女の「地」なのか。姉ちゃんが27になってまだ嫁の貰い手がない理由を再認識するシンノスケであった





シンノスケ 「父上ただいま戻りました。これから母上は私がお守りします」
可那    「シンノスケ・・・お父上に似てきましたね」
シンノスケ 「上様にも同じことを言われました」

仏壇の前で父の遺影に手を合わせる息子の頭を、可那は愛しむように何度も撫でる
5年ぶりの母の手に触れられた瞬間、ようやく家に帰って来たのだという実感にシンノスケは深く安堵した

可那    「お腹は減っていませんか?いいものがありますよ」
シンノスケ 「いいもの・・・?ああっ!?こ、これは饅頭!」
可那    「厳しい修行生活では長らく甘い物など口にしていなかったでしょう
       おあがりなさい。でも夕食はご馳走を作るから食べすぎないでね」

母手製の饅頭はシンノスケの大好物である。瞳をキラキラと輝かせながら、久しぶりの味を夢中で頬張った

シンノスケ 「もぐもぐ。あぁ美味い。天にも昇る心地です」

5年ぶりの母の味は、長旅の疲れも天魔流星のしこりも雪のように溶かしてゆく
満面の笑みを浮かべながら饅頭を頬張る息子を見て、可那も嬉しそうに微笑む

京の都に未曾有の危機が迫っていることなど― 
この時はまだ 誰も知る由がなかった









シンノスケが5年ぶりの我が家で安らかな眠りについた頃―
遠く離れた悪魔の巣窟で。今まさにその檻が開け放たれようとしていた

鷹田総統  「諸君。私は戦闘が好きだ

        諸君。私は戦闘が大好きだ
        殲滅戦が好きだ。電撃戦が好きだ。打撃戦が好きだ
        防衛戦が好きだ。包囲戦が好きだ。突破戦が好きだ
        退却戦が好きだ。掃討戦が好きだ。撤退戦が好きだ
        平原で。街道で。塹壕で。草原で。凍土で
        砂漠で。海上で。空中で。泥中で。湿原で
        この地上で行われるありとあらゆる戦闘が大好きだ」

【南米ジャブロー秘密地下施設】
とてつもなく広いホールに整然と並ぶは、いずれも異様な目つきの黒衣のグラップラー達
千人は超えているであろうか。彼等は誰一人として私語を発することなく、皆一様に羨望の眼差しで同じ方向を眺めている
彼等の狂気の視線の先・・・・薄暗い壇上、スポットライトに照らされて声高らかに演説している人物は誰あろう
モンスター軍団総統・鷹田延彦である

鷹田総統  「渾身の力でブン殴るのが好きだ
        吹き飛んだ敵に追撃の空中コンボを入れた時など心が躍る
        鋼の刃で斬り裂くのが好きだ
        肉を断ち骨を叩き割るあの感触には絶頂すら覚える
        
銃火器を派手にブッ放すのが好きだ
        チョコマカとすばしっこい敵を散弾でバラバラにしたときなど
        胸がすくような気持ちだった」

恍惚の表情で戦闘のカタルシスとエクスタシーを説く鷹田総統
「モンスター軍団」とはよく名付けたものである。さながらその姿は地獄の怪物達を統括する軍団長の様
マントを翻し、両腕を大きく振り回しながら。更に演説はそのテンションを上げていく
神を崇めるような目で自分に付き従う列強の戦士達。総統は自らの望みを宣言し、彼等にもそれを問う

鷹田総統  「諸君。私は戦闘を 地獄のような戦闘を望んでいる!
        諸君。私に付き従うグラップラー諸君。君達は何を望んでいる?
        情け容赦のない更なる戦闘を望むか?鉄風雷火の限りを尽くし
        
三千世界の鴉を殺す嵐のような戦闘を望むか?」
モンスター軍「「「戦闘!戦闘!戦闘!」」」

オオオオオオオオオオオオオオオオ!
一斉に天を衝き上げる拳のハンマー
地下ホールを震わす千人の怒号
悪魔の檻は―開け放たれた

鷹田総統  「よろしい。ならばグラップラーファイトだ
        我々は満身の力を込めて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
        ただのグラップラーファイトではもはや物足りない!
        大グラップラーファイトを!一心不乱の大グラップラーファイトを!
        諸君らは我がモンスター軍団の精鋭1000人。いずれも一騎当千
        
ならば諸君らは総兵力100万の軍集団となる!」

天地を揺るがすような地響きとともに。鬱蒼と生い茂る木々が倒れ、地面が真っ二つに割れていく
地獄の釜の底から現れたのは・・・・

サーチライトを浴びて禍々しく黒光りする巨大な悪魔の翼であった

オペレーター『全フラッペン発動開始。旗艦「ハッスル」始動!
        離床!全ワイヤー全索引線解除!』

鷹田総統  「惰弱な平和を貪る連中に恐怖の味を思い知らせてやろう
        我々の偉大な力を世界の愚者どもに知らしめてやろう
        モンスター軍団軍団指揮官より空中艦隊へ通達!
        
目標、大日本帝国帝都・京の都
        
第一次ウォルラス(セイウチ)作戦、状況を開始せよ

        

    征くぞ。諸君」

TO BE CONTINUED・・・


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