184話
勇気
「対戦者李海王。毒手においては全中国でも最強の使い手だ
どこかで当たってくれればと思っていたが・・・本当に運がいい」
「ハハ・・・どこをどう見るとそういう結論になるのかね
海王の称号だけでも充分すぎる脅威なのに・・・その上更に毒手・・・」
「毒手と当たって運がいい」?意味不明なことをぬかす烈先生。シャドーを続けたまま聞き返す刃牙も流石に少しウンザリ顔
いったいどういう事なのか説明をーって烈先生、実に淡々とした調子でこともなげにこう答えました
「範馬刃牙の目覚めにかける」
要するに「ヤバければヤバいほいど”死に物狂いパワー”が出るから」つー事ですね。実にいい加減です
「・・・・・・・・・・・・〜よ・・・・」
!?
あーっと烈先生の後ろで黙って話を聞いていた梢江がなんかブツブツ言ってます。まるで貞子のような顔して
これはまさか!? に、逃げるんだ烈先生ィ―――ッ!!
「調子こいてんじゃねェよッッ!!」
梢江様バーサーカー発動!!
全身毒に侵され本当なら絶対安静の彼氏。半ば強制的に格闘技大会に出され、あまつさえ対戦相手が毒の使い手だという
ましてや。それをさも他人事のように淡々と話す烈先生のツラ見てたらアンタ・・・・・そりゃ普通の女性なら誰だってキレますよ
「目覚めにかける・・・・ってさせるかそんなことッッ!」
神速の左!17年かけて手に入れた珠玉の正拳だ
そして北極熊をも屠り去る猛獣の連撃!!
烈先生はその激しい攻撃の前に一歩も動けません。アレですね、きっと心の中で「救命阿!」って叫んでますよ
マジ泣きのブサイク顔で殴り続ける梢江様。このままでは烈先生が死んでしまうので刃牙が慌てて止めに入りました
「もういい。もう・・・充分だ」
勇気を・・・もらった!!!
「負けるかよ」と囁いて優しく梢江を抱きしめる刃牙。絶対に負けられない・・・・・・否!死ねない!
この女を残してどうして俺1人死ねるものか!
愛する人に守られ、そして守りたい。死期迫る少年は誓いを胸に闘場へ向かう
『若干17歳!日本の格闘技王者がここ擂台に降り立ちましたッッ!
迎え撃つは李海王!我が中国が誇る薬硬拳の使い手でありますッッ!』
アナウンサーの選手紹介も済み、ゆっくりと闘場中央に歩み寄る両者。いよいよ試合開始の銅鑼が打ち鳴らされます
毒手拳法・薬硬拳。柳と李との最大の違いはやはり両手とも毒手だということでしょう。さあその実力や果たして・・・・・?
ゴワァアアアアアアアアアアアアアン!!!
刃牙いきなりつっかけた――ッ!ワンステップ踏んで間合いを詰めると渾身の左ハイキックを見舞う!!
李、これを左手で受けますがガードの上から潰されてそのまま顔面にクリーンヒット!もんどり打って後ろに倒れこむ!
刃牙初弾ヒットで優位に立つ!?
否ッッ!!
「命中・・・」
もらしたのは範海王。そう、初弾ヒットさせたのは刃牙だけではない!
はやくも毒手!!
防御=そのまま致命の攻撃に!これが毒手拳の恐怖!真骨頂!
半死人も同然の刃牙に勝機はあるのか!?次号へ続く!
185話
風邪ひいて落としますた
186話
もう・・・ッッ
先週風邪でぶっ倒れてたため一週抜けしてしまった今週のバキ。先週は刃牙が毒手メッタ打ちを叩き込まれたところで引きでした
ただでさえ半死半生の病人野郎の刃牙。もういつ王大人が出てきてあの台詞を言ってもおかしくありません
パパパパパパパパパパパパァンッ!!
李の凄まじい連撃がようやく止み、間合いが開く。おっとコレはスゴイぞ?あんなに丸々としていた毒手がほっそりしてます
どうやら拳にたっぷり吸わせていた毒を出し切って小さくなったらしいです。へー、なんか面白いなぁ薬硬拳
「もう・・・・ッ!」
震える足を奮い立たせなんとか踏ん張り、目をカッ!と見開くと再び李に襲い掛かる刃牙。だが・・・李はもう構えない!
「もう・・・・」
げぼぶしゃ――――!!!
もう既に刃牙に戦う力は残されていなかった。盛大に血を吐き出すと毛躓いて派手にてぶっ倒れる
ゴロン、と仰向けに転がったところに自分の吐き出した血がパシャパシャと降り注いだ。まるで血の雨のように
そしてそのまま・・・・・・刃牙は指一本動かさなかった
死んだか?死んだか範馬刃牙!?
「これ・・・は・・・・」
さすがの烈先生も動かない刃牙を見て青ざめてます。期待していた「覚醒」は所詮絵空事でしかなかったのか?
しかしその時、武台袖から刃牙に歩み寄る梢江の姿が。意外にも取り乱すことなく、そっと傍にしゃがみ込む
「バキ・・・・・変っちゃったね・・・
あんなに太かった腕も・・・あんなに逞しかった・・・脚も・・・・鋼の身体も・・・・
全部・・・・変っちゃったね・・・・でも・・・・」
ちっとも変ってない
「あなたは なにひとつ変ってない」
強い。なんという強い信頼―強い愛情か。梢江は気丈にもまだ刃牙の勝利を信じているのだ
ぶわっっと溢れ出た涙がぱたぱたと刃牙の頬にこぼれ落ちる。そして―
その珠の涙が刃牙に奇跡を起こす!
「刃牙・・・・あんのヤロウ。い〜い女モノにしやがったぜ」
「毒が・・・・・・裏返るッッ!」
な・・・・
なんじゃそら―――ッ!?
全国の読者が突っ込んだことでしょうが「毒が裏返る」ってなんやねん烈先生!
イヤ意味はわかりませんがニュアンスは伝わります。理屈は謎ですがとにかく毒が身体に良い方向に作用してきたって事よね?
なんでそんな事になるんだよーって話は来週の展開を見せてもらうとしても板垣センセ強引すぎ
そんなこんなでツッコミどころが多かった今週、刃牙復活の鼓動でナイスな締め。次号を震えて待て!
187話
転じる!
「変っても 変っても どんなに変っても
あなたは決して変らない・・・ッッ」
毒に侵され、傷つき、倒れ・・・圧倒的苦境の刃牙を照らした一条の光。梢江の涙に包まれその瞳に再び生気が宿る!
つい今しがたまで瞳孔を開いてぶっ倒れていた刃牙がゆっくりと頭をもたげ、ぺロリと舌を出して顔にかかった涙を舐めているではないか
くるりと振り返り、驚く梢江にむかってニッコリと微笑む・・・・・・危ない!
起き上がってきた刃牙にトドメを刺そうと背後から襲いかかる李!
バオッ
目にも留まらぬ李の下段蹴り!だが刃牙は空中回転キックを放ちつつ回避!
これがさっきまで死にかけていた男の動きか!?ふわり・・・と静かに着地した刃牙。動揺をかくせない李
「キミは・・・・!」
「裏返ったァッ!コズエさん!バキは蘇るぞッッ!!
よくやった!よくやったぞコズエさんッッ!!」
「ウラ・・・ガエ・・・・る・・・・?」
「あいつ・・・・ッ」
「クックック・・・・お前の弟が治しちまったぜ」
狂喜する烈先生、呆ける梢江、「あーもう何やってんだ」って顔の範海王、ニタニタ笑う親父様。一体何が起きたのか
ここから親父様の毒手に関するウンチクが始まります。1540年(天文九年)明から日本へ伝来せし邪拳・毒手・・・・・
以下今川義元がラッパに使わせただのどーだのとダラダラ長いので中略
「中国のセンスってヤツはそんな生易しいもんじゃない。七巻に及ぶ毒手の一部始終・・・・のハズが
その実 あと五巻が存在していた。先の七巻を陰手ッ 後の五巻を陽手ッ
陰陽相まって全十二巻を以って 完全とする!!!」
「陽手もつまるところ毒手には違いないが・・・・ごく限られた条件でのみ―」
解毒に転じる!
なんだって――――!?(MMR風)
やはり大方の予想通り(ゆで級にアレな展開ですが)李の毒手が解毒作用を引き起こしたらしいです。なんてこった
「なんだか・・・・軽いや」
すーっと両手を広げて深呼吸する刃牙。その瞳には命の輝き。その身体には命の躍動!
範馬刃牙完全復活!!次号、驚天動地の反撃が始まる!!
188話
復活ッッ!
あぁ・・・軽ぅ・・・まるであそこまで一気に飛び上がれそうな・・・
謎の現象毒裏返りにより奇跡の復活を遂げた刃牙。天井の照明を眩しそうに見上げるその表情は爽やかそのものだ
目の前でアホみたいに呆けていた李に視線を戻すと、両手にペッと唾を吹いて戦闘態勢をとる
「ゴメン。待たせたね・・・・・さァ、すぐに」
す!と身をかがめ間合いを詰める李。左手刀を真横に薙ぐ!しかし刃牙、腕が伸びきる前にこれを手の平で押し返す
李、それならと右掌底!だかこれも振りかぶったポイントで刃牙に手首を掴まれてしまう!ええい、なら蹴りだ!
ビタァッ!三度炸裂せず!右の回し蹴りを放とうとするも、既にその蹴り足は刃牙の足に押さえつけられていた!
客席騒然。李の攻撃は全てカタチになる前に封じ込められてしまう。完全に読まれてしまっているのだ
じり・・・と間合いを取り直し、一旦落ち着く李。さあ「裏返り」に対しての彼の解説が聞けそうですよ。よしみんな!心して聞こう
「毒が裏返った。それだけは確かなようだ。陰と陽2つの毒素に君の体内の何か
闘志によって脳から分泌された脳内麻薬か・・・・・あるいは
そこの立つ恋人が流した涙によってもたらされた多幸感
そしてその昂ぶりから形造られてしまった化学物質か・・・
あるいはそれら全てが君の内部で出会ってしまい
化学反応を起こしスパーク・・・・」
わ・・・・・
ワケわかんないよ李さん!
「化学反応起こしてスパーク」って何?ギャグ?
ってゆうかゆで御大も真っ青のテキトーさ加減だよ板垣センセ!
「永くこの道を歩んでいるが・・・わたしにとっても初めての現象だ」
だそうです。読者にとっては初めてだろうが何だろうがもうかなりどうでもイイ感じですが。頭をポリポリかきながら聞いてた刃牙
「ん〜、頭ァあんまりよくないんで・・・つか中国語だし。言葉による説明ではさっぱりだけど
ただ・・・・・身体がね」
「あんたをヤッちゃえって・・・・」
刃牙、李を見下し宣言!ついに本来の力全開!
武台袖でアホみたいにポカーンと口を開ける範海王、隣でニタニタ笑う親父様
「クックックック・・・・言ったろう?決着は早ええって」
「おもしろい・・・・ならばやってみたらどうだッッ!」
「ナメんな!さっきまで死にそうだったガキが!」侮辱された李海王、怒りにまかせ嵐のような猛攻に出る!
だがしかし本来の力を取り戻した刃牙を相手に攻撃はただただ空を切るばかり。可哀想だがまるでレベルが違う!
手刀ッ!刃牙これをカウンターの平拳で真正面から粉砕!
メキィッ!
激痛に一瞬動きを止める李。甘い!既に刃牙は返しの右拳を放っていた!
ガコォッッ!!!
復活の刃牙、薬硬拳李海王を一撃粉砕!次回へ続く!
189話
喰らうッッ!
刃牙渾身のアッパーが李の顎を砕く!誰の目から見ても勝負を決定付ける一撃だ!・・・・うお!?
これは驚いた。李は倒れない!バッと踏みとどまって仁王立ち。刃牙も「何ィ!」って表情で第二撃のフックを放つ!
いや・・・・ここで刃牙はパンチを寸止めッッ!!なんと!
李は立ったまま気を失っていた。ダウンしなかったのは海王として見せた最後の意地か
すぐにドクターを呼びつけ、闘場の中央へと引き返す刃牙。勝負ありッ!!
李海王さん
理由はなんであれ 動機はどうであれ
俺が今こうして立っていられれるのは あなたのおかげです
以前にも増して力強く立っていられるのは
あなたのおかげです
ワアアアアアアアアアアアアア!!!
観客席一斉にスタンディング!会場に詰め寄せていた全ての武術家達が、日本の少年チャンピオンに惜しみない賞賛を送った
武台袖通路、死の淵から舞い戻ってきた男は愛しい女に笑顔で話しかける
「サンキュー」
「ざまァ見ろ・・・・」
「ホラやっぱり・・・・変わってない」
刃牙と梢江。最後まで互いを強く信じぬいた二人。愛がもたらした奇跡の生還劇であった
どじゃーん!
選手控え室に戻った刃牙を待っていたのは烈先生の料理攻撃
ざっと見ても5、6人前はありそうな量を「今すぐ食え」とのこと。さすがの刃牙もビックリの量です。病み上がりだしな
「・・・・たぶんくるとは思ってたけどよ」
「食うんだ」
じとーっと見上げる刃牙。その視線に気付いた烈先生が不思議そうに尋ねる
「・・・ん?どうした」
「いやアンタさ ほんっ・・・・・と優しいのな」
カァ・・・・・
なぜか頬を赤らめて照れる烈先生。なんだこりゃ
烈先生萌えな人はさぞかしハァハァなシーンです(そんな奴はいねえ)
というワケで喰らう!一心不乱に喰らう刃牙。今までなんも食ってこなかったであろう胃にこれでもかと飯を流し込む
単行本一巻を彷彿とさせる食欲。瞬く間に空になっていく大皿。あれよあれよという間に全てたいらげてしまいました
「ふ〜喰ったァ〜〜」
「片付いたようだな。ではデザートだ」
「喰うぜなんでも・・・・で・・・・なんだいそれ?」
烈先生が用意した物。それはバケツ大のクソデカイ器になみなみと注がれた謎の液体でした。はてさて・・・一体なんでしょね
ラストシーン。別の選手控え室で勇次郎と相対するは前大会覇者、齢146歳郭海皇!
「ほう・・・」
「弱いのう・・・君は」
勇次郎を相手に不敵に言い放つ妖怪ジジイ。次号、ベールに包まれた実力が明かされる!震えて待て!
190話
超回復ッッ!
さて烈先生が刃牙のために用意した”デザート”はバケツ大の容器になみなみと注がれた謎の液体。一体なんなんでしょう
「これは?」
「水だ」
水かよ!
思わず三村風に突っ込む全国の読者。「10リットルある。飲め」との言葉にさすがの刃牙も眉をしかめます。いくらなんでもそれはキツイだろ
「ま、そのままでは無理だろう。コイツを混ぜる
果糖。果実を精製した純粋な甘味料で、量は多いが吸収率は無類だ。約4キロある
今のキミはまだまだ完全じゃない。本来ならタンパク質やデンプンが望ましいのだが・・・
今はそうしている時間もない」
言いながら果糖を加えた水を手でパチャパチャかき混ぜる烈先生。おいおい汚いな。アンタちゃんと手ぇ洗ってんのかよー
はい出来ました14キロの砂糖水。刃牙、額にイヤな汗をかきながら恐る恐る器を手に取ります。ずず・・・ぐびぐびーっ
「奇蹟が起こる」
猛毒に侵され極限まで衰弱しきった少年の肉体
そこへ闘争による更なる負担が加わり、人体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓のグリコーゲンも底をついた
酷使に継ぐ酷使・・・もはや破壊されつくした少年の金筋肉細胞達。彼等は復讐を誓っていた
次なる酷使に対する復讐。つまり
今後もし 同じような事態が起こったなら・・・・必ず
「え・・・?これって・・・・スゲ・・・」
必ず独力で乗り越えてみせると!
人ならぬ 神の創造りたもうた肉体
神の誓いし復讐にミスはありえない!
今、少年の身体に空前の
超回復が起ころうとしていた!!
砂糖水飲んだ直後、いきなり湯気をムンムン放出しだす刃牙の肉体。一歩間違うと何かの変身シーンっぽいぞ
未曾有の新陳代謝により、肉体が以前にも増した力を手に入れようとしているのだ
あれだ。サイヤ人の死にかけパワーアップや、ターちゃんのうんこひりパワーアップみたいなモノね
と、いったところで場面転換。先週オーガを相手に「キミは弱い」発言をした郭海皇パートにカメラ移動
「飢え・・・渇き・・・焦がれ・・・足りないものに満ち溢れている
それを抑えられぬ・・・・イヤ抑えようともせぬ・・・・・弱い
はね上がる衝動を抑える力を持たぬ。コントロールが効かぬ
人の人たる強さとは・・・闘争と武の歴史はつまり湧き上がる衝動と本能との対立の歴史
キミに見せてしんぜよう・・・・」
人の人たる本当の強さ!!
「目を疑う光景です!国手ッ郭海皇が我々の目の前に立っていますッッ!
御歳146!出場自体がすでに奇蹟ッ!立っていることがもう奇蹟ッッ!
闘うなんてあり得ないッッ!!!」
一回戦第4試合!ムエタイ・サムワン海王VS前雷台祭覇者郭海皇!!
サムワン無念。お前は噛ませ犬だ!地上最強の生物を相手に説教たれた「人の本当の強さ」が次週そのベールを脱ぐ!
191話
郭 海皇
「斗(トウ)ッッ!!!」
ゴワァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
高らかに鳴り響くドラの音。さあ始まってしまいましたサムワンVS郭爺様!本来ならばこの勝負、格上である爺様のモノと見るのが妥当です
しかしいかせんせん歳の差121。今この場でくたばっておかしくない爺様に対してサムワン25歳。まさに脂の乗りきった年齢だ
「サムワン海王! 師・蘇柳勝がタイへ渡ったのが18年前!ムエタイとの賞金マッチで日銭を稼ぐ日々
コブラと戯れるこの少年を目撃した事が!中国拳法とムエタイの歴史的邂逅の瞬間となったのです!
それ以来10年余りのマンツーマン!二人は香港へ渡り各種擂台を総舐めッッ!そしてッ
ついに一昨年、中国武術省はタイ国民サムワンへ海王の称号を授与したのです!」
アナウンサーによる丁寧なサムワンのプロフィール解説。なるほど・・・コイツはただのムエタイじゃなく中国拳法とのハイブリットか。強そうだ
眼鏡を外さぬままに武台中央に突っ立つ爺様と、アップライトスタイルでジリジリと詰めるサムワン・・・・・さあ間合いだ!どうなる?
『まやかしだ・・・・ ”氣” ”呼吸力” ”発勁”
すべてまやかしだッッ!
武術も所詮運動能力を競うもの。いかに合理的に肉体を使うかの世界。そこにまやかしは存在しない!
より迅くッ より迅くッ より迅くッ そしてよりスピーディーに―――だ!』
中国拳法の神秘を一切否定するサムワン。目の前の小さな老人に自分が遅れを取るなどとは微塵も思っていない
瞬間、爺様が口に手を当ててゴホゴホと咳き込んだ。およそ戦闘中とは思えぬ隙ッ!当然その隙―見逃さない!
バオッ!!!
サムワンの軸足を中心に巻き上がる砂埃。凄まじい右ハイキックが爺様の顔面を完璧に捉え・・・・捉え・・・!?
捉えない!
サムワン渾身の右ハイはまるで幽霊を蹴ったように空振り!
バカな!一体何が起きた!?と驚愕の表情を浮かべるサムワン。そして背後に感じる気配!凍りつく心臓!
『やられるッッ!』
覚悟を決めたサムワンに対し爺様は攻撃を打ち込まず、なんとトランクスをずり下げた!
ポローンと観衆の目に愚息を晒すサムワン。これは恥ずかしい!
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ブラブラ垂れ下げてる陰嚢に狙いを定め、”ピッ!”と勢いよく指を弾いた!
「アオッ!」
キンタマを押さえたまま白目を剥いてぶっ倒れるサムワン!しょ・・・・勝負アリッッ!!!
「けけけけけけ決着ゥ〜〜〜!!?」
アナウンサーも「なんだこりゃあ!」って感じで郭海皇圧勝!サムワン惨め!
192話
”武”とはッッ!?
「レンガ?割れるもんかねそんなの」
146歳のスーパーじいちゃん郭海皇。初戦を勝利で飾り数多くの記者に囲まれて取材を受けてます。さすがは国手(※国を代表する人物)
サムワンを指一本で倒した事から「あなたの指ならレンガも割れるのでは?」という質問に対しにべもなくこう返答しました
「力はいらぬ」
「力は・・・いらないと?」
「女、子供、年寄り・・・などの・・・体力に恵まれぬ者達。その者達にこそ術が必要なんじゃ
弱者に使えぬ武術などいったい何の意味があるというのかね?
必要なとき 必要な術を 必要な速度で使用する 感情を制御し・・・そのタイミングを知る
完全なタイミングを手中にしているのなら・・・もはやそこには速度さえもいらぬ」
おお。流石に含蓄のあるお言葉です郭爺様。これこそが爺様の言う「人の人たる強さ」の根底の部分なのでありましょう
「くそッ・・・・あのジジィ・・・・ッ!」
その頃、敗者サムワンはキンタマを押さえながら控え室までの廊下を歩いてました。海王としてかなり情けない姿です
股間の痛みにさっきの試合内容がまざまざと思い出されます。ギャラリーの前で己の一物を晒しての屈辱的な敗北。プライドはズタズタ
「まさかあんな・・・・・クウアァッ!!!」
ゴシャアアッ!!
柱にむかって八つ当たりのハイキックを見舞うサムワン。そのインパクトで天井にヒビが入る。なんと凄まじい破壊力か
これくらいの芸当は軽くこなせる実力派なんですがねぇ。可哀想だが相手が悪かったと言う他ありません。と、その時でした
「明日からどのツラ下げて香港を歩けばいいんだ・・・・って顔してるぜ?」
「キサマ・・・・!」
後ろから声をかけた人物は我等が最強オヤジ範馬勇次郎。いつものパターンに漏れずサムワンを食いにきましたよ
イライラ最高潮のサムワンに容赦なく挑発の言葉を投げかけるオーガ。当然これに黙ってられる25歳じゃありません
「しかしよくもまァあんな・・・日本人ならハラキリだぜ。同じ負けにしたってもう少し負け方ってもんが・・・
いやはや国民性の違いというか・・・・・もし俺ならとてもとても」
「サムワンよせェッッ!!」
蘇劉勝師父が叫んだのとサムワンがブチ切れたのは同時であった。天井にヒビをも入れる必殺の右ハイが唸りをあげる
勇次郎はまだ腕を組んだままの無防備な体勢。完璧不意打ちくさいが勝てばよかろう!喰らえー!!
ドグアァッ!!!
さ、サムワンー!!!(号泣)
1日に2回敗北。なんて可哀想な扱いを受けてるんだコイツは・・・・一体ムエタイがなにをしたー!
後頭部をしたたかに打ちつけたところでそのままサムワン失神。勇次郎はふん、と笑ってこう言うのでした
「未熟ではある・・・だがしかし。キサマは間違っていない」
”力こそが武ッッ!”
不遜!範馬勇次郎!まさに郭爺様とは対極論のオーガイズム!!次号へ続く!