娘麻雀奮戦記 〜女子高生カルテット〜
〜AM10:07〜
「ツモった」
「摩弥速過ぎー」
「文句はいいからさっさと点棒出して。私が親だから2000点オールね」
「はい〜」
恭子は文句を言いながらしぶしぶと、結宇はゆっくりとした動作で点棒を支払った。
とある休日。三人は学校のある一室に集まっていた。
「私の連荘ね」
ジャラジャラと音が立ち、台の上に牌の山が組まれていく。
摩弥は台の上の2つの賽を掴むと、転がして向かいに組まれた牌に軽く当てた。
「ん、四ね」
摩弥がまず左手側に組まれた山から四つずつ牌を取り出すと、続いて恭子、そして結宇と三人は四つずつ牌を取っていく。
「でもアレよねぇ」
牌を取りながら、恭子はため息をつくように言った。
「何が悲しくて休日の明るいうちから学校で麻雀なんてしないといけないのかしら」
「それを言っちゃったらお終いじゃない?」
全員が牌を取り終えたのを確認して摩弥は一打目を打ち、恭子は山から牌を一つ取った。
「二人ともごめんね〜」
恭子が牌を捨てたのに続いて結宇も山から牌をツモり、一打目の不要牌を切った。
「平日は一人でもいいんだけど〜、休日に一人で活動するのは〜ちょっと寂しいのよね〜」
「……あれ?休日は無理に活動しなくてもいいんじゃないの?」
「そうそう。」
摩弥に続いて恭子も不要牌を切りながら相槌を打つ。
「今年から月に一度は〜休日に必ず活動しなければいけないって〜決まったみたいなのよね〜」
結宇はのんびりと牌をツモって不要牌を切った。
ここは三人が通う学校の一室、世界占い研究会(通称占い研)の部室であった……いや、この場合研究室と言い換えた方がいいだろうか。
実のところ部員は部長の結宇一人だが、学校側に部室が足りないといったことがなかったため、たった一人の活動でも専用の部屋が割り当てられていたのである。
「第一、文句を言うぐらいなら恭子の愛しい彼のところにでも行ったら良かったんじゃない」
摩弥が牌をツモって不要なものを切る。
「生憎と彼は休日は部活三昧なのよね」
私の得意なものは麻雀ぐらいだし打つことに不満は無いけどね、と恭子は牌をツモりながら言った。
「……ん。よし来た、立直!」
恭子は牌を横倒しにして、勢いよく捨てた。
「ふっふっふ、高いわよ〜。……結宇、速くツモりなさいよ」
「ん〜、恭子ごめんね〜それロン〜」
結宇は手牌を全て倒して恭子の捨て牌が当たり牌であることを示した。
「ちょっとー!なんでその捨て牌からこの牌が当たるのよー!!」
「うふふ〜」
「仕方ないわねぇ。だって結宇だもの」
恭子と摩弥が点棒をだし、それを結宇が受け取る。
「だってその配牌だと最低満貫、立直かけるとハネまで持っていけるじゃない?でも結宇は一翻よ、一翻!」
まだ納得できないのか、恭子は声を荒げた。
「麻雀っていうのはね、一つ一つの牌を並べて作る芸術なのよ。だから作るのが難しい役は役満って言って最も高い点数なの。
点数は言わば、難しさの基準を解りやすく示した数値なのよ!」
牌を混ぜているときも恭子の話は止まらず、仕舞いには立ち上がって力説する始末。
麻雀中に立たないでよ、と摩弥に強引に座らされた恭子だが、まだ収まりきらない様子であった。
「どれだけ言葉を飾っても賭博ルールなんだから勝たなきゃダメよ。
今のは恭子のアガリを結宇が止めた、それだけのことじゃない。相手のアガリを邪魔するのも麻雀よ」
「それは……まぁそうなんだけどさ……」
摩弥に言われて仕方なく静かになる恭子。卓上で静かに牌が組み上げられていた。
「でも結宇の待ちはホントわからないわよね。アンタ何考えて麻雀してるの?」
恭子が賽を振り、各々が組み上げられた山から牌を取っていく。
「ん〜、秘密〜」
軽く微笑みながら結宇が答えを返す。
「一つ言えることは〜牌が教えてくれるということ〜」
「……訳解んないわよ……」
結宇の答えに後の二人は溜め息をつくばかりだった。
〜AM12:39〜
「……昼だねぇ……」
「うん……」
ツモった牌を切りながら、けだるそうに発した摩弥の言葉に反応したのは恭子。
「お昼ごはんはどうしましょう〜?」
「あー、昼食は問題なしよ。そろそろ来ると思うから」
結宇のマイペースな発言に相槌をしたのも恭子。察するに、自ら話題を探すことに疲れた様子だった。
「来るって、誰が来るの?」
「それは来てのお楽しみでしょ」
気になった摩弥が恭子に答えを促したが、恭子は驚かせようと秘密を装った。
「それにサンマ(※注:三人麻雀)にもそろそろ飽きがきはじめたしね」
やっぱり麻雀は四人でやらないと、と恭子が言ったのとほぼ同時に、コンコン、と部室のドアがノックされた。
「はいはい〜ちょっと待ってくださいね〜」
あいにくと部室のドアは中から施錠されていたため、部室を訪れた人物がドアを開けて入ることは出来なかった。
そのため、部長である結宇がノックされたドアの前まで足を運び、鍵を開けることとなった。
「ちょっと、コレ片付けなくていいの?」
「へーきへ−き、話がわかる人だから」
摩弥が小声でこっそりと告げたが、恭子は笑いながら大丈夫と言い切った。
「あら〜恵美さんこんにちは〜」
ドアを開けた結宇は前に立っていた人物に向かって挨拶をした。
「こんにちは、結宇さん。恭子さんはいるかしら?」
恵美と呼ばれた学生は結宇の肩越しに部室の中を覗き込んだ。
「来た来た。恵美さんこっちー」
中に入ってください〜、と結宇に促された恵美は仕方なく部室の中へ入った。
「頼まれた通りお昼御飯を持ってきましたよ……って、ここで何をしてるんですかっ」
昼食が入っているであろうバスケットを前に出しまではいいが、目の前に広がっている予想だにしなかった光景に、恵美は声を荒げた。
「わーい、ありがとー。……え?麻雀のこと?何か問題あるの?」
嬉しそうに恵美からバスケットを受け取った恭子は、恵美が声を荒げている理由がわからずに聞き返した。
「あ・り・ま・す。ここは学校なんですよ?勉強を学びに来るところなんです。
それが何で麻雀なんか……大体、麻雀をするのであれば私の店にでもいらっしゃったら……」
「恵美先輩の言うように牌楽天で麻雀をすることに異議は無いんですけど、
私たちは結宇に頼まれてこの部室に来たのであって、決して麻雀をやるためにここに来たのでは無いんですよ」
言うことを聞かない幼子をあやす様に恭子たちに語った恵美だったが、摩弥にすぐに反論された。
「……結宇さん、それは本当ですか?」
事実を告げられた恵みは結宇に真相を聞いた。
「はい〜終日一人では寂しいので〜お二人に頼んだら快諾してくれました〜」
「快諾したわけでは無いんだけどね……
で、三人集まったのはよかったんですが特にやることが無かったので暇を持て余していたら恭子が麻雀をやろうって言い出しまして」
結宇の言葉をさらりと流して、摩弥は事実を淡々と語った。
「まぁまぁ、堅いこと言わないでお昼を食べよ。お腹がすいてると人間怒りっぽくなるって誰かが言ってたし」
いただきまーす、とサンドウィッチを一つ取り口の中に運ぶ恭子。それを見た摩弥と結宇も椅子に座ってサンドウィッチを手に取った。
「もう、仕方ないですね……では私は用を済ませたので帰ります。バスケットは帰宅の際に牌楽天に寄って届けてくださいね」
じゃぁ、と言って恵美が帰ろうと回れ右をしたと同時に、恵美の左手を恭子が掴んで止めた。
「ちょっと待ってください、って。恵美さんを呼んだのは昼食の出前だけじゃないんだってば」
「他に何の用があるんですか?」
恭子に手を引っ張られ元の位置に戻った恵美は、仕方なく恭子に向かって用件を聞いた。
「せっかく四人揃ったし三マーにも飽きてきたんで、恵美さんに面子に加わってほしいなぁと」
「……帰ります。では、さようなら」
恭子の話した内容に怪訝な表情をした恵美は再び回れ右をしたが、再度恭子に左手をつかまれて向き合う形になることを余儀なくさせてしまった。
「待ってください、って。少しくらい考えてくれてもいいじゃないですか」
「恭子、止めなって。恵美さんに迷惑じゃない」
「恵美さんは〜私たちが嫌いなんですか〜?」
ごねる恭子を制止する摩弥の傍らで結宇がマイペースに恵美に聞いた。
「そういうことじゃないの、結宇さん。それに貴方たちのことは好きです。
いつもお店に来ていただいてますし、忙しいときは手伝ってくださいますし。でも、私はこれからお店を手伝わないといけないんですよ。
休日なので忙しくなりますしね。それに私が面子に加わっても弱いので……(ゴニョゴニョ)」
初めははっきりとした声で理由を答えていた恵美だったが、自分の麻雀の腕について自覚があるのか、最後の方は尻すぼみになってしまっていた。
「……と、とにかく私には理由があるので……」
帰りますね、と言って恵美は三度回れ右を試みたのだったが
”二度あることは三度ある”、悲しいかなまたしても恭子に手を掴まれてくるりと反転させられたのだった。
「その点だったら大丈夫。牌楽天のマスターに出前を頼んだ際に恵美さんのことを切り出したら承諾してくれたから。」
「……恭子、アンタ一体どこまで根回ししてたのよ……」
恭子の手際のよさ(?)に摩弥は呆れ顔で言った。
「いやさ、以前からマスターが私たちに、『恵美さんの麻雀の腕を上げてほしい』って頼まれてたじゃない?
でもさ、牌楽天だとお客さんが集まってきちゃって大変でしょ。みんな優しいし恵美さん人気あるから麻雀を親切に教えてくれるとは思うんだけど。
ほら、やっぱり人に教えるぐらいの実力がある人って自分の打ち方にポリシーみたいなものを持ってたりするわけじゃない」
私だったら最高形に持っていくとか摩弥だったら早くて高得点な手を狙ったりだとかね、とサンドウィッチを食べ終えた恭子は指先を拭きながら言った。
「ポリシーがあったら〜どうなるの〜?」
「どうって、想像つくでしょ?
それぞれが自分の打ち方に自信を持ってるんだから、自分が教えた内容を他の人に否定されたらカチンとくるじゃない。喧嘩になってもおかしくないわけよ。
それに教えるのは牌楽天のアイドルである恵美さんとくれば、みんな自分の打ち方をしてほしいって願望をおじさんたちは思ってるだろうしね」
マイペースな結宇に説明する恭子。
「そんな、アイドルなんて……私より皆さんの方が……」
「まぁその辺はどうでもいいことなのよ。要するに、恵美さんの麻雀が強くなれば結果的にいい方向に向かうとマスターは判断したの。
そういうわけだからほら恵美さん、早く座って座って」
恵美は有無を言う前に恭子の手によって残る一つの椅子に無理矢理座らされた。
「もっともらしいこと言ってるけど、アンタは結局普通に麻雀がしたいんでしょ……」
摩弥の呟きは誰の耳に届くこともなく、溜め息とともに消えていった。
〜PM3:54〜
「ロン!」
「あちゃー、コレだったか」
恭子がしぶしぶと点数分の点棒を恵美に渡した。
「恵美さんは〜大分打てるようになったんじゃないですか〜?」
「うんうん。やっぱり麻雀打って正解だったでしょ」
結宇の言葉に続いて恭子が頷いた。
「短期間で成果が上がるものでもないと思いますけど、確かに以前に比べたら勝てるようになったと思いますね」
二人に続いて摩弥も感心したように言葉をつなぐ。当の恵美本人は、複雑な顔をして苦笑いを浮かべていた。
三人の麻雀レッスンは至極簡単なものだった。
まず、恵美が勝ちに慣れるまで三人がなるべく振り込むようにし、次に恵美以外の3人は立直をしないと上がれない半荘を打った。
これは、『捨て牌から当たり牌を予想し、なるべく振り込まないようにする練習(恭子談)』である。そして仕上げとしてもう半荘を打ったのである。
もちろん、この方法で誰もが上達するというわけでは無いが、恵美にはこの方法が合っていたのだろう。
麻雀好きで雀荘を経営している父親の影響で、麻雀に対して抵抗が無くすんなりと受け入れることが出来たことも、上達の要因として少なからずあったのかもしれない。
「……さて半荘も終わったことだし、ここら辺で本題に入りますか」
突然の恭子のこの一言に、他の三人は何事かと一斉に恭子の方を見た。
「ちょっと恭子、一体何企んでるのよ」
摩弥がたまらずに声をはさんだ。恭子の性格上、そしてこのような話の持って行き方だと大抵ロクなことが無かったのだから、当然と言えば当然である。
そして恭子の口から出た次なる言葉が……
「外野もいないことだし、せっかくだから脱衣麻雀でもしてみない?」
「……はぁ!?」
「わぁ〜面白そう〜」
「……えっと、それって負けたら脱ぐということですよね……?」
三者三様の反応である。
「恭子、アンタ何考えてるのよ。結宇もよ。なんで『面白そう〜』なわけ?」
「だって〜脱衣麻雀なんてやったことないし〜」
摩弥にきつく言われた結宇だったが、さすがはマイペース。気にしていない様子で理由を語った。
「いいじゃない、別に。見せたからと言って減るもんじゃないでしょ」
摩弥に怪訝な反応をされた恭子は、面白くないといった感じで口を尖らせて反論した。
「そういうこと言ってるんじゃないでしょ。第一、ここは学校なのよ?誰か来たらどうするのよ。……恵美先輩もそう思いますよね?」
「……えっ?……あっ、わ、私も学校内でそういうことをするのはどうかと思います……ケド……」
突然名指しで指名された恵美は、しどろもどろになりながらも自分の意思を伝えたが、
尻下がりに声のボリューム下がってしまったためにはっきりと伝わったかどうかは不問である。
「この部室は〜滅多に人は来ないから〜大丈夫だと思うけど〜」
占い研の部屋は三階建て校舎最上階の一番隅っこにあった。
それは教師たちの手で意図的に仕組まれたものかは定かではなかったが、占いというものは集中を余儀なくされるものであり、
人が立ち寄らず外の音が聞こえづらいこの位置は、まさに格好の場所であったのかもしれない。
「そうそう。だから、ね?やろうよ〜。それともナニ?摩弥は身体に自信が無いから意地はっちゃってるわけ?」
「そういうことでいいわよ。……コレぐらいの時間ならもう活動を終わってもいいんじゃない?麻雀の続きは牌楽天でやりましょ」
そう言うなり、摩弥は麻雀牌を片付け始めた。
「……ふーん、逃げるんだ?」
「はいはい」
諦めつかない恭子の言葉を無視して片付けを続ける摩弥。恵美も摩弥を手伝おうとしたので、仕方なく結宇も片付けを始めようとした。
「そっかぁ……摩弥は勝つ自信が無いのね。所詮その程度の腕だったか……」
「……(ピクッ)」
不意に片付けを進めていた摩弥の手が止まった。何事か、と摩弥を見た二人の手も自然に止まっていた。
「……何が言いたいの?」
摩弥は静かに恭子に向かって問い詰めた。
「ん?何って言葉どおりの意味だけど……」
「訂正して。私は貴方に麻雀の腕で負けるとは思ってないわよ」
「だって脱衣麻雀って相手を脱がすんだから、当然相手より早く上がらないと無意味でしょ?
この中で鳴きが得意で早アガリをするのは摩弥なんだから。逃げるのなら弱いと思われても仕方ないじゃない」
だから訂正しない、と恭子は摩弥に言い切った。
「……わかった。そこまで言うなら脱衣麻雀で勝負してやろうじゃない」
「その言葉に偽りは無いわね?」
恭子の問いに摩弥は、無いわ、と一言で答えた。隣では恵美が心配そうな顔をしていた。
「ちょっと、摩弥さん。乗せられてるんじゃ……」
「恵美先輩ごめんなさい。でも、ここまで言われて引き下がれるほど私はお人よしでは無いですから」
決まったのならさっさとやりましょうと言わんばかりに、半ば片付けが終わっていた麻雀牌を再び出した。
「……あの……私も参加することになってるんでしょうか?」
「もちろん。大丈夫、恵美さんには悪いようにはしないから」
恭子の一言で恵美も参加することに決めた。本心では、誰かが止める役を担わなければならないだろうという責任感からかもしれないが。
「ルールは……そうねぇ。普通に一回上がるごとに一枚でいいよね。
ただし、役満あがりは中々出来ないだろうから二枚ね。ツモだとアガリの人以外全員が脱ぐということで。
それで、恵美さんはまだあまり麻雀に慣れてないから下着姿になったらそれ以上は脱がなくてもいいことにしましょ。
終了は私たち三人のうち誰かが全裸になるまで。点棒は立直に使う分だけあればいいかな。立直ミスとか当たり牌間違えとかのペナルティも一枚脱衣で。
こんなものでOK?」
「異存なし」
「OK〜」
「えっと……お手柔らかに……」
あらかじめ考えていたように出された恭子からのルールに他の三人は頷いた。
こうして娘たちの娘たちによる娘たちだけの脱衣麻雀が行なわれたのだった。
〜PM4:42〜
「ロン、發のみ!ほらほら脱いだ脱いだ」
「くっ」
摩弥に促され仕方なく脱ぐ恭子。
四人による脱衣麻雀は終盤を迎えていた。
結宇が下着の下一枚で全裸にリーチ、恵美と恭子が下着の上下、摩弥はさすがに早アガリは得意か、上は下着姿ながら下はまだスカートを穿いていた。
「さすがに早アガリ戦は分が悪かったかも……」
恭子が呟く。
「アンタがやりたいって言い出したんだからね」
さも当然とばかりに摩弥は恭子に言い返した。
「私は〜後一枚で飛び〜」
どんな格好でもマイペースな結宇。
「……一回ぐらい上がってみたいですねぇ」
特別ルールによりこれ以上脱がなくていい恵美は流されるまま、いつの間にか下着姿になっていた。
「さっさと結宇を飛ばして終わらせたいものだわ」
摩弥の余韻もつかの間、すぐに牌を混ぜて山を作り、賽を振って山から牌を取り出していく。
親が牌を切り、順にツモっては不要牌を切っていく。皆、勝つことに集中して言葉もなく、場は淡々と進んでいった。
「……また流局かな?」
「そうみたいね」
摩弥が恭子に相槌を打つ。
「恵美先輩も当たり牌を避けるのが上手くなってますよね」
「はい、なんとなく解ってきたみたいです」
摩弥の褒め言葉が素直に嬉しかった恵美は笑顔で返事をした。
「次行きましょう〜」
結宇の言葉で皆、何度となく繰り返してきた牌のシャッフルを始める。
山が作られて賽が振られ、親から順番に牌を取っていく。ちなみに今回の親は摩弥。
「んー、コレを捨てればいいかな」
摩弥が一打目の不要牌を切った。
「……あ」
恵美が呟く。
「……え?」
摩弥が恵美の方を向いた。
「えっと……摩弥さん、すみません。それ……ロン……です」
「恵美さん凄いです〜」
「あらぁ……人和(レンホー)……」
恵美が倒した手牌を見て恭子が呟いた。
「コレって……その、役満……なんですよね?」
あがった本人である恵美は、申し訳なさそうに仔細を聞いた。
「まぁローカルルールで役満か満貫か分かれるケド……私たちの間では役満にしてたよね?」
恭子は意地悪く、わざわざ摩弥の顔を覗き込んで聞いた。
「……脱ぐわよ。二枚脱げばいいんでしょ。コレで負けたわけじゃないんだから」
諦めが付いたのか、スカートと下着の上のブラを勢いよく取る摩弥。
「さぁ、脱いだんだからさっさと続きをしましょ。いつ誰が来るかわからないんだから」
「あ〜、そういえばそろそろ……」
摩弥の言葉を遮るように結宇が時計を見ながら何かを言おうとした矢先、
「結宇、迎えに来たぞ」
ガララッ……
「…………」
ドアが開けられ部屋中に訪れる気まずい空気。
……ガラララ……
一度開けられた部屋の扉は何事も無かったように閉められたのだった。