サキ in 麻雀教室
リョウ・アマバネ


ある日のお昼休み。
穏やかな陽気とは裏腹に、サキは切羽詰まった表情で恵美に詰め寄った。
「恵美さンっ!お願いだ、アタシに麻雀を教えてくれっ!!」
「ちょ、ちょっとサキちゃん、いきなりどうしたの。」
話を聞くに、どうやら舎弟分から「不良たるもの、麻雀くらい打てて当然ッスよねー。」と言われて「お、おう!」と答えてしまったらしい。
「サキちゃんらしいけど、見栄を張るのもほどほどにね。」
「だってしょーがないじゃん。ナメられるワケにはいかないんだもん。」


麻雀の「ま」の字も知らないサキに麻雀を教えるとしたら、誰が一番適任か。
いろいろと考えた結果、恵美は牌楽天のカウンターでコーヒーを飲んでいた貴史に白羽の矢を立てた。
「恵美ちゃんのたってのお願いとあらば断る理由は無いけど、由宇たちには頼んでみたのかい?」
「実は、一番最初にお願いしたんですけど……」

ぽわわわわ〜ん(回想シーンへ入る音)

「いい?そこはもっとこう、ダッ!といってガンッ!!とやる感じ。」
(ミスターかよ。)
「もー、恭子は欲張りすぎ。こーゆーときはコレかコレを切る!後は分かるわよね?」
(分かンねーから聞いてるンだけど。)
「ほら…耳を澄ませば牌の声が聞こえてくるから…それに従って……」
(聞こえるわきゃねーだろ!)

「とまあ、3人ともお強いんですけど、どうにもコーチには不向きみたいで。」
「……なるほど。」
激しく得心のいった貴史であった。
「小十朗さんやヘンリーくん、槙絵ちゃんも実戦派というか天才肌だから、
『初心者に筋道立てて教えられそうな人』で絞っていくとやっぱり貴史さんになるんです。」


そして日曜日。
サキと三人娘&貴史は、恵美の部屋へ集合した。麻雀マットと牌を持ち込んで、麻雀教室の開校である。
「というわけで、サキちゃんの後ろへは貴史さんに付いてもらって、
いろいろアドバイスを受けながら打つことで麻雀を勉強してもらおうと思います。何かご質問は?」
恵美がぐるりと全員を見回すと、恭子が手を挙げた。
「はーいセンセー、何か負けたときのペナルティがあった方が本気で上達する気になると思うんですが。」
「それならやっぱり脱……」
「「「「「却下」」」」」
由宇のつぶやきを残りの5人全員が速攻さえぎる。
「まったく。お前はもーちょっと恥じらいというものを持て。」
「兄さんだって本当は嬉しいくせに。」
「脱衣は冗談にしても、やっぱり何らかのペナルティというかリスクは必要よね。」
「それなら、こういうのはどうでしょう?(ゴニョゴニョ……)」
サキと貴史をのけ者にして、恵美と三人娘が密談を交わす。
「わぁ、それ面白そう〜」
「でしょ、でしょ?」
「……すっげーヤな予感がするンだけど。」
「あの三人が悪ノリするとロクなことにならないしな……」

密談終了。
「それでは発表します(ダラララララララランッ!)。
サキちゃんが1回ハコになるごとにコスプレファッションショーをやってもらいます!」
イヤな予感が的中した。
「ちょっ、恵美さン?!またあンな格好するの、アタシ、ヤだよ?!」
「大丈夫、貴史さんはうちの常連さんの中でもかなりの腕前なんだから、そうそう負けたりしないわよ。
それじゃお師匠さん、サキちゃんに用語とか役とか教えてあげてくださいね。」

貴史が役について説明している間、またもや秘密会議が開催される。
「いいですか?イカサマ以外ならどんな手を使ってもいいですから、容赦なくサキちゃんをハコにしてください。」
「おお、恵美さんが燃えてるぅ!」
「……でもいいの?サキさんに麻雀教えるのが目的なのに。」
「この九條恵美、サキちゃんのコスプレ姿を見るためなら地獄の悪魔とでも取引します!」
「恵美さんの意外な一面を見ちゃったわね……で、報酬は?」
「1回ハコにするごとに、皆さんのリクエストするスウィーツを腕によりを掛けて作って差し上げる、というのは?」
「それイイ。恵美さんのケーキ、絶品だからねー。いっちょ気張りますか!」
「恵美さん特製のアップルパイ、1ホール丸ごと私のものに……やるわ!やります!やらせて下さい!!」
「……なら私は紅茶のシフォン。楽しみね。」

とある思惑(欲望?)をたっぷりと乗せて、麻雀教室はスタートしたのだが……

<一半荘め>
「サキちゃん、それローン!」
「うげっ!」
「はーい、サキちゃん、これ着ましょうね〜。」



<二半荘め>
「甘いわね。当たりよ、それ。」
「うげげっ!」
「じゃあ次は……これで。」
「うわっ決まってるぅ!」




<三半荘め>
「……残念賞。ロンです。」
「うげげげげっ!」
「あらあらどうしましょう。おねーさん嬉しくて困っちゃうw」

サキ&貴史ペア、あっという間に三タコ。

「なあ貴史さン、あンた、本当に強いのか?恵美さンの話とだいぶちげーよ?」
洗牌しながらサキが不機嫌そうな声で尋ねた。
「一応、そこいらの奴には負けないという自信はあるんだけどな……」
「ンなこと言ったって、もう3度もボコボコにされちまってるじゃねえか。」
「それは、その……」
面子に由宇が入ってるといつもこう、だなんて口が裂けても言えない。
「よーしそれじゃこうしよう。もし次負けたら、あンたにも恥ずいコスプレやってもらうかンな!」
「ええっ?!何で俺まで!!」
「弟子と師匠は一蓮托生だろ?それとも何か?あンた、ハナッから勝てねえとあきらめてンのか?!」

コスプレ(ってゆうか女装)には苦い思い出のある貴史。
そんな目に遭ってなるものか、と気合いを入れて挑んだ四半荘めだったが……

「ごちそうさま、それ、いただきです。」
「ダブロンありだったわよね。ロン。」
「もひとつおまけでロン。」
貴史は灰になって崩れ去った。


「ヘンリー君もそうだけど、貴史さんも素材がいいから腕の振るいがいがありますよね。」
「さてさて、どんな格好をしてもらお……」
恵美と恭子が貴史ににじり寄った、その時。
「ジャスト・ア・モーメント!」
バーンと勢いよくドアが開けられた。
「その話、私も一枚噛ませてもらうわよ!!」
「是非、協力させて頂きます。」
現れたのは景とクレアだった。
「諏訪!それにクレアさん?!何でここに?!」
「あ、私が呼びました。」
「由宇ーーーっ!!」


「はい、これ衣装です。貴史さんのお着替えはそちらの部屋でお願いしますね。私たちはサキちゃんをドレスアップしますから。」
景とクレアに引きずられるようにして、貴史は向かいの部屋へ消えていった。
『うふふ〜、『貴子ちゃん』の登場は3年ぶりね〜w』
『どうでしょう?ミス眞柴と合わせるためにも着け毛でポニーテールにしてみては。』
『いやいや、こーゆー服の時はこっちの方が。』
『おーたーすーけー!』

しばしの後……
「サキちゃんのおめかし、終わりましたよー。」
「こっちも準備オッケー!」
「それじゃあ、せ〜の……」
「ぢゃっぢゃ〜〜ん!」



「どお?景&クレア渾身の力作よ。」
女装した貴史の艶姿に、女性陣は息を呑んだ。
「うっわ〜〜、貴史さん、化けましたね〜。」
「思った通り。お綺麗ですよ、貴史さん。」
「す・て・き……」
「激写!激写!!」
由宇に至っては、写真を撮りまくっている有様。
「貴史さン……あンた、似合いすぎだよ。」
「……何も言わないでくれ。」


……結局、その後、サキが麻雀を打ったという話は寡聞にして聞かない。
「いーじゃねーか。麻雀打たねー不良がいたってさ。」

(了)


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