若夫婦?

リョウ・アマバネ


「ほーらー。家までもうちょっとなんだからがんばりなさいよー。」
「お前なー、こんな重い荷物を運ばされる俺の身にもなってみろ!」

牌楽天の店先を掃除していたマスターは、店の前を騒々しく通り過ぎていく二人に気が付いた。
珍しく私服姿の景と、大荷物を抱えてヒィコラ言っている貴史だ。
「やあ、景ちゃんに貴史君。二人でショッピングの帰りかい?」
「ええ、そんなところです。」
「断じて違います!」
まったく逆の答えがまったく同じタイミングで返ってきた。
「……とりあえず一休みしていかないかい?コーヒーくらいはごちそうするよ。」




目の前の二人にコーヒーを差し出しながら、マスターは首や肩をコキコキいわせている貴史に尋ねた。
「しかし何でまた景ちゃんの荷物係をやる羽目になったんだい?」
「『榊原くん、助けて!』って電話に呼び出されまして。
普段『貴史』って呼ぶコイツが『榊原くん』でしょ?一体何事かと駆けつけてみれば……」
「あははー、ちょっちバーゲンでリキ入れ過ぎちゃった♪」
「と、まあこういう訳です。」
「ふーん、なるほど。あ、でもさっきの二人の姿、若夫婦って感じでお似合いだったねぇ。」
ばぶしゅうっ!
ちょうどカップに口を付けていた貴史は、見事なコーヒーブレスを披露した。
「ゲホッゲホッ!な、何て事言うんですか!
マスターはコイツの悪行を知らないからそんなこと言えるんですよ。」
「悪行とはごあいさつねー。」
貴史の言葉にブーイングを投げつける景。
「こっちは当時のことを思い出すだけで頭痛がしてくるってのに。」
「む。たとえばどんなのよ。」
「まず文化祭。恒例だったミスコンを「会長権限」の一言で男子ミスコンにしたろ!」
「えー?でもアレ、好評だったじゃない。」
「でももストもあるか!ムリヤリ出場させられて俺がどんなに恥ずかしかったか!!」
「貴史のウェディングドレス姿の写真、ちゃんと残してあるわよ?ブッちぎりで優勝したやつ。」
「ぐ……」

「体育祭の二人三脚では、転んだ俺を引きずったままゴールまで突っ走った。」
「おかげで1位になれたんだから感謝しなさいよね。」
「全身擦り傷まみれになって感謝出来るわけないだろ!」
「軟弱者!それでも男ですか!……なんちゃって」

「おまけに修学旅行じゃ、木刀一本で地元のヤンキー集団を壊滅させるし。」
「ふっふっふ、あれで「からくり高の稲妻」お景さんの名が全国に轟いたってものよ。」
「事態の収拾にみんなどれだけ苦労したか……」
「ご安心召されい、峰打ちでござる。」
「木刀に峰打ちは無い!!」

「他にもまだまだ……」
「もー、相変わらず細かいんだから。そのうちハゲちゃうよ?」
「大きなお世話だ!」

「ぷっ…くくくっ、君たちが『名物生徒会』って言われてた意味がようやく分かったよ。」
目に涙を溜めながら、マスターは笑いをこらえるのに必死だった。
「名物って……まあ、そう呼ばれる原因の9割は生徒会長にあったと思いますけどね。」
「つれないなー。そりゃいろいろ無茶やったけど、それが出来たのも貴史っていう頼りになる副会長がいてくれたから、なんだよ?」
「ばっ、なに真顔で恥ずかしいこと言ってるんだよ!」
貴史は照れ隠しにカップへ口を付けたが、景はじっと貴史を見つめている。
「マジ?」
その真剣な視線に、貴史が聞き返すと……
「…………なーんてね。ふふっ、相変わらず貴史ったらかわいーんだから。このこの〜。」
途端に普段の景に戻り、ぐーでうりうりと貴史の肩をこづく始末。
(いつもこれだよ。まったく……)
ますます憮然とする貴史であった。




さてと、休憩終わり。行こう、貴史。」
残っていたコーヒーを飲み干すと、景は出発を促した。
「やれやれ、あの長い石段を登るかと思うとうんざりだ。」
「ぼやかないぼやかない。これでも感謝してるんだぞ?」
「まったくそうは見えないがな……マスター、コーヒーごちそうさまでした。」
意気揚々と店を出る景と、何のかんの言いつつ荷物を持って付いていく貴史を見て、マスターはつぶやいた。


「水晶も6月の庭も、青年の日の恋にはただ色褪せる……か。
若いっていいねえ。」


<了>


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