第2話
「立ち込める暗雲」



突如宿場町を襲った謎のグラップラー集団「鷹田モンスター軍団」
防衛戦を終えて修練場に戻り、師匠ヒムラーから現在の世界情勢について聞かされるシンノスケ達
その話はにわかには信じがたいものであった

太平    「な・・・あのモンスター軍団という連中はそれほどに強大なのですか?
       先ほど戦った部隊に関してはあまりそうは思えませんでしたが・・・」

ヒムラー  「欧州や南米では国ごと支配下に置かれてしまった地域もあるそうだ
        聞けば
1000人規模のA級グラップラー達で襲撃されたとの事」
太平    1000人のA級!?

1000人のA級グラップラーと言えば確かに一国を制圧するに十分な戦力である
しかしそんな規模の軍団が世界各国に次々現れているとなると・・・
鷹田モンスター軍団のグラップラー戦力値はおよそ常軌を逸している

ヒムラー  「さっき宿場を襲った連中は、数も少ない上にB級も混じっていた
        おそらく奴等にとってはほんの斥侯部隊
に過ぎぬ輩であろうよ」
シンノスケ 「し・・・しかし師匠。それはあまりにも信じがたい話ですよ?
       真実ならば少なく見積もっても奴等の戦力は
1万人以上は確実
       そんな途方も無い数のグラップラー達が・・・
       近年現れたばかりの悪の軍団に一斉に結集したと言うのですか?」
ヒムラー  「ウム、腑に落ちぬのはそれだ
       万単位のグラップラー達が突如として悪の呼びかけに応じたなどと
       そんな事は普通に考えてあり得ん。 だがな・・・聞いたであろう?
       奴等は制圧した町から一般の人間達を”捕虜”として連れ去るそうだ」

『それがどういうことかわかるか?』
す・・・と神妙な表情で弟子二人に視線を投げかけるヒムラー
その言わんとする意味にハッと気づいた太平が思わず声を上げる

太平    「まさか・・・”改造グラップラー”!?
       普通の人間を改造・洗脳してグラップラーに仕立てあげていると?」
ヒムラー  「おそらくな。10年前の大戦でも実際にそれをやった科学者が居た
       このまま後手に回ればそれだけ奴等の力は膨れあがっていく」

かつて世界を危機に陥れた最強最悪のグラップラー軍団「紅華会」
マッドサイエンティストDr国枝のもたらした悪夢は10年の月日で風化することはなかった
グラップラー改造手術は人を人でなくしてしまう外道の所業である。およそ人間として許されるものではない

シンノスケ 「許せない・・・師匠!奴等は早急に討たねばなりません!」
ヒムラー  「無論。世界グラップラーサミットでもモンスター軍団討伐が決議された
        此度の私の京への出向も『剣聖』として溥儀様に頼まれてのことだ
        
太平。シンノスケ。京に帰る時がきたぞ」

鷹田モンスター軍団討つべし!
世界グラップラー連盟は緊急サミットにより、各国間連携してのモンスター軍団打倒を決議
ちなみにグラップラー連盟理事は紅華会戦争の英雄、大日本帝国将軍・
足利溥儀その人である

「京に戻れ」という師匠の言葉に瞳を輝かせる弟子二人
そう、太平とシンノスケはともに京の出身。永らく厳しい修行生活を続けていた二人にとっては懐かしき故郷なのだ

シンノスケ 「きょ・・・京にですか!」
太平    「おおっなんと!しかしお師匠・・・我々はまだ・・・」
ヒムラー  「たしかにまだ免許皆伝とはいかぬが。もうお前達は一人前の剣士だ
       今こそ京に戻り、その力を溥儀様のために役立てよ・・・・・ん?」

飛び上がって喜ぶ弟子を見て、目を細めて笑うヒムラーであったが
ピクリと何かの気配を察知すると、手元の刀を静かに引き寄せた
抱き合って浮かれていた太平とシンノスケも、その動きが途端に止まる




ヒムラー  「・・・・・太平。シンノスケ」
太平シンノスケ「は
い!」


同時に答えると、振り向きざまに凄絶な抜刀!
”シュパァァァン!!!”
刀が狙ったのは突如として天井から降ってきた”それ”である
”それ”は音もなく道場の床に着地すると、ザザッと間合いをとって身構えた

刺客・男  「はッ!天井裏に潜んでいた俺達に気づいていたか!
        なかなかやるなァ・・・流石は剣聖の弟子といったところだ」
刺客・女  「いい居合いだけど。私達と戦うにはまだまだってトコかしら」

グラップラーと思われる一組の若い男女。そして外からは道場を取り囲む無数の殺気を感じる
おそらくはモンスター軍団の刺客!
ジリ・・・と歩を詰めてくる男女は「剣聖」を相手に恐れも見せない
自分達が負けるなどと微塵も思わない圧倒的な自信。これはよほどの実力者なのか

刺客・男  「剣聖ヒムラー!その命貰い受けるぞ!
        俺の名はベイブレード使いのマカ・・・
げぶあぁ!
刺客・女  「そこのボウヤ達もね!
        私の名は暗黒錬金拳のルー・・・
ぐはぁッッ!

”ドシャッ”
男女が高らかに名乗りを上げようとしたその瞬間
二人の腹から真紅の噴水が盛大に噴出し、二人は断末魔の呻きとともに床に倒れ伏せた
「避けた」と思っていた太平とシンノスケの居合いは、二人を完璧に捉えていたのだ
その目にも留まらぬ速度と切れ味ゆえ、斬られたことに気付かなかっただけである

太平     「へっ”剣聖”の弟子を舐めるんじゃねェよ」
シンノスケ 「・・・例え女性であっても悪人には容赦しない」

名前すら名乗れずに瞬殺された哀れな刺客
二人の小宇宙が消滅するのと同時に、道場を包囲していた殺気がその半径を狭めてきた
”剣聖”がゆっくりと立ち上がる。屋外には数え切れぬ敵がひしめいているであろうに、まるで動じた様子は見られない

ヒムラー   「やれやれ・・・随分と慌しい出発になってしまったな
        いくぞ太平、シンノスケ」




黒装束1  「道場に火を放て!僅かでも人影が見えたら総攻撃だ!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・
日も落ちて夜の闇が訪れた富士山麓を、紅蓮の炎が赤々と照らし出す
木造の小さな道場は火の回りも早い。ほどなくして巨大なキャンプファイアーの完成である
炎に追われて中から飛び出してくるであろうターゲットに意識を集中させる刺客達
ゆらり、と道場入口に黒い影がゆらめいた瞬間

ドガガガガガガガ!!!
ガトリング砲の一斉放火。間髪入れず、渦巻く殺気とともに黒い疾風が殺到した

装甲戦士  「ウワッハハハハハ!地獄のハーモニーを聴け剣聖!
        俺の名は音撃戦士・ブロンクスガン・・
ダッ!?

ボバッ
真っ先に襲い掛かった全身金属装甲の男が、全身から血の花を咲かせてその場に倒れこむ
なにやら大層な武器を振りかざしていたようが、それを使うこともできずに地面とのキスである
道場の中で倒された男女二人と同じく、己が名前を名乗ることさえ許されぬ瞬撃の一閃であった
薄れゆく意識の中で装甲男が見たのは、真っ二つに両断され地面に散らばった大量の弾丸

甲戦士  「が、ガトリング砲の弾をすべて剣で斬り落としたと言うのか?
        信じられん・・・こ、これが”剣聖”の力・・・・ぐふあっ」

力尽きた装甲戦士の屍を踏み越え、3人の剣士が炎の中から姿を現す
誰一人としてカスリキズひとつ負っていない。凶弾はすべて神速の剣撃によって叩き落されていた

ヒムラー   「やれやれ・・・まったく酷いことをしてくれるな貴様等
        こんなボロ道場でも沢山の思い出が詰まっているのだぞ」
シンノスケ 「ええ本当に・・・許せませんね」
太平     「謝ったって勘弁ならねぇな。全員ぶった斬ってやらぁ!」

”ドバババッ!”
道場を包囲していた黒装束達は50名はいたであろうか。しかし3人の影が散開したと同時に、3方向で飛び散る赤い花火
瞬く間に斬り捨てられた数は、実に二十数余名。まさしく一瞬にして戦力の半分が消し飛んでしまった
怒りに燃えるS級グラップラー3人を相手にしては、A級グラップラー如きが何十名集まろうとものの数にもならない
勝負はこのまま決するかと思われた―


ガシィッ!

太平     「何ィ!?俺の剣を受け止めただと!?」
ビッグさん 「なかなか良い太刀筋じゃねェか小僧。だが攻めが随分バカ正直だな
        実戦経験はほとんど無ェと見た・・・違うかい?」

太平の一撃を手甲で受け止め、ニヤリと笑う大男。纏う小宇宙は黒装束達の比ではない
『コイツ・・・・強い!』
ドガッ!!
グラップラーの直感がそう感じた、次の瞬間
唸りを上げてすっ飛んできた鉄拳を回避できず、太平は十数mも吹き飛ばされていた



ズキュン!!ダキュ!ダキュン!

兄弟子・太平が大男の攻撃に吹っ飛ばれた頃、シンノスケもまた眼前の相手に苦戦を強いられていた
全身むくむくの毛に覆われた半獣人種族。得物が拳銃であることからクラスは「ガンナー」と推測される

シンノスケ 「ッッ!は・・・速い!なんだこの銃弾は!」
厳太くん  「
対グラップラー用強化銃ブーステッドガン弾速およそマッハ9
        S級グラップラーの動体視力とてそう見切れるもんじゃない
        そうら踊れ踊れ小僧!華麗に舞ってみせろ死のダンス!」

ドドドドドドッドドウ!
そのずんぐりした体型に似合わない、的確なる連続射撃がシンノスケを襲う
獣人の言う通り、電磁バーストで撃ち出される強化弾のスピードは雷光の如く。S級グラップラーの眼をもってしても完全には捉え切れない
相手の視線と銃口の向きから弾道を予測し、先読みで大げさに回避するしかない
正確無比な射撃は相手をミドルレンジより内に寄せ付けず、剣士であるシンノスケは完全な防戦一方である

一度大きく飛びのいて間合いを取るシンノスケ。ザザッ!と背中合わせに並び立つ兄弟子・太平

シンノスケ 「先輩。一人・・・いや一匹強敵がいます。手ごわいですよ」
太平    「チッ、そっちもかよ。こっちにもゴッツイのが一人いやがるぜ」

ビッグさん 「オイオイ、お喋りしている余裕があるのか小僧ども?」
厳太くん  「そらそら!固まってると二人まとめて蜂の巣だぜ!」

休む間も与えず続く猛攻。二人の若い剣士は反撃の糸口を見出せず、ただひたすら回避に徹し続ける
だが大男の接近戦に獣人の援護射撃が加わり、ついにその均衡が破られた
大男のショートフックに被弾して体勢を崩したシンノスケ。その眉間目がけ、吸い込まれるように飛ぶ弾丸
『かわせないッ!』
死を覚悟したシンノスケが思わず瞳を閉じた、その瞬間
凶弾はその命に届くことなく、真っ二つに割れて地面に転がり落ちていた

シンノスケ 「し・・・師匠!」
太平    「師匠!」
ヒムラー  「お前達だけでどこまでやれるか見ていたかったが・・・
       これほどの手錬が相手ではまだ経験不足といったところか
       そこの二人。S級・・・しかもかなりの腕前のようだな」

シンノスケのピンチを救ったのは師匠・ヒムラーの剣であった
既に周囲に雑兵の黒装束達はただの一人も存命していない。すべて彼に倒された後
二人の老練なS級グラップラーを相手に、まだ実戦経験浅い弟子達がどこまで戦えるか見守っていたのだ

厳太くん  「フッ、当然だろう。なにせ”剣聖”を討てという任務だ
        A級の有象無象が100人いても役になど立たぬわ
        俺の名はモンスター軍団S級ガンナー・厳太くん」

ビッグさん 「同じくモンスター軍団S級グラップラー・ビッグさん」

名乗った二人の小宇宙が更に大きく膨れ上がった。若造相手には本気を出すまでもなかったという事か
「S級グラップラー」という等級の中にあっても、当然ピンからキリまで実力差があるワケだが
この二人の実力は疑うことなき「ピン」。”剣聖抹殺”の任務に選出されたのも納得できる強さだ

ふむ、と二人を値踏みするように眺め一呼吸ついたヒムラー。懐からごそごそと取り出したのは・・・・・・
なんとワインボトルとグラス!酒好きのヒムラーがあの炎の中、まっさきに持ち出したのがコレである
シャンピニオン・スペチアーレの白。35年物

ヒムラー  「ふーっ、二人とも退がっていなさい。私が戦う」

厳太くん  「来るか”剣聖”!その名は天下に轟く天才剣士なれど」
ビッグさん 「俺達ふたりを同時に相手して勝てると思うなよ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
若造剣士ふたりを相手にしていた時とは桁違いの小宇宙。全開で解き放ったオーラに周囲の空気がビリビリと震える
流石は「剣聖抹殺」を任された刺客達
その圧倒的な迫力を前に、太平もシンノスケもその場を一歩も動くことができない
だがしかし当のヒムラーといえば・・・・・なんと
敵を眼前にしながら瞳を閉じ、優雅に秘蔵のワインを味わってるではないか!

ヒムラー  「んん〜。コレを開ける日が来るとは・・・うむっ!美味い!
       この芳醇な香りと滑らかな舌触り、飲み心地・・・エクセレント!
       どうかね諸君らも?こんな高級酒めったに飲めるモノじゃないぞ」
太平    「師匠ー!何を呑気なことを!」
シンノスケ 「お酒なんて飲んでる場合じゃあないでしょ!」

ヘラヘラと笑顔を浮かべ、あまつさえ敵にワインなど勧める呑気な態度
あまりにも真剣さを感じないその反応に、太平とシンノスケも、
そして刺客ふたりもぽかーんと口を開けるしかない

ビッグさん 「なッ・・・舐めるんじゃねえヒゲジジイーッ!」
厳太くん  「そいつがテメエの末期の酒だ!死にやがれ!」

ドギャッ!
すぐに気を取り直すと、侮蔑された怒りとともに攻撃を開始。二条の閃光が走る!
目にも留まらぬフットワークで間合いを詰めるビッグさん。打撃主体グラップラーである彼の得物は、両腕に装着された手甲
地上で最も硬いとされる合金
「マグナムスチール」100%で、肘から指先までをすっぽりと覆う完全防御式
武器として使えば地上最硬のハンマーナックル、そして防御に使えば地上最硬の盾になる優れモノである

ビッグさん 「超必殺!ギャラクティカマグナム!」

必殺の間合いに入ったビッグさんの豪腕が唸りをあげる。10tトラックの激突にも相当するフェイバリットブロー
しかしヒムラーはさながら破壊力の塊のようなこのパンチにタイミングを合わせ、「ひゅん!」と軽く剣を薙ぐ
『バカが!マグナムスチール製の手甲だぞ!?
刀ごと叩き折ってその頭蓋骨粉砕してくれるッ!』

圧倒的な迫力でせまる剛拳に、細身の刃が吸い込まれるように飛ぶ
1秒後の己が勝利を確信するビッグさん
しかし次の瞬間


翻った白刃はその身を折られることなく

ビッグさんの太く、逞しい腕を拳から肩口まで一直線に斬り裂いていた

ビッグさん 「ぎゃああああああああああああああ!!!
        こ・・・こんな!こんなバカな!一体なにが起きて・・・!?
        
手甲は無事なのに!俺の腕だけがァ!!」
ヒムラー  「水殻流。甲殻を水の如く通す剣技
       力に力で対抗すれば、弱いほうが吹き飛ぶだけ・・・
       
激流を制するは清流。すなわち水の心!」

荘家秘伝『水殻流』
ヒムラーの放った一撃はマグナムスチール製の手甲を水のようにすりぬけ

中身の”肉体だけ”を切り裂いたのだ!
喉が割れんばかりの絶叫をあげ、もんどりうってのたうち回るビッグさん
物理法則を超えた絶技の前に、まさに一瞬にして破壊されてしまった自慢の豪腕。これが剣聖の剣か

厳太くん  「ちぃッ!そのまま地面に伏せてろビッグ!」

ドドドドドドゥッッ!
叫んだ厳太くんの銃口から6つの雷光が迸る。6発装填のリボルバー全弾発射という脅威の早撃ちである
もっとも、わずかながら発射音が連続で聞こえるあたり、伝説の早撃ち「シックスオンワン」を使うあのガンナーには劣るようだ

眉間・人中・喉・胸・腹・そして金的
6つの銃弾、その狙いはすべてヒムラーの正中線を完璧に捉えていた。一発でも当たれば致命傷・・・・だが!


ボバァッッ!!
ヒムラーが真下から斬りあげた一振りは、真正面から飛んできた6発の弾丸すべてを真っ二つに切り裂き
その50mは先にいた厳太くんの右腕を吹き飛ばした

厳太くん 「うぐうあああああああ!バッ・・・バカな!
     
疾やすぎる!真空の刃によるかまいたち現象ではない!
      
 そ、そうかこれが噂に聞く・・・
千歩氣功剣ッ!」
ヒムラー  「ふむ・・・ふたりとも筋は悪くないがまだまだ甘いな
       
少し実戦経験が浅いんじゃないか?」

ヒムラーはそう言ってグラスをくるくる回すと、残っていたワインを美味そうに飲み干した

シンノスケ 「す・・・すごい師匠!あんなに激しい戦いだったのに
        
ワインを一滴もこぼしていないッ!」

太平    「当たり前だ。俺達の師匠は天下無敵の”剣聖”だぜ」

モンスター軍団の中でも選りすぐりであろう刺客二人を相手に、”剣聖”の剣はこれをまるで問題にしない
まさに圧倒的と言うべき実力差である
一瞬にして利き腕を破壊され戦闘力を失った二人が、苦痛に表情を歪めながら呻く

厳太くん  「ぐくッ!なんの悪夢だこれは・・・この俺達が何もできずに!」
ビッグさん 「まるでレベルが違う!剣聖とはこれほど強かったのか!?」

ヒムラー  「・・・私が強い?・・・フッ、たしかにお前達からはそう見えよう」

そう言って自嘲気味に笑ったヒムラー
彼の脳裏によぎったのは偉大なる師兄・シンエモンの姿であったが、その心を知る者はいない
と、瞬間
ヒムラーが僅かに視線を落としたその隙―
あたり一面が真っ白な煙に覆われた。煙幕!

厳太くん  「忌々しいが・・・我々の見立てが甘かったという事か
       今回は完敗を認めよう剣聖!だが覚悟しておけ!」
ビッグさん 「軍団には我等以上の実力者がまだまだいるのだからな!
       
そして天魔流星復活の時は近い!」
ヒムラー  「なっ・・・天魔流星だとッ!?
       バカな事を!お前達はアレを復活させる気なのか!」

ビッグさんの漏らした言葉『天魔流星』
それを耳にしたヒムラーが驚愕に目を見開き、思わず大声を上げて聞き返すが・・・

厳太くん   「クッククク・・・さてね。ではまた会おう剣聖!
        それまでそのボウヤ達をもう少しまともにしておくんだな!」

ヒムラーの問いには答えることなく
煙幕が晴れるのと同時に、二人の小宇宙はまさしく煙のように消え去った
呆然と立つ尽くす師匠に駆け寄るシンノスケと太平

シンノスケ 「師匠!ヤツらを追わないのですか!?それと・・・・
        天魔流星って何です?何かタダ事じゃない反応でしたが」
ヒムラー  「夜の闇に紛れたS級グラップラーを追走することは至難だ
        ましてや二手に分かれて逃げられては諦めるしかない
        ・・・シンノスケ、太平よ。お前達二人は今すぐに京に立て
        私はしばらく別行動を取る」

太平     「ええ?何故ですか師匠。一緒に・・・」

思いもかけぬ師匠の言葉に困惑する弟子二人
ヒムラーは黙ったまま剣を鞘に納め、それを太平に差し出した

ヒムラー   「太平。水殻をお前に授ける。きっと力になろう」
太平     「んなッ・・・・!?そそそ、そんな恐れ多い!
        水殻は大師父・陳京彊より継がれた
”剣聖の剣”!
        私のような未熟者には不相応です!」

狼狽して声が裏返る太平
剣聖ヒムラーの得物
「水殻」はその師・匠陳京彊から受け継がれた名刀中の名刀である
一人前の剣士になったとは言え、およそ20歳そこらの若造が軽々しく譲り受けていい代物ではない

ヒムラー   「いずれお前の物になる剣だ。時期が早まっただけのこと
        それに不相応というのならばこの私も同じよ・・・
        水殻はタダの剣ではない。己の意思で持ち主を選ぶ」
太平     「己の意思・・・?剣が、ですか?」
ヒムラー   「いずれわかる時がくる。お前にその資格があればな
        さぁ黙って受け取れ。これからの戦いには必ず必要になる」

太平     「・・・わかりました。謹んで拝領致します
        水殻に負けぬ使い手となるよう、日々精進に励む所存であります」

偉大なる師から継いだ剣を今、弟子の手へと
ヒムラーはフッと微笑むと今度はシンノスケと向き合い、その美しい金髪をくしゃくしゃと撫でた

ヒムラー   「シンノスケ、事態は思った以上に深刻だ。私は閻王殿を探す
        立派に成長したお前の報告もせねばならんしな」
シンノスケ  「一体さんをですか!?だったら私も連れて行ってください!」

”閻王”こと地上最強のグラップラー一体さん
グラップラーであれば知らぬ者のいない紅華会戦争の英雄。世界を救った救世主
そして5年前、ヒムラーに当時まだ8歳のシンノスケを預けた人物でもある

ヒムラー   「ならぬ。太平と一緒に京へ行けと言ったぞ?
        それに斬岩剣と水殻は常に傍にあったほうがよいのだ
        ・・・・・他の3本を引き寄せるやも知れぬしな」
シンノスケ  「他の3本?」
ヒムラー   「う・・・イヤ。京では母上や溥儀様がお前の帰還を待っている
        閻王殿は私が必ず探し出すから心配せんで任せておくがよい
        よいか?溥儀様に拝見したら、こうお伝えするのだ
        
”軍団の目的は天魔流星の復活だ”とな」
太平     「師匠。天魔流星というのはいったい・・・」
ヒムラー   「お伝えすればわかる。今はお前達は知らなくていいことだ
        では暫しの別れとなるが・・・いずれすぐに合いまみえよう
        最後に太平、シンノスケ。”剣の心”とは何か?答えい!」

ヒムラーは弟子の問いには答えなかった
代わりに紡がれたのは日々教え込まれた「剣の心」
しかし弟子二人はそんな師匠の反応に何の不信感も抱かない
尊敬と信頼。ヒムラーの言うことが間違っているハズがないのだ

太平     「剣とは鋼の刃で人を斬るものに否ず!
        
心にて悪を斬るもの也!」

シンノスケ 
「剣は己の為の力に否ず!
     
 弱き人々を救う為の力也!」

ヒムラー   「うむ見事!二人に剣神の加護があらんことを!」

毎日毎日。修練の前に唱和してきた言葉である
まだ皆伝は許されていない二人であるが、この旅立ちは事実上の独立であると言える
二人は万感の思いを込め、声高らかに読み上げた

かくして
シンノスケと太平、二人の若い剣士は故郷・京都へとその足を向けることとなる




ヒムラー   「・・・・まさか天魔流星とはな・・・・
        私も再び”人斬り抜刀斎”に戻る時がきたか」

手を振りながら山を降りる弟子二人を見送るヒムラー
その行く先に立ち込める暗雲は、二人の旅の困難さを象徴しているかのようであった

TO BE CONTINUED・・・


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