J     「と、まぁ。俺は青幇日本支部のグラップラーってワケさ
      ちょいと難易度の高い任務が舞い込んで来ちまったもんでな
      旧知である”剣聖”ヒムラーさんに助力を仰ぎたかったんだが」
シンノスケ「青幇・・・そうか。師匠は紅華会戦争後は青幇に身を置いていた」
太平   「大親分である潘光輪とは兄弟の盃を交わしたほどの仲だと聞く」

太平との壮絶な決着から数刻後。気絶状態から目を覚ましたJは自分の正体と目的を明かし始めた
Jは世界各国に展開する義侠グラップラー集団『青幇』の一員であり、”剣聖”ヒムラー剣心とは旧知であると言う

J     「ところがだ。せっかく頼って連絡を入れてみればオメエ、
      
『自分は成さねばならぬ事がある』とか何とかで断られちまった
      で、その代わりの助っ人として名前を教えられたのが・・・・」
太平   「俺達。弟子二人ってことか」
J     「その通り。ちょうど今頃近場にさしかかるだろうって言われてな
      人相と風体を聞いて、お前さんらが来るのを待ち構えてたのさ」

Jが二人に声をかけてきたのは、師匠・ヒムラーの示唆するところであったのだ
勝負を挑んできたのは二人の実力が任務に見合うモノか計る為
これで事の経緯はおよそ説明がついた

太平   「話は解ったが。俺達も京へ行かねばならないという使命がある
      長い期間足止めを食うようなら断らせてもらうしかないぞ」
J     「心配にゃ及ばねえ。決行は二日後、一夜限りのミッションだ
      太平よ、それまでその目は大丈夫だろうな」
太平   「これくらい師匠特製の塗り薬を塗っときゃ一晩で治るさ
      ・・・委細承知した。師匠の示唆とあらばこの話引き受けよう」

J     「期待してるぜ相棒。シンノスケ、お前さんも気合入れてくれよな」
シンノスケ「・・・わ、わかっています・・・」

ポン、と肩を叩かれて思わず萎縮してしまったシンノスケ
Jの言葉にまったく悪気はなかったのだが、
『お前は太平と比べて弱かったから、もっと頑張ってくれ』
その言葉は彼にとってはそう聞こえてならず、自分の不甲斐なさに対する怒りと悔しさで唇を強く噛み締めるのだった

さて。話はまとまり、残るは肝心の「任務」の内容であるが・・・・・

J     「相手は鷹田モンスター軍団だ
      奴等に囚われている要人と、その施設の
ある兵器を奪還する」
太平   「要人救出か。もうひとつの兵器ってのは何なんだ?」
J     「前大戦の遺産ってやつさ・・・発掘兵器だ」

【 発掘兵器 】
紅華会戦争から更にずっと昔、俗に「前大戦」と呼ばれる”第2次グラップラー世界大戦”は起きた
世界各国が天下統一の覇権を求めて戦った、歴史的にみても未曾有の大戦争の事
この時、各国がS級以上のグラップラーの戦闘力に対抗するため、凄まじい破壊力を秘めた超兵器をこぞって作り上げた

紅華会戦争のカイロ決戦で投入された「せんこーしゃ」などもそのうちの一部である
やがて長きにわたって続いた大戦により国力の疲弊した国々は、各国同意の下に戦争の終結を宣言
各国の保有していた超兵器達は安保理条約によって全て廃棄処分された―      ハズであった

しかし大戦終結後。世界中のいたる軍事施設跡から破棄を免れた超兵器が発見される報告があり、
それらは現在
「発掘兵器」という総称で呼ばれている

シンノスケ「発掘兵器・・・まさかビットモビルスーツ『せんこーしゃ』?」
J     「せんこーしゃならまだ可愛い。もっとトンでもない奴だ
      アレがモンスター軍団の手駒になることは世界の負けを意味する
      この任務・・・・なんとしても成功させるぞ」




突然目の前に現れた黒衣の男達。その数は圧倒的

絶望の淵に立たされながら。しかし青年は拳を強く握り固める

両足を折られ

腕を吹き飛ばされても

燃ゆる闘志と決意は揺らぐことなく

獣のように地を這い、敵の足に噛み付いて抵抗を続けた

その命尽きる 最後の瞬間まで―

大切な仲間達と、尊敬する父

そして

発見したばかりの”それ”を 悪の手から守るために



???   「う・・・・・ッ」

軽い頭痛とともに青年は眠りから目覚めた
何か恐ろしい夢を見た気がするが、はたしてそれはどんな夢であったか

目を覚ました場所は自分の部屋ではなかった。どこか大きな施設の医務室・・・・いや違う
ここはおそらく、何かの
”研究室”
所狭しと並べられた大型機器は医療用だけでなく、なぜか重工業用の精密作業機械なども含まれていた
不安に駆られ、ベッドから降りようとしたその時。部屋の奥の小さな扉が開き、中から見知った人物が現れた
その姿に安堵を覚える青年

???   「父さん・・・ここは一体?」
鶴来博士 「目が覚めたか。我が息子よ」


禿上がった頭に愛嬌のある丸メガネ。口元にどじょう髭をたくわえた初老の男は青年の実父であった
世界的機械工学の権威、鶴来丈夫(つるぎじょうぶ)博士である

鶴来博士 「まだ目覚めたばかりで意識が混濁しているようだな
       自分やワシの名前をちゃんと言えるか?」
隕石    「・・・・バカにしてるのかい父さん?
       
自分は鶴来隕石(つるぎいんせき)歳は20歳
       青幇日本支部所属のグラップラーで、親父は鶴来丈夫」

突然おかしなことを聞く親父だ、と思いながら隕石は質問に答えた
そう。
青幇日本支部のグラップラーであり、父は世界的に高名な博士
―それが自分―鶴来隕石という一個人だ
だがそんなナンセンスな質問に当たり前に答えた、その次の瞬間

鶴来博士 「実験は・・・・成功だ・・・・!」

父は突然咽び泣きながら隕石に抱きついてきた

鶴来博士 「おお隕石・・・我が息子よ!
       一年ぶりだな・・・!一年ぶりだな・・・・!」
隕石    「い、イキナリどうしたんだ父さん!?
       一年ぶりって・・・俺は昨日も父さんと一緒に・・・
       あ、アレ!?昨日・・・・・俺は・・・・・・ッ」

”ドクンッ”

言いかけた途端、激しい頭痛が隕石を襲った。目眩がする。吐き気もだ
頭を押さえてぎゅっと両目を瞑る
昨日?昨日自分は何をしていた?・・・・そうだ

長きに渡って山奥に隠蔽されていた旧日本軍の軍事施設
そこで発見された発掘兵器の調査の為に赴いた父と、その調査団に同行した自分

突然現れた黒衣のグラップラー達
そして自分は死力を尽くして奴等と戦い・・・!

隕石    「父さん!俺は・・・何故無事でいるんだ?

さっきおぼろげに見た悪夢を 隕石は今ハッキリと思い出した
否。あれは夢ではなかったのだ

鶴来博士 「あの時の事を思い出したか・・・隕石、落ち着いて聞け
       今のお前の身体は”人間・鶴来隕石”のモノではない」
隕石    「!?・・・・そ、それはどういう・・・・!」
       「あの時、瀕死のお前を助ける為にワシは・・・むっ
       奴等めもう来おった!定刻よりも早いではないか!」

大型コンピューターのモニターに映し出されたのは外部の映像だろうか
その映像を見て隕石が硬直する。心臓を鷲掴みにされたような衝撃

そこに映っていたのはあの時と同じ黒衣のグラップラー集団だった

隕石    「父さん!奴等はあの時の・・・・!」
鶴来博士 「うむ”敵”だ!隕石、お前は奴等と再び戦わねばならん
       鶴来隕石ではなく・・・
”超人機メタル太”として!」



第5話 月は出ているか?



漆黒の軍服にたなびくマント
その身体から立ち上る小宇宙は、並のグラップラーなら当てられただけで戦意を喪失してしまうだろう
サングラス越しでも相手を眼力で射殺してしまいそうな迫力。他を圧倒する存在感
外部モニターに映し出されたその男の名は・・・・・「鷹田延彦」という

そう、鷹田モンスター軍団の最高権力者・鷹田総統その人である

鷹田総統 『ごきげんよう鶴来博士!依頼から丁度1年・・・約束の期日だ
       ”アレ”の修復の目処はついたかね?』
鶴来博士 「・・・・・出来ておるとも。ラボまで受け取りに来るがいい」

外部回線で話しかけてきたのは鷹田総統本人
なにやら随分と上機嫌の総統に対し、真剣な面持ちで言葉少なに対応する鶴来博士。それだけ告げて通話回線を切る
すぐさま父に問いただす隕石。今の会話だけでもおおよその概要は察しがつくというものだ

隕石    「どういう事だ父さん・・・アイツ等は悪の組織なんだろう?
       そんなヤツ等の為に”アレ”を修復したというのか!?」
鶴来博士 「あぁ修復したとも。だが無論ヤツ等の為にではないぞ
       ”アレの力でヤツ等を倒す為に”だ!そして隕石・・・
       
お前の命をこの世に繋ぎとめる為に」

ぐらり、と。隕石の意識が揺らぐ
父の言葉は衝撃的であったが、目覚めた時から感じていた違和感のワケが今理解できた
そもそもあれだけの重症を負って死の間際だった自分が、こうもピンピンしているのが不自然だったのだ

隕石    「父さん。俺の・・・この身体・・・は・・・・!」
鶴来博士 「今のお前は「鶴来隕石」であって鶴来隕石ではない
       
全身の99%が機械。生身の部分は脳だけだ
       せ息子よ・・・あの時お前を救うにはこれしか方法がなかった」

隕石    「この身体が・・・全身機械だって・・・・!?
       こうして絶望に震える”俺”は・・・実際は脳だけの存在・・・!?
       そして俺のベースになっているのが”アレ”って事か・・・ッ」

1年前のあの時
発掘兵器の調査に向かった鶴来博士は、突如として現場に現れたモンスター軍団によって拉致された
目的はひとつ。出土した発掘兵器の修復である

調査団の人員は博士を除いて全員が殺され、博士は脅迫されて修復作業を引き受ける事になった
だが博士は青幇の出身で正義の人。己が命を脅されたとて悪の組織の為に手を貸すくらいならば死を選ぶ
依頼を引き受けたのには裏があった。もう説明の必要もないだろう
『あの時、目の前で死んだ息子をこの世に甦らす』
博士は監視の目を巧みにすり抜けながら、発掘された”それ”を生き返らす息子のための「容器」としたのである

そして同時に。それは単に息子を生き返らせるという事に留まらない
息子の意識を宿した”それ”はすなわち鶴来博士にとって最大最強の切り札
モンスター軍団が欲したその絶大な戦闘力を、
モンスター軍団を討つ為に使う
父親として。正義の人として。それが鶴来博士の苦悩の末の決断。この1年間の軌跡であった

鶴来博士 「隕石・・・身勝手なワシを恨むか?」
隕石    「・・・恨むも何も・・・全てが唐突すぎて心の整理がつかない
       状況に嘆いてる時間も与えてくれそうにないしな。やっこさんは!」

そう言って隕石が耳を澄ませた方向。ドカドカという大人数の足音が廊下に響く
パシ、と研究室の電子ロックが開き・・・・・・・
ピシュン!ピシュ―――ン!
入ってきた人物目がけ、入口に設置されていた超小型の機械から無数の光の矢が発射された
その幾条もの光線は侵入者を一瞬にしてあの世へ誘う・・・・・・・・・・・・ハズであった

鷹田総統 「ンッン〜?ほほう対人レーザーかね
       ラボ内の資材だけでこんなモノまで造ってしまうとは流石だよ博士
       ・・・・・で。これは一体いかなる趣向なのかな?」

扉の向こう。鷹田総統はまったくの無傷でそこに立っていた
温和な口調とは裏腹に全身に漲る殺気。しかし博士は恐れることなく毅然と言い放つ

鶴来博士 「そのままの意味だ。お前等のような悪党にアレは渡せん」
鷹田総統 「・・・・・やれやれ。1年間も待たせた挙句にそうくるか
       大変遺憾ではあるがキミはもう生かしておく必要もないな
       そこの若者は新たな助手かね?彼と一緒にここで死ぬがいい」
隕石    「な・・・・・・ッ!」

「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」 総統の反応は冷徹だった
”アレ”はモンスター軍団にとって絶対に必要不可欠な代物というワケでもない。「あれば便利」というモノにすぎない
その為に1年間の期日を与え、のんびりと待った。博士のこの反応も十分に予測していた。だから迷わず殺す
無数の銃口が鶴来父子に向けられる。狭い室内でこの数のマシンガン。回避は不可能

鷹田総統 「アディオス」
ドガガガガガガガガガガ!!!
総統の合図とともにマシンガンが火を噴いた。鉛の銃弾は哀れな父子を仲良く葬り・・・・・・
否。死の雨を全身に浴びたのは
父・丈夫だけであった

隕石    「と・・・ッ父さん!どうして!!」
鶴来博士 「な、何を言う・・・親が子供を庇うのは当たり前だろう・・・
       なのに1年前、ワシはそれが出来なかった・・・
       ワシの腕の中で、次第に体温を失っていくお前を救えなかった
       だ、だが・・・今はこうして・・・・ふふふ・・・・」

息子にもたれかかるようにして、父はゆっくりと倒れこむ。博士は身をもって隕石の盾となったのである
放心状態で抱き止めた父の身体はとても軽く。そして―死の匂い
父さんが死ぬ。耐え難い心の痛みが隕石を襲う。こんな時に涙さえ流れてこない機械の身体が恨めしかった

隕石    「うっうっ・・・とうさ・・・・とうさん!とうさん!」
鶴来博士 「悲しむな隕石・・・・・その思いを・・・怒りに変えろ・・・
       その・・・正義の怒りが・・・・お前の身体を・・・・
       
鋼鉄の超戦士に変える・・・・・ッ!」

『悲しむな。今は怒るのだ』
震える唇で息子に伝える父。今にも泣き出しそうな息子の顔にそっと触れる

鶴来博士 「ふふ・・・なかなかいいものだぞ隕石・・・・
       息子の腕に抱かれて死ぬ・・・と・・・いうの・・・は・・・」

そして
糸の切れた人形のように
ただ
愛おしむかのように頬に添えられていた手が落ちた
隕石は微動だにしない。黙ったまま父の両手を胸の前で組み、静かに床に寝かせた
一部始終を呆け顔で見ていた鷹田総統がパチパチと拍手を送る

鷹田総統 「ハハハ!素晴らしい!実に感動的なワンシーンだ!
       なるほどキミは博士の息子だったか。いやぁしかし残念だ
       せっかく父上に助けてもらった命だが、見逃すワケには・・・」
隕石    「黙れよ」

総統の軽口を遮る一言。感情を押し殺した背中でそう応え、隕石がゆらりと立ち上がる
眼前に居並ぶは1年前のあの時と同じ黒衣のグラップラー。そしてその首領・鷹田延彦
許せない。コイツ等だけは

『隕石。その思いを怒りに変えろ』
絶対に許せないッ!!
『その怒りが お前を鋼鉄の超戦士に変える』
コイツ等だけはッッ!!


隕石     「怒る!!!!!」
※(BGM 超人機メタルダーOPテーマ「君の青春は輝いているか」)

鷹田総統 「!?な・・・!なんだこの凄まじいパワーは!」

ゴカァッ!!!!

放出される圧倒的なエネルギー。波動に当てられ、隕石の周囲の物体がビリビリと振動する
まばゆい閃光がおさまった時
さっきまで「鶴来隕石」が立っていたその場所に
”それ”は悠然と立っていた

鷹田総統 「ジ・・・GX−9900・・・・だとォッ!!
           あのマシンに息子の自我を持たせたと言うのか!?
       
くっ!あのジジイ!よくもこんな事を!!」

青と赤に塗り分けられた円柱形のシンプルなフォルム。2つのアイカメラが宝石のように輝く
総統の顔に緊張が走った。さっきまでの人をくったような余裕はどこにも見当たらない
僅かに後退しながら黒装束達に号令をかける。まるで”それ”に恐れをなしているかのように

鷹田総統 「外に出してはならん!なんとしてもここでヤツを破壊しろ!
       それと・・・
月は出ているか!?」
黒装束A  「は?それはどういう・・・」
鷹田総統 「どうも何もない!
       
月は出ているかと聞いている!」

聞き返した部下をヒステリックに怒鳴りつける総統
血が滲むほど下唇を噛み締めてGX−9900を睨みつける

鷹田総統 「自立回路の擬似人格として息子の意識を持たせるとはな
       まったくもって忌々しいジジイだよ
       名を聞こう鶴来博士の息子!貴様のその身体は我々の物だ
       かりそめの自我はここで朽ち果てるがいい」

赤と青に輝く鋼の身体。見据える2つの目は真っ直ぐに鷹田総統を射抜く
名を問われた”それ”は、燃える怒りを込めて静かに言葉を紡いだ

メタル太  「鶴来隕・・・いやその名は違う・・・・今の俺は・・・・・
       貴様等を討つために地獄から甦った鋼の戦士!
       
メタル太!
”超人機メタル太”だッ!!」


ドガガガガガガガ!!!!

ギギギギギギギィン!!!ギィン!
降り注ぐ嵐のような弾丸。しかしそれはマグナムスチール製のボディには傷ひとつつけられない

鷹田総統 「ええいヌケ作ども!鉛弾などでヤツを倒せるものか!
       接近戦で首を吹き飛ばせ!ヤツの中枢機関は頭部だ!」

総統の怒号とともに10人余りの黒装束達が一斉に飛び掛った
最初に仕掛けた2人が目にも留まらぬパンチで吹き飛ばされるも、その伸び切った鉄腕を二人がかりで捕縛する第2陣
始めから先陣の犠牲を前提とした、見事な波状攻撃である
片腕に2人ずつ、合わせて4人のグラップラーに動きを拘束されたメタル太
無防備な頭部を吹き飛ばさんと、残った4人が疾駆する
タイミングは絶好。しかし

その攻撃はメタル太に届くことはなかった

両腕を捕縛していた4人はその腕を軽々と引き千切られ
正面から襲い掛かった4人は、メタル太の両目から発射された光線に貫かれ絶命
時間にしておよそ3秒。都合10人のA級グラップラーが何もできずに全滅した

メタル太  「すごい・・・これが俺の新しい身体・・・GX−9900の力か
       覚悟はできたかグラサン野郎。次は・・・貴様の番だ!」

鷹田総統 「強い・・・格闘戦能力だけでS級グラップラーに相当する
       ”今の状態”でもこれか。私が思っていた以上に危険だな」

値踏みするようにメタル太の戦いを観察した後、おもむろに右手をかざす鷹田総統
ゴバッ!!!
直後。目に見えない巨大な力に吹き飛ばされ、メタル太の身体は標本のように壁に貼り付けにされていた
何が起きたのかはわからない。わかるのは、それを行ったのが鷹田総統であるという事だけである

メタル太  「ぐううッッ!?な・・・なんだこれは・・・!」
鷹田総統 「機械人形ごときが私を倒すだと?下郎が調子に乗るな
       我が
暗黒のフォースの前では!いかなる力も無力!」

肉体の内に秘めたる無限のパワーが小宇宙ならば
精神の内に秘めたる神秘のパワーが
『フォース』である
その万能の力は手を触れずに物体を動かし、更には人の心まで操る事が可能であるという
かつて「ジェダイ」と呼ばれたごく希少なグラップラークラスに受け継がれたこの力は、
本来”良き力”を現すハズの善に属するパワーである。しかし
鷹田総統の行使する
『暗黒のフォース』とは、その道を悪に染めてしまった闇のフォースのことであり
歴史上のいたる所で現れる悪の独裁者や暴君などは、すべてこの「暗黒のフォース」の持ち主であったと言われている

一対一の戦闘で発掘兵器を圧倒する直接的な強さは勿論のこと
”モンスター軍団総統として”の鷹田の強さは、暗黒のフォースによる悪のカリスマに他ならない
彼はその力でもって次々と優秀な人材を抱え込み、短期間で軍団を巨大組織へと成長させたのだ

鷹田総統 「指一本動かせまい。今その頭を吹き飛ばしてやる」
メタル太  「ぐくッ・・・!父さん・・・俺に力を貸してくれ!」

必死の抵抗も虚しく、メタル太の身体は総統の力に抗えない
総統の右手に漆黒の光が宿る。触れるもの全てを原子の塵に帰す負の閃光

鷹田総統 「終わりだ。深闇破砕・ダークネスフィンガー」

その破滅の右手がメタル太の頭部に触れようとした
まさにその時だった

???   「一文字流烈風剣!!!」
ガラガラズガァアアアン!!!!

鷹田総統 「!?」
メタル太  「!?」

突如として響き渡る、少年の凛とした声
直後、研究室の天井が轟音とともに崩れ落ちた。すかさず頭上から降ってくる名乗り文句

J      青幇推参!鶴来博士を返してもらいにきた!」

鷹田総統が眉をしかめつつ見上げた視線の先には
天井に開いた大穴と、
その上に颯爽と立つ3人の人影

そして―

鷹田総統 「フフン、青幇の救出部隊か。しかし遅かったなヌケ作ども
       既に博士はあの世に・・・・・
うッ!」

秋の夜空に煌々と輝く、満月の姿だった

鷹田総統 「しまッッ・・・・・・・月が!!!」

総統の顔色が変わった。明らかに見て取れる動揺・・・・否。動揺などではない
その感情はおそらく
”恐怖”
グイン!!!
メタル太の腕が力強く動いた。総統のサイコパワーに捕縛され、1mmたりとも動かすことの出来なかった腕が
アイカメラにまばゆい輝きが灯る。両足が動く。違う。さっきまでのメタル太とは、湧き上がるパワーがまるで違う!

『シグナルレッド。全ウェポン自動開放
サテライトシステム起動シマス』

天井に空いた大穴から降りそそぐ柔らかな月光
その天からの光が総統の念動捕縛を打ち破り、鋼鉄の身体に新たなるパワーを与える
『GX−9900リフトオフ』
ゴオンッッ!!
背中のランドセルからジェット噴射
夜空に輝く月に向かうかのように、メタル太は猛スピードで空中へ舞い上がった

J      「なッ・・・GXー9900が起動している!?
           し、しかもそこら中に倒れているのはモンスター軍団か
       俺達が来る前に・・・・ここでいったい何が起きたんだ!?」

目の前で展開する信じがたい光景。驚愕に目を見開くJ
【モンスター軍団に拉致された鶴来博士を助け出し
発掘兵器GX−9900を起動前に奪還・もしくは破壊する】

それがJに課せられた任務内容の全てだ
しかしGX−9900は今、目の前で現実に動いている。任務の1つは失敗である
鶴来博士は?GXが動いているという事は、モンスター軍団の軍門に下ってしまったのか?
否。断じて否
ならばこの、モンスター軍団の戦闘員死屍累々の惨状はいったいどういう事なのか
現場の状況を見ただけでおおよその見当はつく
コレを行ったのが、他ならぬGX−9900であるという事。だとしたらコイツは味方・・・・!?

あまりにも予測の範疇を超えた出来事に狼狽するJ
その混乱の元が発した言葉により、その驚きは更なるものとなる

メタル太  「Jか。1年ぶりだな
           危ないからちょっと下がってろ!今からアイツをブッ飛ばす!」
J      「ジ、GXー9900が喋っただと!?い、いや・・・
       
その聞き覚えのある声は・・・まさかッ!?」

太平    「おいJ!何が起きてる!説明しやがれ!」
シンノスケ 「あのマシン今たしかに・・・まるで友達みたいにJの事を」

起動したばかりのGX−9900が自分の名前を呼んだ。しかもまるで旧知の仲のように
だが。Jにとって最大の驚きだったのはそれ自体ではなく
語りかけてきたその声が。彼の聞き覚えのある声だったからに他ならない

メタル太  「ファイナルセーフティ・リリーブッ!!」

パキーン!!!!
月を背負うかのようにして空中静止し、地上を睨みつけるメタル太。ターゲットロック!
背中から生えた4枚の放熱板のようなものがXの字に展開する

J      「下がれ太平!シンノスケ!巻き添えを食うぞ!
       GX−9900がサテライトシステムを使うッッ!!」

【発掘兵器・GX−9900】
大戦末期最大の軍事遺産。旧日本軍当時の最先端の科学力と、科学者達の心血の結晶
「単機でミリタリーバランスを逆転させる性能」をコンセプトに造り上げられた
”究極の破壊兵器”である
GX−9900の兵器としての動力源は、その機体本体には”存在しない”。内蔵エンジンはあくまで補助動力にすぎない
最大兵装を始めとする、GX−9900の規格外の火力を行使するための莫大なエネルギー・・・・
それは月の無人軍事施設に存在する
月面積のほぼ1/10という、とてつもない広範囲で敷き詰めれたソーラーシステム
月面基地建設から80年以上にわたり溜め込まれた太陽エネルギーは、もはや無尽蔵と言っても過言ではないほどの貯蓄量だ
【サテライトシステム】は、マイクロウェーブを通じて月基地のエネルギーをGX−9900へと転送するシステム
すなわち。GX−9900は
月基地に眠る膨大なエネルギーを自在に使うことが可能なのだ
そしてそれは
現代の最新式高出力エンジンでも動かせないような、ケタ外れの火力を有する兵器をも使える。という事である

メタル太  「マイクロウェーブ、来るッ!」
(BGM:機動新世紀ガンダムX「DREAMS」)

月面基地からまっすぐに伸びた青い光が、メタル太の背中に照射される
放熱板のように見えていたパーツはマイクロウェーブ受信機だった。X字に展開した翼が夜空に青く光る
その姿、まるで―

鷹田総統 「破壊天使・・・・・・・・ッッ!!!」
ボバァッ!!!!
メタル太が掲げた右腕からまばゆい光の剣が伸びた。超密度で収束したレーザーだ
光の筋はどこまでもどこまでも伸び、それはまるで天国の父へ捧げる献花のようであった

メタル太  「永遠に消えろ!俺の目の前から!
       
サテライト・レーザーアーム!」

鷹田総統 「ぬううううううううおッ!」

ドオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオ!!!!!

振り下ろされたメタル太の右腕はまさしく天の怒りか
その巨大な光の剣は
鬱蒼と茂る木々を塵屑のようになぎ払い
岩の大地を紙キレのように切り裂き
長さ数十Km、深さ500mにも及ぶ巨大なクレバスを作り出した

やがて光の剣はその長さを縮め、メタル太の右腕に吸い込まれるように消滅した




太平    「な、なんだよありゃあ・・・あんなんアリかよ!?」
シンノスケ 「破壊力のケタが違う・・・これが発掘兵器の力か」

あまりの破壊劇に呆気に取られる太平とシンノスケ。まるで神話に出てくる奇跡でも目撃したかのようだ
研究施設は動力系から誘爆し、跡形も残さず大爆発で吹き飛んだ。鷹田総統の姿は目視では確認できない

メタル太  「や・・・やった・・・のか?」

「憎き父の仇を討てた」その充実感に弛緩した緊張感を
頭上から降ってきた悪辣な言葉が再び引き戻した

鷹田総統 「見せてもらったよGX−9900の力・・・
       テレポートが間に合わなかったら私でも助からなかっただろう」
メタル太  「キサ、マ・・・・・ッ!」

メタル太が見上げた視線の先。そこに居たのはまったく無傷の鷹田総統だった
武空術か、それともこれも暗黒のフォースのなせる業か。その身体はまるで当たり前のように空中に浮いている

鷹田総統 「その力は我々にとって脅威すぎる・・・・
       君が敵になると言うのなら何としてもここで倒しておきたいが
       なにせテレポートは大きくフォースを消費するのでね
       このまま君と戦闘を続行すると、私のほうが分が悪いかもしれん
       残念だかここは引かせてもらうとしよう」
メタル太  「なん・・・待てえッッ!!」
鷹田総統 「ハハハハ!また会おうメタル太くん!
バッドラック!」

捨て台詞とともに鷹田総統の姿が虚空に消えた。おそらくテレポートだろう
メタル太はぶつけようのない怒りを噛み殺し、ゆっくりと地上へ帰還した
すぐに暖かな光に包まれる身体。戦闘行動を終えたGX−9900は、再び仮の姿に戻るのだ
光の中から”鶴来隕石”が現れたとき、J達が彼の元へ駆けつけた

J      「やはり隕石だったのか。お前・・・その身体はいったい」
隕石    「見ての通りさ。今の俺は”鶴来隕石”であって本人ではない
       鶴来隕石は1年前に死んだ。今の俺はGX−9900に、
       俺の意識が乗っているだけの存在にすぎない」

Jと隕石はともに青幇日本支部所属のグラップラーである
年齢が近いこともあって、特に親しい友人同士として付き合いがあった仲だ
友の変わり果てた姿と「1年前に死んだ」という事実は、Jにはあまりにも辛かった

J      「なんてこと・・・・鶴来博士がそれを?」
隕石    「あぁ。だが俺はこれっぽっちも父さんを恨んでなんかいない
       父さんは俺を庇って亡くなったよ。最後まで優しい父さんだった
       この力で父さんを救えなかった事だけが・・・今はただ悔しい」
J      「・・・・・・・そう・・・か・・・」
太平    「・・・・・・」
シンノスケ 「・・・・・・」

それ以上Jは何も言えなかった。太平とシンノスケは呻くこともできない
ここまで努めて冷静を装っていた隕石だったが、ついに感極まったのか
突然やみくもに走り出すと、夜空に向かって大声で吼えた

隕石    「風よ!雲よ!月よ!心あらば教えてくれ!
       
なぜ俺が生まれたのか!」

隕石の叫びが夜のしじまに響く
月は黙して答えずただ煌々と輝き、その光で青年を照らしていた

TO BE CONTINUED・・・


第6話へ

戻る