閻王 「これで終わりにさせてもらうぞ竜の騎士!
北斗神拳奥義・七星点心!」
ズアアアアアアアアアアアアアアアッ
まるでコマ送りで再生したVTRのように。不自然なほどのスローモーションで間合いを詰める閻王
だが恐るべきはその精妙な足取り。まるで地面に張り付いたまま滑ってくるかのように、上体を揺らすことがない
ずず・・・と。ひとり、またひとりと閻王がその姿を連ねていく。多重分身攻撃(パラレルアタック)だ
シンエモン 「ぬうッ!?な・・・なんだこの動きは!
閻王の動きが読めぬ!見切れぬ!うおッ!?」
ドガガガガガガガッ!!!
激しい衝撃と吹き飛ぶ血飛沫!十数mも吹き飛ばされ、地面に両手をつく竜の騎士
数人の閻王の繰り出した鉄拳の雨あられ。シンエモンはそれを回避できず、全てまともに被弾してしまったのだ
すぐさま立ち上がろうとしたシンエモンであったが、既に周囲を取り囲む閻王の姿!
ドドドドドドドドドドドッ!!
シンエモン 『な・・・なぜ見切れぬ・・・!?』
何故だ。さっきまで見えていた閻王の攻撃が今はまるで見えない
並のグラップラーならば一撃受けただけで勝負ありの鉄拳を、人間サンドバックのようにひたすらに浴びるシンエモン
強烈なアッパーを食らって上空に吹っ飛ばされ、閻王の姿を眼下にとらえたその瞬間、
シンエモンはその恐るべき奥義の秘密を理解する
シンエモン 「こ・・・これは北斗七星!?
閻王の動きは北斗七星の動き!」
閻王 「なぜ北斗七星が死を司る星と言われるか教えてやろう・・・
人間の動きの中には7つの死角がある
その死角をたどれば北斗七星の形になる!
すなわち北斗七星は敵を封ずる死の道標!!」
どさり、と膝をついて着地したシンエモン。そのダメージは軽くない
全ての攻撃が死角から放たれるという、まさに恐るべきは北斗神拳の奥義!
伝説の暗殺拳の前には竜の騎士の力も通用しないのか!?
周囲の人間が竜の騎士の敗北を予感した、その時
チィィィン・・・・・・・・
シンエモンが斬岩剣を鞘に納め、両足を大きく開くとその身を深く沈めた
この構えは・・・・
閻王 「居合いか。だがこの奥義はどんな剣とて捉えられん!
この一撃でケリをつける!奥義七星点心!」
吐き捨てるように叫んで閻王が最後の攻撃に出た
たしかに言う通り
完全なる死角からのみ飛んでくる回避不能の攻撃。いかに神速の居合いとて捉えきれるものではない
そう誰もが思った次の瞬間!
溥儀 「ぬっ!そうかシンエモン!」
男爵ぴーの 「その手があったか!」
一同驚愕!居合いに構えたシンエモンにまさかの変化
なんとこの強敵を目の前にして
その両目を閉ざしてしまったではないか!
レオンハルト「”心眼剣”ッ!」
シンエモン 「無限一刀流心眼剣!
もとより目に追えぬ動きならば。視覚を断ちて心の目で捉える
我が間合いに入った瞬間に瞬撃の疾さにて斬り捨てん!!」
閻王 「チィッ!しまっ・・・・!」
シンエモンの凄絶なる抜刀!だが既に間合いは拳が届く距離!
閻王もこれを避けようとはせず、渾身の鉄拳を叩き込む!
ゴカァッ!!!!
奥義同士の大激突!超戦士二人の姿は巨大な光の中に消えた
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・
耳を劈く轟音とまばゆい閃光がおさまり、顔を伏せていた男達がゆっくりと眼を開く
砂煙の中からうっすらと見えたのは・・・・・
互いにうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない二人の姿であった
溥儀 「ぬうッ!相討ちか!」
あぶどぅる 「すごい戦いだった。どっちが勝ってもおかしくなかったが」
レオンハルト「と、とりあえず手当てを早く!救護班急げ!
ああ、閻王も一緒にだ!絶対に死なすんじゃないぞ!」
レオンハルトが叫ぶ前に既に飛び出していた溥儀軍救護班
すぐさま倒れていた二人に近づくが・・・
ガバッ!
一同驚愕。なんと近づく救護班を牽制するかのように二人が起き上がった
今の今まで死人のように動かなかったというのに
レオンハルト「なッ・・・・!」
男爵ぴーの 「ま、まだ立つと言うのか?二人とももう限界のはずだ!」
シンエモン 「・・・ぬううううううううううううううううああ!」
閻王 「・・・うおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガクガクと膝を震わせながら立ち上がる二人
だがぴーのの言う通り、二人のダメージは既に限界を超えていた
閻王の胸には真一文字に走った斬り傷から大量の血が溢れ、
真正面から数百発の鉄拳を叩き込まれたシンエモンは全身打撲で感覚の大半が失われている
閻王 『チィ・・・出血がひどい。こりゃ流石に少しマズイか・・・』
シンエモン 『打ち込まれたぶん斬撃が浅かったか・・・
なんと恐るべき打撃・・・もう手足の感覚がほとんど残ってない』
互いに満身創痍は明らか
だが閻王は再びその拳を固めて腰を低く落とし、
シンエモンも斬岩剣を下段に構えて一歩前に出る
それは場に居合わせた誰の目から見ても無謀な行動であった
レオンハルト「無理だ・・・これ以上戦えば両者とも死ぬしかないぞ」
あぶどぅる 「なんとしても止めねばならん。しかし・・・
手負いとはいえあの二人を俺達三人だけで止められるのか?」
最後の力を振り絞り、再び激突しようとする超戦士二人
それを決死の覚悟で止めようと決意する禁衛隊の三人
まさにその瞬間であった
木々の間を猛烈なスピードで駆け抜けてくる蒼い疾風!
ハッタリ 「そこまでッッ!!両者手を引いてください!
もう戦う必要はありません!!」
閻王 「お前は・・・」
シンエモン 「ハッタリ!?」
まさしく風の如く二人の間に割って入った青い影。それは溥儀禁衛隊ハッタリ半蔵であった
「もう闘う必要はない」と言って両者を制しながら、ゆっくりと慢心創痍の閻王に歩み寄る
ざわ・・・ざわざわ・・・・
固唾を呑んで見守るギャラリーの中、ハッタリが口にした意外な言葉は・・・
ハッタリ 「もう心配要りません閻王殿。仔供は無事に産まれましたぞ」
閻王 「ッ!・・・アレを見てきたのか。そうか産まれたか」
溥儀 「仔・・・供?産まれた・・・?どういう事だハッタリ!」
ハッタリ 「上様、鬼夜叉党は我々が成敗する必要はありません
彼奴等は既に閻王殿が壊滅させていました」
溥儀 「なッ・・・なんと申した!?」
あまりにも想像を超えた返答に続く言葉を失う溥儀
溥儀軍遠征の標的であった悪行グラップラー集団・鬼夜叉党は既に壊滅させられていた!
しかもそれは目の前に立つ閻王の手によって、である
では何故ゆえに彼は溥儀軍の前に敵として立ちはだかったのか?
ハッタリ 「彼奴等のアジトに悪行グラップラーはただの1人も残存しません
あそこに居たのは・・・数えきれんばかりの野生動物達
それも保護指定の出ているレッドマークアニマルばかりです」
溥儀 「そ、それは・・・つまり」
ターリブ老 「絶滅危惧種の・・・保護?」
シンエモン 「閻王殿はこの山・・・この山の動物達を護っていたと」
閻王 「すまなかった。臨月のマダラヤマネコがちょうど産気づいてな
アレはひどく神経質な動物で、出産時に強いストレスを感じると
産まれたばかりの赤ん坊を母親が噛み殺してしまう場合がある
軍隊の進軍音や大勢の人間のざわめきなどはもっての他だった」
シンエモン 「だからアジトから遠く離れたこの場所で我等を止めたのでござるか
しかしそのような理由があったのならば説明してくれれば・・・」
なんと
閻王は鬼夜叉党をたった一人で壊滅させ、そのアジトを保護動物達の住処として使っていたと言う
だがしかし、腑に落ちぬのはシンエモンの言う通り
閻王が溥儀軍を止めた理由は確かに筋が通ってはいたが、それは口で説明すれば十分に理解しあえた事である
なぜに命賭けの壮絶な戦いをしてまで実力行使に出ねばならなかったのか。当たり前すぎるこの疑問
されど閻王の答えは実に単純明快なものであった
閻王 「フッ・・・・・俺とてグラップラーとしての本能はあるよ
噂に名高い溥儀禁衛隊を目の前にすれば手合わせしたくもなる
最初は全員怪我も負わせることなく勝負つけるつもりだったんだが
・・・そこの4人のようにな」
そう言ってチラリと禁衛隊の面々に視線を投げる閻王
ハッタリ、ぴーのレオンハルト、あぶどぅるは溥儀の手前バツが悪そうにはにかんだ
まさしく。閻王に敗れ去った4人は怪我らしい怪我など何ひとつ負っていない
それは閻王とこの4人との、圧倒的な実力差を意味するものであった
閻王 「だが。いかんせんシンエモンは強すぎた
湧き上がる衝動に我を忘れてつい本気になってしまったよ」
シンエモン 「は・・・ははッ!いや閻王殿!それは拙者も同じ!
あのように全力で闘えた相手は閻王殿が初めてでござる!」
なんという理由か
今まで出会ったことのない強さに興奮し、目的も忘れて本気で闘ってしまったと言う閻王
それを受けて「自分も同じだった」と高笑いするシンエモン。まったくもってどちらもどちらである
あんな生き死にの戦いを繰り広げた理由にしてはあまりにも刹那的。淡白
いったいなんて男達だろう。二人の会話を聞いていた周りの人間はヘナヘナと腰の力が抜けていくのを感じた
シンエモン 「ははは。イヤしかしこうして誤解も解けたことですし、閻王殿」
閻王 「ああそうだな。じゃあ続きをやるとするか」
溥儀 「は?」
ざわ・・・ざわざわ・・・!!?
呆けた顔ですっとんきょうな声を出してしまう溥儀。今こやつらは何と言った?
今の今まで談笑していた二人のグラップラーが、目の前で再び戦闘の構えを取ったではないか!
慌てて禁衛隊の4人が間に入って両者を止める。誤解が解けた今、なぜ闘う必要があるのか
レオンハルト「筆頭殿!閻王殿!お二人ともいったい如何なされた!?
もう互いに誤解は解けたハズでしょう!?」
シンエモン 「無論。しかしな」
閻王 「それと勝負とは別の話。なぁ将軍様よ
アンタは俺とシンエモン、どっちが強いか知りたくないか?」
閻王の問いかけにアングリと大きな口を開いた溥儀であったが
そのすぐ横でシンエモンにもまったく同じ目をされては返事はひとつしかない
ああそうかシンエモンよ
お前は今 初めて
自分の心情を理解できる朋友と出会えたのだな
溥儀 「フッ・・・よかろう!ここにいる全員が見届け人だ!
思う存分闘えい!!」
あぶどぅる 「う、上様!?それはあまりにも・・・!」
溥儀 「心配するなあぶどぅる。我等は伝説の目撃者となるのだ
あの二人がこのような事で命を落とすタマか」
ハッタリ 「伝説の・・・目撃者」
両者ともダメージ大きく、まっとうに闘えるコンディションではない
イヤ、むしろ立っているのも不思議なほどの状態に違いない
だが
二人の瞳はキラキラと輝き、まるで幼い子供のように心底嬉しそうな笑みを浮かべる
誰にこの戦いを止められる権利があろうか
シンエモン 「”閻王”というのは通り名でござろう?
さしつかぬならば貴殿の本名を教えてはくれまいか」
ゆっくりと間合いを詰めながら、金髪の剣士は己が好敵手にその名を問う
小坊主は暫しの沈黙のあと、晴れやかな表情でその口を開いた
一体さん 「・・・いまは亡き母上からもらった名は・・・一体」
シンエモン 「ほう一体・・・
”全は個、個は全” ”一人は皆の為に。皆は一人の為に”
なるほど。実に良き名にござるな」
世辞などではなく。本当に良い名だと深い感銘を受けるシンエモン
きっと母親はさぞかし人格者だったに違いない、と心からそう思った
すると今度は一体さんが質問を返す
一体さん 「なら俺もひとつ聞こうか、シンエモン
お前はその強大な力を自分の為に使おうと思った事はないか?
何故他人を守るためだけの立場に甘んじられるのだ?」
それは互いに力持つ者ゆえの問いであった
己が欲望のために使えばあらゆる望みがかなう圧倒的な力
だがこの金髪の剣士はそれをよしとせず、悪の暴力から弱き人々を守るためだけにその剣を奮う
なぜ。お前には自分の欲というモノはないのか
どうということのない表情でこれに答えるシンエモン
それはあらかじめ用意されたような気取った答えではなく、実に単純なる彼の生き方の信念であった
シンエモン 「別に自分の為の力を使わない、というワケではござらん。だが
我を通そうとした時に、周りの人間が傷つくのだけは許せない
だからまず最初に目の前の人々を救うために力を使いたい
己が為に使うのは最後でいい。ただそれだけの事でござるよ」
一体さん 「ははっ。随分と立派なことだな」
シンエモン 「おや。一体さんは違うのでござるか?」
少し不思議そうな顔で問い返すシンエモン
一体さんの口の両端がニッと吊り上った
一体さん 「イヤ・・・・・俺も同じさ」
その言葉が合図
一体さんが奔り、
シンエモンが斬岩剣を大きく振りかぶった
※BGM
「仮面ライダーブレイド」EDテーマ 『take it a try』
199]年
竜の騎士
シンエモン
北斗神拳伝承者
一体さん
最強グラップラー二人
運命の邂逅
そして四年後
二人は伝説になる
声の出演
一体さん 神谷明
シンエモン 野田圭一
溥儀 千葉繁
男爵ぴーの キートン山田
忍者ハッタリ 緑川光
レオンハルト 大塚明夫
あぶどぅる 石野竜三
ターリブ老 青野武
クサカ摩裟斗 村上幸平
可那 中原麻衣
マリー 宍戸留美
脚本 はんぺら
効果・演出 はんぺら
キャラクターデザイン はんぺら
監督 はんぺら
企画・製作
野望のからくり屋敷
TO BE CONTINUE・・・
「一体さん」 第1話