悪党1    「へっへへ。うまくいきましたね親分」
クサカ    「フッ。別に素でタイマン張っても俺が負けるとは思わんがな
        だが戦いはより確実に、よりリスクなく勝つ。それが兵法よ
        あの金髪がやってきたら・・・ククク。面白いショーの始まりだ」
悪党2    「野郎をブッ殺したら次は村ですな!がはははは!」

済佳村から少し離れた山中の奥深く。元軍事施設の廃屋に野盗のアジトはあった
クサカを中心に30余人の屈強な男達が前祝いの晩餐を開いている。どいつもコイツも緩みきった醜悪な面構えだ
これから自分達を襲う未曾有の恐怖を予感している者など誰一人としていないであろう
ドォオオオオオオオオオオン!!!
突如として響き渡る轟音に飛び上がる悪党供。外の巨木がなぎ倒された音であった。それが戦闘の合図
武器を手に取り外へ飛び出した彼等の前に立ち尽くすは、身長ほどもある太刀を携えた金髪の剣士!

クサカ    「ハハハ来たな!殺す前に名前を聞こうか金髪!」
シンエモン 「下郎相手に名乗る名前など・・・・・だがあえて言うならば
        
捕らわれの女神を助けに来た竜の騎士」


クサカ    「ハハハ!竜の騎士ときたか。面白いよお前・・・・・
        その冗談が貴様のこの世で最後の台詞だ。冴えない台詞だったな
        
剣を捨てろ。さもないとあの女の命はないぞ」

パキンと指を鳴らすクサカの合図とともに男達がシンエモンを取り囲んだ
両手を縛られた可那が大男に連れられてアジトの奥から引っ張り出されてきた。とりあえず怪我はないようである
シンエモンはふぅ、と大きく深呼吸をして抜き身の斬岩剣を放りなげた。10mほど離れた地面にザクッと突き刺さる

クサカ    「フン、随分と諦めが早いじゃないか。そんなにこの女が大事か?
        なぁ可那・・・アイツお前のために命を捨てるとさ。どう思う?」

可那     「わ・・・・私・・・・は・・・・」

シンエモン 「・・・・・可那!?」

すぐに異変に気付いたシンエモン。可那の様子がおかしい。死んだ魚のような視線が宙を泳いでいる
なにかの術によって一種の催眠状態にされているようだ。おそらくはクサカの操り人形だろう
ふらっと一歩前に出た可那が小さな声でボソボソと呟く

可那    「シンエモンさん・・・私もう・・・貴方のことキライなの・・・」
シンエモン 「そうか」
可那    「貴方みたいな冷たい人よりクサカさんのほうがずっと素敵・・・」
シンエモン 「そうか」

クサカに促されるままに冷たい言葉を浴びせかける可那。シンエモンは言葉短くそれに応える
そんな二人を見てニヤニヤと笑う悪党供。彼等にとっては最高の見世物だ
だが
醜悪な笑みを浮かべつつ可那を眺めていたクサカの表情が一変する

可那    「でも・・・でも・・・・わ・・・私・・・・は・・・・」

頬を伝う銀の雫―――ポロポロとこぼれる大粒の涙であった

クサカ   『なんだと?俺の術が解けかけてるのか?』
       
「座興はここまでだ!殺れッッ!!」

焦ったクサカが攻撃命令をくだした。丸腰のシンエモンに一斉に襲いかかる男達
得物を持たない剣士は絶体絶命のピンチ・・・・・・・

否!!

バッと腕を振りかぶったシンエモンは気合とともにその手を真横に薙ぐ!

ゴオオオオオオオオオオオオ!!
正面から襲いかかった男達は真空の刃によって真っ二つに切り裂かれていた!!

クサカ   「ソニックブレード真空斬りだと!?」
シンエモン 「泣くな可那・・・今助ける!!」

まさに戦神。素拳での真空斬りで数人の敵をまとめて切り伏せるシンエモンの恐るべき戦闘力!
得物を持たない剣士だと思って油断していた野盗達は、予想外のことに浮き足立っている

クサカ   「くっ、まさかソニックブレードとはな・・・ッ!
       徒手空拳グラップラースキルのAランク技!
       貴様、
ハイブリットだったのか!?」


『ハイブリット』とはッ!? 
※一体さんワールドガイダンス。用語解説

一体さん世界で言う「グラップラー」とはそのまま「格闘者」の意味ではない
突然変異により常人よりも遥かに優れた戦闘力・特殊能力を持って生まれた人間のことを指す総称である
(ファイブアスター物語の”騎士”のような物と思ってもらえればいい)
更にグラップラーはその特性によっていくつかのクラスに分類される
素手での組み打ち格闘を得意とするクラス、いわゆる基本的な「グラップラー」(最も多いクラス)
特定の武器を使用する事により戦闘力を発揮するクラス、「ウェポンマスター」
例を挙げると (銃の扱いに長ける北城トオルは「ガンナー」、剣士であるヒムラーは「セイバー」、重火機専用のレオンハルト「シューター」など)
他にも「スタンド使い」(だま、あぶどぅる)、「エスパー」(伊藤)、
更に希少種として「ウィザード(魔術師)」「アルケミスト(錬金術師)」などのレアクラスも存在する
『ハイブリット』はその複数以上の能力を併せ持つ、大変稀なグラップラーの事である
そして・・・・・

クサカの問いには応えず、無言のまま一直線に敵陣を駆け抜けるシンエモン。―疾いッ!
そのスピードはまさに戦場に吹く一陣の風。そしてその先にいるのは捕らわれの女神可那だ
突進してくるシンエモンに気付き、彼女を捕縛していた大男が慌てて身構える

悪党3   「て、テメエ寄るんじゃねえ!この女がどうなっても・・・
       ・・・・・あ、あれ何コレ?なんか俺の腕ヘンじゃねえ?」

が!
大声を張り上げて可那を盾にしようとしたその瞬間、キョトンとした顔で己の腕を見つめる大男
既にその腕の中に可那の身体はなかった
自分の両腕肘から下がなくなっているのに気付いたのはその2秒後のこと
ぶしゃあああ!
盛大に溢れ出る鮮血。身の毛もよだつ悲鳴を上げながら地面に転げまわる男を見て野盗達は慄然として震えた
なんだコイツは!俺達もグラップラーの戦闘は何度か見たことがあるが・・・こいつの動きはまるでモノが違う!
ましてや人質が奪還された今とあっては、もはや半数以上は戦意を喪失してしまっている
”俺達はこの男に勝てない!殺される!”
どっと噴出す冷たい汗。次第に場を支配し始める”恐怖”という感情

クサカ   「ちっ!何をやってる役立たずがァ!!」

部下達と同じ恐怖感をクサカ自身も感じていた
この一週間、こいつのの戦闘力は遠巻きに読み取ったつもりでいたが・・・
なんという読み違え。なんという甘さ
この男は感情の爆発で戦闘力を増大させるタイプであったか
じり・・・っと後ずさりして少しずつ間合いを広げるクサカ
あわよくば部下達を犠牲にして、自分だけ体よく逃げ出そうという魂胆である

その腕に可那を奪い返したシンエモンは彼女の頬をピタピタと軽く叩きながら呼びかけた

シンエモン 「ようお姫様。無事か?」
可那     「・・・・・・・・」

可那の返事はない
まだかけられた術は解けていないのだ。変わらず虚ろな視線で宙を見つめているだけ
それを見たクサカに思わず放送禁止の笑みがこぼれた。まだツキは自分に向いている―

クサカ    「可那!金髪を抑えつけろ!
        そいつが抵抗したらお前は舌を噛み切って死ぬんだ!」

可那     「はい・・・クサカさん・・・」
 

いまだクサカの支配下にある可那は言われるがままにシンエモンに抱きついた
2度形勢逆転。戦意喪失していた荒くれ者達が舌なめずりしながら二人の周囲を取り囲む
可那に両腕を掴まれたシンエモン。このままでは二人ともども格好の的になってしまう
しかし抵抗したとても可那は舌を噛んで死ぬ。逃げ道なしの絶体絶命のピンチだ

クサカ    「ハハハハ!終わりだな金髪!それとも可那を殺すか?
        クックック・・・できないよなァ?この女が好きなんだろう?」
シンエモン 「よくよく見下げ果てた男だな・・・テメエはもう謝ったって許さんぞ」
クサカ    「ぬかせ!その状況で何ができる!死ぬのは貴様だ!」
シンエモン 「・・・・・俺と可那の絆を甘く見るなよ」

ばっ!
言うなりシンエモンは可那の華奢な身体を強く抱きしめた



シンエモン 
「好きだ可那」

ピシャ―――――ン!!!
稲妻に打たれたようにビクン!と跳ねあがる小さな身体
直後、まるで死んだ魚のようだった瞳に普段のキラキラした輝きが戻ってくる
ぎゅっとシンエモンの首に両腕を回し、嬉々として可那は叫んだ

可那    「嬉しいシンエモンさん!私も大好き!
       ・・・・・って、あれぇ?私いったい何を・・・・・・」




クサカ   「なっ・・・・ななななななな・・・・
     
なにゃあ―――――ッ!?」

いつもの笑顔以上に放送禁止顔で顎が外れるほど絶叫するクサカ
なんと可那にかけられた洗脳はシンエモンの愛の告白一発で吹っ飛んでしまった!
まさに二人の絆の勝利といったところか
クサカはまだなにか悪い夢でも見ているかように口をパクパクと動かしている

クサカ    「ば、バカな・・・・どうしてこんな事が!
        
”愛の力だ”なんてフザけた理由は認めんぞ!」
シンエモン 「愛の力だ」
クサカ    
「ふざけるなァ!野郎供!全員でかかれ!!」

半ば狂乱気味の絶叫。それを合図に男達が一斉に飛びかかる
シンエモンは素早く可那を自分の後ろに逃がし、さっと右手を前にかざした
声高らかに叫ぶは愛刀の名!

シンエモン 「来い!斬岩剣ッッ!!」


※(BGM 機動戦士クロスボーンガンダム「クロスボーンガンダム」)

命令とともに地面に突き刺さっていた斬岩剣が宙に飛ぶ
バシィ!!!
ギリギリギリッと激しく回転しながら美しい放物線を描き、剛剣は主の手の中に還った
”ヤツの手に得物がッ!”
悪党供を襲う凄まじい絶望感。背筋を走る死の予感
だがもう遅い
切っ先までシンエモンの氣が行き渡り、その刀身が白熱していく!

シンエモン 「一文字流奥義、烈風剣!」

渾身の力を込めて真一文字に放たれた斬撃
一瞬。本当に僅かなあいだ、時が止まったかのように静寂が訪れ・・・・そして直後!
ごうっ!
凄まじい突風が身体の中をを突き抜けたような感覚
それが悪党供のこの世で味わった最後の感覚だった

クサカ    「あ、あぅ・・あぁ・・・・お前は・・・お前は一体・・・」
シンエモン 「最初に言ったはずだぜ?」

そして。
希少種の「ハイブリット」をも凌ぐクラスが伝説の「竜の騎士」である
百年に1度だけこの世に生まれ、竜の戦闘力をその身に宿すと言われるこのクラスは・・・・

怯えるクサカにゆっくりと近づき、右手をすいっと上げるシンエモン
おもむろに手の平をひっくり返し・・・・・・その手の甲を見せた

クサカ    「あ!あぁ・・・・そんな・・・まさかそんな事がぁ・・・・
        ド・・・
竜の・・・・紋章・・・・・ッッ!」

全ての能力においてあらゆるグラップラーのそれを凌ぐ、この「竜の騎士」は・・・・
唯一絶対、地上最強のクラスである



烈風剣の一閃でザコ供を葬ったシンエモン。恐るべき竜の騎士の戦闘力!
目の前に立つ伝説の存在をまだ信じられないといった表情で見上げるクサカ

可那    「そんな・・・竜の騎士・・・まさか本当だったなんて!」
シンエモン 「終わりだ放送禁止顔。最後の念仏を唱えろ」
クサカ   「だっ誰が放送禁止だァ!俺はまだ負けていない!
       
変身ッッ!!!」

逆上したクサカは謎のベルトを取り出し、それを装着
そのホルダー部分に携帯電話のような機械をコネクトする
『コンプリート』
ギュバアアアアアアアアアア!!!
直後、ベルトから発せられる蒼い閃光
光の消失と同時にクサカの身体は謎の戦闘服に包まれていた
クサカ魔娑斗変身!仮面ライダーガイサ!

シンエモン 「・・・ファットブレイン社製特殊戦闘モジュール・・・
        その蒼いスーツは・・・形式番号02
”ガイサギア”か」
クサカ    「フハハハハハ!なかなか物知りだな竜の騎士!
        ならばガイサギアの力も知っているだろうなァ?
        装着者の身体能力を十数倍にも高め!装甲は硬度9!
        そして内蔵する数々の特殊武装の威力は・・・・!」
シンエモン 「関係ない。言ったよな?謝っても許さないって・・・
        
お前は絶対に殺すぞ」
クサカ    「バカが!勝てると思うなよ竜の騎士ッッ!!」

言うなり腰から取り外した武器を拳に装着するクサカ
エネルギー高出力パンチングユニット 「ガイサショット」
着弾と同時に破壊力1万tにも及ぶ衝撃エネルギーを放出する超兵器だ
ボッ!!!
繰り出されたパンチをシンエモンはどのように避け・・・・・
避け・・・!?
シンエモンは避けない!?


必殺の一撃が顔面を捉えた!
目を覆った可那が恐る恐る視線を戻す・・・・と
なんと。クサカの拳はシンエモンに届いていないではないか!
全身から強烈に放出される”氣”が壁になって攻撃を阻んでいたのだ

クサカ   「そ・・・そんな・・・氣で俺の攻撃を止めたと言うのか?」
シンエモン 「竜闘気。おとぎ話で聞いたことはあるだろう」
クサカ   「は・・ははは・・・まさしく伝説の竜の騎士の力だ!
       否が応でも悟らせられる。俺には微塵の勝機もないとな!
       だがな・・・コレならどうだ!
サイドハッシャアー!!」

ドギョガガガガガガガ!!!
クサカの大声と同時に響き渡る轟音!
シンエモンの背後から大木をなぎ倒して現れたのは巨大な恐竜型の戦闘マシンであった
可変型バリアブルビークルFB-G13V(バトルモード) サイドハッシャー!

クサカ   「どうだ!俺のパンチは防げてもコイツの蹴りは防げまい!
       サイドハッシャーの蹴りはなァ・・・
100万tだぜェ!?
       ギャハハハハハハハハやれいッッ!」

まだ背中を向けているシンエモンに容赦なく振り下ろされる巨大な脚!
いかな竜の騎士と言えどこの規格外の攻撃にはひとたまりもないか!?
ガキィ―――――ンッ!!!

クサカ   「・・・・・はいぃぃぃッッ!!!?」

片手ッ!!
なんとサイドハッシャーの踏みつけ攻撃は片手で難なく受け止められていた
その湧き上がる無限のパワー、まさに人間活火山!人間核融合炉!!
斬岩剣を構えたシンエモンに凄まじいエネルギーが集中し、巻き起こる風であたりの木々が激しくざわめく!
ギュアアアアアアアアアアアアア!!!

シンエモン 「なめるなよ三下・・・・竜の騎士は無敵だ!」
クサカ    「マ・・・
M・B・T!!!」
                   
                              マキシマム   バスター   タイフォーン

ゴオオオオオオオオオオオ!!!

大砲。一言で表現するならばそう、まさに大砲の破壊力
サイドハッシャーの巨大な体はたった一発で粉々に吹き飛ばされ、その残骸を無様に撒き散らした
後ろの山々までがその衝撃波によって形を変えてしまうという、およそ信じがたい一撃であった
完全に戦意喪失してしまったクサカ。もはや勝負有り

可那     「もういいよ!部下を失って機械も壊されて・・・
        もうこの人は何もできないわ。命まで奪うことない!」
シンエモン 「可那・・・」

とどめを刺さんと斬岩剣を構えて歩を詰めるシンエモンであったが、可那がそれを諫めた
確かに。この男はもはや何も出来まい
無駄な殺生は避けるべきか・・・シンエモンが剣を納めかけたその時
クサカに会心の放送禁止笑顔がこぼれた

クサカ    「助けてくれるのか?ありがとう・・・本当にありがとう
        いや俺は感動したぜ!アンタのその力・・・まさに救世主だ
        その力さえあればきっと世界中の人々を救えるよな!」

キィィィィィィィィン・・・・・・・・・・
真っ直ぐに視線を合わせながら突然媚びた言葉で話しかけるクサカ
次第にシンエモンの瞳孔が開き、その話に聞き入っていく
言霊
これが先に可那を洗脳した能力だ。まさしく彼にとって切り札とも呼べる隠し玉であった
ゆっくりと、やさしく、真綿で包み込むようにクサカの言葉は続く

クサカ    「だからさ、俺はアンタに協力するぜ!
        これからは俺達二人で世直しをしようじゃないか!
        アンタの戦闘力と俺の頭脳・・・
        俺達は最高のコンビとしてやっていけるぜ!」
シンエモン 「お前と・・・俺とで・・・・世の中を救う・・・」
クサカ    「そうだ!そうしたらよ!俺達二人は英雄だ!
        俺達の天下だ!望むものはなんだって手に入るぜ!」
可那     「シンエモンさん!?シンエモンさんどうしたの!?」

キィイイイイン・・・・・・・!
シンエモンの瞳孔は完全に開き、木偶の棒のように突っ立ったまま動かなくなった
驚いた可那がガクガクと彼を揺さぶってみるが、まるで反応がない

クサカ    『か・・・・かかった!ハハハハやった!やったぞ!
        俺は竜の騎士を手に入れた!こいつで天下を取ってやる!』

言霊の術による洗脳は成功した
あの伝説の竜の騎士をも俺は手なづけたのだ!もはや恐れるものはなにもない!
腹の底から溢れる笑いを噛み殺しながらクサカは相棒に問いかけた

クサカ    「さあ行こうぜ相棒!お前の望むものはなんだ!
        目がくらむほどの金か?それとも女か?
        そこのションベンくせえ女なんぞよりもずっとイイ女を・・・・」

ザンッッ!!!

クサカ    「・・・・・・あれ?」

自分に何が起こったのかわからず首をひねるクサカ
”相棒”の斬岩剣が己の肩口から腰まで袈裟斬りに斬り裂いていた。致命傷である
死んだ魚のようだったシンエモンの瞳に次第に光が戻っていく

クサカ    「ゴフッ!・・・ど・・・・どうしてこんな・・・・?
        完全に術にはかかっていたハズ・・・・・」

シンエモン 「・・・・心に秘めたるはただ一事・・・・・
        
”可那を守る”それだけだ」

クサカ    「な・・・・なんて・・・・男・・・ガハッ!」

驚愕の表情を浮かべ、ドサリと倒れこんだクサカ
そのまま動かなくなった彼に一瞥をくれてシンエモンは斬岩剣を鞘に収めた



戦い終えて
夕焼けの緋色が二人を赤々と照らす
可那はシンエモンに抱きつくと胸に顔をうずめて呟いた

可那     「ゴメンなさいシンエモンさん。竜の騎士・・・本当だったのね」
シンエモン 「謝ることはないさ。あんな話いきなり信じろってほうが無理だ
        だから・・・スマン可那。俺は済佳村に留まることはできない
        世界を救う竜の騎士の使命があるんだ」

愛しい可那を抱く腕に力が入る。この腕を離したくない
だが・・・俺は竜の騎士だ
押し殺すような声でそれを告げるシンエモン
しかし
そんなシンエモンに対して可那は満面の笑みを浮かべて顔を上げる

可那     「だから決めたわ!私がシンエモンさんについていく!」
シンエモン 「なッ!?い・・・いやそれはダメだ!
        俺の旅は危険すぎる。可那を連れて行くなんてとても・・・」
可那     「あら私のことはシンエモンさんが守ってくれるんでしょ?」
シンエモン 「そ、それはそうだけど・・・・しかしだな」
可那     「私はもうシンエモンさんが居ない生活なんて考えられない
        シンエモンさんは?私が居なくても平気なの!?」

シンエモン 「平気なものか!俺だって可那とずっと一緒に居たい!」
可那     「・・・・・ずーっと?」
シンエモン 「あっ・・・」

耳まで赤くなったシンエモンを見て、悪戯っぽく微笑む可那
一歩下がって深々と頭を下げた

可那     「ふつつかものですが・・・どうかよろしくお願いします」

シンエモン 「こ・・・・・こちらこそ・・・・・」

若き竜の騎士、人生初の敗北
女神のように微笑む可那の前では最強のグラップラーも形無しだ
「やれやれこれは尻に敷かれるな・・・」、と苦笑しながらシンエモンは再び可那を強く抱きしめた

夕日に長く伸ばされた二人の影が、ひとつに絡み合っていった











ときに西暦197X年

あの紅華会戦争より20年も前の話である

FIN


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