エジプト
その国土の97%は砂漠地帯であり降水量は世界で最も少ない地域のひとつである
しかし砂漠の中にありながらナイルの恵みにより食べ物は育ち川岸には美しい肥沃地帯が続く
かつての古代エジプト文明にペルシア・イスラム・ギリシア・ローマ・アラブという多様な文明が入り込んだ混交の国
この5000の歴史を持つ悠久の地で一体さん一行はどのような旅を続けるのだろうか
メガドラ 「順調だな・・・アスワン、コム・オンボ、そしてエドフ」
のび犬 「ああ、これで3つ目の軍事拠点壊滅だ」
シンエモン 「次はルクソールでござるな・・・カイロを除けば最大規模の基地でござる」
だま 「にゃにゃにゃー!(どんなトコだろうとブッ潰すだけっすー!)
一体さん 「だな。ルクソールには今日中に入れる・・・基地進入は今夜決行だ」
第13話「熱砂のプライド」
暗闇の中音も立てずに素早く動く人影。一体さん一行だ
紅華会軍事拠点の中でも最大規模を誇るルクソール基地
遂に攻略ミッションの開始である
だが
基地周辺の警戒領域に踏み込んだその時だった―
ザッ
物陰で何かが動くの気配。僅か一瞬の事であったがそれに気付かぬ一体さん達ではない
一体さん 「おいそこの・・・隠れても無駄だ!出て来い」
だま 「にゃー!(捕らえろ!ザ・サンシャイン!)
??? 「うっうわ!やめてくれ!ちょっと待ってくれ!」
瞬く間にサンシャインに捕らえられた男が慌てふためいて命乞いをする
丸サングラスと口ヒゲを生やした怪しげな風貌
しかしその小柄な体躯を見る限りグラップラーには見えないが・・・
一体さんの命令でサンシャインの拘束を少し緩めてやるだま
タシロ 「ゲホゲホッ・・・ふぅ、助かったよ。俺の名はタシロ
代々墓荒らしで食ってる盗掘者で・・・
おっとこんな話はアンタらには関係ないことだな
なぁ単刀直入に聞くがアンタら・・・
最近紅華会の基地を潰し回ってる連中だろ?」
のび犬 「・・・貴様・・・何者だ?紅華会の息のかかった人間か?」
タシロ 「そんな怖い顔で睨むなよ。言ったろ?俺はただの盗掘者さ
ルクソール基地を叩くなら協力しようと思ってね。いい話だろ?」
シンエモン 「協力?解せんな・・・・お主狙いは何だ?」
タシロ 「紅華会をぶっ潰したいだけさ。俺の両親は奴等に殺されてな
いや俺だけじゃない。エジプトの民衆の殆どは俺と同じ気持ちさ
今やアンタらはちょっとしたヒーローなんだぜ?」
メガドラ 「・・・・・・・家族の仇討ちか」
タシロ 「ま、正直それだけじゃないがな
アンタらが基地を潰してくれれば金目のモン奪いたい放題!
そうすりゃ女房子供にもにひもじい思いさせずに済むってワケだ」
一体さん 「フン・・・養う家族がいるのか・・・いいだろう
お前を信じてやる。案内してもらおうか」
タシロ 「そうこなくっちゃな。俺についてきてくんな!」
謎の男タシロの申し出を受けることにした一体さん一行
彼の後について夜のルクソールを走り抜ける
どれほど移動しただろうか、彼が歩みをピタリと止めた
タシロ 「・・・さあ、着いたぜ旦那方」
のび犬 「着いた?何もないようだが・・・・?」
シンエモン 「ここに秘密の通路でも隠されているとか?」
タシロ 「あぁその通りだ。秘密の通路があるのさ
基地まで一直線のな!」
ガバァッ!
タシロの台詞ともに地面が大きく口を開いた
巨大な落とし穴!飛び退こうとした面々だったが、なにぶん穴がデカイ
どうすることも出来ずにまとめて落下
一体さん 「タシロ!貴ッ様ァあああああああ!!」
タシロ 「はっ!その手の台詞はミニにタコ・・・もとい!
耳にタコなんだよ!後悔先に立たずってな!旦那!」
暗闇の中をどこまでも落ちていく一体さん達
やがて底のほうから光が射してきたのを確認した直後、大きな衝撃とともに意識を失う4人+1匹だった
ゴオオオオオオオオオオオオオオオ・・・!
炎上する街並み
惨殺される人々
そして
その青年もまた
目の前で愛する家族を失った一人であった
メガドラ 「ううッ!」
ガバッと跳ね起きるメガドラ。しかし意識は朦朧としたまま
ここはドコだ?確か自分は・・・ルクソール基地の・・・
タシロ 「よう旦那。目覚めはどうだい?」
メガドラ 「タシロ!貴様ァッ!」
ガシャンッ!
視界にタシロを捉えて激昂するメガドラ
殴りかかろうとするも、身体には手枷足枷がはめられ鎖で床に繋がれていた
それと頭部にはめられた妙な装置。なにか意識がハッキリしないのはこれのせいか?
自分の隣には一体さん達が同じように繋がれているが意識を取り戻したのはまだ自分だけのようだ
メガドラ 「ちッ・・・ここはどこだ?」
タシロ 「ルクソール基地の内部。捕虜収容部屋さ
安心しな、他の旦那達も眠ってるだけで命に別状はねえ
ところでアンタ寝てる間随分うなされてたぜ?
悪い夢でも見たかい・・・・ハッ、例えば昔の夢とかな」
メガドラ 「何故それを・・・貴様一体何をした?」
タシロ 「寝てる間にちょいとアンタの記憶を見せてもらっただけさ
紅華会に殺された家族の仇討ちでグラップラーにねぇ・・・
クックック・・・なかなか泣ける話だな」
メガドラ 「お前も両親を殺されたんじゃなかったのか」
タシロ 「・・・・・・・・・・さあね。想像にお任せするよ
さて、意識を取り戻した順に聞こうと思ってたんだが
アンタの過去を見る限り・・・交渉決裂かな?」
メガドラ 「交渉? お前の仲間になれとでも言うのか?」
タシロ 「ビンゴだ。俺は幹部にのし上がってまだ日が浅いんでね
強い部下が一人でも多く欲しいのさ。紅華会は実力制だ
武闘派の勢力はすぐにトップまで駆け上がれる・・・
もっともアンタの答えはNOに決まってるだろうがな
というワケで洗脳させてもらう事にしたぜ」
メガドラ 「洗脳だと!?」
タシロ 「フッ・・・心配すんなよ、何も苦痛はない
ちょいと意識を失ったあとは忠実な俺の部下だ」
メガドラ 「くッ・・・よせ!やめろ!」
タシロ 「あばよ旦那・・・スイッチONだ」
抵抗するメガドラを尻目に洗脳スイッチのボタンを押すタシロ
一瞬視界が暗転した直後、メガドラは深層心理の中に落ちていった
??? 「・・・ちゃん・・・お兄ちゃん」
メガドラ 「うぅ・・・誰だ・・・俺を兄と呼ぶのは・・・
俺の妹は・・・怒羅美は8年前に・・・・・」
怒羅美 「お兄ちゃん私よ!私は奇跡的に一命を取りとめて
それからずっとお兄ちゃんを探していたの!」
メガドラ 「なんだって本当か!か 顔を見せてくれ!・・・・あぁ
怒羅美ッ!まさしくお前だ!生きていたんだな!」
8年ぶりに再会した妹を強く抱きしめるメガドラ
しかし妹の口から紡がれた言葉は彼を唖然とさせる物だった
怒羅美 「お兄ちゃんが青幇に入ってると聞いて愕然としたわ・・・
お願い!青幇なんか抜けて!そして紅華会に入って!」
メガドラ 「・・・・え? ど 怒羅美?
お前・・・一体何言ってるんだ?」
怒羅美 「瀕死の私を救ってくれたのは紅華会のタシロさんなのよ」
メガドラ 「なッ・・・」
怒羅美 「紅華会は世の中に真の平和をもたらすために戦っているの
解るでしょう?世界征服が成れば戦争なんか起きなくなるわ
その為にもお兄ちゃんの力が必要なの!」
メガドラ 「ど 怒羅美・・・・」
グイングイングイン・・・・・
不気味な重低音を響かせる大型の機械
そして笑みを浮かべてその前に座る男、タシロ
タシロ 「メガドラの旦那・・・今頃は妹と感動の再会中かい?
くっくっく・・・どうだい。この洗脳マシンはな
その人間の最も大切な人間の姿を使って精神侵食していく
最初は当然「俺は信念を曲げない」とか抵抗はするんだがな
精神侵食が進むにつれ思考も次第に奪われていき・・・
最終的には紅華会に完全服従のロボットになっちまうのさ
そして他の旦那方・・・アンタらも・・・くっくっく」
のび犬 「ジズカちゃん・・・・」
シンエモン 「上様・・・・うう・・・」
一体さん 「は・・・・母上ッ・・・」
タシロ 「ふん・・・目が覚めたら全員俺の忠実な部下さ
これで一気にトップ幹部まで上り詰めてやるぜ」
グイングイングイン・・・・・
怒羅美 「さ、お兄ちゃん・・・
私と一緒にタシロさんの所へ行きましょう。ね?」
最愛の妹、怒羅美が手を差し出して微笑みかける
このままメガドラは紅華会の軍門に下ってしまうのか
ゆっくりと手を伸ばすメガドラ――――
すっ
怒羅美 「・・・お兄ちゃん?」
メガドラ 「ゴメンな怒羅美・・・俺はそっちには行けないよ
俺を待っている仲間がいるんだ。・・・朋友なんだよ
本当にゴメンな怒羅美。俺は・・・俺はッ!」
ブルブルと震えながら顔を怒羅美から背けるメガドラ
その頬に一筋の光がつたうのを隠すように
メガドラ 「のび犬!シンエモンさん!一体さん!
目を覚ませぇえッ!!!」
グイングイングイングイン・・・・・ピシッ
ガガガガガガガガ!ビシビシビシィッ!!
ぼが――――――ん!!!
タシロ 「な・・・何が起きた!?・・・洗脳機がッ!」
突如異音を発し始めたかと思った直後に爆発を起こす洗脳機
パラパラと破片が降り散る中、その巨体がゆっくりと立ち上がる
タシロ 「馬鹿な・・・自力で洗脳を破ったってのか?
大した精神力じゃねえかメガドラの旦那よぉッ!」
メガドラ 「力なき人々の叫びが俺を呼び戻した!」
メガドラ 「怒羅美・・・俺はもう迷わないぜ
俺達のような哀しい兄妹をこれ以上出さない為にも
紅華会を叩く!徹底的にな!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
タシロ 「大したもんだぜ旦那!褒美に俺直々に相手してやるよ!」
メガドラ 「お前だけは許さねえ・・・・来いッ!
グラップラーファイトォオオオオオオ!!」
タシロ 「レディィィィッゴォオオオオオオオオ!!」
ボッ!
初弾!タシロの貫手がメガドラの腹をえぐる!
『速いッ!』驚愕のメガドラ。懐に入られた瞬間がまるでわからなかった。スピード型グラップラーである
ちぃ、とばかりに鉄拳がうなりをあげるがタシロには当たらない
パンチを出したメガドラの腕が戻りきらないうちに第二撃・三撃を打ち込むタシロ!
タシロ 「遅い!遅いなァ旦那!まるでスローモーだぜ!
他の旦那方が目を覚ます前に一気に決めさせてもらうッ
魍魎拳奥義・幻妙十身剥!!」
メガドラ 「ぬうううッ!こ これは!?」
ズババババババババババババッ
タシロの姿が10人ほどに増えた!無論分裂したわけではない。高速で動いているための残像だ
10人のタシロが一斉に襲い掛かる!これで勝負を決めるつもりだ
タシロ 「見たか我が奥義!どれが本物か見切れまい!」
メガドラ 「あぁ・・・まったく見切れねえな。すげえスピードだ」
タシロ 「それがお前の最後の台詞か?冴えないなァ!
死ねいッ!メガドラァッ!!!」
メガドラ 「・・・・見切る必要なんてねえのさ
全員ぶっ飛ばすんだからな」
タシロ 「なッ・・・小宇宙が凄まじい速度で肥大化していく!
今までは本気じゃなかったってのか!?」
メガドラ 「お前の奥義を見せてくれた例だ・・・
俺のフェイバリットブロウも見せてやろう」
ゴッ!
メガドラ 「F(フラッシュ)P(ピストン)M(マッハ)P(パンチ)!!!」
ズゴオオオオオオン!!!
稲妻が轟くような衝撃音。10人のタシロは全て鉄砲玉のように吹き飛ばされ壁に叩きつけられた
これが秒間に10発ものパンチを叩き込む伝説のブロウ 『フラッシュピストンマッハパンチ』である
何か発しようと口を開いたタシロだったが、口からはごぼり、と赤黒い血が溢れ出すだけであった
仰向けに横たわるタシロ。脇に立つメガドラ
勝負はついた。メガドラの鉄拳は一撃でタシロに致命傷を与えたのだった
タシロ 「へへ・・・負けたぜ旦那・・・だがどうだい?
最初はまんまと俺の演技に騙されたろ?」
メガドラ 「家族の話・・・あれもか?」
タシロ 「へ・・・いやあれは本当さ・・・
これでも俺は昔売れっ子の芸能人だったんだが
ちょいと不祥事を起こして職を失っちまってな・・・
そんな時に紅華会に声をかけらたのさ
そして俺は女房子供を食わすためグラップラーになった
・・・へへっ・・・可愛い女房と・・・娘なんだよ・・・
いつか機会があったら・・・会ってやってくれや・・・」
メガドラ 「会ってないのか?」
タシロ 「会えるかよ・・・こんな体で・・・・・
アンタもそうだろう・・・・メガ・・・ド・・・ラ・・・」
す・・・・・
紅華会S級グラップラータシロ・死亡
男の死を受け止めてメガドラが口を開く
メガドラ 「確かにな・・・だが・・・」
メガドラ 「今はこの体が俺のプライドだ」
哀しき過去を乗り越え男達は闘う
己の信念を貫くために 守るべき人達のために
O BE CONTINUED・・・
次回予告!
ルクソール基地を撃破した一体さん一行
残すは敵本拠地カイロ基地そして機動陸戦艇ジョニー・ザ・ダイナマイトのみ
満を持して上海からは青幇本隊の飛空挺が飛び立つ!
熱砂の大地を舞台にいよいよ最終決戦が始まるのだ
次回!一体さん14話
「集結」
迫りくる脅威を 討て!一体さん!