辛くも勝利をおさめたメガドラだったが両足の負傷が深刻である。しかし敵地のド真中に1人に置き去りにするわけにもいかない
サンシャインを担架に変形させて最後まで連れて行く事にした
集団行動において重傷人の存在はアキレス腱になるかもしれないが、傷ついた仲間を切り捨てられる一行ではない
日本を発ってから辛いことも楽しいことも分かち合ってきた朋友。生きるも死ぬも最後まで一緒である

タタタタタタタタタタタタタタタタ!
疾風の如く通路を駆け抜ける戦士達。その表情が自然と引き締まる
Sパー伊藤・とりにてぃ・トモゾウ・・・紅華会四天王のうち3人は倒れた。いよいよ残すはあと1人のみ
眼前に現れた鋼鉄製の大扉を蹴りでブチ抜いて広間に突入する一体さん
ガシャ―――ン!!

???    「おやおや。これは無粋な方々だ・・・入室はもう少しお静かに」
一体さん   「ヒゲ・・・てめえが四天王最後の1人か?」

大広間で一行を待ち構えていた男。それはダンディな口髭を蓄えた紳士風の男であった
着物に袴、草履、そして得物は日本刀。純和風の侍スタイルだが、それを着こなす本人はどこから見ても西欧人
背丈はやや小兵。ムキムキの肉体というわけではないが、無駄なく絞り込まれた身体からこの男の強さが感じて取れた

ヒムラー   「コマンタレブー青幇の諸君。私の名はヒムラー剣心
        紅華会四天王No1を張らせてもらってます」
だま     「No1だと!?お前が4人の中で最強ということか!」
のび犬   「だがこの静かなる小宇宙・・・たしかにハッタリじゃねえ」

シンエモン 「お主、今ヒムラーと名乗ったな。もしや
人斬り抜刀斎か?」
ヒムラー   「Da Bomb!(大正解) よくぞご存知で
        幕末の頃そう呼ばれていた時もありましたね。昔の話ですが」
メガドラ   「人斬り抜刀斎・・・まさか実物に会えるとはな
        維新の嵐の最中、改革派の剣として暗殺を請け負った仕事人!
        凄腕のグラップラー達だけをターゲットに絞った腕利きだったと言う
        天位グラップラーの獅子王が一瞬で屠られたという話は語り草だ」
北城トオル 「フッ!いくら伝説の男が相手だろうとも”銃は剣よりも強し”
        その剣でこれをかわす事ができますか!?デュアルショット!」

ガオオオン!!!
言うが早いか北城の拳銃が火を噴いた。ヒムラーに向かって6発の銃弾が飛ぶ
世界広しと言えど北城にしか使えない早討ちの究極技「シックス・オン・ワン」炸裂である
僅かな笑みを浮かべこれを受けるムラー。その場を一歩も動こうとせずにスッと刀の柄に手をかけた

ヒムラー   「なかなかエレガントな攻撃です・・・しかし遅すぎたッッ!
        
飛天御剣流 九頭龍閃!」 

−そして刹那の閃光
シュキィイイイイイイン!! バラバラバラバラバラッッ!キィン・・・
なんと6発の銃弾はすべて眼前で斬り落とされてしまった。なんと凄絶な太刀筋!
シックスオンワンが早撃ちの究極ならば、この技はさしずめ早斬りの究極と言ったところか
しかも名前の示す通り、一息で9回もの斬撃を打ち込んでいる。明らかにシックスオンワンよりも上の絶技である

ヒムラー   「銃が剣にどうかしましたかね?まだまだ若いガンナーくん」
北城トオル 「バッ、バカな!こんな剣撃・・・あり得ない!」

己が秘技を難なく破られ狼狽する北城。その肩をぐっと掴んで1人の男が前に出る
溥儀禁衛隊筆頭”悪を断つ剣” シンエモン!




第19話    「剣の心」




シンエモン 「久しぶりに本物のいくさ人に会ったでござるよ
        ここはさがっておれ北城。こやつの相手は拙者でござる」
ヒムラー  「ほう・・・貴公も剣士ですか。なんとも立派な得物をお持ちだ
        よろしければ流派をお教え願えますかな?」
シンエモン 「この世に斬れぬものはなし!一文字流斬岩剣!」
ヒムラー  「これはこれは。未だあの流派を継承する者がいたとは・・・」

互いに刀の柄に手をかけてジリジリと間合いを詰めていく二人
戦いを見守る一体さん達もその静かなる迫力の前にただ手の平に汗をかくばかり
これが一級線の剣豪同士の戦いである

一体さん  「あの男相当出来る・・・四天王No1はハッタリじゃねえ」
メガドラ   「うむ・・・しかもあの髻は極武髪!」
だま     「極武髪?」



『極武髪』

古代中国拳法界においてはその頭髪の結い方で技量の段位を示す制度があった
その段位が上から順に甲武髪、乙武髪・丙武髪などと呼ばれ、最高峰として存在したのが極武髪である
一見無造作にも見える束ねただけの名誉ある結い方
これを許された者は最高度の修行を経て頂点に達した者達だけであり
1000人に1人出るか出ないかだったと言われている

太公望書林刊 「世界頭髪大全」より



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

ヒムラー   「極武髪を許された私の華麗なる剣技・・・死をもって味わってください」
シンエモン 「ひさびさに全力で剣を振るえる相手と出会えたでござる
        拙者も本気でいかせてもらうでござるが・・・よろしいな?」

ヒムラー   「ふ・・・言ってくれますね。一文字流は所詮膂力に頼った獣の剣
        我が剣は工夫に工夫を重ね、鞘のうちにて飛燕すら落とす精妙の剣
        貴公は我が太刀筋さえ見ぬ間に敗れるのです」

す・・・・・・
間合いッ!
刹那!二人の間に二条の閃光が走る!
ギイン!!!!
放たれた凄絶な抜刀はまさしく互角のスピード!
激しく弾きあって互いに半歩ほど下がる。驚愕に目を見開くヒムラー

ヒムラー  「なッ!?この私の居合いと互角!?」
シンエモン 「まだだッ!遅いでござるッ!!」
ヒムラー  
「また居合いだとォ!?しかも逆手で抜いた!」

初弾の激突でわずかに体勢を崩し身を引いた二人であった。ここまでは互角!
だが、シンエモンは流れるように再び刀を鞘に納めると、すぐに二撃目の抜刀に移行していたのである
−霞ッ!
反射的に身を振る返すヒムラー。直後放たれるシンエモンの第二撃をなんとか回避!
再び間合いを取ると動揺を隠しつつ、ゆっくり構えを取り直す

ヒムラー  「・・・・・信じられない。この私より早く二撃目を・・・
       しかもわざわざ居合いでッ!!なんという屈辱!
       許せません・・・この借りは必ずって、貴公!何をしている!」

なんと戦闘中だというのに小さなブラシのようなもので靴の埃を落としているシンエモン
居合いの件でナメられていると感じていたヒムラー、この態度にさらにイライラを募らせて叫ぶ

ヒムラー  「戦いの最中に呑気に靴など!人を馬鹿にするのも・・・
        うっ!?ま・・・・まさかそれは・・・・まさか・・・!」









バ――――ン!!!

シンエモン  「こいつは靴ブラシに丁度良い
         何時いかなるときでも身だしなみには気を使う
         
それが男のダンディズムでござる」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
刹那の交錯で放った二度の抜刀術。この脅威の離れ技によりヒムラーの極武髪を斬り落としたシンエモン
その場にいた誰もが捉えられなかった太刀筋。そう、一体さんの目でさえも。まさに神速の剣!

北城トオル 「す・・・凄い!!あんな剣技がこの世あり得るのか!?
        筆頭殿の流派・一文字流は無双の剛剣と承知しているが・・・
        神速で知られる飛天御剣流のそれを遥かに凌駕している!」
一体さん  「北城・・・香港での戦いがシンエモンの実力だとでも思っていたか?
        あの時は格下のお前を相手に力をセーブしていたに過ぎん
        目を離すな。今から
竜の騎士の本当の戦闘力が見られるぜ」

北城トオル 「これが・・・
禁衛隊筆頭の本当の力!

ヒムラー   「紅華会No1グラップラーである私が不覚を取るとは・・・ッ!
        信じられぬ事だがどうやら貴殿の技量は私よりも上らしい
        認めましょう。単純なチャンバラでは私の分が悪い・・・だがッ!
        見せてやろう!我が師・陳京彊より授かった奥義を!」

シンエモン 
 「なにッ!陳京彊だと?」

ヒムラー   「ご存知か陳老師の名を。もっとも貴殿ほどの男なら当然だがな
        残念ながら既に他界されたが・・・技量・人格何をとっても一流
        その名は剣聖として今でも剣術家達の胸に刻まれているお方だ
        私こそは師の最後の弟子!
そしてこの技こそがその証!」

言うなり後ろへ飛んでシンエモンと大きな距離を取るヒムラー
剣を構えた体勢で深く身を沈め、同時に特殊な呼吸法で強大な気を練り始めた
何か大技が来る−!シンエモンは竜闘気を開放して攻撃に備える・・・・・
と!
ドババッッ!!!
ヒムラーが剣を横に薙いだと同時にシンエモンの肩口から鮮血が迸った
斬撃!?しかしこの距離・・・飛び道具か!?または”氣”の放出か!?
否!これは正真正銘の剣による斬撃!

だま     「な なんだあれ!あの位置から剣が届いたのか!?」
一体さん  「意巧刃かッ!しかしあれほどの氣の収束は!」
シンエモン 「陳京彊と聞いてまさかとは思ったが・・・千歩氣巧剣!




【意巧刃】
グラップラー達には「氣」を使う戦闘を得意とする者が多い
通常「氣」は拳に発生させたものを直接対象に接触して叩き込むか、飛び道具のように対象に向けて放出する
しかしあるレベル以上の使い手になると「氣」の形状を自在にコントロールする者も現れてくるのだ
剣の形状を取ったり、槍の形状を取ったり・・・これらの技法は「意巧刃」と呼ばれる操氣術の最上位であり、
意巧刃の中でも幻とまで言われる奥義が千歩離れた相手まで氣が届くと言われる千歩氣巧剣である


今ヒムラーが放った攻撃は剣閃による衝撃波やかまいたち現象の類ではなく、
剣の形状をとった氣による正真正銘の斬撃である。その威力は大木を断ち大地をも割ることが可能!

ヒムラー  「師の弟子の中にあってもこの奥義を極めた者はごく僅か・・・
       その中の1人が私!いかな貴殿とてこの奥義の前では無力!
       
は――――――ッ!!!」

バババババババババババババッッ!!!

のび犬   「なんて技!あのシンエモンさんが受身一方ッ!」
メガドラ   「酷い出血だ!身体をナマス斬りにされていく!」

息もつかせぬヒムラーの連続斬り。見る見るシンエモンの身体が鮮血に染まっていく
たとえ何百m離れていようが、そこが剣の間合いになってしまうという恐るべき究極奥義である
目にも止まらぬ連斬を全身に受け、その身を真紅に染めたシンエモン
だがしかし、彼はその場を一歩も動こうとせずに竜闘気を全開。じっと攻撃に耐えていた

ヒムラー   「・・・何故少しも避けようとなさらんのか?
        この究極奥義の前に悪あがきは無駄と悟り観念されたか?」
シンエモン 「かわす必要がないからでござるよ
        陳京彊最後の弟子・・・もう少し出来るかと期待していたが
        そんなナマクラでは拙者の肉体に致命傷を与えることはできん」

ヒムラー   
「何だと!?」
シンエモン 「お主の千歩氣巧剣は氣が充分に練れていないのでござる
        だから威力に欠け、手数に頼らざるをえなくなっている」

ヒムラー   「何を言い出すかと思えばたわけた事を・・・
        この状況下にあって貴殿のどこからそんな台詞が出てくるのか
        そもそも秘中の秘と言われた千歩氣巧剣の一体何がわかると
        
うッッ!?」
のび犬   「な なに――ッ!なんだあれは――ッッ!?」
だま     「シンエモンさんが敵とまったく同じ構えをとったぞー!

予期しえぬその光景に驚愕する一体さん達
ヒムラーも狼狽して続く言葉を失っている
なんとシンエモンがヒムラーと同じ千歩氣巧剣の呼吸法を構えをとったのだ

シンエモン 「陳老師は言ったはずだ
        
この技は氣の練りと集中が全てだとな」
ヒムラー  「老師をその名だけでなく知っているのか・・・
はッ!まさか!」

陳老師のことを語り、千歩氣巧剣の構えをとった金髪の男を目の当たりにし、
ある記憶がヒムラー脳裏をよぎった。そう、あれはまだ老師が健在だった頃・・・・




若き日のヒムラー。真面目一徹の精進者で、毎日血の滲むような修行に明け暮れていた
そしてこの日ついに最終奥義千歩氣巧剣を修め、陳老師から免許皆伝を承ったのだ

陳老師  「見事だヒムラーよ。千歩氣巧剣ついに修めたようだな
       だが上には上がいることを肝に銘じ以後も修行を怠ってはならん
       なにしろ・・・お前が10年かかって極めた千歩氣巧剣を
       たったの3ヶ月で極めた人間もおるのだからな」
ヒムラー  「な、なんですと!?千歩氣巧剣をたったの3ヶ月で・・・!」
陳老師  「フッホッホ・・・まったく変った男であった・・・
       まだお前が入門する前、その男は日本から来たと言って門を叩き
       並みの剣士なら
50年はかかるであろう千歩氣巧剣を含む
       一切合財の修行をわずか
1年で全て成し遂げ帰ってしもうた」
ヒムラー  「な・・・・!」

陳老師  「世界中を放浪しながらの武者修行の旅だと言っておった・・・
       あのような男は見たことがない。まさに闘神・阿修羅の化身よ
       この世に奴と戦って勝てる者はおるまい・・・無論このワシもな」
ヒムラー  「ろ 老師!お教えください!その日本人の名は!?」
陳老師   「ウームその者の名か・・・名は・・・」





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

ヒムラー  「た たしか・・・・シ、シシ・・・シンエ・・・」
シンエモン 「これが真の!
        
千歩氣巧剣でござる―ッ!!」

ゴッバァアアアアッッッ!!!

ヒムラー  「うわあおお―――ッッ!!」


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

シンエモン 「ぬう。あまりに久々の剣で狙いを外してしまったでござるよ」
ヒムラー  「ち 違う・・・貴方は・・・・故意に外されたのだ
        わ・・・私如きの及ぶところではありませぬ・・・」

がくりと腰から崩れ落ちたヒムラー。床に両手をついて深々と頭を下げた
紅華会グラップラーと禁衛隊の剣士としてでなく、兄弟子と弟弟子としてポンと肩を叩くシンエモン

シンエモン 「フフッ 陳老師がよく言っていたでござる
        
剣の道を極めることは剣の心を知ることだ
        
とな 






剣とは鋼の刃にて斬る物に非ず
心にて斬る物也!



禁衛隊筆頭シンエモン、その戦闘力いまだ底知れず!



TO BE CONTINUED・・・


次回予告!
紅華会四天王を撃破した一体さん一行はついに首領・ミスターXと邂逅する!
5年前の一体さんとの確執とは?そして一子相伝北斗神拳2000の歴史とは!
いよいよ閻王・一体さん最後の闘いが始まる

次回!一体さん第20話
「ただ、打ち貫くのみ」

真なる力で敵を討て!一体さん!


20話へ

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