第九話「鬼の哭く街カサンドラ」



ヒュオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・

一体さん  「まだなのか?のび犬?」
のび犬   「もう少しだ・・・聞こえないか?
鬼の哭き声のような音が
        ここを登りきれば見えてくるはず・・・・見ろ、峠だ」

険しい山道を登る一体さん一行
”ジャリッ”
ようやく辿りついた峠から眼下を見下ろす・・・
悠然とそびえる巨大な建造物!
風に乗って聞こえてくる大地が震えるような慟哭!

シンエモン 「ここがカサンドラ・・・・!」
メガドラ   「そう、別名”鬼の哭く街!”

一度収容されたが最後 二度と生きて門をくぐることのできない死の監獄!
かつて鬼と恐れられ悪魔とそしられた凶悪犯達が哭いて出獄を乞うた街
それが鬼の哭く街・カサンドラ!

一体さん  「ここにいるのか・・・・潘!





〜 数時間前 〜

シンエモン 「よし、と・・・これで止血は済んだでござる
        それとこれは化膿止めの薬。さ、飲むでござるよ」

斬り落とされた右腕の応急処置を受ける北城
例えどんなに激しく殺り合おうとも、ひとたび闘いが終わればノーサイド
それが真のグラップラーというモノ!
シンエモンの誇り高き精神に触れ、彼の中で何かが変わりつつあった

シンエモン 「その右腕は冷やしたまま日本に持って行くといい
        大丈夫、紹介した先生は溥儀禁衛隊の軍医で腕は確かだ
        すぐに元通りくっつくでござるよ」

北城トオル 「・・・フ・・・私の完全敗北ですね
        技だけでなく、心でも貴方には到底及ばないようだ
        恩返しと言ってはなんですが・・・
        貴方達に一つグッドニュースを聞かせてあげましょう

        潘 光輪は生きていますよ

のび犬   「なッ・・・・!本当か!?」
メガドラ   「潘親分が・・・・!」

一体さん  
潘が・・・生きている・・・・!」

青幇の盟主にして一体さん無二の朋友、潘 光輪が生きている!
北城からもたらされた情報を信じ、彼を奪還するため一体さん達はカサンドラへ向かう事を決意する!








― そして場面は再び現在 ―

カサンドラ内部 【獄長の間】
一人の衛兵が緊張の面持ちで部屋に入ってくる
どうやら玉座にふんぞり返っている大男に報告に来たようです

衛兵    「も、申し上げます!獄中の潘が・・・・!」









ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

獄長      「なにィ!? 潘が微笑を!?
   
     あの何事にも無反応だった男がか・・・
     
   クックックック・・・・流石だ潘!
      
  俺の伝説に挑戦する者の到来を予感しているようだな」

ドタドタドタドタドタ・・・・!
そこへ慌しく駆け込んでくる物見の兵士

物見兵   「ご、獄長〜〜〜ッ!!来ました!
       閻王とその一行がこちらに向かっています!」

獄長    「クックック・・・・来たな、無謀な挑戦者よ!
       恐怖を知らぬ者に恐怖を教えてやるのもワシの楽しみ・・・
       
ゆけい! ダラちゃん!イグラちゃん!
       まずは貴様等が難攻不落カサンドラの恐怖を教えてやれい!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



ついにカサンドラの正門にまでやってきた一体さん一行
しかしこれはどうしたことか。まるで人の気配がしません

のび犬   「なんだこの静けさは・・・本当にここに
      
  潘親分や多くの人が捕らえられているのか?」
一体さん  「フ・・・のび犬、目の前をよく見てみろ」
のび犬   「え?」

ヌオオオオオオオオオオオオ・・・・・!
正門の両脇に立つ大きな彫像がピクリと動いた!カサンドラの衛士だ
それにしても大きい。身長3mはあろうかという巨躯である

ダラちゃん 「カサンドラの衛士ダラちゃん!
イグラちゃん「ハーイチャーンバブー!(同じくイグラちゃん!)」
ダラちゃん 「ここを通すわけにはいかん!」

ぶわっ!
言うが早いか襲いかかる二人組!のび犬を挟み込むように間合いを詰める!
「挟まれたら殺られる!」瞬間的に危険を感じ取ったのび犬、身を伏せて間一髪でコレを交わす!
僅かにかすった頬から溢れ出る鮮血

のび犬   「ぬうッ これは!?」
メガドラ   「ヤツ等め、何か妙な物を持っていやがる!」

ダラちゃん 「二神風雷拳!
        二身一体!同じ血、同じ筋肉、
        同じ感性を持つ者のみが習得可能の秘拳!」

イグラちゃん
ハーイチャーンバブー!

ギャ――――――ン!
二人の指の間に張り巡らされているのは、刃のように研ぎ澄まされた鋼線!
しかもその細さ!止まってる時はなんとか見えても、ひとたび攻撃に転ずれば肉眼で捕らえる事は不可能!
二人の間に挟まれた物はすべて輪切りになってしまう恐ろしい拳法だ

シンエモンが刀の柄に手をかけ一歩前に出ようとします・・・・が
それよりも早く二人の前に立ちはだかる人影!
最近あまりの出番の少なさに主人公である事を忘れられそうな一体さんの登場です

一体さん  「道を開けぬと死ぬぞ」
ダラちゃん 「フ・・・我等カサンドラの人間にその言葉は脅しにならぬ
        既にあらゆる人間がすべて死に支配されている!
        この門を開けようとする者には・・・・」
イグラちゃん「ハーイチャーンバブー!(死あるのみ)」

”ゴオッ!”
まさに一瞬だった。一体さんを挟んで駆け抜けたダラちゃんイグラちゃん!
哀れ一体さんの身体は輪切りに・・・・
なるハズがないッ!
鋼線は真ん中から切断されていた!
触れるやいなや対象を切り裂く恐るべき刃鋼線、それをも切り裂く一体さんの手刀ッ!
これがッ!
一体さんエクスカリバーだッ
バァ――――――――ン!





ダラちゃん 「バ・・・バカな!俺達の拳が!」
イグラちゃん「ハーイチャーンバブー!(見切られるとは!)」

驚愕する二人!この男は今まで自分達が闘ってきた相手とは違う!
すぐさま後ろを振り向いて構えを取り直そうとするも、次の瞬間二人は凍りつく
”ビタァッ”
既に眼前に一体さんの掌が突きつけられていたのだ
全身から冷たい汗が噴き出し、一歩も動くことが出来ない!

一体さん  「終わりだ!」
ダラちゃん 「!? な・・・なぜ殺さぬ!」
一体さん  
敵意より 哀しみ
      お前達の目は哀しみに満ちている」


!!!

ダラちゃん 『た・・・たったこれだけの闘いで俺達を見切るとは・・・』







シンエモン 「おおかた人質でも取られて衛士に成り下がったのでござろう?」

全てを見透かされたダラちゃん&イグラちゃん
暫し顔を見合わせると、意を決したように正門に向かう
”ガシィッ”
ギギギギギギゴゴゴゴゴメキメキッ
なんと!衛士である二人が、自分達からカサンドラの門を開こうとしている!

”バギャッ”
ガコ――――――――――ン!
門は開かれた。難攻不落の伝説を破る勇者のために!






ダラちゃん 「あんたに賭けてみよう!
        あんたならカサンドラの伝説を破るかもしれん」
イグラちゃん「ハーイチャーンバブー!
        (そして俺達を含め ここに生きる全ての者に再び生と光を!)」

一体さん  「この門は開けておけ
      もはや二度と閉ざされることはない!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衛兵1    「こ この門が永遠に閉じることはないだと!?」
衛兵2    「かつて誰一人としてこの門を通さなかったダラちゃんとイグラちゃんが」
衛兵3    「やつらに自ら門を開かせてしまった・・・あの男は一体・・・」
衛兵4    「おい・・・この勝負に晩飯を賭けないか?」
衛兵5    「お〜いいとも!どっちに賭ける? って、もちろん獄長に・・・」
衛兵4    「いや・・・俺はあの男だ!」

難攻不落カサンドラ!
その門が門番自らの手で開かれた!伝説を打ち破る救世主のために!
この事実は他の衛兵達の心をも動かしつつあった。 しかし・・・
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!”
奥の門がゆっくりと開いていく!
中から現れらたる巨躯の男!ダラちゃんイグラちゃんと比べても頭一つ大きい

衛兵1    「獄長サザゑさんのおなりだァー!」
サザゑさん 「シャイ!シャイ!シャイ!シャイ!」

グラッ○ラー刃○の○狩のように衛兵、囚人達の歓声をあおりつつ
カサンドラ獄長サザゑさん、颯爽と登場!

サザゑさん 「よくぞ来たな閻王!
        この鬼の哭く街カサンドラに自ら足を踏み入れるとは・・・
        その無謀なる勇気だけは誉めてやろう」

一体さん  「俺に無謀という言葉はない」
サザゑさん 「ククク・・・それは貴様がまだ
        恐怖というものを味わったことがないからだ
        だがここで貴様は初めて恐怖というものを知ることになる!
        まずはその見本を見せてやろう・・・
        ダラちゃん、イグラちゃんわかっておろうな?
        カサンドラ衛士としての誇りと義務を放棄した罪は重いぞ」

サザゑさんがパチンと指を鳴らすと、奥の部屋から磔にされた猫が連れてこられた
途端にダラちゃんとイグラちゃんの顔色が変わる

ダラちゃん
イグラちゃん「だ・・・・だま!」
だま     「にゃにゃにゃーにゃにゃーにゃ!(あ、兄貴ィ)」
サザゑさん 「グフフ・・・貴様らを衛士に仕立てんが為の猫質はもう用無しだ
        
見せしめとして銃殺する!」
だま     「にゃにゃにゃにゃー!(兄貴ー助けてくれー)」
サザゑさん 「フハハハハハ!私に逆らうと地獄を味わうことになるのだ!」

ゲラゲラと醜悪な笑い顔で二人をなぶるサザゑさん。 
しかし
ダラちゃんとイグラちゃんはゆっくりと深呼吸した後、しぼり出すような声でこう言った



ダラちゃん 「だま許せ!このカサンドラの人間に再び生を与えるためだ
        
死んでくれ!」

イグラちゃん「
ハーイチャーンバブー!
        (わかるなだま!俺達が待ち望んだ救世主がやっと現れたのだ)」

ダラちゃん

イグラちゃん
「先に地獄で待っていろ 俺達もじきにゆく!」






















だま     「にゃー・・・・・」




一体さん  「ッ・・・・・・!」
ダラちゃん 「あんたが哀しむことはない
        俺達が勝手にあんたに賭けたんだ」

今まさに銃を構えた衛兵が引き金を引こうとした直前!
突然サザゑさんがそれを止めさせた。そしてニタニタと笑いながら愛用のムチを取り出す

サザゑさん 「気が変わった。覚悟が決まった男を殺しても面白くない
        貴様らが閻王に賭けた一縷の希望・・・・
        それを打ち砕いてからゆっくり処刑してくれる!
        
貴様らの希望が絶望に変えてやろう
!」

シュパァン
”ビシィンッ!”
ムチを打った石床が砕け、破片が飛び散る。なんという凄まじい威力!
だが

一体さんの身体からはいつにない強烈なオーラがほとばしっている!

シンエモン (一体さんが本気で怒っている!これはエライ事になるでござるよ)
一体さん  
「話はそれだけか外道・・・・
      殺してやるからかかってこい!



TO BE CONTINUED・・・


次回予告

そのベールを脱いだカサンドラ獄長・サザゑさんの実力!
一体さんの正義の鉄拳はカサンドラの伝説を打ち破れるのか?
今、「閻王」の本当の力が発動するッ!

次回!一体さん第十話!
「眠れ墓標なき墓に」

月の光は愛のメッセージ


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