【 閻魔大王 】
インドのヴェーダ神話では光明神の一人であったが、人類の最初の死者として天上の楽土に住んで祖霊を支配しのちに下界を支配する死の神
地獄に堕ちる人間の生前の善悪を審判・懲罰する。焔摩、閻魔王、閻魔大王、閻魔法王、閻魔羅闍 等の呼び名があり、
「生前ウソをつくと閻魔様に舌を抜かれる」、という教えは日本人ならば知らない人間はいないであろう地獄の主神である



自らを”閻王”と名乗った少年にざわめき立つ、大日本帝国軍の精鋭達
だが無論それは地獄の神・閻魔大王の名に対する畏怖ではなく
巷で噂のグラップラー、
閻王の名に対する畏怖であった
閻王は正義のグラップラーではなかったのか。何故鬼夜叉党に与して自分達の前に立ちはだかるのか
ざわめきは一層大きくなり、隊列に乱れが生じめた。だがそのとき

溥儀    「静まれい!皆の者!」

浮き足立つ兵士達を抑えて馬を前に進めたのは、三代将軍溥儀その人である
威厳に満ちた将軍の一喝に、軽いパニック状態に陥っていた兵士達が一瞬にして冷静さを取り戻した

溥儀    「三代将軍足利溥儀である!
       そこな小坊主よ。お前が閻王とは真実であるか!
       真実であれば何故に鬼夜叉党征伐の邪魔をする!」
閻王    「正真正銘の閻王だ。だが鬼夜叉党に与した覚えはない」
溥儀    「なんと。ならば如何なる理由か」
閻王    「それをアンタに教える必要はない。ただ・・・
       俺はアンタらをここから先に進ませない。それだけだ」
  

指に挟んだアドベントカードをキラリと光らせ、たった一人で軍隊を威圧する少年
まさかこんな子供が、と最初は思ったが・・・この全身から発せられる小宇宙、
そして何より、”禁衛隊参の槍”ハッタリ半蔵を打ち負かした事実が彼の強さを証明していた
漆黒の巨馬にまたがっていた金髪の剣士が、その鞍を降りて静かに歩み寄る

シンエモン 「溥儀禁衛隊筆頭シンエモンでござる!ならば閻王殿!
        それは我等に対する宣戦布告と捉えてよろしいか!」
閻王    「アンタがシンエモンか・・・竜の闘気纏いし伝説の戦士
       そちらがどうしても退かないならそう思ってもらってかまわん」

シンエモン 「ぬっ、おぬしは拙者のクラスを知って・・・!?
        それで尚闘うと言うのか。敵ながらその意気やよし!」

勢いよく背中の太刀を抜き放つシンエモン。日の光を浴びて刀身がギラリと輝く
それを受けて、指先でクルリとアドベントカードを回転させる閻王
超戦士二人並び立つ!両者まったなし!

シンエモン 「ならばグラップラーファイトォォオオオ!!」
閻王    「レディィッ!ゴォオオオオオオオウ!!!」

鬱蒼とした雑木林に一陣の風が吹く
閃光のごときスピードで激突する二人の超戦士

シンエモン 「はあああああああああッッ!」

初撃となる一太刀が今、金髪剣士の咆哮とともに振り下ろされた
無手の閻王にこの一撃を受け止める手段はなく、行動は回避のみ
― 横に避けるか 後ろに退くか
だがその場に居合わせた人間は信じられないモノを見ることになる
その場を一歩たりとも動かない閻王。そして

ガッ!

シンエモン 「なん・・・・でござると?」
閻王     「遊ぶなよ竜の騎士。最初から本気でこないと怪我するぜ」

驚愕。凄絶なるシンエモンの一撃は閻王に傷をつけることはなかった

斬岩剣は閻王の指2本によって止められていたのだ!
ドゴォッ!!
直後唸る閻王の裏拳!咄嗟にガードしたシンエモンだがあまりの威力に身体ごと吹き飛ばされる
バキバキと木の枝をヘシ折って茂みへと突っ込むシンエモン。溥儀の顔面からすーっと血の気が引いた

レオンハルト「筆頭ッッ!」

シンエモンが吹っ飛ばされたのと、大砲を背負った巨漢が前に躍り出たのは同時であった
ザザッ!っと両足を大きく開き、腰を深く落とす巨漢。背中の砲がガクンと折れ曲がって閻王に狙いを定める
40cm対人砲
「地獄の砲弾」
弾頭炸裂時の破壊力は拠点爆撃用ミサイルにも相当する

装弾数は3発のみだが、個人戦闘用の携帯装備としては重量・火力ともに世界最強の砲撃武装だ

レオンハルト「デッドエンドシューッ!!」

ドオオオオオオオオオン!!
轟音一発。反動で大きく身体を仰け反らすレオンハルト
発射された弾頭は相手を黄泉へ誘う、まさしく”地獄の砲弾” 当たればいかなるグラップラーとて骨も残らないだろう
だが閻王は迫り来る砲弾にたじろぎもせず
静かに一枚のカードをスラッシュした

『イグニッション』

閻王     「やれやれいろんなヤツがいるな禁衛隊ってのは
        
・・・バーニングレイド」

猛スピードで眼前に迫る弾頭!
炸裂すれば50m四方が跡形も無く吹っ飛ぶほどの火薬量である
だが閻王は逃げることなく一枚のカードをスラッシュすると・・・
真正面から弾頭に突っ込んでいった!

男爵ぴーの 「なッ!?なんだと!?」
レオンハルト「バカめ!何を考えているかは知らぬが
        地獄の砲弾はどんな・・・・
ッッ!?


バシュン!!

ドッゴォオオオオオオオオン!!!

轟音とともに地獄の砲弾は空中で炸裂した。吹き荒れる凄まじい爆風と熱量
その場に居合わせた全ての人間がその閃光と衝撃に目を覆い、地面に伏せた
哀れ閻王は肉片も残らぬ木っ端微塵に・・・・・・・・
否ッ!
爆心地に閻王の吹き飛んだ形跡はまるで見られず
そしてレオンハルトがその場にドサリと倒れこんだ
静かにレオンハルトを見下ろす人影は・・・・まさしく閻王!

あまりの出来事にただ呆気に取られる禁衛隊と溥儀軍の兵士達。いったい今の一瞬に何が起こったのか?
ではVTRを見てみよう

理解してもらえただろうか
真正面から弾頭を拳で打ち抜き、
爆発の瞬間、
既にその場に閻王はいない
もう
レオンハルトに一撃くれたあとである!

”点火”のカード『イグニッション』
使用後、行使者の全身をエネルギーの塊と化し、弾丸のように撃ち出すバースト技
そのエネルギーおよび突進の速度・破壊力は行使者の小宇宙に比例するが
仮に閻王ほどのグラップラーが使用した場合、速度は音速を遥かに超え、光速近くにまで達する


閻王     「これで二人・・・まだやるか?」
あぶどぅる 「うッ!うおおおおおおおおおおおおおおお!!
       
 くらえ化物!シャイニングフェニックス!」

半ば悲鳴に近い絶叫を上げながら。あぶどぅるが必殺奥義を放つ
奥義以外の技などこの化物に通じるとはまるで考えられなかった
8年前、新宿でシンエモンと戦ったとき以来の感情である
そう、
絶対的な格上の相手に対する恐怖!

バオオオオオオオオオオ!!
唸りをあげて閻王に迫る火の鳥。焦点温度1万度のこの超絶奥義ならば必ずや彼奴も倒せる!
あまりの高温に前衛の溥儀軍兵士達がバタバタと倒れ、周囲の木々が瞬時に燃え上がったその瞬間
閻王が怒りの表情を見せて腕を振り上げた

閻王     「ちッ・・・・このバカ野郎が!
        こんな山の中で炎術なんて使うんじゃねえッ!
        
猛虎百歩拳ーッ!!」

ガオオオオオオオオオオオオ!!
気合一閃。閻王の右腕から放たれたモノは巨大な虎であった!
虎は真正面から火の鳥と激突!
鋭い爪で火の鳥を捉え、そのまま頭から飲み込んでかき消していく!

あぶどぅる  「なッこれは・・・超人拳奥義猛虎百歩拳!?」
閻王     「山火事にでもなったらどうするこの野郎
        もう少し時と場所を考えて使いやがれ!」

バチュン!ぼしゅうううううううう・・・・・!
一万度の火の鳥は跡形もなく消滅し、
呆然と立ち尽くすあぶどぅるの首に閻王の手刀がストンと落とされた。くるりと白目を剥いてその場に倒れこむ

閻王     「三人目・・・どうするそこの黒ずくめ、お前も退かぬか?」
男爵ぴーの 「ライダーでありながら超人拳の使い手だと!?
        お・・・お前はいったい何者なんだ!」

動揺しつつもゾリンゲンカードを抜くぴーの
自分の背中には守るべき主君、溥儀がいる。退けるワケがない!
しかしさながら羅刹のような少年にゾリンゲンカードはカスリもしない
眼前にまで迫った閻王がその右拳を固める。ぴーのの背中にゾッと冷たいものが走った

閻王     「さてね。悪いがお前も少し黙っててもらおうか」

ガキィイイイイイイイン!!!

だが
閻王の鉄拳はぴーのには届かなかった
目の前に立ちはだかった金髪の剣士がこれを受け止めていたのだ!

男爵ぴーの 「筆頭殿!」
シンエモン 「先ほどは失礼致した閻王殿・・・・・
        
これより本気でお相手仕る!」

閻王     「ほう・・・顔つきが変わったな
        見せてもらおうか。伝説の竜の騎士の戦闘力」

一度は遅れをとったシンエモンであったが再び閻王と対峙した今、先の油断は一切無い
ピタリと正眼に斬岩剣を構えたその姿
一分の隙もないたたずまいはまさしく剣の鬼神か荒神か
並のグラップラーならばこの剣気にあてられただけで小便を漏らして命乞いするところである

シンエモン 「はァッ!!」
閻王     「ふうッ!!」

ビュオッ!
互いの掛け声が戦闘の合図
目にも留まらぬ閃光の切っ先が唸る!
突きだ!
剣の達人の突きはまさに神速の一撃である
まして竜の騎士のそれであれば、もはやこの地球上で最速の攻撃と言ってもいい

だが。仕掛けたほうも規格外ならば受けるほうも規格外
閻王は流れるように体を横に開くことで突きを回避。某剣術で言うところの体さばき「霞」
そのまま回転を利用しつつ、シンエモンのこめかみめがけて裏拳を放つ!
ボッ!!
その拳とてシンエモンの突きに劣らぬ無類の速度なれど
繰り出した拳はシンエモンの身に届かず!
竜闘気!
忍者刀の斬撃を弾き返し、灼熱の炎もシャットアウトする強烈な防御壁
いかに閻王の拳と言えども、手打ちのバックナックルでダメージを与えられるほどやわな代物ではない

閻王     「ぬうッ!?これは!」
シンエモン 「何を驚いている。本気で行くと言ったはずだ」

スパァアアアン!
閻王の一瞬の虚をついて横薙ぎに払われた一撃!
バックステップで数m飛び退いた閻王だったが、その頬につたう一筋の赤い雫
僅かに反応が遅れたとは言え、完全に見切ったはずの回避だった。閻王の眉毛が思わずつり上がる

閻王     「切っ先が伸びた・・・だと?
        まさか今のは虎眼流の
”流れ”か?」

シンエモン 「いかにも。
我が流派は一文字流のみにあらず
        若き頃より武者修行にてありとあらゆる流派を学び申した」




遠江国に本道場を構える無双の流派・虎眼流には
「流れ」と呼ばれる特殊な握りがある

遠間から放たれた横薙ぎ一閃のさなか、シンエモンの右手は

鍔元の縁から

柄尻の頭まで横滑りしていたのである
当然その切っ先は数cm伸びることにになるが
精妙なる握力の調節がなければ刀はあらぬ方向に飛んでいっただろう

「流れ」は虎眼流中目録以上の秘伝であり、道場稽古で使用することは禁じられている



すなわち

目の前に立つ男は虎目流中目録以上の使い手(おそらくは免許皆伝)であるという事
頬の血を親指でぬぐいながら閻王はニヤリと笑った

閻王     「なるほど。ただの”竜の騎士”じゃなかったと言うわけだ
        剣術コンプリーター・・・
ソードマスターとはな
        
大属性「剣」に該当するセイバーの上位クラス・・・・
        この世のありとあらゆる剣術に対しての対応性を持ち、
        一度目にした剣技ならばさしたる修行もなく習得できると言う」

シンエモン 「これまで修めた七百以上の流派万を越える剣技の数々・・・
        いまだ極めつくさぬ不肖の身なれど
        
ソードマスターの剣、お見せつかまつる」

ギリリ・・・と斬岩剣を強く握り直すシンエモン。その全身から吹き上がる小宇宙は今までのどんな時よりも強い
その圧倒的な”気”に当てられた溥儀軍の兵士達がバタバタと倒れ始め、取り巻きの円が自然と大きくなる
閻王に一撃で気絶させられたレオンハルトとあぶどぅる二人も、この強大なプレッシャーを受けてすぐに意識を取り戻した

あぶどぅる 「う・・・これ・・・は・・・筆頭の小宇宙か?こんなことが・・・」
ハッタリ   「この8年でいくらかでも筆頭に近づけたかと思ったが・・・
        とんでもない勘違いだった。8年前に俺達と戦った時には
        
誰一人とて本気なんて出していなかった
ということか」
レオンハルト「筆頭は俺達との戦いでは一文字流しか使わなかった
        つまり他の剣技を出す必要もなかったということだ」

男爵ぴーの 「我々は本当に恐ろしい大将を持った・・・だが
        恐るべきはその筆頭に本気を出させたあの閻王の実力
        筆頭が敗れるとは思わんが・・・ヤツの強さは一体・・・」

溥儀     「・・・イヤ。あやつの謎は強さだけではないぞ
        一撃で仕留められたハズのお前達にトドメを刺さなかった
        どうやら巷の噂通り、ただの無頼の輩ではないようだな」

4人の会話に割って入ったのは、主君・足利溥儀であった
なるほど言われてみればたしかに。閻王は禁衛隊のメンバーも溥儀軍の兵士も、誰一人として傷つけていない
あぶどぅるが恐怖に我を忘れて広域超高温炎術を使った際も、山火事にならぬようにと炎の消火を最優先したほどだ

何の理由もなく悪漢共に与するような人物とは思えなかった

ハッタリ   「では上様は・・・閻王は何らかの理由があって闘っていると?」
溥儀     「予想だがな。ハッタリよ、すぐに鬼夜叉党のアジトへいそげ
        閻王に悟られぬよう気配を消してな。おそらくそこに答えがある」
ハッタリ   「御意。にんッ!!」

主君の命にコクリと頷いたハッタリは、見る見るうちにその姿を景色に溶かした
【映像青撹の術】
小型の小域集中温度変化装置を使用することによって光の屈折現象を起こし、術者の姿を不可視とする擬態法
当然激しく動けば屈折空間が破れ術も解けてしまうが、隠密行動のような繊細な動きであればまったく問題ない

溥儀    「頼んだぞハッタリ。あとはこっちの戦いの行方次第・・・か
       それにしても・・・両者の戦いぶりのなんと素晴らしいことよ」

自分のこの世でもっとも信頼している最強の剣士。その男と互角の戦いを展開する謎の戦士・閻王
二人の超級グラップラーの戦いを見つめる溥儀は、シンエモンの勝利を願いつつも
その反面「いつまでもこの戦いを観戦していたい」という、少年のような気持ちを抑えられないのだった―




ズバウッ!!ドドドドドドドド!
翻る剣閃と鉄拳は互いに神速
一瞬の気の緩みが致命傷となる間合いで両者の攻撃は幾万と飛び交う
そこは選ばれた戦士にしか立ち入ることの許されぬ、まさに戦闘の聖域
衣服や髪をかすめはするものの、お互いクリーンヒットは一撃もない

ここで一旦膠着状態を打開するかのように、両者とも大きく飛び退いて距離を取った
壮絶な打ち合いの疲労など微塵も見せず、閻王がニッと口の両端を吊り上げて言う

閻王     「なるほどこれが竜の騎士か。たしかに伝説に恥じぬ戦闘力
        相手にとって不足なし!受けてみるか!
        
超人拳秘奥義!猛虎百歩拳!」

閻王の右手に小宇宙が集中したかと思うと、凄まじい質量の氣が放たれた
猛スピードでシンエモンに迫る氣の塊は次第にその姿をある生き物に変えていく
獲物を引き裂く鋭い爪牙!力強く躍動する四肢!

【意巧象形拳】
操氣闘術の最高技法と言われる、”氣”による物質形状の練成術
”氣”により剣や槍を練成する「意巧刃」の更に1ランク上の秘法と思ってもらえればいい
変化させた氣は、さながら本物の獣のような変幻自在の動きで敵を狙い撃つ
獰猛な虎を練成する「猛虎百歩拳」は中国拳法1288派の総本山と称される超人拳の最高奥義である

眼前に迫る巨大な虎を目の前にして、だがしかし
シンエモンはまるで動じなかった

ぼう、と斬岩剣の刀身に青白い氣が宿る!

シンエモン 「目には目を・・・歯には歯を・・・・
      
ならば!虎には虎をッッ!
      王虎寺超秘奥義!
暹氣虎魂!」

ゴオオオオオオオオオオ!!!

シンエモンの気合とともに斬岩剣から勢いよく放たれた物
まさしくそれは巨大な虎であった
【王虎寺秘奥義・暹氣虎魂】
「東に蒼龍寺あらば、西に王虎寺あり」
中国剣術の2大宗家のひとつと称される王虎寺は意巧象形術の始祖とされている
術者の脳内でイメージされた闘気は巨大な虎を形作り、そのとき大気中の燐を含み青白く光る

2匹の虎は両者の中央で激しく激突!
互いの首筋に鋭い牙を突き立てたかと思うと、そのまま溶け合うように空中に姿を消した。同質量の衝突による相殺である

男爵ぴーの 「互角かッ!」
レオンハルト「二人ともまた前に・・・なッ!?さっきより疾い!」

ゴオッッ!!
両者の丁度中央、虎が消滅したその場所で。激しくぶつかりあう2条の閃光
既に二人は再び必殺の間合い!まさに電光石火
この世にグラップラーランクはピンキリ。一般人の数倍程度の運動能力を持つ者から、音速の速さで走る者
形式的にはD〜A、そして特A級(S級)の5段階に分類される。だが
この二人の戦闘力はおよそ「S級」などと言う言葉で括れる範囲の代物ではなかった
大地は揺れ、大気はざわめき、風が唸る
かつて神話の時代、闘神同士の戦闘とはきっとこのようなモノだったのではないか?
見る者すべてがそう思うほどに、両者の強さは桁が外れていた

シンエモン 「梁山泊刀剣術奥義!彊条剣殺!」

長さ七尺近くもある斬岩剣を、まるでフェンシングのサーベルのように前身で構えるシンエモン
一突き放ったかと思うと、閻王の顔に幾つものカスリ傷と血飛沫が飛んだ
秒間数百発!戻りのモーションが肉眼で見えないほどの恐るべき連続突きである
それを回避した閻王の反応速度も驚愕であったが、次第次第にその身におびるカスリ傷の数が増えてきた
『次は捉えられる!』そう感じたシンエモンが更にスピードを1段上げたその時!

ビシィイイイイイイイン!

閻王     「取ったぞ・・・覇極流剣止鄭」

渾身の一撃は閻王には届かなかった。切っ先はその両拳に挟まれ、停止していたのだ!
真剣白刃取り。先に指2本で斬撃を受け止めた閻王にとって、両拳でこれを止めるのは造作もない事
なんと恐るべき少年であろう。その近接戦闘での技量は竜の騎士をも凌ぐというのか?
ニッと笑ってシンエモンを睨みつけた閻王・・・・・だったが。次の瞬間
その眉毛が驚きでピクンと釣り上がった

閻王     「くッ!?テメエ・・・まさか」
シンエモン 「気付いたか。白刃取りは失敗だったな・・・はあああ!」

焦る閻王。笑うシンエモン。一見して逆に見える両者の立場だったが実は違う
勝負を見守っていた数人はその真実の姿を捉えていた

溥儀    「・・・どうやらシンエモンが詰みに入ったな」
あぶどぅる 「ええ。筆頭はあの態勢から・・・
       
強引に力で剣先を押し込もうとしています」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
そう。『シンエモン有利』がこの態勢の真実

閻王に切っ先を捕まえられた状態から、無理矢理力でその刃を押し込む!
じわりじわりとあくまでゆっくりながら、刃はたしかに閻王の胸へと近づいていく

シンエモン 「いつまでも堪えきれるものではない
        横から押さえつける力と、前に押し込む力・・・・
        どちらが強いかはわかりきっていることでござる」
閻王     「・・・・・・」
シンエモン 「悪いことは言わぬ。降参されよ閻王殿
        貴殿は何かしら理由があって闘っているのでござろう」

戦いこそは最高のコミュニケーション。そこに余計な言葉は必要ない
真のグラップラーたるもの、本気で拳を交えれば相手のことは大抵理解できるもの
この恐るべき少年が何の理由もなしに闘う人間でないという事を、シンエモンは既に感じ取っていたのだ
出来ることならば和解したい。シンエモンは言葉静かに閻王に降伏を勧めた

絶体絶命のピンチに降伏勧告を受けた閻王。その返事は・・・・・・・

閻王     「ソードマスターの剣、竜の騎士の力・・・たしかに見せてもらった
        
ならば俺も本気で応えよう」
シンエモン 「!?」
閻王     闘・妖・開・斬・破・寒・滅・兵・剣・駿・闇・煙・界
        爆・炎・色・無・超・善・悪・殺・凄・卍・克・哀・・・
        おおおおッッ!!覇極流氣張祷!!」

シンエモン 「な・・・これはッ!?」

バリバリバリバリィッ!!
謎の呪文を唱えた閻王が、丹田に集中した小宇宙を全身の筋肉に漲らせたその瞬間、
尋常ならざる上半身のバンプアップに耐えられず、まるで爆発したかのように僧衣が弾けとんだ
あと数mmで胸に突き刺さるという位置にあった斬岩剣の切っ先は10数cmも押し戻されている

予想だにしなかった展開にシンエモンの全身を貫く衝撃。 今、閻王はなんと言ったか?そう

「本気を見せる」 と

次の瞬間
ぐん!とシンエモンの身体が物凄い力で引っ張られ、足が地面から離れた
剣先を掴んでいる閻王が斬岩剣を振り回したのだ。その柄先には筋骨隆々の男が力を込めて踏ん張っていたというのに
さながらバットの素振りでもするかのように、易々とそれを行う閻王の筋力。この小さな身体のどこにこんなパワーが潜んでいるのか
ジャイアントスイングの要領で派手に回された挙句、10数mも吹き飛ばされてようやく回転地獄から開放されたシンエモン
その勝利を確信して闘いを見守っていた面々も、あまりに信じられない光景に目を疑う

シンエモン 「覇極流活殺拳の練氣闘術は噂に聞いている・・・だが
        その小さな身体にこの筋力は物理的に考えてあり得ん
        ・・・・・お主のその力の秘密はなんだ?」

閻王の恐るべき力を身をもって体験したシンエモンではあるが、その驚きはむしろギャラリーの面々より少ない
直接拳を交えて闘っていた彼は、既にこの小坊主の潜在能力を感じ取っていたのだ

閻王     「人間は普通、その潜在能力の30%しか使うことができん
        それは超人類たるグラップラーにおいても例外ではない

        だが俺は残り70%を自在に引き出すことができる 
        それが北斗神拳奥義
・天龍呼吸法!!」

溥儀     「ほ・・・・・!」
禁衛隊   「北斗神拳ッッ!!!」

溥儀     天下乱れるとき北斗現る・・・・
        2000年前から中国に伝わるという恐るべき暗殺拳!
        経絡秘穴に衝撃を与えることにより、肉体外部よりも内部を破壊
        一撃必殺を極意とする伝説の拳法!そ・・・それが今目の前に!」


溥儀、禁衛隊を始め、戦いを遠巻きに見守っていた兵士達からもざわめきの声が上がる
閻王があの北斗神拳の伝承者だったとは!
目の前に立つこの小坊主は、竜の騎士と並ぶ伝説の体現者なのである
竜の騎士VS北斗神拳!
激突する伝説同士。まさに今、この場は世界最強の男二人が対峙した究極のバトルフィールドと化した

シンエモン 「ふっふふふ・・・・わっはははは!イヤこれは面白い!
        伝説の北斗神拳が相手とは!こんなに嬉しい事はない!
        
竜闘気
ドラゴニックオーラ・・・・・・全・開ッ!!」
閻王     「来い竜の騎士!北斗2000年の奥義を見せてやる!」

ゴバァッッ!!!!
再び小宇宙を滾らせ激しく激突する両者。もう互いに手の内は晒した
あとは全力でもって勝敗を決するのみ!
飛び散る閃光。迸るまばゆい光の中に。まるで溶け込むように闘う二人の超戦士

男爵ぴーの 「なぁ・・・なんだか筆頭・・・・すごく楽しそうじゃないか?」

最初にそれを口にしたのは男爵ぴーの。無論、そのことは他のメンバーも溥儀もとうに気付いていた
一瞬の油断が生死を分ける死闘の中で、だがしかし
心底楽しそうに剣を振るうシンエモンの表情
そしてそれは対戦相手である閻王にも・・・・・

レオンハルト「あぁ、今筆頭は楽しくてしょうがないのさ。グラップラーならば当然だろう
        生まれて初めて全力で闘える相手に出会えたんだからな」
あぶどぅる  「そういう事だ。きっと閻王も同じ気持ちだろう
        あの二人の強さは規格外だ。自分が本気で闘える相手がいるなんて
        今の今まで想像したこともなかったに違いない」
溥儀     「うむ。見よ二人のあの顔を・・・・まるで
        ずっと探していた遊び相手を見つけた子供のようではないか」

シンエモン 「はあああああああああああああああッッ!!」
閻王     「おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」






その頃

二人の戦場から更に深く深く山奥に立ち入った、断崖にそびえ立つ天然の要塞
関西一帯のグラップラー犯罪集団の大元締め「鬼夜叉党」のアジトである
ゆらり、ゆらりと ”その”周りの空間だけが微妙にゆらめくのを誰が気付くであろうか
隠密忍法「映像青撹の術」によって姿を消したハッタリ半蔵は、難なくアジト内部への侵入を果たしていた
だがあまりにも妙だったのは、外部にまるで人気が無かったこと

ハッタリ  『妙だ・・・討伐隊が金閣寺を発ったことは彼奴等も察知していたハズ
       なのに道中罠も仕掛けられていなければ、アジトに人の気配もない
       これは一体どういう事・・・・・うっ!? こ、これは!!』

瞬間。視界に飛び込んできた光景に息を呑むハッタリ
そして閻王が討伐隊の進軍を妨げた理由をおぼろげに推理する。まさか・・・いやそんなバカな

ハッタリ  「こ・・・これが閻王が俺達の邪魔をした理由・・・だと言うのか?」


ラストバトル

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