ザッザッザッ・・・・・・・
どこからともなくギャアギャアと鳥の鳴き声が聞こえる山深い森の中を男は行く
およそこの場所に似つかわしくない美しい金髪に白いコート(軍製)

シンエモン 「ふぅ・・・もう少しのハズなんだが・・・
        それにしても想像以上のところだなここは」

将軍家剣術指南役シンエモンである
ここは三重県、伊賀の山中。特選部隊2人目のメンバーを勧誘するためにやってきたのだ
道ならぬ道を掻き分けて進むシンエモンだったが、ここで突然ガクンという衝撃
グオオオオオオオオオンッ!!
直後、目の前に杭を括り付けられた枝が猛スピードで迫ってきた!侵入者対策のブービートラップである
反射的に斬岩剣を抜き放つと、それを眼前に迫る枝に向けて思い切り振り下ろす
カッ!!ドサッ
真っ二つに切り裂かれた凶器は、シンエモンを傷つけることなくあらぬ方向に吹っ飛んでいった
もとよりグラップラーは常人を遥かに超越した運動神経を持っている。シンエモンクラスならばどうということはない



やれやれ、とため息をついて刀を納めたその時、頭上から拍手が降ってきた
何者!?
見上げた木の上。そこにはシンエモンを見下ろして楽しそうに笑う少年の姿

少年     「や、スゴイね兄さん。あんたグラップラーかい?」
シンエモン 「まあな。そういうキミもだな?」
少年     「当たり。え?なんでワカるんだい?」
シンエモン 「こんな物騒な山奥に普通の子供がいるもんかよ」
少年     「アハハなるほど。そりゃそうだね
        で、兄さんはこんな物騒なトコに何の用で?」

トン、と木の上から飛び降りた少年は人なつっこい笑顔でシンエモンに語りかける
濃紺の衣装に袖の下から見える鎖帷子。手には手甲。背中に刀。音も無く着地したその身のこなし
一目見てわかった。彼のグラップラークラスは
「忍者」
そして、それはシンエモンがスカウトにきた人物のクラスでもある

シンエモン 「坊主。お前は伊賀の里の者だろう?
        頭領のハッタリ半蔵殿に会いたい。案内してくれんか?」

少年     「・・・・・へぇ。頭領の客人かい?
        わかった。俺についてきなよ兄さん」

ニッと笑った少年が小走りに駆け出す。それを追いかけるシンエモン
しばし山の中を駆け抜けると、鬱蒼とした木々が切り倒された広い場所に出た
差し込む日差しが暗さに慣れた目に眩しい

少年     「俺達の修練場さ。ここらでいいだろう?」
シンエモン 「何を言ってる?俺はハッタリ殿に会わせろと言ったはずだが」
少年     「だから。頭領に会いたいってのは闘いたいってことだろ?
        伝説のグラップラーを倒して名前を上げたいって輩だな」
シンエモン 「何を勘違いしてるのか知らんが・・・
        案内してくれんと言うのならお前に用は無い。じゃあな」

少年に背を向けてその場を去ろうとしたシンエモン
その背中を少年が意外な言葉で呼び止めた

少年     「どこ行くんだい?ハッタリ半蔵に会いにきたんだろ?」
シンエモン 「・・・・・・何!?」

ハッタリ半蔵 13歳

ハッタリ   「へへへ。まだ襲名して間もないんだけどな
        
宇宙統一忍者流六代目頭領。ハッタリ半蔵だ




映し鏡の最強忍者
 (ハッタリ編)




ハッタリ半蔵
それは日本全国に点在するグラップラークラス「忍者」全108派中最強の称号である
三重県は伊賀の里、「宇宙統一忍者流」の頭領は代々敬意と畏怖の念を込めてこう呼ばれるのだ

”最強の忍者”


シンエモン 「・・・これは驚いた。お主いくつだ?先代はいつ隠居された?」
ハッタリ   「今年で13。六代目を襲名したのは本当に半年ほど前の事さ
        だが若造と思って甘く見るなよ。俺は”ハッタリ半蔵”だからな」
シンエモン 「待て。俺は戦いに来たんじゃない。話を聞いてもらおう」

あまりの驚きに一瞬呆けてしまったシンエモンであったがすぐに気を取り直して用件を告げようとする
しかし少年忍者ハッタリはその言葉に耳を貸すことなく、ザッと足を開いて半身に構えた
背中の忍者刀にゆっくりと手をかける

ハッタリ   「あぁ、そうらしいな。およその見当はついてる
        察するに兄さんは将軍家のお偉いさんだろ?
        ハッタリ半蔵の力が借りたくてやってきたってトコだな」

シンエモン 「む、何故それを?」
ハッタリ   「兄さんの純白のコート。左腕についてる将軍家の紋章・・・・
        そしてその明鏡止水のたたずまいと内包する強大な小宇宙
        軍部。しかも相当上の人間。いわゆる重鎮・・・地位もあるだろう
        そんな奴が功名心でハッタリ半蔵を討ちにくるハズがない」

少年は所見からシンエモンの正体も目的も見抜いていたのだ
この若さにしてこの観察力と推理力
忍者という生業ならではあろうが、やはりタダ者ではない

シンエモン 「なるほど見事な洞察力だ。さすがだな」
ハッタリ   「大したことじゃない。忍者の仕事とはそもそも隠密任務
        あらゆる情勢に対する情報網と観察眼は当たり前のこと」

シンエモン 「ふむ・・・そこまでわかっていて何故剣を取る?」

ハッタリ   「へへ・・・・・そりゃあ決まってんじゃん
        兄さんがすげー強いから本気で戦ってみたいだけさ
        アンタもそうじゃないの?さっきから小宇宙が高揚してるぜ」

金髪剣士の問いに少年忍者がニヤリと笑う
すらりと刀を抜いたハッタリは邪気のない笑顔でそう答えた
なんと裏表のない気持ちのいい返事か
シンエモンはカラカラと笑いながら己が愛刀・斬岩剣を抜き放つ

シンエモン 「ははっ!なるほど違いないな
        たしかにお前の実力を見たいと思っていたところだ
        なにせこれから俺の部下になろうという相手だからな」

ハッタリ   「部下ぁ!?六代目ハッタリ半蔵もナメられたもんだなぁ
        じゃあさ兄さん、俺が勝ったら・・・・・・

ハッタリ   兄さんが俺の部下になりなよ!
        いくぜえ!グラップラーファイトォオ!」
シンエモン 「レディッッ!ゴォオオオオオオウ!!」

濃紺と純白の人影は疾風と化して交錯する
翻る白刃はもはや人知を超えたスピード。常人の肉眼では捉えきれない
激しく打ち合う刀の音だけが闘いの場に響き渡る

ギギィン!ガキィンッッ!

シンエモン 『なんと・・・流石に”ハッタリ半蔵”!スピードはぴーの以上!』
ハッタリ   『まるで閃光の太刀筋!この兄さん半端じゃねえ!でもよ!』

剣術の腕前ではシンエモンが上。だが
振るわれる度に旋風を巻く剛剣に、ハッタリは単純な”速さ”のだけの剣で対応する
それで近接戦闘はほぼ互角。まさに恐るべきはその身体能力である
ハッタリの脅威の速度に驚いたシンエモンが一度飛び退いた

シンエモン 「こういうのはどうだ!?」

腰を低く落としたシンエモンが気合とともに真一文字に剣を薙ぐ
一文字流奥義・烈風剣!

凄絶な速さで放たれた剣閃は風を切り裂き、真空の刃となって敵を襲う
しかしいかんせん直線的な攻撃。ハッタリはこれを華麗に回避・・・・
否!避けたと思った次の瞬間には二撃・三撃目のかまいたちが息もつかせず飛んでくる!
一文字流超奥義・烈風剣無限陣!!

ハッタリ   「手数で押して疲労狙いかい?案外セコいね兄さん!」
シンエモン 「これも兵法!ハッタリ半蔵がこのままでは終わるまい?
        さあ、その超絶の秘技を見せてみよ!」
ハッタリ   「はん後悔するなよ兄さん!お望み通り・・・・・
        
ハッタリ半蔵の忍術見せてやるよッ!」


カッ!
見開かれたハッタリの瞳に奇妙な紋様が浮かぶ
その紋様が凄い速さで回転したかと思うと、ハッタリは足を止めて腰を深く落とした
す・・・と一瞬目を閉じたあと、まるでシンエモンの鏡写しのようにその剣を振るう!

ハッタリ   「こうか!」
シンエモン 「なにッ!?」

超速で放たれたハッタリの剣撃は真空の刃となってシンエモンのかまいたちを相殺した
そのまま連続で飛ぶかまいたちは次々と敵のかまいたちを喰っていく
これはまさしく・・・・・そう

一文字流超奥義・烈風剣無限陣!!

【 写輪眼 】
代々宇宙統一忍者流の嫡子に受け継がれる血継限界
その眼で捉えた物体のモーションを寸分の狂いもなく自分にトレースする魔眼
”最強の忍者”たるハッタリ半蔵の二つ名は「コピー忍者」
写輪眼を相手に技を披露すること。それすなわち奪われる事を意味するからだ




バババババババババババッ!!!

互いに撃ち合うかまいたちは悉く相殺し、二人の間の大気が弾け飛ぶ
二人の技は互角ゆえこのまま体力勝負に・・・・・互角?
否!両者の烈風剣は互角ではない
そう、ハッタリのスピードはスピードはシンエモンを遥かに上回っているからだ
両者の中央で相殺されていた烈風剣が、じわりじわりとシンエモン側に押されていく!

恐るべきハッタリ半蔵の絶技を目の当たりにした金髪の剣士は・・・・

ニヤリと笑って剣を振るうのを止めた

ゴアァッッ!!!

バチュン!バチュン!!!
真空の刃はシンエモンに届くことなくその眼前で弾けて消えた
竜闘気。開放されたその膨大なオーラは最強の防壁となってその身を守る
ここではじめて両者攻撃の手を止めて対峙。最初の激突は互角といったところか

ハッタリ   「すごいね兄さん・・・そのオーラ。まるで鋼鉄の鎧だ」
シンエモン 「お前の忍術もな。まさか烈風剣が盗まれるとは思わなかった」
ハッタリ   「まだまだ。本当に驚くのはこれからさ」

一旦仕切り直した両者の戦いはさっき以上に激しさを増して再開された
音速を超えたスピードで打ち込まれる斬撃は更にその速度を上げていく

ハッタリ   「奥義!変異抜刀霞斬りぃッ!」
シンエモン 「うッ!?」

気合とともに放たれたハッタリの攻撃はまさに幻妙の太刀筋
受けようとした斬岩剣をぬるりと避けてシンエモンの四肢に吸い込まれる白刃!
ドドドドドッ!
だが。驚くべきは竜の騎士の力か
完全に入ったはずの斬撃は全て竜闘気によって阻まれてしまった
ちぃ!ハッタリは舌打ちしつつ、大きく飛び退いて再び距離を取る

シンエモン 「やられた。これほど変幻自在の剣は初めて見たぞ」
ハッタリ   「はん・・・凄くても仕留められなきゃ意味ないけどね
        それにしてもそのオーラは普通じゃないな
        その守りをブチ抜くには・・・やっぱコイツしかねえか!」

おもむろに右手を前に突き出したハッタリ
その手首に左手を添えると、練り上げた渾身の小宇宙を送り込んだ
全身で作りあげたオーラを”右手だけに集中”させたのである

バチバチッ!バチン!
収束したオーラは目に見えるほど強い光となって右手に宿る
チリチリと鳴るのは形を維持しようとするオーラが空気干渉で弾ける音だ

シンエモン 「練氣闘術か。しかしその桁違いの収束率・・・
        どちらかと言えば意巧刃に近い」
ハッタリ   「雷斬り。初代ハッタリ半蔵の作り出した一撃必殺の絶技
        雷をも断ち切ったのがこの名前の由来だそうだ」

シンエモン 「なるほど。確かにその技なら俺の防御も突破できるな
        じゃあ・・・・・
俺も少し本気で戦うとするか」
ハッタリ   「はッ笑わせるな!今までは本気じゃなかったってか?」

シンエモンの言葉にプライドを傷つけられたのか。怒号をあげて飛び掛るハッタリ
その姿が一瞬ブレたかと思うと、1人、また1人と見る間に増えていく
これぞ忍法の代名詞
分身の術!!
必殺の一撃を放たんと高速で迫るハッタリの姿は実に、数えて5人!
四方と真上から同時に襲い掛かるフォーメーションでシンエモンに逃げ場はなしだ

シンエモン 「分身攻撃!
                     パ ラ レ ル ア タ ッ ク
        しかも5つ身とはな。流石だハッタリ半蔵!」
ハッタリ   「今更後悔しても遅いぜ!食らいやがれぇぇッッ!」




ザァッ!

シンエモン 「悪いな坊主」

ドガァッ!!
これは何かの悪い夢か?

唖然とした表情を見せたハッタリは
その表情のままボロ雑巾のように吹き飛ばされた

ゴロゴロと地面を転げ回り、ようやく仰向けに動きを止める

ハッタリ   「ぐっ・・・!分身・・・10分身だとぉ・・・?」
シンエモン 「無理して喋らないほうがいい
        同時に10発も食らったんで神経が麻痺している」
ハッタリ   「ちっくしょ・・・本気じゃなかったってのはマジかよ
        まさか俺のトップスピードをも凌駕するなんて・・・」
シンエモン 「お前は強いよ。俺が分身を使った相手はお前で二人目だ
        一人目はお前の親父・・・
5代目ハッタリ半蔵さ」

ハッタリ   「なっ・・・兄さんは父上と戦ったことが!?」

まったく予期しなかった言葉に驚愕の声をあげるハッタリ
目の前に立つ恐るべき強さの剣士。この男はかつて自分の父とも戦ったという

シンエモン 「俺がお前と同じくらいの時だ。当時20歳の5代目とな」
ハッタリ   「そ・・・それで・・・ に、兄さんが勝ったのか?」
シンエモン 「厳しい戦いだったがな。辛くも俺が勝ちを掴んだ」
ハッタリ   「は・・・あははは!なるほど俺が負けるワケだ
        わかったよ約束だ。喜んで兄さんの部下になるぜ」

シンエモン 「ほう。随分とまた物分りがいいんだな」
ハッタリ   「俺はまだまだ父上に及ばないからな・・・
        父上に勝ったっていう兄さんとの実力差は歴然だ」
シンエモン 「ああ」
ハッタリ   「だから。まずは下で働いてその強さを秘密を盗む
        そしていずれはリベンジして必ず兄さんを倒す!
        それが・・・父上を越える俺の目標でもあるから」

まだ全身に痺れるような痛みが残っているだろうに
ハッタリは破顔の笑みでそう答えた
寝転がったまま右手を前に差し出す

シンエモン 「フッ・・・よろしく頼むハッタリ。頼りにしてるぞ」

その笑顔にガッシリと握手で応えるシンエモン
特戦部隊候補メンバー
残りあと二人


 ゲルマンのランボー (レオンハルト編)
 魔都の夜は紅蓮に染まって (あぶどぅる編)

エピローグ
疾風!溥儀禁衛隊!


プロローグ
対グラップラー特殊部隊 

 地獄の魔術師 (男爵ぴーの編編)


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